食品照射に関する文献検索

健全性(WHOLESOMENESS):毒性・微生物学的安全性、栄養学的適格性を総合した考え方

毒性に関する研究(変異原性を含む)


発表場所 : 食品照射 第25巻 p.39 (1990)
著者名 : 楊 家寛
著者所属機関名 : 上海市放射医学研究所、上海医科大学公共衛生学院、中国科学院上海原子核研究所、上海医科大学崋山医院基礎部、上海市腫瘤研究所 等
発行年月日 : 1990年
35種照射食品の人体食用安全性評価研究
摘要
前言
観察対象と研究方法
結果
討論



35種照射食品の人体食用安全性評価研究


35種照射食品の人体食用安全性評価研究
摘要

 本文は人体が90日間35種の照射食品を摂食した結果を観察した報告である。試験対象となったのは70名の医学生と8名の職工で試験組(照射食品を摂食する組)と対照組(食用品種が普通食品、すなわち前者食品を摂食する組)の両組に分けて行った。照射食品は糧食(米、麦粉、小豆、大豆、落花生)、肉製品(ソーセージ、乾燥した牛肉)、蔬菜(馬鈴薯、巻心菜、黄芽菜、きのこ類、冬筍、烏筍、しいたけ、花野菜、刀豆(刀の形をした鞘をもった豆)、大根、ピーマン、扁豆、トウガン、トマト、毛豆(豆の一種)、黒くわい、レンコン、ショウガ)、果物類(ミカン、リンゴ)、干し果物(赤ナツメの実、干し龍眼、干し蓮の芯)およびその他の食品(黄花菜、腐竹)等全部で35種を使った。

 照射に使った吸収線量は0.1−0.8 kGy、線量の不均一性(最大吸収線量/最小吸収線量)は、1.34−1.40であった。照射食品の総摂取食用品に対する重量比は60.3%であった。実験は厳格な双盲法を用いた。90日間摂食後の試食者たちは同意して健康検査を受けた。その観察結果では健康に悪影響がみられず、また、臨床身体検査では血液塗布標本検査、尿正常検査、血液生化学的検査、肝臓機能、腎臓機能、内分泌や免疫検査等を行い、これら多項目による突然変異指標(末梢血液リンパ球細胞染色体数量の奇変とその構造奇変、姉妹染色単体交換、微核測定、尿Ames試験等)等に顕著な変化を見なかった。従って、本実験下での照射食品は人体に対しては安全であるといえる。

 キーワード:照射食品、安全性評価、人体実験

前言

 照射食品は一種の有数な食品保存法で、原子力の平和利用として多くの国々で重視されている一種の重要な方法である。放射線照射処理した食品(即ち照射食品)は人間の食品として提供し得るかどうかについて人間が非常に注意して関心を払っている問題であった。国内国外を通じて三十余年以来、照射食品に関する衛生安全性は大がかりで深く研究されてきたが、普遍的には未だ不良反応が発見されていない。そこで1980年国連糧食と農業組織(即ちFAO)、IAEA機構と世界衛生組織(WHO)等で組織した照射食品衛生安全性連合専門家委員会で検討した結果「総平均照射線量が10KGy(1 Mrad)を超過しなければ、すべての照射食品は有毒な害を起こさない。」と発表した(1)。照射食品が人体に与える影響に関する資料の重要性については、上途の三つの国際組織機構は同時に「今後しかるべく可能な限り系統だった照射食品の人類食膳品としての人体に対する健康影響関係の資料を集めるべきだ」(1)と強調した。それ故、更に進んで照射食品の人体に対する食用安全性の評価資料をもっと詳細に窮めるために、我々は国内外の研究を基礎にして1984年9月から1985年1月の期間に78名の志願者を使い、90日間35種の照射食品を摂食させて、その結果を観察する研究を行ったのである。

観察対象と研究方法

 1.試食対象

 (1)学生組:本校衛生系学生70名、年令は18〜23才、男性36名、女性34名で、いずれも志願者であった。体格検査後6日間の試食を行った後に正式に試食対象として採用した。

 (2)教職工組:本校放射医学研究所と衛生系の教職工8名、年令21〜46才、男女各半分、その他は上途の(1)と同じであった。

 (3)組分け:試食者は39対、各試食者を抽選で両組に分け、その一方は照射食品を食用し、他方は同食品の未照射のものを食膳に供した。

 2.照射処理

 Co-60ガンマ線を用いて照射した。そのうち比較的高い照射線量で照射した食品はソーセージと干し牛肉(8KGy)、中級照射線量で照射した食品は赤ナツメの実、龍眼、黄花菜(1.5KGy)、蓮の実、腐竹(1KGy)、低線量で照射した食品は米、麦粉、大豆、小豆、落花生、リンゴ、蜜柑、きのこ類(0.4KGy)、巻心菜、黄芽菜、サトイモ、マコモ、大根、しいたけ、黒くわい、冬筍、烏筍、刀豆、花野菜、ピーマン、扁豆、トウガン、トマト、ショウガ、毛豆、レンコン(0.2KGy)、馬鈴薯(0.1KGy)であった。照射線量の不均一性(最大吸収線量/最小吸収線量)は1.34−1.40であった。

 3.照射食品

 (1)種類:全部で35種類、照射食品の総食品に対する重量比は60.3%であった。

 (2)主要栄養成分状況:重量法にて試食後毎月主要栄養成分について計算した。試験組(照射食品試食組)のタンパク質熱量は総熱量の13.64%、脂肪は総熱量の26.4%、糖類は60.0%であった。対照はそれぞれ14.4%、23.9%と61.7%であった。両組の主要栄養成分は上途のごとく顕著な差異がなかった。

 (3)食品照射後食用に至るまでの時間:照射食品の食用に至るまでの時間は食用状況により照射後貯蔵7日から半年の後に供食した。

 4.観察する目標(指標)

 (1)一般状況:毎日の試食者の食欲、食事量、食品に対する反応、一般生理と罹病状況等を記録した。

 (2)体格検査:体重、血圧、心臓、肺臓、肝臓、脾臓等の理学検査、心電図、肝脾臓の超音波検査等を行った。

 (3)末梢血液塗布標本の検査:赤血球蛋白、赤血球容積比(hematocrit)、白血球計数と分類、赤血球計数を行った。

 (4)尿常規と尿糖検査を行った。

 (5)血液の生化学的測定:血清総蛋白はBiuret法で測定した。A/G比はと血清蛋白電気泳動法、ポリアクリルアマイド凝固平板電気泳動法で行った。血清コレステロールは酵素法を使った。血清トリグリセライドはメチルエチルケトン法をつかった。GPTは頼氏法を使った。aFPは微量法を使い、γ-GTは上海化学試薬研究所製薬盒の試薬を使った。AKPは燐酸麝香草phenolphthalein(?)を使った。また血清尿素窒素(BUN)についても分析した。

 (6)内分泌指標:血漿 皮質アルコールは放射免疫双抗体法を使い、上海生物製品研究所製造のI−125皮質アルコール放射免疫分析試薬盒の試薬を利用して行った。

 (7)免疫指標:T−淋巴球細胞測定は綿羊赤血球自然花環形成試験法で、B−淋巴球細胞測定は酵母多糖補体3複合物花環形成試験で行った。

 (8)突然変異現象の検出試験:1)末梢血液淋巴球細胞染色体奇変とその数量の奇変:培養72時間で1000個の中期分裂した状態を計数して多倍体の数の変化を観察した。構造奇変:培養53時間で100個の中期分裂した状態を計数した。2)末梢血液淋巴球細胞姉妹染色体交換(SCE)は25個の複製二個細胞周期の細胞数を計数した。3)末梢血液淋巴球細胞微核測定(MT)は濃縮法で2000個の淋巴球細胞を計算して求めた。

 培養法は1000個の転化淋巴球細胞を計数して求めた。4)尿Ames試験は24時間尿液サンプルを収拾し平皿参入法で行った。

 (2)−(8)項目の指標はいずれも試食前と試食後に各一回行った。この二回の操作人員、機器、試薬と実験条件の基本はいずれも同一であった。

 5.双盲法を採用して行った観察

 あらゆる指標を観察し進行する人員と検査を受ける者は皆誰が照射食品試食組に属するか、また、誰が対照組に属するかということを知らないままでデータが統一処理され、まとめられた後に初めてこの秘密を明るみにした。

 6.統計処理

 Apple II型電子計算機を使って得られたデータを統計処理した。染色体奇変と微核測定は配対カード法で、その他はt-検定法を用いた。

結果

 1.一般状況

 両組の試食志願者の食欲は平常通りで異なった味覚はなかった。食品に対する反映は良好であり皆こちらの意を受け入れてくれた。よくみられる感冒の病気発生率は両組の間に顕著な差がなかった。

 2.体格検査状況

 (1)体重:試食試験が終了した時、両組の人員の体重は試食前より顕著に増えた。但し、両組間の差別は統計学的意義からいうと、照射食品試食組の試食前後の体重差は対照組の試食前後の体重差と比較して顕著な差異が認められなかった。これは両組の体重増加が照射食品と関連がなかったこととして説明される。

 (2)血圧:両組の試食前後の測定差を比較した結果は統計学的意義をしめすことができなかった。これは照射食品を食べても血圧変化を誘起しないこととして説明できる。測定結果は第2表と第3表に示す通りであった。

 法定計量単位でない1mmHgは133,322Paと換算できる(現在医学上では尚mmHg単位を使っている。)

 (3)内科検査:心電図、肝臓、脾臓の超音波検査はみな異常なかった。

 3.抹消血液塗布標本

 (1)赤血球蛋白と赤血球容積比:この二種のデータは性別による差異があったので男女別に統計をとった。この統計によって、男女に関わらず照射食品試食組と対照組のそれぞれの試食前後の変化は顕著ではなかった。結果は第3表と第4表に示す。

 (2)白血球細胞計数とその分類(同時に各種白血球細胞の絶対値に換算した):第5表に白血球を中性球と淋巴球二種の絶対値結果として示し、いずれも照射食品試食前後に顕著な変化が認められなかった。単核細胞、酸性嗜好白血球にもその絶対値は上途の結果と同一であった。

 (3)血小板計数:これも同様に顕著な変化を見なかった。第6表に結果を示した。

 上途の第3表−第6表の結果から、照射食品食用前後における赤血球、白血球、血小板等の個数に明かな変化を認めることができなかった。この事実は照射食品が血液塗布標本検査に影響を及ぼしていないことを示したものと説明できる。

 4.尿常規性と尿糖検査

 両組とも試食前後は皆正常であった。

 5.血液の生化学的測定

 測定結果を第7表から第10表までに示した。

 第7.8.9表から試食前後の血清総蛋白含量、A/G比例値、コレステロール、トリグリセライド脂肪とコリンエステラーゼ酵素活性等はいずれも明確な変化を誘発していなかったことが認められた。この事実は照射食品を食べてもタンパク質や脂肪の新陳代謝やある種の重要酵素活性でも不良な影響を与えなかった事実を裏書き説明したものであるといえる。

 第10表の肝臓機能と腎臓機能の変化を表示したデータをあげた。GTPとαFPは両組とも試食前後においていずれも正常であった。γ−GTとAKPは試食前後において両組の差を比較しても統計学的な意義を持てなかった。尚BUNに関するデータは両組の試食後でいずれも増加したが照射食品を食べた組の増加量が比較的大きかった。また、対照組の試食前後の差異と比較してみると統計学的意義( p<0.05 )があるがこれは試食前の照射食品を食べた照射組の数値が明らかに対照組より低かったことから推察してこの程度の差異では照射食品を食べたために生じた現象とは言いがたくむしろ無関係であるといえる。

 6.内分泌指示値

 血漿コーチゾルに関するデータは第11表に示す通り、両組の試食前後のデータ変化もまた統計学的意義がなかった。これは内分泌機能もまた明かな変化を与えなかったことを裏書きしていると説明することができた。

 7.免疫指示値

 我々は先に細胞免疫機能に反映するT−淋巴細胞とB−淋巴細胞の二種類を選んで指示値の変化を見たが、両組の間に顕著な差異を観察し得なかった。第12表はこの結果を示したものである。

 8.突然変異誘発指示値

 (1)末梢血液淋巴細胞染色体数量の奇変:我々は多倍体数量変化を重視し観察した。照射食品食組とその対照組の試食後の多倍体数量はいずれも増えた。しかしながら試食前あるいは試食後および試食前後のデータ差についてはいずれをとっても両組間の統計学上の差異として意義がなく無関係であった。これはこの種の変化と照射食品を食べることとの間は無関係であるとして説明できる。(第13表を参照されたい)。

 (2)末梢血液淋巴球細胞染色体構造奇変:我々は染色体型の奇変(双着糸点体、断片)と染色単体型奇変(単体破裂、単一裂開隙、双裂開隙等を含む)等を観察したが両組の間に顕著な差異を見受けなかった。第14表に染色体構造変化数のデータを示した。

 (3)末梢血液淋巴球SCEの変化:このデータは第15表に示した。この表に示した統計によると淋巴球SCEは両組の試食前後において顕著な変化がなかったことになる。

 (4)末梢血液淋巴球細胞微核測定:濃縮法と培養法の二種の方法を使って得た結果を第16表と第17表に示した。微核細胞率(%)であろうと微核陽性検出率(%)であろうと二種の測定法とも照射食品摂取組とその対照組との間に何等の統計学的意義を発見し得なかった。ここで言う微核細胞率とは各例の計数2000個(濃縮法)または1000個(培養法)中に見つけた微核を帯びた細胞数であり、微核陽性検出率とは見つけた微核陽性を有する人数である。

 (5)尿のAmes試験:6対の志願者に対してTA98、TA100二種類のアミノ酸栄養欠乏型媒体擬チブスサルモネラ菌を用いて尿液を処理してAmes試験を行った。活性化系のS9を加えなくてもいづれも陰性結果を示した。これは突然変異作用を誘発しなかったことを示したことになる。第18表はその結果を示している。

 *結果は誘発復帰菌株数/自然復帰菌株数で表示する。この比率2.5より小さい時は陰性とする。

 一例として多年喫煙者(毎日30本以上のむ者)の尿液は誘発突然変異性を具有し、TA98+S9復帰菌株数は195.6+49.7となり、結果は第19表に示す通り陽性となる。

討論

 (1)1943年以来国内外とも照射食品に対する衛生安全性について多くの研究が行われた。個体実験では多くの動物(マウス、ラット、犬、猿等)を用いた。多種項目指標(多くの世代繁殖試験、癌の発生率などを含む)(2-3)を選び、後に短期突変試験(4)及び照射食品の分解生成物の分析(5)も入れて強化して行ったが、これらすべての結果は基本的には不良なところはなかった。著者等は最近ラットを用いた実験を行い結果は次のようであった。

 飼育に使った照射飼料は全飼料の80%を占める高い比率であり飼育時間が150日の長きにわたったとはいえ、飼料の利用率、動物の成長発育、血液学検査、奇形や突変試験及び顕微鏡と電子顕微鏡による病理学検査等の結果はいづれも対照組との顕著な差はなかった(6)。しかしながら、これらの実験は完全に人体観察に応用することは不可能であって、人体試験のみが人間の食品の安全性問題を解決することができる。

 (2)照射食品の人体試験は1970年代以前の報告は少ない(7-12)。血液淋巴球細胞の多倍体増加(12)に関する報告以外はいずれも陰性の結果であった。これらの文献資料は非常に貴重なものであったが、これらの報告は試食例の数が少なく、試食期間も短かかったし、一般臨床実験と血液およびその生化学実験結果を観察したのみであった。

 近年になって国家科学委員会と衛生部が統一領導のもとに、全国照射食品安全性評価専門家組の指導でわが国の四川医学院等の単位で照射稲殻を加工した大米(13)、ある種のきのこ(14)、肉製品(15)、落花生の実(16)、馬鈴薯(17)等の単項目照射食品と並行して人体試食を行って観察した。結果は短期間試食した照射食品は人体に対して何等の不良影響も発見することができなかった。

 本研究は多種類照射食品(35種)を総合して摂食し同時に並行して人体試験を行い、70人が90日間摂食し、そのうえ、臨床、末梢血液塗布標本、尿常規性、血液生化学、肝・腎臓機能、内分泌と免疫等多種指標を検査した。特に突変誘発指標に対して注意を払った。結果は同様に、人体対して何等の悪影響もなかった。それゆえ我々は最近、再度照射食品の人間供食は殆ど安全であると実証した。

 本研究は学生組(70人)の結果が陰性であった以外は職工組(8人)も同様に陰性結果となり、また、上途の各指標項目についても顕著な変化が見られなかった。それ故我々は一般人が少量の照射食品を食用しても悪影響がないものと推測した。

 我々の観察では志願者全員が照射食品に対してよい反応を示したし、肯定的であったといえる。

 (3)突然変異と癌になる症状は密接な関係がある。我々はこの度の実験で特別にこの点について注意を払い突然変異指標を観察した。(1)染色体奇変指標:大量の照射食品動物実験では染色体構造の奇変が増加した事実は発見されなかった。既に報告された人体試験報文(12-17)ではインドの学者の仕事にも構造奇変が増加したという報告はない。

 照射食品が動物の多倍体増加を誘発するかどうかの問題は文献上では異なった見方をするものもあった。あるインドの学者らはマウス(18)、ラット(19-29)、サル(21)にこの種の変化を見たと認めたが、他のインドの学者(22)とイギリスの学者(23)はラットの実験でこの現象を再現できなかった。但しドイツの学者(24)は地鼠の実験にかえってこの現象を得て実証した。本文以外に人体が照射食品を摂取後多倍体の変化を観察した文献は全部で5篇(12,13,15-17)あったがBhaskaram等の一篇、新鮮小麦を照射した後摂食した5例の病気児童の血液中に多倍体数の増加(12)をみつけた報告以外の残りの4篇の報告ではいずれも陰性の結果であった。以上は各例毎に計数100個中の分裂血液細胞数であったが、我々の観察したのは35名の試食学生(別に職工4名)で各例は計数1000個の血球細胞であり、我々は多倍体増加に類似の結果を見つけ得なかった。

 (2)SCE:これは一種の比較的敏感性のある突然変異指標である。動物実験によると照射食品はマウス(25)とサルのSCEの頻度増加を誘発しないことを表している。照射食品の抽出物で培養したCHO細胞にもSCE頻度の変化(27)を見受けなかった。照射を受けた培養基(28)や照射した中国の自藍地酒(29)(Brandy酒に近いものか?)も人間の末梢血液淋巴球のSCE顕著な影響がなかった。人間が照射した落花生の実(peanut)を食べた後にも未だに末梢血液淋巴球のSCE増加を引き起こさなかった(16)が我々の観察もまたその通りであった。

 (3)MT:動物骨髄中の多色赤血球細胞微核測定は既に広く未知の潜在突然変異物質のふるいわけ選別用として使われた方法であった。1976年から照射食品安全性評価に用いられてきた。我々は人間の骨髄を用いて微核検査をすることは困難である。李らは人間の末梢血液淋巴球細胞微核測定法(濃縮法)を用いて照射落花生の安全性を評価し陰性結果(16)を得た。人間の末梢血液淋巴球細胞微核測定法は現今比較的に重視されている方法である(30)。我々はこのたび上途二種類の微核測定を採用したが微核細胞率あるいは微核陽性率の増加は見受けなかった。

 (4)尿Ames試験:このテストはgene(遺伝因子)の突然変異に関する重要な指標として考えられるもので、我々の知る限り照射食品の侵出液を用いて検査した結果はいづれも陰性であった。この方法の創始者Ames氏はかって喫煙者の尿液のAmes試験が陽性(31)を示した結果を報告した。我々はこの方法を人体が照射食品を摂取した場合に応用して観察した。6名のテストを受けた者の尿液検査からいづれも予期した陰性の結果となったし未だに突然変異物質を有効的に検出し得なかった。

 上途の通り本実験条件で照射食品は血液淋巴球細胞の遺伝学上の変化を引き起こさなかったことと尿液もまた突然変異物質を誘発した成分を含まなかった事実を知ることができた。

 謝意:江西省衛生研究所は照射用の腐竹、蓮心と一部の蜜柑を提供していただいた。また上海市蔬菜公司は食品の提供をよく支持していただいた。ここに合わせて 心から謝意を呈するものである。

 参考文献

 1.Report of a joint FAD/IAEA/WHO Expert Committee,Wholeomeness of Irradiated Food.WHO Tech.Rept. Ser., No.659 ,1981.

 2.Information relating to the wholesomeness of irradiated food. Food Irradiat.Inf.,11,198-223(1981).

 3.P.S. Elias,Toxicological aspects of food irradiation. In Book,Recent Advances in Food Irradiation. P.S. Elias and A.J.Cohen(ed.) Elsevier Biomedical Press,PP.235-245(1983).

 4.B.J.Phillips and P.S.Elias,Food Irradiat.Inf.,10, 8-19(1980).

 5.P.S.Eilas and A.J.Cohen 主要食品成分の放射化学−照射食品に関する衛生安全性評価、原子力出版社、1982.

 6.厳文金玉等、上海医科大学学報(待発表)。

 7.V.C. Megary et al,Fed. Proc.,25(6),1554(1966).

 8.H.F.Kraybill,J.Home Ecom.,50(9),695-700(1958).

 9.I.C.Plough et al., Fed. Proc., 19, 1052-1054(1960).

 10.候祥川等、照射食品の栄養衛生研究、中国生理科学第二次全国栄養専業学術会議論文概要抜粋編、110-111頁、成都、(1979).

 11.中国医学科学院衛生研究所食品衛生研究室、γ線照射馬鈴薯の食品衛生学的評価、全国照射保存食品専業座談会資料編、110-121、原子力出版社、(1982).

 12.C.Bhaskaram et al.,Amer.J.Clin.Nutr.,28,130-135(1975).

 13.候蘊華等:食品衛生学進展、2(2)、18-24(1984).

 14.何志謙等:食品衛生学進展、2(2)、43-49(1984).

 15.張燕等:食品衛生学進展、2(2)、69-74(1984).

 16.李 声等:食品衛生学進展、2(2)、49-52(1984).

 17.李皓等:食品衛生学進展、2(2)、32-37(1984).

 18.Vijayalaxmi,Can.J.Genet.Cytol.,18,231-238(1976).

 19.Vijayalaxmi and G.Sadasivan,Int.J.Radiat.Biol.,27(2),135-142(1975).

 20.Vijayalaxmi,ibid.,27(3),283-285(1975).

 21.Ibid,Toxicology,9(1-2),181-184(1978).

 22.K.P.George et al.,Food Cosmet.Toxicol.,14, 289-291(1976).

 23.J.M.Tesh and A.K.Palmer,Food Irradiat.,Inf.,10,183-184(1980).

 24.H.W.Renner,Toxicology,8, 213-222(1977).

 25.P.B.K.Murthy,Food Cosmet.Toxicol.,19(4),523(1981).

 26.Ibid,Toxicology,20(2-3),247-249(1981).

 27.B.J.Phillips,Food Cosmet.Toxicol.,18,471-475(1980).

 28.Vijayalaxmi,Int.J.Radiat.Biol.,37(5),581-583(1980).

 29.黄権光、史紀芸、生物化学と生物物理学の進展、1、34-37(1982).

 30.J.A.Heddle et al.Mut Res.,123,61-118(1983).

 31.E.Yamasaki and B.N.Ames,Proc.Nat.Acad.Sci.,USA,74,3555-3559(1977).


第1表 体重変化(Kg) (Follow-up of body weight)
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
照射組 Irrad,Foods
(35)
52.6±6.6
54.4±6.8
2.2±1.5
対照組 Control
(35)
52.5±7.0
54.2±6.5
1.7±1.8



第2表 血圧変化(mmHg) (Follow-up of blood pressure) *
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
収縮圧 (Systolic)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control

(35)
(35)


111.1±9.8
112.9±9.7


115.0±7.6
115.2±13.5


3.8±8.7
2.3±9.3
膨張圧 (Diastolic)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control

(35)
(35)

70.5±7.2
69.7±6.1

72.1±5.1
72.5±7.2

1.6±6.8
2.9±6.5

*法定計量単位でない1mmHgは133.322Paと換算できる(現在医学では尚mmHg単位を使っている)



第3表 赤血球蛋白変化(g%) (Follow-up of hemoglobin)
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
男性 (Male)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


13.8±1.3
14.0±1.5


14.2±0.7
14.2±0.7


0.4±1.1
0.2±1.5
女性(Female)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


12.0±0.8
11.9±1.0


11.9±0.7
11.8±1.0


-0.1±0.9
-0.1±1.0



第4表 赤血球細胞容積比蛋白変化(%) (Follow-up of hematocrit)
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
男性 (Male)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


42.0±2.1
42.1±2.0


42.9±2.2
42.4±2.6


0.9±2.1
0.3±2.9
女性(Female)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


34.9±1.1
35.5±3.4


36.1±1.6
35.9±1.6


1.2±1.4
0.5±2.9
白血球細胞数 (Leukocytes)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


5,990.9±1,389.4
5,651.4±1,179.8


5,505.7±1,668.9
5,477.1±1,617.9


-485.1±1,915.5
-174.3±1,669.4



第5表 白血球細胞数変化(個/mm3) (Follow-up of leukocyte count)
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
中性球細胞数(Neutrophils)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


3,901.5±1,101.0
3,609.8±1,072.3


3,610.2±1,311.5
3,701.4±1,177.0


-291.4±1,547.4
91.7±1,439.4
リンパ球細胞数Lymphocytes)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Conrol


(35)
(35)


1,741.2± 552.7
1,691.5± 594.3


1,588.1± 598.9
1,484.7± 616.2


-153.1±759.8
−206.9±779.7



第6表 血小板数変化(104個/mm3) (Follow-up of blood platelet count)
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control
(35)
(35)
11.3±2.3
11.0 ±2.5
12.2±3.5
11.9±3.0
0.9±3.9
0.9 ±4.2



第7表 血清蛋白変化 (Follow-up of serum protein)
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
総蛋白 (Total protein
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control
(g%)
(35)
(35)


8.05±0.50
7.99 ±0.40


8.11±0.74
8.26±0.68


0.06±0.80
0.27±0.74
A/G比値(Albumin/Globulin)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


1.73±0.26
1.78±0.30


1.94±0..31
1.88±0.27


0.21±0.36
0.10±0.40



第8表 血脂肪変化 (mg%) (Follow-up of serum lipids)
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
胆固醇 (Cholesterol)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


136.5±19.8
135.6±24.5


122.7±21.4
124.8±19.0


−13.8±31.2
−10.8±25.3
甘油三脂 (Triglyceride)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


68.3±22.4
78.0±27.2


65.5±19.6
66.6±18.9


−2.9 ±26.0
−11.4±32.8



第9表 オリンステラーゼ(u)の変化 (Follow-up of Cholinesterase)
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
照射組 Irrad.Foods
(35)
60.51±14.67
67.19±9.85
6.68±16.29
対照組 Control
(35)
61.17±12.43
66.11±1074
4.94±10.52



第10表 肝臓機能と腎臓機能の変化 (Follow-up of hepatic and renal function)
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
GPT (u)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


<30
<30


<30
<30



α-FP
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)











γ-GT (u)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


15.81±12.12
15.40±7.37


13.61±5.39
13.97±5.87


−2.20±9.53
−1.43±4.52
AKP (u)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


6.80±2.62
6.91±2.60


5.81±2.87
6.41±3.26


−0.99±2.55
−0.51±3.03
BUN (mg%)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control
*p<0.05


(35)
(35)



11.41±2.44
12.50±2.26



13.45±2.06
13.28±2.95



2.04±2.09*
0.78±2.77



第11表 コーチゾルの変化 (μg%)(Follow-up of cortisol)
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control
(35)
(35)
15.63±7.25
14.42±6.23
20.49±5.46
18.48±3.81
4.86±5.98
4.06±6.89



第12表 T-リンパ球細胞とB-リンパ球の数の変化 (%)(Follow-up of peripheral T- and B-lymphocytes)
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
T-リンパ球(T-lymphocytes)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


53.20±7.62
54.14±8.14


51.89±7.28
51.54±10.35


-1.31±71.3
-2.60±11.5
B-リンパ球(B-lymphocytes)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


11.03±1.69
10.26±1.92


10.77±2.45
10.29±1.98


-0.26±1.98
0.03±2.49



第13表 多倍数体数変化 (0.1%)(Follow-up of polyploids)
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
照射組 Irrad.Food
(35)
0.66±0.77
3.51±1.95
2.85±1.82
対照組 Control
(35)
0.86±0.88
2.86±2.32
2.00±2.59



第14表 染色体構造変化 (Follow-up of chromosome structure aberration(in 3,500 cells))
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
双着?点体(Dicentrics)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


0
1


0
0
断片(Fragments)
照射組 Irrad.Foods
対照組 Control


(35)
(35)


7
4


6
6



第15表 SCFの変化 (0.1%)(Follow-up of SCF/cell)
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
照射組 Irrad.Foods
(35)
5.91±1.10
5.69±1.03
-0.21±1.29
対照組 Control
(35)
5.78±1.05
6.10±0.87
0.32±1.34



第16表 MT変化(濃縮法)(Follow-up of incidence of micronuclei(Concentration method))
組別


(Group)





例数


(No)





数細胞数


(No of
Counted
Cells)



試食前
(Before)
試食後
(After)
微核細胞率
(Incidence of
lymphocytes
with
micronuclei
(0/00))
微核陽性率
(Positive
rate of
micronuclei

(%))
微核細胞率
(Incidence of
lymphocytes
with
micronuclei
(0/00))
微核陽性率
(Positive
rate of
micronuclei

(%)
照射組
(Irrad.Foods)
(35)

70,000

0.17

25.7

0.14

25.7

対照組
(Control)
(35)

70,000

0.18

28.6

0.10

17.1



第17表 MT変化(培養法)(Follow-up of incidence of micronuclei(Cultivation method))
組別


(Group)





例数


(No)





数細胞数


(No of
Counted
Cells)



試食前
(Before)
試食後
(After)
微核細胞率
(Incidence of
lymphocytes
with
micronuclei
(0/00))
微核陽性率
(Positive
rate of
micronuclei

(%))
微核細胞率
(Incidence of
lymphocytes
with
micronuclei
(0/00))
微核陽性率
(Positive
rate of
micronuclei

(%)
照射組
(Irrad.Foods)
(35)

35,000

1.06

63.8

1.20

57.1

対照組
(Control)
(35)

35,000

0.97

65.7

0.97

62.8



第18表 尿のAmes試験結果(復帰菌株数)(Follow-up of urea Ames test(Rt))*
組別
(Group)
例数
(No)
試食前
(Before,M±SD)
試食後
(After,M±SD)
試食前後差数
(Difference,M±SD)
TA98+S9
照射組Irrad.Foods
対照組Control


(6)
(6)


36.1±6.5
31.1±7.8


24.2±6.4
23.4±4.6


(−)
(−)
TA98-S9
照射組Irrad.Foods
対照組Control


(6)
(6)


29.4±8.9
27.1±2.6


23.7±8.4
25.3±8.4


(−)
(−)
TA100+S9
照射組Irrad.Foods
対照組Control


(6)
(6)


143.4±20.8
144.2±17.5


166.5±8.3
168.9±14.2


(−)
(−)
TA100-S9
照射組Irrad.Foods


(6)


139.2±14.0


167.4±24.8


(−)

( *結果は誘発復帰菌株数/自然復帰菌株数で比較表示する。この比率が2.5より小さい時は陰性とする。一例としては多年喫煙者(毎日30本以上吸う者)の尿酸は誘発突然変異性を具現し、TA98+S9の復帰菌株数は195.6±49.7となり、結果は第19表に示す通り陽性となる。)



第19表 喫煙者の尿のAmes試験結果 (Ames test of urine in heavy smoker)

RT
RT/Rc

TA98+S9
195.6±49.7
195.6±24.9
(+)
TA98-S9
27.1± 3.9
27.1±27.8
(-)





関連する論文一覧に戻る

ホームに戻る