米のγ線による照射技術を(1)バラ積み穀物を対象とした同心円筒型照射装置(2)貯蔵に用いられるクラフト紙袋詰の穀物を対象としたパッケージ照射について実験的検討を行った。これらの結果にもとづき実用規模装置の諸元、処理能力、照射コストを推算した。
図1−1にフローシートを、図1−2に照射サイロの断面を示す。照射サイロに投入された穀物は同心多重円筒状の隔壁で囲まれた照射領域(No.1〜3)を自重で流動しながら中心部におかれたCo−60γ線源により照射される。各照射領域の底部(流速制御部)に設けられた流速調整器により各照射領域内の穀物の流速が調節される。
流速調整器は、環状に配列された多数個のくさび型仕切弁によって構成されている。流速調整は、この仕切弁の開口面積、または、断続的開閉時間の調整によって行う。極低速の流速調整を仕切弁の開口面積の調整によって行うならば、開口面積を極端に小さくしなければならない。このため開口部付近に閉塞現象が生じやすくなり穀物の流動が不安定になる。これを避けて安定な流速調整を行うため、仕切弁の開口面積をあまり小さくしないで仕切弁を断続的に開閉することによって穀物の平均流速を調整した。この方法によって極低速でも流速を調整することができた。
本測定に用いた装置の諸元は下記のとおりである。
線 源: Co−60,600mm×10mmφ,
277kCi
線源導管 : 外径200mmφ、2mm t
隔 壁: 軸長1,200mm,1.5mm t
外径332、498、684mmφ
流速調節器: 巾30mm,高さ3〜40mm(可変)の矩形スリ
ット
昭和47年度群馬県産玄米”日本晴”一等米、崇密度0.82g/cm3
熱蛍光線量計〜LiF,1φ×6mm 空洞電離箱〜ラドコンII型
a)照射領域内の線量率分布:
隔壁の肉厚は、穀物層厚に比して極めて小さい。穀物は、近距離にある線源要素により、主として照射されることに着目して線量率の近似式を求めた(略)。図1−3に空洞電離箱で測定したサイロ各照射領域内の線量率と計算値を示す。実用上両者の一致は満足できるものであった。また表1−1に穀物とともに熱蛍光線量計を流しながら照射することによって穀物の吸収線量を求めた結果を示す。近似計算値は5.7%以内で一致した。
b)穀物の照射領域内の流動状態:
照射領域内の米の流れは殆ど流速分布がなく、一様であった。
c)米の機械的破損率:
米を破損するおそれのある照射装置の部分は、断続的開閉動作する仕切弁出口部分である。このため仕切弁を、実際の運転ではあり得ないほど激しく開閉し(毎秒1回)仕切弁通過前後における破損米の存在比は、それぞれ21%、22%であった。この結果によれば照射装置による破損率は0.1%であるが、仕切弁通過前の破損米の存在比は約±2%程度の誤差をもつので、照射装置による破損米の増加の有意差は認められない。
d)処理能力、米の殺虫最低線量、20krad,を照射すると本装置の処理能力は約0.3t/hであった。
照射領域 |
中心線との距離 |
穀物流速 |
測定線量 |
計算線量 |
誤差* |
− |
cm |
cm/h |
krad |
krad |
% |
I1 |
10.0 |
326.1 |
20.4 |
20.1 |
1.5 |
16.4 |
10.0 |
10.0 |
0 |
||
I2 |
16.6 |
145.2 |
21.4 |
20.4 |
4.7 |
24.5 |
10.6 |
10.0 |
5.7 |
||
I3 |
24.6 |
70.3 |
20.4 |
19.8 |
2.9 |
33.9 |
10.1 |
10.0 |
1.0 |
*相対誤差: (測定線量/計算線量−1)×100 |
ロ 高速の流速調整は、仕切弁開口面積の調整で、極低速の流
速調整は仕切弁の断続的開閉時間の調整で行えるため流速
調整範囲は極めて広い。このため線量率の低い空間でも照
射に利用できる。したがって少量の線源で大量の穀物を照
射できる。
ハ 流速調整範囲が広いため穀物が受ける線量も広範囲に変え
ることができる。
ニ 仕切弁の開口面積を大きくした状態で流速調整ができるた
め粒径の大きい穀物の照射も行うことができる。また、雑
物の混入による仕切弁の閉塞を避けることができる。
ホ 穀物が主として照射を受ける照射領域内では、穀物は、粒
子相互間の位置を変えることなく流動する。このため従来
の照射装置内における穀物粒子のように勝手な振る舞いに
よる線量のバラツキが生じない。
ヘ 穀物は1回だけ照射装置内を静かに自重で流動するだけで
あるため照射装置による穀物の機械的破損は僅かである。
イ 流速調整器の構造が複雑である。
図1−4に示すパッケ−ジ連続照射用リニア−モ−ション、2パスタイプのコンベアを使用した。照射は、板状線源の両側のコンベア上で行なわれ、コンベア速度は、0.1〜3m/minの範囲で連続的に可変でき、移送できるパッケ−ジの大きさは450(l)×300(h)×200(t)〜450(t)mmである。試料パッケ−ジは照射部では、互いに間隙なく等速移送され、両面照射が行なわれる。
Co−60線源は、ペンシル型線源5本を収納した75(l)×14(t)×300(h)mmの線源ケ−スを単位とし、3,000(l)×14(t)×300(h)mmの板状線源組立枠に線源ケ−スを配置し、板状線源として使用した。本実験では、線源ケ−ス13ケを用い、1,080(l)×300(h)mmの板状線源とした。
米・・・新潟県産”コシヒカリ”の玄米および白米を用い、5kg
の袋詰めと段ボ−ルならびにPMMA(板厚5mm)製照
射ケ−スにバラ詰め(嵩密度〜0.99g/cm3)して照
射実験に供した。
酸素飽和のフリッケ線量計を用い、304nmにおける吸光度変化から吸収線量を求めた。測定点は、コンベア上の高さ15cmに統一し、試料パッケ−ジ中の最大線量および最低線量を示す位置に線量計の中心がくるように垂直に設置した。照射は、線源からパッケ−ジ表面までの距離10〜35cmで行った。
a)米のバラ詰照射の線量均一度
表1−3に厚さ300mmのパッケージに米をバラ詰め(ρ
=0.99g/cm3)した場合の線量均一度(最高線量/最低
線量、米では2.5以下)および線源100kCiあたりの照
射能力を示す。線量均一度は、線源とパッケ−ジの距離がはな
れるほど向上するが、本実験範囲では、米の照射で要求される
値をすべて満足している。
b)パッケ−ジ材質、米の充填方法の影響
パッケ−ジ材質、米の充填方法の相違による線量均一度の相
違を表1−4に示す。線量均一度は、段ボ−ルケ−スよりPM
MAケ−スを用いたほうが良く、これはPMMA板が特に斜め
入射γ線を吸収して最高線量を低下させるためと考えられる。
段ボ−ルケ−スに米を充填したものは、コンベアの振動等によ
り厚さが変化(ふくらむ)し、その度合は、バラ詰めが大きい
。また、充填密度もバラ詰めしたものが増大し、このため段ボ
−ルでは袋詰めした米の方が線量均一度が良好である。他方P
MMAケ−スにおいては、段ボ−ルケ−スのような厚さ変化が
ないため、線量均一度は、袋と袋の間隙による影響で、バラ詰
めに比べて袋詰めの方が悪くなっている。
包 装 材 料 |
試 料 米 |
線量均一度 |
アクリル板(5mm) |
バラ詰 白 米 PE袋詰 |
1.80 1.88 |
段 ボ ー ル |
バラ詰 白 米 PE袋詰 |
1.96 1.94 |
玄 米 PE袋詰 |
1.95 |
線源・包装距離 10cm |
イ 多目的照射施設であるコンベアシステムを利用して厚さ3
5cm程度の米麦の適正照射が可能である。
ロ 本装置は、米・麦の照射を行わない場合は、他品目の照射
が容易に行え、照射施設が有効に利用できる。
ハ 紙袋詰穀物をそのまま照射することにより現行の流通、貯
蔵システムを乱すことなく、照射プロセスを付加すること
ができる。
ニ 袋詰のまま照射・貯蔵を行うため虫の再侵入がない。
ホ 穀物の損傷が無い。
イ 放射線の利用効率を高くするためには、コンベアシステム
を多段・多重にする必要がある。
Co−60、1,000kCiを線源とする照射施設で、米の殺虫処理を行う場合の処理コストの試算を行った。また、パッケ−ジ照射については、照射施設の規模による影響を明らかにするためCo−60,200kCiの場合についても試算を行った。
(照射サイロ半径150cm、高さ400cm、線源長200cm) |
処理能力(t/h) |
10.4 |
48.2 |
99.8 |
|
|
|
|
線源半径(cm) |
2.7 |
11.3 |
22.9 |
内 径(cm) |
46.8 |
45.5 |
46.4 |
外 径(cm) |
150.0 |
150.0 |
150.0 |
|
|
|
|
線源強度(kCi) |
91 |
416 |
845 |
パッケ−ジ照射と同様な試算の結果を下記に示す。
1,000kCi
建築費(56年度価格) 一式 2億6、700万円
照射装置(56年度価格) 一式 4億3,000万円
線源(56年度価格) 一式 2億8,000万円
合計 9億7,700万円
年間償却費 5,400万円
維持費 1億 460万円
線源補充 3,360万円
人件費 1,700万円
電気・ガス・水・税 3,000万円
合計 2億3,960万円
照射施設を通年運転(8,000h)し、944,900t(表1−2参照)の米を照射すると、処理コストは254円/tとなる。
図1−4と類似の照射施設を想定した。照射施設の概要を下記に示す。
線源・包装距離 (cm) |
線 量 均 一 度 (Dmax/Dmin) |
コンベア速度 (m/min) |
処 理 容 量 (ton/hr) |
10 11 13 15 18 20 25 30 34 |
2.00 1.97 1.84 1.84 1.79 1.73 1.59 1.57 1.51 |
1.16 1.12 1.09 1.00 0.91 0.88 0.79 0.70 0.65 |
5.42 5.20 5.07 4.66 4.23 4.11 3.67 3.28 3.05 |
線源:100kCi 包装:段ボール 300t×450l×300h 線量:20〜50krad 線量均一度<2.5 |
◎線 源 Co−60密封線源
◎線源格納方式 照射室内設置プ−ル水中格納
◎照射室寸法 内寸 4.5W×6L×3H m
遮 蔽 普通コンクリ−ト(ρ=2.3)厚さ約2m
出入口 照射室入口迷路形式 安全扉使用
プ−ル SUSライニング 4W×2L×6Hm、
水位5.7m
空 調 オ−ルフレッシュ方式、換気能力25回/hr
監 視 放射線遮蔽窓(窓保護用鉛シヤッタ−付)
ITV装置(SUS製カガミ併用)
操 作 オ−ルSUS製エンドレスチェ−ン駆動方式によ
る線源昇降装置ハンドマニプレ−タ
インタ−ロック γ線エリアモニタ−、電離箱式2チャンネル装置
、入口扉電気錠
照射コンベア リニアモーション2パスタイプ連続大量照射用コ
ンベア(照射部SUS製)
貯蔵システムコンベア(夜間自動照射用ストックシステム)
線 源 板状組立
3m×0.3m[200kCi Co−60]
線源搬入 天井遮蔽コンクリートブロック製ハッチ、
1.4m×1.4m開孔
照 明 水銀、ナトリウム、カクテル照明
◎照射棟線源操作 7.5ton モノレールクレーン、線源コンテ
ナー等の重量物に使用
照射貯蔵プール SUSライニング 4W×2L×6Hm、
水位5.7m、照射室内プール排水貯蔵用及び施設
改修時の線源、貯蔵兼用プール
監 視 棟内、天井等のエリア用γ線モニターコンベアラ
イン監視用ITV装置
図1−1 中規模米麦照射装置のフローシート
水処理 プール水浄化装置、活性炭濾過、イオン交換処理
機械室 照射室迷路天井に設置
◎管理棟制御室 照射装置(線源昇降装置、コンベア装置、監視装
置)の制御操作盤を集中的に設置
管理室 放射線管理業務用の部屋
測定室 放射線測定を行う。
建物及び装置については、18年で償却するものとし、装置等の維持費は毎年15%とした。線源は常に最初のCo−60強度を保持することとし、毎年12%のコバルトを補充するものとした。
200kCi 1,000kCi
(56年度価格)
建築費 一式 2億4,900万円 3億5,200万円
照射装置 一式 1億 円 2億 200万円
線 源 200kCi 5,600万円 2億8,000万円
合 計 4億 500万円 8億3,400万円
年間償却費 2,250万円 4,640万円
維持費 3,135万円 5,480万円
線源補充 700万円 3,360万円
人件費 5名 1,700万円 1,700万円
電気・ガス・水・税 1,500万円 3,000万円
合 計 9,285万円 1億8,180万円
照射施設を通年運転するものとすれば(年間1カ月はオーバホールで休止)、処理時間は、8,000時間と見込まれる。Co−60 200kCiの施設は、処理容量10.8t/h(表1−3参照)として、年間86,400tの米を処理でき、処理コストは1,070円/tとなる。また、Co−60 1,000kCiの施設では、処理容量を54t/hとして年間482,000tの米を処理でき処理コストは420円/tとなる。
2種類の穀類照射装置につき処理コストの試算を行った。1,000kCi規模の照射施設では、通年稼働を仮定すれば経済的にも米・麦の放射線殺虫を行うことができる。今回の試算では、金利を考慮に入れていないが、建設費を全て借入金でまかなうとしても処理コストは2倍まで上昇しないと考えられる。また、通年操業の場合は、同心円筒型装置での処理コストが低いが、年間稼働時間を低く仮定した場合は多目的に使用できるパッケージ照射が有利になると考えられる。