A.K. De, A.S. Aiyar and A. Sreenivasan
(インド,原子力研究所)
照射した糖溶液が培養細胞に対し有害な影響を与えるという所見は照射食品を利用した場合におこる可能性のある危険として注目をあびた。照射した食物の効果に関する研究は微生物からホ乳類の細胞にいたるいくつかの異なるタイプの生物について行なわれている。これらの放射線の間接効果は遺伝及び代謝過程の阻害のようにいろいろな面であらわれる。
我々がラットの肝組織を用いてin vitroで行った研究により,照射(0.5Mrad)シュクロース溶液よりえたフラクションで,細胞培養で細胞毒を示す「毒性フラクション」であると言われているものであるが,コハク酸酸化を阻害するばかりでなくミトコンドリアによる共役リン酸化も阻害することを示した。脂質,タンパク質,DNAの合成も阻害されるがこれはおそらくATP形成の阻害の結果としておきるのであろう。これらのデータから照射培地に対する生物学的反応の報告された多くのものの原因はATP合成の妨害によるものであろうことが強く示唆される。
ラットの肝ミトコンドリアの酸化的リン酸化の脱共役(uncoupling)は過酸化水素及びアセトン,ホルムアルデヒド,グリオキザールのようなカルボニル化合物によっても起るが,それは照射糖溶液中の生成量をかなり上回る濃度の時である。カルボニル化合物と過酸化水素の相互作用によって生成するヒドロキシアルキルパーオキサイドはいくつかの微生物について報告された所見とは逆に脱共役の原因となる有力な作用因子ではないように思われる。;実際ヒドロキシアルキルパーオキサイドは等濃度で比べると対応するカルボニル化合物よりも毒性が少い。
オートクレープしたシュクロース溶液も酸化的リン酸化の脱共役効果を示す。しかしながらUV吸収の研究から加熱処理と放射線分解とでは毒性を示す分解生成物の化学的性質に相違があることがわかる。
照射シュクロース溶液での短期(8週間),長期(2年間)の食餌実験はラットの生育,特定臓器重量,細胞の微細構造にいかなる悪影響も示さなかった。肝ミトコンドリアの酸化的リン酸化及びタンパク質や脂質への標識した先駆物質の取り込みも正常であった。
「毒性フラクション」,グリオキザール,過酸化水素(グリオキザールと過酸化水素は単独もしくは混合して)腹腔内へ2週間,毎日投与した場合はミトコンドリアの酸化的代謝に影響しなかった。
sucross−U−C14からえたC14で標識された「毒性フラクション」の経口投与による食餌実験によって,照射シュクロースの放射線分解生成物は腸から吸収されるが急速に代謝され尿中に排泄されてしまい30時間後は動物組織に検出されなくなることが示された。 これらの所見はin vitroでの毒性が全動物での毒性と必ずしも一致しないということを強調している。また放射線感受性は生物体が複雑になると共に増大するがシュクロースの放射線分解生成物によっておきる阻害効果はその逆になると思われin vitroだけにみいだされるもののようである。
照射条件 |
照射後のPH |
コハク酸オキシダーゼ 活性(%Control) |
P:0比 (基質:Succinate,%Control) |
in Air in N2 リン酸緩衝液 凍結状態 |
4.8 6.0 7.0 6.0 |
77(71−82) 93(84−99) 100(92−104) 100(95−107) |
23(20−25) 87(80−90) 90(83−96) 83(76−90) |
結果は少くとも3回の実験平均値で括弧内に実験値の分布範囲を示した。 0.5Mrad照射したシュクロース溶液からえた「毒性フラクション」を3mlの検定培地に1gの原料シュクロースに相当する濃度で添加した。 非照射シュクロース溶液からえたフラクションを対照とした。 |
化合物 |
濃度(μg/ml) |
P:0比(%Control) |
H202 〃 〃 〃 グリオキザール 〃 〃 〃 |
2.6 5.2 10.5 21.0 15.0 30.0 75.0 150.0 |
92(90−94) 86(84−88) 78(76−81) 65(62−68) 91(89−93) 81(76−84) 72(68−74) 42(38−46) |
ワールブルクで酸化的リン酸化をしらべる前にミトコンドリア懸濁液を種々の濃度のH2O2あるいはグリオキザールと共存させて2〜4℃で45分間プレインキュベートした。 結果は4回の実験平均値で括弧内に実験値の分布範囲を示した。 |
化合物 |
測定数 |
P:0比 (基質:Succinate,%Control) |
グリオキザール アセトン ホルムアルデヒド |
6 4 7 |
72(63−75) 75(68−77) 19(16−21) |
結果は平均値で対照に対する百分率で示した。括弧の中は得られた値の分布範囲である。 ワールブルクで酸化的リン酸化をしらべる前にミトコンドリア懸濁液をそれぞれの化合物(75μg/ml)と2〜4℃で45分間プレインキュベートした。 |
化合物 |
測定数 |
P:0比 (基質:Succinate,%Control) |
グリオキザールa H202b グリオキザール+202c グリオキザール+202d (貯蔵) |
4 4 6 6 |
43(39−48) 77(69−80) 54(48−57) 68(62−71) |
括弧内には実験値の分布範囲を示した。 酸化的リン酸化をしらべる前にニトコンドリア懸濁液を供試化合物と2〜4℃で45分間プレインキュベートした。 a.グリオキザールは150μgの濃度で存在している。 b.H2O2は10.5μg/mlの濃度で存在している。 c.グリオキザール(150μg/ml)とH2O2(10μg/ml)の混合物であり中性のpHである。 d.グリオキザールとH2O2の混合物は中性であり,上記のように使用前に室温で72時間貯蔵した。 |
フラクションの原料 |
処理後のPH |
P:0比(基質:Succinate) |
%Control |
未処理シュクロース オートクレープした シュクロース (15min 15psi) オートクレープした シュクロース (45min 15psi) |
− 5.6 5.6 |
2.00 1.22 0.64 |
− 61(55−63) 32(29−36) |
結果は4回の実験平均値で括弧内に実験値の分布範囲を示した。 「毒性フラクション」を3mlのインキュベーション培地中に1gの原料シュクロースに相当する濃度で添加した。 |
実験 |
グループ |
コハク酸オキシダーゼ活性 (μbo2/h/ protein |
P:0比(基質:Succinate) |
1 2 |
対照 毒性フラクション 対照 H202b グリオキザールb H202+グリオキザールc(混合直後) H202+グリオキザールd(貯蔵) |
154.8 ± 18.32 148.7 ± 21.50 151.8 ± 10.88 140.0 ± 12.61 157.3 ± 10.43 149.3 ± 16.05 145.8 ± 13.28 |
2.00 ± 0.21 1.95 ± 0.14 1.98 ± 0.16 1.91 ± 0.13 1.90 ± 0.15 1.95 ± 0.18 2.00 ± 0.16 |
結果は(少くとも4回の実験の平均)±(平均値の標準誤差)である。 動物に2週間,毎日腹腔内注射で供試化合物を投与した。 実験1では「毒性フラクション」の単離と同様な方法によって非照射シュクロース溶液からえたフラクションを対照のラットに投与した。実験2ではガラス製蒸留装置でつくった0.5mlの蒸留水をラットに対照として投与した。 a.1日1匹あたり0.3mlの「毒性フラクション」(2gの原料シュクロースに相当)を投与した。 b.2mgH2O2か2mgのグリオキザールを含む0.5mlの水溶液を各動物に毎日投与した。 c.H2O2及びグリオキザールをそれぞれ2mg含む0.5mlの水溶液を毎日投与した。 d.H2O2及びグリオキザールをそれぞれ2mg含み,3日間貯蔵された水溶液を0.5ml宛毎日投与した。 |
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