食品照射に関する文献検索

健全性(WHOLESOMENESS):毒性・微生物学的安全性、栄養学的適格性を総合した考え方

毒性に関する研究(変異原性を含む)


発表場所 : 食品照射研究運営会議
著者名 : 国立衛生試験所、毒性部
著者所属機関名 : 国立衛生試験所
発行年月日 : 1979年8月28日
D照射玉ねぎの毒性に する研究、マウスによる玉ねぎの次世代試験(その1)
T 緒言
U 試験研究の概要
1. 試験研究実施場所
2. 試験方法
3. 観察項目
V 試験結果
1. 一般症状
2. 体重増加
3. 摂餌、摂水量(図 D−1−d参照)
4. 交配率(表D−1)
5. 妊娠率(表D−1)
6. 新生仔に対する影響
7. 末期胎仔への影響(表D−3)
8. 臓器重量
9. 組織学的検査
10. 骨格検査
結果
1. 末期胎仔骨格検査
2. 新生仔(3週令)骨格検査(表D−9)
小括



放射線照射による玉ねぎの発芽防止に関する研究成果報告書(資料編、その2)


D照射玉ねぎの毒性に する研究、マウスによる玉ねぎの次世代試験(その1)
T 緒言

 γ腺照射玉ねぎの安全性に関する研究の1部として、マウスによる次世代におよぼす繁殖生理に対 する影響、および催奇形性の有無を調べる目的で、次世代試験を行ったのでその結果を報告する。

U 試験研究の概要
1. 試験研究実施場所

 東京都世田谷区上用賀1丁目18番地1号

 国立衛生試験所毒性部

2. 試験方法

a)検体

 ラットによる慢性毒性試験の場合と同様のものを使用した。

b)投与方法

 前述の検体を、粉砕機で粉末化しオリエンタル酵母株式会社製マウス繁殖用飼料(以下NMFと略 す)粉末に4w/w%の割合に添加した後、固形飼料製造機で固形化し給飼した。

c)供使動物

 自家産のdde系マウスで、各群とも雌雄各20疋で試験を開始した。

d)試験行程

 供試動物は、生後8週令まではNMFを与えて飼育し、次いで対照群(以下cont.と略す)にはNMFを 継続し、非照射群(以下0-0と略す)には非照射玉ねぎ、照射群(以下0-30と略す)には30krad照 射玉ねぎを添加した飼料を与え、検体飼料投与1ヶ月の時点で交配を行った。新世代(以下Pと略 す)妊娠母獣は2分し、1群は出産予定前日に催奇形性試験のため解剖、他の1群は1代目(以下 FTと略す)を出産させた。FT新生仔は、生後8週令まで各群の飼料を与 え、この時点で交配し妊娠母獣はP同様に2分し、1群は催奇形性試験用、1群は2代目(以下FU と略す)を出産させた。同様により3代目(以下FVと略す)を得、FV 新生仔が3週令になった時点で親および仔を解剖し、肉眼的剖検、アリザリンレッドS染色骨 格標本検査を行った。

3. 観察項目

a)体重測定

 Pの雌雄は生後8週令から12週令まで、FTおよびFUの雌は生後1週令か ら8週令まで、雄は10週令まで、また、FVにおいては、生後1週令から3週令まで、週1 回測定した。

 各世代の妊娠母獣は、妊娠0日(腟栓確認)から18日目まで毎日測定した。

b)摂餌および摂水量

 Pでは生後8週令から11週令まで、FTおよびFUでは、離乳後の4週令か ら7週令まで週1測定した。また、FVにおいては、離乳時に解剖するための測定が行わ れなかった。

c)一般症状および妊娠生理値

 一般症状、交配率、妊娠率、出産仔数および哺育率などを重点に観察した。

d)催奇形検査

 催奇形性試験のための解剖した動物は、医薬品の催奇形性試験法に準じ、解剖時の剖検所、胎仔 の外形検査およびアリザリンレッド染色による骨格標本検査を行った。

e)臓器重量測定

 FV新生仔の離乳時解剖に際し行った。

V 試験結果
1. 一般症状

 P、FT、FUおよびFVを通じて特記すべき症状は、認めら れなかった。

2. 体重増加

a)雌動物(図 D−1−a参照)

 Pについては、0−30がcont.および0−0より、極くわずか低い体重増加を示したが、3群間に有意 な差は見られなかった。また、FT、FUおよびFVの体重線に おいては、離乳前の3週令(新生仔は母獣と同居期間中、雌雄の区別はしていない)までは、ほと んど同様な曲線を示し、離乳後においては、FTとFUの0−30がcont.より やや低い曲線を示した。しかし、各世代ともに3群間に有意な差は見られなかった。

b)雄動物(図 D−1−b参照)

 Pについては、cont.に比較し、0-0および0-30がともに低い曲線を示したが、3群間に有意な差は 見られなかった。離乳後については、FTの0-30が4週令よりcont.および0-0より低い 曲線を示し、10週令にのみ、cont.と比較し有意な減少(P<0.05)が示されたが0-0との比較では有 意な差は見られなかった。FUにおいては、3群間に有意な差は見られなかった。

c)妊娠母獣(図 D−1−c参照)

 P、FTおよびFUの各世代の3群間にほとんど差が見られず、また、各世 代間についても有意な差は見られなかった。


図D-1-a 雌動物体重曲線



図D-1-b 雄動物体重曲線



図D-1-c 妊娠母獣体重増加曲線


3. 摂餌、摂水量(図 D−1−d参照)

 摂餌量は、Pの雌雄で0−0および0−30がcont.よりやや多い値を示したが、FTの雌雄 およびFUの雄では3群間にほとんど差がなくFUの雌では0−0と0−30が低 い値を示した。摂水量は、変動が大きく一定の結果が得られなかった。

 摂餌、摂水量では、各世代の雌雄ともcont.との間に著明な差は見られなかった。


図D-1-d 摂餌、摂水量曲線


4. 交配率(表D−1)

 表D−1に示すようにP、FTおよびFUの各世代の群間についての交配率 は、cont.に比較し、0−0と0−30が高い値を示し、0−0と0−30を比較すると、0−30が高い値を示 し、0−0と0−30を比較すると、0−30がやや高い値を示した。また、各世代間を比較すると、Pより FTが、FTよりFUが低い交配率になってきているが、それは cont.も含めて全体に共通して見られた。


表D-1 妊娠生理値一覧


5. 妊娠率(表D−1)

 表D−1に示すように、Pではcont.と0−0が100%に対し0−30は95%と少し低い値を示した。 FTでは0−0と0−30がcont.より高く、FUでは0−0と0−30がcont.より低 い値を示した。0−0と0-30の両群間には差が見られなかった。

6. 新生仔に対する影響

a)出産仔数(表D−1)

 表D−1に示すように平均同腹仔数については、FTとFUでcont.に比較 し、0-0と0-30がやや低い値を示したが、3群間に有意な差は見られなかった。FVでは、 cont.に比較し、0-0は高く、0-30はほぼ同数であった。

 1週令時平均体重については、FTとFUでは3群間にほとんど差はなく、 FVで0-0と0-30がともにcont.より小さい値を示したが、有意な差は見られなかった。

b)死亡率(表D−2)

 表D−2に示すように出生時から離乳時までの死亡率をみるとFTとFUで はcont.が0−0と0−30より高く、FVでは0−0と0−30がcont.より高い値を示した。ま た、世代間の0−0と0−30を比較してみると、FUとFVで0−0が0−30より 高い値を示した。離乳以後、交配時の8週令までの生存数を雌雄に分けて示したが、8週令時の死亡 率をみるとFTとFUともに3群間に有意な差は見られなかった。


図D-2 離乳前および離乳後の新生仔死亡数・率


7. 末期胎仔への影響(表D−3)

 表D−3に示すように、各世代とも、妊娠動物の約半数を催奇形性試験のため、妊娠18日目に解剖 し、諸種検査を行った。その結果、平均着床数は、Pでは0−0が一番高く、cont.と0−30はほぼ同数 であった。FTでは逆に0−0が一番低く、0−30はcont.よりやや高い値を示した。 FUでは、cont.より0−0と0−30がともに高い値を示した。また、0−0と0−30の比較 では、Pを除いては0−30の方が高いが、ほぼ似た値を示した。

 胎盤遺残数は、Pでは平均着床数とほぼ同様のことがいえるが、FTとFUではcont.より、0−0と0−30の方が少なかった。しかし、0−0と0−30間には有意な差が見られ なかった。

 浸軟胎仔数は、Pでは0−30が一番少なく、FTではcont.を含めて全体的に多くなり、 その中でもcont.がやや多い値を示した。FUでは全体的にFTより少なく なっているが、cont.より0−0と0−30がともにやや多く、後2者間には有意な差は見られなかった。

 胎仔検査においては、発育遅延胎仔、外形異常胎仔は、各世代、各群間に1例も認められなかった。 また、胎仔検査後の外形正常胎仔の平均体重は、1.09g〜1.18gで3群間に有意な差は見られなか った。


表D-3 末期胎仔への影響


8. 臓器重量

a)実測値(表D−4)

 表D−4に示すように雌ではcont.に比較し0−0は各臓器とも差がなく、0−30では、心、肺、肝、 腎および卵巣がP<0.01で、副腎がP<0.05でそれぞれ有意な減少を認めた。また、0-0に比較すると 0-30の心、肺、肝、腎および卵巣がP<0.01でそれぞれ有意な減少を認めた。

 雄では、cont.に比較し0-0の肝、脾および睾丸がP<0.01で、心、肺および脾がP<0.05でそれぞれ 有意な減少を認めた。また、0-0に比較すると、0-30の肺がP<0.01で、心、肝および睾丸がP<0.05 でそれぞれ有意な減少を認めた。

b)体重10s比(表D−5)

 雌では、cont.に比較し0-0では副腎のみがP<0.01で、0-30では副腎がP<0.01で、卵巣がP<0.05で それぞれ有意な減少を認めた。また、0-0に比較すると0-30の卵巣のみがP<0.01で有意な減少を認 めた。

 雄では、cont.に比較し0-0群では脾と睾丸がP<0.01で有意な減少、肺がP<0.05で有意な増加、 0-30では睾丸がP<0.01で、腎と脾がP<0.05でそれぞれ有意な減少を認めた。また。0-0に比較する と0-30の睾丸がP<0.01で有意な減少、肺と脾はともにP<0.05で前者は有意な減少、後者は有意な増 加をそれぞれ認めた。


表D-4 照射玉ねぎのFV離乳時 器重量


9. 組織学的検査

 臓器重量で有意な減少の認められた臓器のうち特に、卵巣と睾丸について組織標本を作製し鏡検 したところ、両臓器ともに3群間に組織学変化はみられなかった。

10. 骨格検査

 骨格異常の検査はアリザリンレッドS染色を施した骨格標本について実体顕微鏡下で行った。

 骨格の観察に際しては、骨格を大きく頭部、躯幹部、四肢部に分け、各部の骨格異常を化骨の進 行遅延(化骨核の短小、未結合)、変異(癒合、欠損、化骨核分割、変形、列不順、重合、頚肋) および奇形に分類した。また、骨形成予定部位にわずかでも限局性の染色部分が観察されれば骨形 成ありと判定した。

 尚、頭部の観察は主に、涙骨、頬骨突起、頬骨、側頭骨、鼻骨、切歯骨、上顎骨、下顎骨、前頭 骨、頭頂間縫合、頭頂骨、人字緑、頭頂間骨および後頭骨、また、躯幹部においては、頚椎、腰椎、 尾椎、肋骨、胸骨、四肢部は肩甲骨、鎖骨、上腕骨、前腕骨、手骨、大腿骨、下腿骨、足骨につい て観察を行った。また、肋骨が不対称、すなわち片側のみ存在しているもの、および両側が痕跡程 度のものを保持する頚椎を頚肋とした。

 このような観点から骨格異常の種類とその出現率をまとめD−6〜D−9に示す。

 表には、cont、0−0および0−30の解剖母獣数、検査仔数、および所見症例所有仔数が示されて ある。

 所見症例所有仔数とは、頭部、躯幹あるいは四肢部において1つ以上の異常が認められた胎仔の 数を意味する。

 所見症例明細には、頭部、躯幹部および四肢部における化骨遅延、変異および奇形の内訳を示し た。数字は所見症例所有仔数を意味する。(化:化骨進行遅延、変:変異、奇:奇形)

結果
1. 末期胎仔骨格検査

1−1)FT世代末期胎仔骨格検査(表D−6)

 表D−6に示すように検査に用いた妊娠母獣数は、cont.、0−0および0−30でそれぞれ9、10およ び9例で、検査仔数は、cont.78例、0−0 111例および0−30 83例である。

 頭部、躯幹部、四肢部における骨格異常を分類してみると、cont.群、添加群ともに各検査部位 の奇形は1例も認められなかった。しかし、頭部と躯幹部において種々の変異が認められた。

 頭部においては、後頭骨の化骨遅延(後頭骨短小)が0−0、0−30に1例づつ認められた。変異と しては、後頭骨の短小分割および分割がcont.に11例、0−0に22例および0−30に17例の出現を見、 添加群がcont.群に比べてやや高い傾向を示した。

 また、変異の中で最も出現率の高かった躯幹部の頚肋についてみるとcont.32例(41.0%)0−0 46例(41.4%)および0−30で41例(49.4%)の出現率を見た。しかし、cont.群と添加群の間に は有意の差は認められなかった。

 その他に躯幹部の変異として、頚椎分割、剣状突起欠損(不染)、肋骨癒合および肋骨変形など がcont.群および添加群に少数例ずつ認められたがいずれの所見においても群間に有意の差は認め られなかった。

1−2)FU世代末期胎仔骨格検査(表D−7)

 表D-7に示すようにcont.、0−0および0−30の検査に用いた妊娠母獣数は、各々11例、17例およ び18例である。尚、検査仔数は、cont.94例、0−0 167例および0−30 191例である。その結果、な んらかの異常を認めた例数(所見症例所有仔数)は、cont.、0−0および0−30で各々64例(73.4 %)、87例(52.1%)および106例(55.5%)であった。

 この内訳としては、所見症例明細に示すように主な所見として、頭部での後頭骨分割ならびに躯 幹部での頚肋の出現であった。しかし、各群ともに各検査部位での奇形の発現は1例も認められな かった。尚、頭部における後頭骨の分割はcont.20例、0−0 27例および0−3028例認められたが群 間に有意の差は認められなかった。一方、躯幹部の頚肋の出現率についてみるとcontで57例(60.6 %)、0−0 65例(38.9%)および0−30で88例(46.1%)という数値を示し、むしろcont.群が添 加群よりもやや高い傾向にあった。躯幹部における、その他の変異の種類はFTと殆ん ど同様であるが、別にcont.に胸骨癒合が1例認められた。

1−3)FV世代末期胎仔骨格検査(表D−8)

 cont.、0−0および0−30それぞれ検査に用いた妊娠母獣数は、13例、23例および21例で、検査仔 数は、cont.101例、0−0 218例および0−30 202例である。表D−8に示すように、各群においてな んらかの異常を認めた例数は、cont.、0−0および0−30でそれぞれ75例(74.3%)、151例(69.3 %)および132例(65.3%)である。

 各々の検査部位についてもFT、FU世代と同様に頭部および躯幹部にお ける変異が主であり、その内訳は、所見症例明細に示すように主な所見として、頭部の後頭骨短小 分割と後頭骨の分割、ならびに躯幹部における頚肋の出現であった。しかし、各群間での差は認め られなかった。また、各群ともに各検査部位での奇形の発現は1例も認められなかった。

 以上のようにFT、FUおよびFVの末期胎仔の骨格検査の結 果、各世代の各群において最も頻度の高く出現した所見は、頭部では骨の分割異常であり、また、 躯幹部では頚肋であった。しかしこれらの変化は各世代においてcont.、0−0および0−30との間に 有意の差は認められなかった。


表D-6 γ線照射玉ねぎ次世代試験 (そのT) FT世代、末期胎仔骨格検査一覧



表D-7 γ線照射玉ねぎ次世代試験 FU世代、末期胎仔骨格検査一覧



表D-8 γ線照射玉ねぎ次世代試験 (そのT) FV世代、末期胎仔骨格検査一覧


2. 新生仔(3週令)骨格検査(表D−9)

 FV世代のみで行った新生仔(3週令)の骨格についてみると表D−9に示すように検 査に用いた妊娠母獣数はcont.13例、0−0 18例および0−30 18例である。また、cont.、0−0およ び0−30でそれぞれ検査仔数は88例、117例および119例である。

 異常例数、cont.73例(83.0%)、0−0 84例(71.8%)および0−30 103例(86.6%)と各群を 通じてほぼ同程度の高い出現率を示し、群間に差は認められなかった。また、各群の各検査部位に ついてみると躯幹部の変異が殆んどを占めており70.9%〜86.6%の出現率であった。

 この内訳としては、所見症例明細に示すように頚肋の出現であった。

 頚肋の出現率はcont.で70例(79.5%)、0−0 83例(70.9%)および0−30で98例(82.4%)と いう数値を示し0−0群に比して0−30群がP<0.05で有意の増加を示すがcont.と0-30との間には有意 の差はなかった。

 次にやや多く認められた変異としては肋軟骨の癒合であった。その出現率についてみるとcont. 8例(9.1%)、0-0 3例(2.6%)および0-30に14例(11.8%)認められ0-0と0-30の間にP<0.05で 有意の増加を示した。また、cont.と0-30を比べると0-30で増加の傾向をみた。

 その他の変異として胸骨癒合、胸骨列不順、肋骨癒合、肋骨変形、肋軟骨列不順、尾椎変形尾椎 重合が各群に少数例ずつ認めたが群間に殆んど差はなかった。


表D-9 γ線照射玉ねぎ次世代試験 (そのT) FV世代、新生仔(離乳時)骨格検査一覧


小括

 dde系マウスを用い、0および30krad照射玉ねぎを各々4w/w%添加した飼料を与えて3代に亘る世 代試験と催奇形成試験を行った。

 一般症状、成長、摂餌および摂水量、交配率、妊娠率、胎仔死亡率、同腹仔数、末期胎仔体重、 末期胎仔の外形および骨格検査には照射玉ねぎに起因するとみなされる影響を見なかった。しかし、 FV世代離乳期の新生仔では照射群で肋軟骨癒合が非照射群に比べて有意に、また、対 照群と比べても増加の傾向が認められた。また、これらの照射群の新生仔では卵巣および睾丸重量 の減少が見られたが臓器の組織学的検査では特に変化像は認められなかった。




関連する論文一覧に戻る

ホームに戻る