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照射技術(RADIATION ENGINEERING):食品に放射線を照射するためのさまざまな手法

照射技術


発表場所 : 食品照射、Vol.13(1,2)、67−75.
発行年月日 : 1978年
作成箇所 : 日本食品照射研究協議会
国際食品規格における照射食品
1. 食品規格および食品規格委員会
2. 暫定規格採択までの経緯
3. 照射食品の暫定規格(抄訳)
4. 食品の照射方法の暫定基準(抄訳)



国際食品規格における照射食品


国際食品規格における照射食品
1. 食品規格および食品規格委員会

      *食品規格(Codex Standrd)

      *食品規格委員会(Codex Alimentarius

               Commissin)

 照射食品の健全性を明らかにすることが、照射食品を商業ベースにのせるために重要であるという認識で、過去20年以上わたって多くの試験が、国家的規模あるいは国際協力によってなされてきた。現在、この健全性の実証は、一つの段階を終えたものといえよう。食品照射ほどち密な安全性試験を行なった食品処理法はない。もちろん、科学の発展に伴ない、また新たな試験を行なうことの可能性は否定し得ないが。

 しかしながら、健全性の追求だけが照射食品普及化への関門ではない。

 一つの大きな要求が法による統制である。各国において、法により各食品が許可されているが、国際間の貿易のためには国際的な統制が要求される。このために設けられたのが国連専門機関であるFAOとWHOの合同計画、食品規格計画(Food Standards Programme)である。この計画を実行しているのが食品規格委員会である。

 まず、この食品規格委員会について若干の解説を行ないたい。

 食品規格委員会は、国際間の食料の貿易、特に加工食品の貿易が盛んとなり、食品の規格基準を国際的に統一する必要が生じたため、1962年にFAOとWHOが合同して設立したもので、現在は114ヶ国が加盟している。本委員会の規則により定められた食品規格の一般原則は次の内容を含んでいる。すなわち、「食品規格は、消費者の健康を保護し、食品取引における公正な慣行を確立することを目的とする。食品規格は、消費者に対して、純良で、正しく表示された安全でかつ欠陥のない食品を保証することを目的とする規格基準を含む」。以上の内容により食品規格の重要性が認識されよう。

 食品規格の作製手続きは図に示す10段階の順序が定めてある。ステップ1から4は準備段階というべきもので、委員会により規格をつくることを決定された食品、またはある事項について、関連国際機関により暫定規格原案(Proposed draft standard)が作成され、関係加盟国および関係国際機関にコメントが求められる。検討、修正された案は、本委員会の下に設けられた部会(現在14ある)において承認されると暫定規格(Draft Standard)となり、本委員会に送付される(ステップ5)。暫定規格はステップ6から9において全加盟国および関係国際機関に送付され、コメントにより修正され、勧告規格として決定され、各加盟国の受諾が求められる。勧告規格は、十分な数の加盟国が受諾を決定したとき、食品規格としてCodex Alimentariusに納められる。(ステップ10)

 現在までに、最終段階である勧告規格の決定にまで達した食品は、油脂、カン詰、ジュースを中心とした66品である。

 照射食品についての食品規格作製は関係国際機関によって努力が続けられた結果、1977年6月、オランダハーグで開催された第11回食品規格委員会食品添加物規格部会において、照射食品の暫定基格および照射方法の暫定基準が採択された。(ステップ5に到達したことを意味する)


図 食品規格の作製手続き
表出力エラー


2. 暫定規格採択までの経緯

 照射食品を食品規格委員会で取上げようとする動きは、関係者の間で古くから行なわれていた。1964年に第1回、そして1972年に第2回専門家委員会がウィーンにおいてもたれ、予備的な話し合いが行なわれた。次いで1976年に行なわれたFAO/IAEA/WHO専門家委員会は、食品規格委員会食品添加物規格部会に対し、暫定規格原案作製の開始を申し入れた。1976年の12月には、FAO/IAEAの協同でこのための技術者委員会がもたれ、照射食品の規格のみならず、照射法自体にも基準が必要との結論に達し、初めての原案がつくられた。この2つの原案は、規格委員会事務局に送付された。

 これを受けて、1977年6月、オランダハーグにおいて開催された第11回食品規格委員会食品添加物規格部会は、照射食品および照射法を議題として採り上げた。

 会議は1週間に渡り行なわれ、加盟国からの36の参加国および20の国際機関から150名以上の参加があった。議長は主催国オランダのG.F.Wilminkがつとめた。さらに照射食品については、その特殊性にかんがみ、A.Brynjolfsson(米国)を議長とし、K.Vas(IAEA)を事務局長とする食品照射特別作業部会が設定された。(作業部会参加国、ベルギー、カナダ、チェコスロバキヤ、西ドイツ、フランス、イタリー、オランダ、スイス)

 この会議の結果は満足すべきものであった。すなわち、提出された暫定規格原案は、暫定規格として承認され、1978年4月に開催される第12回食品規格委員会にステップ5として付記することが決定した。

 今後は、各加盟国のコメントにより修正がなされた後、勧告規格として決定される運びとなる。また、WHO/IAEA/FAO照射食品の健全性に関する専門家委員会(Expert Committee on the Wholsomeness of Irradiated Food)は、食品添加物専門家委員会と同じように、食品規格委員会食品添加物規格部会の勧告機関として活動していくものと考えられる。


表1 FAO/IAEA/WHO専門委員会(1976)における照射食品の健全性許可のデータ
       
 照射品目  
       
          
  照射の目的   
          
               
    放射線の種類     
               
 照射効果から 
 みた適正線量 
 (Krad) 
                     
        健全性の評価       
                     
小麦と小麦粉 
       
貯蔵中の昆虫防除  
          
Co−60またはCs−137の
ガンマ線10MeV以下の電子線
  15〜100
        
最高100Kradで無条件承認      
                     
ジャガイモ  
貯蔵中の発芽防止  
     同 上       
   3〜 15
最高15Kradで無条件承認       
鶏肉     
       
       
       
貯蔵期間の延長と病原
微生物の除去    
(10℃以下の貯蔵)
          
     同 上       
               
               
               
貯蔵期間延長  
 200〜700
病原微生物除去 
 500〜700
最高700Kradで無条件承認      
                     
                     
                     
パパイヤ   
       
殺虫と熟期遅延   
          
Co−60またはCs−137の
ガンマ線           
  50〜100
        
最高100Kradで無条件承認      
                     
いちご    
       
貯蔵期間の延長   
          
Co−60またはCs−137の
ガンマ線10MeV以下の電子線
 100〜300
        
最高300Kradで無条件承認      
                     
玉ねぎ    
       
発芽防止      
          
     同 上       
               
   2〜 15
        
最高15Kradで条件付承認、ラットによる
世代試験が要求され、目下IFIPで進行中 
米      
       
       
貯蔵中の昆虫防除  
          
          
     同 上       
               
               
  10〜100
        
        
最高100Kradで条件付承認、ラットによ
る長期毒性試験およびサルによる毒性試験の結
果が要求されたが、近く完結予定      
魚      
       
       
       
鮮魚(タラなど)の3
℃以下での貯蔵期間延
長と病原微生物の減少
          
     同 上       
               
               
               
 100〜220
        
        
        
最高220Kradで条件付承認、マウスによ
る優性致死試験などいくつかのテストが要求さ
れた。なお乾魚、塩乾魚の照射は別の健全性試
験をする必要がある。           
マッシュルーム
       
貯蔵期間の延長、開傘
による品質低下の防止
     同 上       
               
  25〜300
        
健全性データ不十分のため評価できない。  
                     

無条件承認:unconditional acceptance
条件付承認:provisional acceptance


3. 照射食品の暫定規格(抄訳)

1.原則

 本規格はイオン化放射線により50ラド以上の照射を行なった食品にのみ

適用される。

2.一般的必要条件

2.1.Co−60はCs−137のガンマ線源、あるいは出力10MeV

   以下の電子線加速器を用いる。

2.2.別表1に記載した以外の食品には適用しない。

2.3.吸収線量は別表1に示した食品毎に定められた値を越えないこと。

2.4.照射は国により認可された施設において行なうこと。以下の項目に

   従うこと。

2.4.1.上記の施設は食品加工における安全を保てるものであること。

2.4.2.上記施設は訓練され、資格を持った者により運転されること。

2.4.3.線量測定等の運転記録を経常的に行なうこと。

2.4.4.上記施設における食品照射は、「照射方法の暫定規準」に従う

     こと。

3.照射食品の安全性

 照射食品の安全性および健全性を、しかるべき機関により評価すること。

国際的にはFAO/IAEA/WHO照射食品の健全性に関する専門家委員

会の評価をへた品目のみに承認される。評価は別表2に示す「無条件」およ

び「暫定」の二段階が用いられる。

4.照射される食品およびその前後の取り扱い。

4.1.照射される食品および包装材は衛生的であること。照射前後の取り

   扱いは、GMP(適正食品製造法規則)に従うこと。

4.2.第2項により照射された食品は、再照射しないこと。

5.表示

5.1.消費者保護のため、「包装食品の表示に関する暫定規格(CAC/

   RS 1−1969)」に従った表示を行なうこと。

5.2.流通の便宜のため、照射の有無、および照射施設名を表示あるいは

   書類により明らかにすること。

別表1.各個食品の暫定規格

1.*トリ肉(Gallus domesticus)

1.1.照射目的

 (a)貯蔵期間の延長、または(b)10℃以下で貯蔵されたものの病害

   微生物の除去。

1.2.特定要件

1.2.1.線量範囲

 (a)200〜700Krad

 (b)500〜700Krad

1.2.2.温度条件

 照射および貯蔵は10℃以下であること。

2.*パパイヤ(Carica papaya L.)

2.1.照射の目的

 害虫の除去および熟度の調整

2.2.特定要件

2.2.1.線量範囲

 50〜100Krad

2.2.2.線源

 Co−60あるいはCs−137に限る。

3.*バレイショ(Solanum tuberosum L.)

3.1.照射の目的

 発芽防止

3.2.特定要件

3.2.1.線量範囲

 3〜15Krad

4.*イチゴ(Fragaria属)

4.1.照射の目的

 微生物の部分的除去による貯蔵期間の延長。

4.2.特定要件

4.2.1.線量範囲

 100〜300Krad

5.*小麦および小麦粉(Triticum属)

5.1.照射の目的

 防虫

5.2.特定要件

5.2.1.線量範囲

 15〜100Krad

5.2.2.防雨

 包装した伏態であろうと、バルクであろうと、降雨から完全にへだてるこ

と。

6.**タラおよび赤魚(Gadus morhuaおよびSebaste

 s marinus)

6.1.照射の目的

 (a)包装あるいは無包装で3℃以下で貯蔵される際の微生物による損害

   の減少。

 (b)包装あるいは無包装で3℃以下で貯蔵される際の病原菌の菌数の減

   少。

6.2.特定要件

6.2.1.線量範囲

 100〜220Krad

6.2.2.温度条件

 照射および貯蔵中に3℃以下に保つこと。

7.**タマネギ(Allium cepa)

7.1.照射の目的

 発芽防止

7.2.特定要件

7.2.1.線量範囲

 2〜15Krad

8.**米(Oryza属)

8.1.照射の目的

 防虫

8.2.特定要件

8.2.1.線量範囲

 10〜100Krad

8.2.2.再汚染の防止

 包装した状態であろうと、バルクであろうと、再び虫により汚染されるこ

とを防ぐこと。

[別表2.照射食品の承認条件の定義]

* 無条件承認 全ての試験によって健全性が承認された場合。

**暫定承認  人間の生涯にわたる使用に関しての健全性試験のみが残さ

       れている場合。その試験が終了するまでの健全性については

       承認されている場合。

4. 食品の照射方法の暫定基準(抄訳)

1.序論

 本基準は、Co−60あるいはCs−137の線源、および電子線加速器

による照射双方に適要される。

2.放射線同位元素を線源とした施設

2.1.変動要因

 照射食品の吸収線量は、線源の強度、エネルギー強度、照射時間、コンベ

アー速度、照物食品の密集度によって変動する。

2.1.1.線源

 Ciで示された線源の強度は、供給時に示されている。自然壊変により強

度は低下するので、常に正確な強度を把握しておくこと。

2.1.2.線源の移動とコンベアー速度

 照射時に線源は正しい位置に移動すること。コンベアー速度は、求める線

量に応じて、線量測定を行なって定める。正確な速度をペン式記録計により

記録しておく。この記録には同時に線源の位置、照射あるいは格納、を記録

する。

 バッチ式の設備においては、定められた照射時間の終了時に、線源は自動

的に格納されること。線源強度の低下に伴ない、コンベアー速度あるいは照

射時間を正しく修正し、変更を記録しておく。

2.2.線量測定

 線量測定は、線源の強度あるいは種類を変更した際の特別測定と、日常測

定に分けられる。

2.2.1.特別測定

 特別測定は、線源変更後の、新しい線量分布を求めるために行なわれる。

これにより食品に正しい照射を与える。照射される食品の品目が変更した時

もこの測定を行なう。

2.2.2.日常測定

 日常測定は、製品と共に行ない、連続式設備では24時間中に2回、バッ

チ式設備では各バッチ毎に2回測定を行ない、記録する。

2.3.製品

2.3.1.搬入する製品と搬出する製品は物理的に隔離する。

2.3.2.製品の照射の有無を容易に確認するため、製品箱毎に、変色式

     線量計を添付することが望ましい。

2.3.3.製品の性状、密集度、線源の形、照射線量、処理日を記録し保

     存する。

3.電子線加速器による施設

3.1.変動要因

 加速器のエネルギー、電流、巾を調整することにより、ビームを一定にし

、コンベアー速度の調整により求める照射線量を得る。

3.2.線量測定

 線量測定は装置新規運転時の特別測定と、日常測定に分けられる。

3.2.1.特別測定

 装置に適した方法により線量を測定し、加速器の運転条件を一定にする。

その後、コンベアー速度を、照射すべき線量範囲に適するように設定する。

電子線の場合は吸収特性が著しく変化するので、同じ包装材を用い、内容物

も等位置に置くこと。

 この特別測定は、装置の運転条件を変更した時、および照射される食品の

特性が変化した時にも行なう。

3.2.2.日常測定

 日常測定は次の範囲内で良い。

(1)ビームの特性およびコンベアー速度の連続記録による運転条件の監視

(2)ビームあるいはコンベアーに異常が発生した時に直ちに自動的に停止

  させる処置。

(3)製品の同位置に置いた線量計による測定を運転8時間毎に行なう。そ

  の位置と線量を記録し、保存すること。

3.3.製品

3.3.1.搬入する製品と搬出する製品は物理的に隔離する。

3.3.2.製品の照射の有無を容易に確認するため、製品箱毎に、変色式

     線量計を添付することが望ましい。

3.3.3.製品の性状、密集度、加速器の形、照射線量、処理日を記録し

     保存する。

(事務局)




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