かまぼこ照射の実用化に際しては、パッケージ照射により大量処理する方法が適していると考えられる。そこで、かまぼこのパッケージ照射実用化に関する知見を得るため、実際にダンボール箱にかまぼこを詰め、静置照射した場合のパッケージ中の吸収線量分布の測定を行い、さらにコンベア移動照射について検討を行った。
試料として5.3(巾)×18(長)×2.3(厚)cm,板厚0.7cmの市販の板付かまぼこを用い、照射用のパッケージとしては、この大きさの試料の市場流通に用いられている14×27×38cmのダンボール箱を用いた。線源は、原研高崎研の長さ104cm,高さ30cmのコバルト−60板状線源(60kCi)を用いた。かまぼこの包装紙と板を取り除いた状態(平均密度0.8g/cm3)及び包装紙と板を付けたままの状態(平均密度0.6/cm3)でパッケージに詰めて照射した場合のパッケージ中の吸収線量分布を鉄線量計を用いて測定した。
3回精製水を用いて調製した硫酸第1鉄溶液(鉄濃度1×10・E(−3)M,食塩濃度1×10・E(−3)Mの0.8N硫酸酸性水溶液)を酸素飽和し、これを内径13mm,長さ130mm,肉厚1mmの共栓付パイレックス試験管に入れて線量計とした。照射後304nmにおける吸光度を測定し、吸収線量変化を求めた。
照射室内の照射台上高さ15cmの位置における空間線量率分布、2×10・E(5)、5×10・E(4)、1×10・E(4)rad/hrの各線量率を用いて、パッケージ中心奥行方向の吸収線量分布を測定した。この場合、包装紙及び板を取り除いたかまぼこをパッケージに詰め、各線量率位置にパッケージの全面をあわせてそれぞれ4分、15分、1.5時間照射した。各照射時間は、精度よく線量を測定するため最高線量が約15kradになるように、それぞれ調整した。この時のパッケージは図1に示したような配置になっており、特に高線量率位置では線源に近く、また照射時間も短いため、線源の上昇・下降時におけるパッケージ下面からの照射の影響を無視できないと考えられる。そこで、この影響を除くため、パッケージの下に厚さ5cmの鉛ブロックを敷いて照射したときの結果を図2に示した。各線量率位置におけるパッケージ中心奥行方向の吸収線量分布及び空間線量分布を、表面線量を1.0とした相対線量として示してある。次に、この結果から、かまぼこ中の線量減衰率、すなわち空間線量(Df)に対するかまぼこ中の吸収線量(Dk)の比をパッケージ中心奥行方向の各点について求め図3に示した。この結果、各線量率位置でほぼ一致した線量減衰曲線が得られた。
かまぼこを実際に照射する場合には、包装され、しかも板を付けた状態で照射することになる。かまぼこと板では比重が異なるため、板の有無によってパッケージ内の吸収線量分布に相違が生じることが予想される。図4に示したようにx方向から照射する場合には、γ線透過方向に板があり、yおよびx方向からでは板がない。そこで図4に示したように、包装された板付かまぼこをパッケージに詰めて、x方向からの照射を行った。線量率3×10・E(5)rad/hrの位置で照射したときのパッケージ中心奥行方向の吸収線量分布を測定した結果を図5に示した。また、包装紙並びに板を取り除いた状態で照射したときの吸収線量分布も同時に示した。この結果より、反転して両面照射した場合のパッケージ中心奥行方向の線量均一度(最大・最小吸収線量の比)を求めると、包装紙並びに板を取り除いた場合1.16であるのに対し、包装され、しかも板付の状態の場合1.12であった。図4のx方向における板の厚さの合計は2.8cmであり、板比重はかまぼこの比重より小さいため、γ線透過方向の充填密度が小さくなっている。このため、包装され、しかも板付の状態で照射した場合の線量均一度がよくなったものと考えられる。
パッケージ全体における線量均一度は、奥行方向の線量均一度と空間の高さ方向の線量均一度の積として近似的に求められる。そこで、種々の線量率位置における高さ方向の空間線量分布の測定を行い、結果を図6に示した。3×10・E(5)rad/hrの位置における照射台上30cmまでの高さ方向の線量均一度は1.11であった。また、図5の結果から求めた奥行方向の線量均一度は1.16である。従って、線量率3×10・E(5)rad/hrの位置で厚さ14cm,高さ30cmのパッケージに包装紙並びに板を除いたかまぼこを詰めて反転照射したときの線量均一度は、1.16×1.11=1.29であることが可能であると認められた。
次に、健全性試験用試料として調整された4.7(巾)×12.7(長)×2.6(高)cm,板厚1cmのかまぼこについて、図3のDk/Df曲線を用いて線量均一度を求め実測値と比較検討した。照射は100kCiのコバルト−60板状線源を用い、奥行14、長さ51、高さ25.5cmのダンボール箱の試料を60本入れて照射した。線量率3×10・E(5)rad/hrの位置にパッケージの中心をあわせて、30分で反転して1時間照射したときのパッケージ内の吸収線量は2.21×10・E(5)〜2.60×10・E(5)radであり、線量均一度は1.18であった。Dk/Df曲線と空間線量分布から求めた奥行方向の線量均一度1.08との積として1.20と求められた。実測値は包装され、しかも板を付けた状態で照射して得られた値であること考慮すれば、両者の値はよく一致しており、Dk/Df曲線は照射条件を検討する際の線量分布計算に十分適用できると考えられる。
100kCiの線源を用いて種々の条件下で照射した場合の線量均一度をDk/Df曲線を用いて求め、照射条件の検討を行った。表1は、高さ30cmのパッケージの厚さを10cmから30cmまでかえた場合の線量均一度をDk/Df曲線より計算したものである。この結果から、線量均一度1.30で照射可能なパッケージの厚さは線量率3×10・E(5)rad/hrで15cmとなり、線量均一度1.40以内で照射可能なパッケージの厚さは線量率3×10・E(5)rad/hrでは20cm,1×10・E(5)rad/hrでは25cm程度であることがわかった。
線 量 率 (rad/hr) |
パッケージの厚さ (cm) |
深さ方向 |
線量均一度 水平方向 |
全 体 |
3×10・E(5) 1×10・E(5) |
10 15 20 25 30 10 15 20 25 30 |
1.06 1.13 1.24 1.40 1.59 1.04 1.09 1.17 1.27 1.40 |
1.11 1.11 1.11 1.11 1.11 1.05 1.05 1.05 1.05 1.05 |
1.18 1.25 1.38 1.55 1.76 1.09 1.14 1.23 1.33 1.47 |
線源:100kCi、 パッケージの高さ:30cm |
1.の静置照射の結果、線源からの距離が近いほどかまぼこを均一に照射するのに必要なパッケージの厚さが小さくなり、線量均一度1.40以内で照射可能なパッケージの厚さは、線量率3×10・E(5)rad/hrでは20cm,1×10・E(5)rad/hrでは25cm程度であることが明らかとなった。本章では市販流通を想定して、コンベアによる連続照射実験を行った。また、照射効果の研究により、かまぼこの適正線量は、300krad程度とされているが、本研究では最小線量を300kradとして、線量均一度が1.40又は1.50以下で照射されるように実用規模装置の諸元、処理能力、照射価格を推算した。
図7に示すパッケージ連続照射用リニアモーション、2パスタイプのコンベアを使用した。照射は、板状線源の両側コンベア上で行われ、コンベア速度は0.1〜3m/minの範囲で連続的に可変でき、移送できるパッケージの大きさは、450(巾)×300(高)×200〜450(厚)mmである。試料パッケージは照射部では等速移送され両面照射が行われる。
コバルト−60線源は、ペンシル型線源5本を収納した75(巾)×14(厚)×300(高)mmの線源ケースを単位とし、3,000(巾)×14(厚)×300(高)mmの板状線源組立枠に線源ケースを配置し、板状線源として使用した。本実験では線源ケース13ヶを用い、1,080(巾)×300(高)mmの板状線源とした(100kCi)。
かまぼこ用流通ケース(20本入、26.5×26.5×18cm)を連続照射コンベア装置用に加工した。ケースの形状は、42cm(長)×30(長)cmで厚さを18、26、35cmに変えた。線源からパッケージ表面までの距離は10〜35cmとした。鉄線量計によるパッケージ内の最大吸収線量(Dmax)、最低吸収線量(Dmin)の測定位置は図8に示す。実際の線量測定は、流通ケース箱を並べて連続照射に近い状態で行った。
図9に厚さが異なる各パッケージに対する線量均一度の線源からの距離による変化を示す。すなわち、パッケージの厚さが35cmある場合、本装置では線量均一度1.5以下で照射することは不可能である。厚さが26cmのパッケージでは線源からの距離が25cm以上離れると線量均一度1.5以内におさまった。一方、厚さを18cmにすると線源からの距離が10cmでも線量均一度1.45となり、1時間当たりの処理能力も表2に示すごとく最大となった。このことから、かまぼこのように線量均一度がきびしい品目の連続照射処理は、パッケージの厚さをできるかぎり薄くし、パッケージ内のかまぼこの充填方法を板が外側になるように限定することである。このことにより、かまぼこ流通ケースは、線源から近い距離でコンベアスピードが早い状態で運転され、処理量を増大させることができる。
パッケージの厚み (cm) |
線源とパッケージ 間の距離(cm) |
線 量 均 一 度 (Dmax/Dmin) |
コンベアスピード (cm/min) |
処 理 能 力 (kg/hr) |
18 26 35 |
10 13 15 18 25 35 10 13 15 18 21 25 30 35 10 13 15 18 21 25 28 |
1.45 1.40 1.35 1.30 1.25 1.18 1.78 1.68 1.62 1.55 1.52 1.44 1.40 1.33 2.32 2.18 2.08 2.62 1.94 1.79 1.73 |
12.5 11.3 10.6 9.6 7.9 6.4 (10.2) (9.2) (8.8) (8.1) (7.5) 6.8 6.0 5.6 (7.8) (7.2) (6.7) (6.1) (5.7) (5.3) (5.0) |
235.9 218.7 204.4 185.4 153.1 122.7 (262.3) (237.4) (225.0) (209.0) (192.0) 175.9 153.4 143.3 (302.5) (276.9) (257.4) (236.9) (220.3) (204.3) (173.8) |
☆カッコ内:かまぼこ照射に適用できない、D min=300krad |
図7類似の照射施設(Co−60線源、100kCi)を設置するには、58年価格で1〜3の初期投資が必要である。
1建築費 (58年度価格)一式 3億 円
2照射装置( 〃 )一式 1億5,000万円
3線 源( 〃 )一式 100kCi 4,400万円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
4億9,400万円
4年間償却費 2,610万円
5維持費 1,600万円
6線源補充 400万円
7電気・ガス・水・税 1,760万円
8人件費 1,000万円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
7,370万円
1は25年、2は18年、3は10年の償却とすると4〜8の年間経費を含めて一年間に要する費用は、7,370万円となる。
最適照射条件はかまぼこ流通ケースの厚さを18cmとし、線源とパッケージ間の距離10cm(線量均一度1.45)、最小線量300kradで行うと一時間当たりの処理量は、235.9kgであるので年間8,000時間運転するとすれば(年間1ヶ月はオーバーホールで休止)1,887tonになる。これは、かまぼこkg当たりの価格にして39円となり、市販かまぼこ1個(210g)当たりの照射コストは8円となる。一方、線源とパッケージ間の距離を13cm(線量均一度1.40)として、平均線量300kradとした場合には、一時間当たりの処理量は262kgとなり、kg当たり35円で照射できることになる。
水産ねり製品は、年間約100万トン生産されている。かまぼこの場合、各製造工場での1日当たりの生産量は5〜50トンであり、20トン規模の工場が多いとされている。しかし、かまぼこの製造工場は、特定地域に集中していることが多い。本研究の結果では、コバルト−60線源100kCiで1日当たりの処理量は6トンであり50トン処理できる照射施設は約1,000kCiの線源が必要となる。この場合kg当たりの照射コストは、20円以下に低下するものと思われる。