食品照射特定総合研究の指定品目の一つであるウインナーソーセージについては、これまでにネトの発生を防止し、貯蔵期間の延長を図ることを目的としたγ線照射処理法が検討されている。
食品照射において大量の試料をγ線処理する場合、パッケージに厚みがあるため、、試料の吸収線量は必然的に分布を待つ。したがってパッケージ中の吸収線量をより均一にするような照射条件を検討する必要がある。そこで本実験では、ウインナーソーセージをパッケージ照射した場合の吸収線量分布を静置照射ならびにコンベア移動照射につき測定し、実用化に際しての均一照射条件を検討した。
線源は、原研高崎研の長さ120cm,高さ30cmの140kCiコバルトー60板状線源を用いた。ウインナーソーセージは、市販の小袋包装品(20.5×11.5cm、150g入)を用いた。このウインナーソーセージは、30袋を20×30×30cmダンボール箱に詰め(平均密度0.27g/cm3)その中に線量計を入れて線源に対して図1に示すように置いて照射した。パッケージ各面名称は以下図1に示した記号で呼ぶこととする。
鉄線量計及びポリメタクリル酸メチル(以下PMMAと略す)を用いた。鉄線量計は比較的精度が高く、エネルギー依存性の小さい線量計であり、また食品は一般に大部分が水であるので試料中の吸収線量測定に適していると考えられる。しかし鉄線量計は形状が10φ×150mmと大きいためパッケージ内に数多く入れることができないという欠点がある。そこで、これと併用して、形状が比較的小さく測定操作が簡単なPMMAをパッケージ内の各部位の線量測定に用いた。
3回精製水を用いて調製した硫酸第1鉄溶液(鉄濃度4×10・E(−2)M、食塩濃度1×10・E(−3)Mの0.8N硫酸酸性水溶液)を酸素飽和し、これを10φ×150mm肉厚1mmの共栓付パイレックス試験管に入れて線量計とした。照射後304nmにおける吸光度変化を測定し吸収線量を求めた。
市販の三菱アクリライト(厚さ1mm)を45×15mmの大きさに切断し、アルミ箔に包んで光を遮断して照射後、290nmにおける吸光度変化を測定し吸収線量を求めた。
ウインナーソーセージを詰めたパッケージを線源の中心線上5×10・E(5)R/hrの線量率の位置に置いて、30分で反転して計1時間照射した。y方向における吸収線量分布は図2に示したように、ほとんどバラツキは認められず均一であった。用いた線源は、y方向における照射線量ができるだけ均一になるように組み立ててあるが、線源の中心線から離れた位置で照射する場合には、y方向の吸収線量分布が不均一になることも考えられる。しかし、コンベアを用いた実用規模の照射ではy方向にパッケージを移動することになるので、問題にならないであろう。
線量率5×10・E(5)R/hrの位置で反転照射した時のパッケージ内z方向における吸収線量分布を図3に示した。z方向における吸収線量分布はパッケージの高さの中心(15cm)の位置で最も高く、両端が低いという結果が得られた。本実験で用いた線源は高さ30cmで、図4に示したように両端部分の比放射能を高くして、z方向の線量分布ができるだけ均一になるように調整してある。しかし各線量率位置でのz方向の空間線量分布(照射線量分布)は図4に示したように高さの中心15cmの位置で最も高く、両端の線量は低くなっていた。各線量率位置における空間のz方向の最大・最小吸収線量の比(以下Dmax/Dminと略す)は、図5に示したように線量率に対して直線関係が得られ、線量率が低い所ほど小さな値を示した。図3に示した結果より求めたパッケージ内z方向のDmax/Dminは1.10であった。
線量率5×10・E(5)R/hrの位置で反転照射した時のx方向における吸収線量分布は図6に示すごとくなり、x方向の線量不均一性はウインナーソーセージにγ線が吸収されるために生じるもので避けることはできない。
そこでパッケージ照射の実用化に際しては、x方向の吸収線量分布の不均一性をいかに小さくするかということが最大の問題点となる。そこで140kCiの線源を用いて、5×10・E(5)R/hrの位置で1時間照射したときのパッケージ内のx方向における吸収線量分布を測定し、結果を図7に示した。この結果から反転照射した場合のx方向におけるDmax/Dminを求めると、140kCiでは1.12、60kCiでは1.23となり、同じ線量率を用いて照射する場合は大線源を用いると線源と試料距離がはなれるためx方向における吸収線量の均一性がかなりよくなることが認められた。
また同一線源を用いる場合、線量率をかえて、つまり線源からの距離をかえて照射すると、線源の放射能をかえた場合と同様の効果がある。これを定量化するため、140kCiの線源について線量率を1×10・E(6)、5×10・E(5)、2.5×10・E(5)、1.7×10・E(5)R/hrとかえた位置で各々15分、30分、1時間、1.5時間照射したときの吸収線量分布を測定した。各々の線量率位置で照射したときのパッケージ内のx方向およびパッケージ全体におけるDmax/Dminを測定した結果を図8に示した。この結果、線量率に対するDmax/Dminはx方向およびパッケージ全体とも直線関係を示し、線量率が低いほど線量均一性がよいという結果が得られた。またこのx方向のDmax/Dmin値と図5に示した空間におけるz方向のDmax/Dminの値の積が、パッケージ全体のDmax/Dminの値にほぼ一致する。
以上の結果から、パッケージ内の吸収線量分布の不均一性を小さくするには、できるだけ大線源を用いて低線量率の位置で照射してx方向の分布を小さくし、しかもz方向の空間線量の不均一性をなくすように線源を組むことが必要条件となる。たとえば、140kCiの線源を用いた場合、線量率1.7×10・E(5)R/hrの位置(線源〜ケース間75cm)で照射すれば、20×30×30cmのパッケージ内のバラツキをDmax/Dmin1.13におさえることができる。一方、実用的な照射条件を検討するために、線源とパッケージの間隔を短くして、5×10・E(5)R/hrの位置(線源〜ケース間30cm)で反転照射した時の線量均一度は、厚さ10cmで1.26、20cmでは1.40となった。
Iの静置照射実験の結果、厚さ20cmの箱につめて照射すると線量均一度1.4〜1.1で照射できることが明らかになった。本章では市販流通ケースを用いて、またコンベアによる連続照射を行う実用的な方法を想定した実験を行った。また照射効果の研究により、ウインナ−ソ−セ−ジは最大線量500krad、最小線量300kradであるので線量均一度は1.67(500/300)以下で実施すればよい。
9図に示すパッケージ連続照射用リニアモーション、2パスタイプのコンベアを使用した。照射は、板状線源の両側のコンベア上で行われ、コンベア速度は0.1〜3m/minの範囲で連続的に可変で、移送できるパッケージの大きさは450(巾)×300(高)×200〜450(厚)mmである。試料パッケージは、照射部では互いに間隙なく等速移送され、両面照射が行われる。
コバルト−60線源はペンシル型線源5本を収納した75(巾)×14(厚)×300(高)mmの線源ケースを単位とし、3,000(巾)×14(厚)×300(高)mmの板状線源組立枠に線源ケースを配置し板状線源として使用した。本実験では線源ケース13ヶを用い、1,080(巾)×300(高)mmの板状線源とした(100kCi)。
市販流通ケース寸法が、32×48×14cm(150g×40袋)であり、本測定に用いたコンベアは、進行方向最大長45cmであるため、なるべく流通ケースに近い状態に調整して鉄線量計による測定を行った。すなわち30×45×14(cm)のダンボール箱を使い、厚さ14cm(1箱用)、厚さ28cm(2箱合わせ)を作製した。この状態を図10に示す。
図11に市販流通ケース1箱並びに2箱合わせにした14及び28cm厚さのパッケージに対する線量均一度を示す。
この結果、厚さ14cmでは、線源からの距離が10cmで線量均一度はすでに1.4以内、2箱合わせた厚さ28cmの場合は線源からの距離が30cm以上離れると線量均一度は、1.5以内におさまった。
しかし、ウインナ−ソ−セ−ジが十分詰まっておらずだんだん下に詰まる傾向があり、数回入れなおしを行ったが、厚さ14cmのデータにバラツキが目立った。厚さ14cmでは、線源からの距離38cmでも線量均一度が、1.2程度であり距離による変化は少ない。
測定結果に基づき線源とパッケージの距離を変数とする線量均一度、線源100kCiあたりの1時間処理能力を表1に示す。
パッケージの厚み (cm) |
線源とパッケージ 間の距離(cm) |
線 量 均 一 度 (Dmax/Dmin) |
コンベアスピード (cm/min) |
処理能力 (kg/hr) |
14 28 |
10 13 15 18 20 25 30 10 13 15 18 20 25 30 33 |
1.28 1.27 1.25 1.22 1.23 1.26 1.23 (1.88) (1.79) (1.72) 1.64 1.62 1.55 1.47 1.41 |
11.3 10.1 9.8 9.0 8.4 7.0 6.4 (8.2) (8.0) (7.7) 7.0 6.6 5.8 5.3 5.2 |
90.1 80.9 78.1 72.0 67.2 55.9 51.1 (131.9) (127.7) (123.2) 111.2 105.4 93.4 85.3 82.8 |
☆カッコ内:ウインナーソーセージ照射に適用できない範囲、Dmin=300krad |
図9類似の照射施設(Co−60線源100kCi)を設置するには58年度価格で(1)〜(3)の初期投資が必要である。
(1)建設費用(58年度価格)一式 3億 円
(2)照射施設( 〃 ) 1億5,000万円
(3)線 源( 〃 )100kCi 4,000万円
合 計 4億9,400万円
(4)年間償却費 2,610万円
(5)維 持 費 1,600万円
(6)線源補充 400万円
(7)電気・ガス・水・税 1,760万円
(8)人 件 費 1,000万円
合 計 7,370万円
(1)は25年、(2)には18年、(3)は10年の償却とすると(4)〜(8)の年間経費を含めて一年間に要する費用は、7,370万円となる。
最適照射条件はウインナーソーセージ2箱合わせ、線源とパッケージ間の距離18cm(線量均一度1.64)、最小線量300kradで行うと一時間当りの処理量は111.2kgであるので年間8,000時間運転するとすれば(年間1カ月はオーバーホールで休止)、890tonになる。これは、ウインナーソーセージkg当りの価格にして83円となり、市販ウインナーソーセージ(150g)ー袋当りの照射コストは13円となる。
ウインナーソーセージは、年間約10万トンが国内で生産されている。しかし、製造後のネト発生による損失が短期間に起るため、1日当りの生産量が4〜5トンの小規模工場を各地方に設置しているのが現状であり、大規模な生産工場でも生産量はせいぜい10トン程度である。本研究の照射コスト試算では1日当りの照射処理量は2〜3トンであり、大規模工場に照射施設を設置するとすればコバルト−60線源は500kCi程度必要となる。一方、照射コストは、本報の試算では、kg当り83円であるが、照射処理量が増加すれば、照射コストは逆に低下するため線源500kCiの照射施設では照射コストはkg当り30〜40円になると思われる。また、ウインナーソーセージの包装密度を高くすれば、照射コストを更に低下させることが可能である。