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健全性(WHOLESOMENESS):毒性・微生物学的安全性、栄養学的適格性を総合した考え方

毒性に関する研究(変異原性を含む)


発表場所 : 食品照射、Vol.7(2),67−72.
著者名 : N.Raica Jr & R.W.BaKer
著者所属機関名 : アメリカ、陸軍医学栄養研究所
発行年月日 : 1973年



Radappertized.酵素不活化牛肉の健全性試験


Radappertized.酵素不活化牛肉の健全性試験

  N. Raica Jr & R. W. BaKer

  (アメリカ,陸軍医学栄養研究所)

 1954年に開始された米国陸軍照射食品計画の目標は技術の開発とradappertized食品の健全性の確立である。

 酵素不活化の適用と低温照射技術を通して満足されるradappertized meatsの開発に向ってかなりの進歩が見られている。

 照射技術の詳細については十分議論されているので,このシンポジウムでは議論されない。第2の目標である健全性の明示については未だ結果を得ていない。

 約17品目のradurized食品は10カ国において,ある段階の人でのテストにまで持込まれているが,radappertized食品は取締り機関によって安全として許可されていない〔1〕。

 比較的低線量で照射したradurized食品の場合でも,それらの安全には疑わしい面もある。例えば照射馬れいしょ,小麦,玉ねぎの健全性については,FAO/IAEA/WHO合同専門委員会の勧告〔3〕によって数カ国で再検査されている。

 求めうるデータの審査によってFAO/IAEA/WHO専門委員会は小麦,馬れいしょを暫定承認したが,これはデーターが不適切あるいは一貫していないためである。玉ねぎは判定するに十分なデーターがないという理由で勧告されなかった。

 引用された文献での重要点は低線量照射の研究にある。取締り機関と専門委員会が取扱った問題は要約されているが,この時点でその詳細を議論する必要はない〔3〕。

 しかしながら,その問題に関する若干の意見は照射食品の健全研究をたえず悩ませたものである。そこには毒性研究を行なう栄養学者が居り,また栄養学的研究を行なう毒性学者がいる。そして遺伝学者や細胞学者が論点をさらに混乱させる。さらにデーター評価について生物科学者と取締り機関の不一致が加わる。1つの分野で有意であっても他の分野で有意でないかもしれない。報告された研究の大部分において栄養上の欠乏又は不適当さの効果と,有害生成物の効果とを区別することは出来ない。EricksenやEmborg〔4〕の最近の報告や,Diehlら〔5〕の報告を読むと勇気づけられる。そこでは,栄養面のこまかい考慮がされたばかりでなく,5Mrad以上の照射を行なった食品の飼育で有害作用がみられなかった。最近報告された突然変異的影響〔4ー6〕と遅延性の神経反応〔5,7〕が確かめていないことは重要ではある。

 過去の研究でみられた問題の好例が米陸軍の照射食品計画の経験の中にある。1965年頃に21食品の長期研究の結果と評価では,5Mradまで照射した食品は熱処理した食品と同程度に健全性で栄養的であると云う米陸軍軍医総監と研究者の見解であった〔8,9〕。1963年にFDAは5.6Mrad照射したベーコンを一般人が摂取することを明らかにした。

 1966年にはFDAはradappertizedハムの請願を受理した。この請願には前に受理されたベーコンのデーターとradappertized fresh porkの飼育から得たデーターを含んでいた。ハムそれ自体は試験されなかった。と云うのはベーコンや豚肉をたべるのなら,ハムはそれらの製造工程の中間物でありハムをたべさせる必要はないと,飼育試験を始めた1955年にFDAが認めたからである。ハムの請願に対するFDAの調査(review)によって,それは主としてベーコンのデーターであるが,ハムの請願は却下された。そのデーターは照射ベーコンの安全性に疑問が生じた,と云うものである。従ってFDAは先に許可したradappertizedベーコンを1968年に取り消した。好ましくない所見(findings)とは,ラットでの好ましくない繁殖,ラットの死亡率の増加,体重の軽度の減少と,白内障や腫瘍の発現の増加〔10〕である。

 FDAの決定に反ばくするものではないが,照射したベーコンと果実砂糖煮を同時に試験するために3×3因子計画で行なったラットの繁殖試験は全般的に不十分であるが,より重要なことは,各食餌間,殊に世代間に誤差があり勝であると云わなければならない。振返ってみて,基礎飼料のピリドキシンが低く,サイアミン,ビタミンEや葉酸が限界であった〔11〕。ラットの死亡率の増加も生長の抑制も統計的に有意でなかった〔11〕。減少したヘモクロビンと赤血球数は正常範囲で,正常値とくらべ有意は差はみられなかった〔11〕。研究の間にみられた白内障は顕微鏡検査では常に確かめられたものでなく,腫瘍データーは腫瘍の多くが2.8Mradで照射した果物砂糖煮とベーコンの1群のみにみられたもので決定的ではない(inconclusive)。提出されたデーターに対するFDAの説明には完全に同意はしないが,データーのあるものは,あきらかに矛盾し,不適切な報告であることを認めなければならない。しかし,これらの先駆的研究は1958年の食品添加物改正に先だって初められたという事実に留意すべきである。

 FDAの決定にもかゝわらず,米陸軍と他の機関は依然としてradapertized食品は健全であると思っている。そこで新らしい飼育研究に関する計画をたゞちにたてた。しかしその時点でニトロソアミンが重要課題であった。亜硝酸塩,硝酸塩や他の承認されているハムの添加物が今までのデーターで禁止又は大きく制限されることになれば,今までのハムは商業的に利用はできなくなる。そこで,牛肉がアメリカの食糧として高く要求され,radappertizeした後も高い受け入れがあると云うことで試験品目に選ばれた。

 新らしい必要条件をもとにradappertized牛肉の安全の確立を計画した。FDAと他の専門家の協議を通して,以前の研究に認められた不十分さをとりのぞく努力がなされた。

 照射牛肉の実験計画のアウトラインと考察は次に示す。試験動物,グループ分け,肉の包装はTab1に示した。グループ当たりの齧歯類の数(140匹のラット,150匹のマウス)は3ヵ月ごとに病理組織学的検査のために殺す動物と,それらの寿命からみて2年後に検査しうるに十分な数とした。犬の数は適切な繁殖データーのために必要な数である。研究でのすべての親動物は,受胎に先だって,また哺乳を通して,試験飼料を与えたストック動物から得たものである。

 5つの食餌グループを作り,対照(negative control)は齧歯類では半純化飼料,犬では市販飼料から成っている。半純化飼料は市販飼料が変化しやすいので,組成のわかった栄養価のある飼料として齧歯類用に選んだものである。又は別に,不定の防護因子を含む市販飼料よりも,半純化飼料を摂取させた齧歯類は発ガンに,より感受性が高い〔13,14〕という点をも考慮した。しかし不都合の可能性として半純化飼料は十分テストされておらず,長期間の多世代研究用に基準化されてもいないことがあげられる。半純化飼料,化学的に規定された飼料,あるいは今回提案した照射牛肉試験飼料と一致する飼料で飼育した齧歯類で秀れた繁殖成果が得られるとする報告が2,3得られた〔15〜21〕。しかしながら,犬の栄養については齧歯類ほど明確にされていないし,コストの面もあったので,犬用には市販飼料を選んだ。

 対照飼料に加えて,調理し,酵素を不活化し,処置した牛肉35%と基礎飼料65%(Dry weight)から成る4つのテスト飼料を用意した。齧歯類の飼料は半純化飼料から蛋白と脂肪を引き,犬の飼料は市販飼料にαートコフェロールを4.4mg/kg/dayを加えた。酵素不活化して凍結保存した牛肉と,酸素不活化し,環境温度で保存した加熱牛肉を,60Coや10MeV電子線で照射した牛肉の対照とした。貯蔵温度の影響は先の健全性研究では見出されていなかった。

 照射と加熱牛肉の処理(Shelf stabilityのための)を対比させるために加熱処理するのに浅い缶に牛肉を入れる必要があった。電子線照射牛肉は他の牛肉と略々同様の直径で薄い片(1.27cm)に切り柔軟な袋に入れた。

 齧歯類の飼料の組成はTab2に示した。negative contorol用の半純化飼料に蛋白や脂肪をカゼイン,硬化油,植物油によって補充した。テスト飼料は蛋白や脂肪の多くは肉が補充する。テスト飼料にCaCl6を入れるのは酵素不活化に先だって肉に加えたポリリン酸ナトリウムによってリン酸含量の増加を考慮するためであった。齧歯類飼料に補充したビタミンとミネラルはTab3(表は省略)に示した。このレベルは安全係数を加えたNAS−NRC最低需要量にもとづくものである。アスコルビン酸は齧歯類に必要としないが抗酸化剤としてGreenfieldらの勧めによって入れた。又葉酸はいくつかの矛盾した報告があり,最低必要量は確立されていないが入れた〔22〕。ミネラルで起りうる批判は,セレンや弗素の除去にある〔26ー28〕。両者は必須ではあるがそれ自体の毒性が高いためと,加えた塩や他の組成に入っているという理由で加えなかった。

 繁殖計画はTab4に概要を示してあるが,一般に多世代研究に推挙されている方法に従っている。繁殖試験は先の研究で疑問があり,さらに改良された。3世代目のF2bラットはあるタイプの欠損ストレスの下で,短い繁殖寿命あるいは障害が表われるか否かを検査するため飼育された。F2bが離乳後,3代用のF2bを選び,F1bとあまったF2bは剖見したのち処理した。

 犬は3年間研究を続けた。繁殖は雌が1才の時点で始め,その後2年間しばしば交配した。離乳した同腹の雄雌各1匹は20週間観察を続けた。雌当り最低2腹をとり,それらの生長期を通して飼料グループ当り40匹の仔犬で観察した。データーはTab5に示した項目から集めた。一般にそれらはこの様な研究のためのパラメーターとして受入れられているもので,生長,摂飼量,繁殖,寿命と病理を含んでいる。肉眼的検査を全動物で行ない,障害の見られたものについて,顕微鏡的検査を行なった。ラットと犬は6ヵ月ごとに眼科的検査を行ない白内障があるか否かを検べた。又犬では定期的に尿検査と精液検査を行なった。動物の摂取飼料と牛肉の栄養の処理と貯蔵の影響を監視するために,Tab6(表は省略)に示した栄養成分の検定を3ヵ月ごとに行なった。混合飼料(牛肉+基礎飼料)は動物に与える48時間前まで貯蔵した。しかしながら栄価の検定は凍結貯蔵後2日と7日後に行なった。

 血液学的,臨床化学的検査はTab6(表は省略)に示す。血清蛋白,プロトロピン時間,SGOT,SGPTを含む血液学的検査は3ヵ月ごとに,又そして次の剖見時に行なった。

 1.予め選んだラットとマウス(雄雌各5匹/飼料グループ/世代)と親ラットから定期的な病理学的検査のために殺した。

 2.すべての親犬と仔犬についてSーAlPとクレアチニンを測定した。

 これらの分析と観察はこの実験での最小必要項目である。いくらかの異常値が研究を通して見られるならば,さらに適切なテストをするか,異常の意味を明らかにし,もし可能ならばその原因を測定する試験を追加するであろう。

 サイアミンとビタミンB6に対する代謝拮抗物生成の研究を計画した(Tab7)(表は省略)。照射豚肉の報告の展望から,FDAはラットの酵素回復の成績が代謝拮抗物の存在を示唆するものと説明した。サイアミン又はピリドキシンを補充しなかったり,あとでビタミン補充をした照射豚肉を与えたラットの血中トランスケトラーゼ又はSGOTを測った。酵素活性は照射豚肉グループでは正常にもどらなかった。各ビタミンを食餌に補充すると,血中酵素を正常に回復するのに効果があった。

 このプロトコールには含まれていないが,催奇形と突然変異誘発研究が計画された。催奇形性の研究は可成りよく基準化されているので,判断に支障を与えない。突然変異誘発研究は判断がより困難であるので,よい方法が見つけられるまで行なわれないであろう。

 ここに述べた研究は商業的研究所と契約し,約1年間行われている。3世代(F2)ラットまでの飼育を通して半純化飼料で経験した困難さは繁殖,哺乳が不十分なことであるが,照射牛肉を与えたラットは凍結又は加熱牛肉と同様,若しくはより良い進行を見た。基礎飼料を修正する研究を進めている。

 (注.文献省略)

 Table1 照射牛肉のプロトコール動物および食餌グループ

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  食餌グループ当りの動物数

     ラット  雄   70匹  雌   70匹

     マウス      75匹      75匹

      犬       10匹      20匹

  食餌グループ

    1.齧歯類  − 半純化飼料

       犬   − 市販飼料

  試験飼料

    2.凍結牛肉

    3.加熱牛肉

    4.60Co照射牛肉,4.7〜7.1Mrad

    5.10MeV電子線照射牛肉

    すべての牛肉は酵素不活化(64〜71℃)した。

    試験飼料は牛肉35%と基礎飼料65%(乾燥重量)を含んだ。

  包  装

    凍結牛肉    404×700缶(1.36Kg)

    加熱牛肉    404×200缶(0.4Kg)

    60Co牛肉    404×700缶(1.36Kg)

    電子線牛肉   1.27cmの薄層にし柔軟な袋(0.10Kg)に入れる。

 Table2 照射牛肉のプロトコール齧歯類飼料

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             半純化飼料          試験飼料1

     蛋白      20.2%(カゼイン)    20.0%(牛肉)・E4

     脂肪      10.0 (硬化油)     15.0 (牛肉)・E4

     植物性油     5.0            0.6

     塩2       4.0            4.0

     CaCo3    −              0.8

     セルローズ    4.0            4.0

     L-シスチン    0.2            0.2

     グルコース   27.4           26.7

     澱粉      27.4           26.7

     混合ビタミン3  2.0            2.0

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   1.乾燥重量を基礎とした。蛋白,脂肪は牛肉組成で変化する。

     アンダーラインの組成は半純化飼料と同じにした。

   2.BERNHARDT-TOMARELLI(MODIFIED Na AND K CONTENT),J.Nutr.89(1966) 495.

   3.GREENFIELD et al,Proc.Nutr.soc.28(1969) 43A.

   4.35%乾燥重量より計算した。

 Table4 照射牛肉のプロトコール繁殖計画と世代

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   Fo(親)世代はそれぞれの試験飼料を与えた動物から,2年間研究飼育した。

   FaとF3は離乳後,剖見し処分した。

   F2bラットはF3b世代を離乳した後も繁殖ストレスの影響を研究するため続けて

   飼育した。

  犬:

   Fo(親)世代は各試験飼料を与えた犬より用い,3年間飼育した。1年後雌は多く

   の仔犬を得るために交配した。

   1腹から得た仔犬の雄雌1匹ずつは離乳後20週間研究のため保持された。

 Table5 照射牛肉のプロトコール日常検査項目

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      生長と体重

      摂餌量

      繁殖試験

      寿命(死亡率)

      病理学

        肉眼的および顕微鏡的検査

        検眼鏡検査

        尿分析(犬)

        血清分析(犬)

   Table3,6,7は省略した。




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