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照射技術(RADIATION ENGINEERING):食品に放射線を照射するためのさまざまな手法

照射技術


発表場所 : 食品照射研究運営会議(放射線照射によるみかんの表面殺菌に関する研究成果報告書[資料編])
著者所属機関名 : 日本原子力研究所高崎研究所
発行年月日 : 昭和63年 3月
研究所名 : 日本原子力研究所高崎研究所・放射線照射によるみかんの表面殺菌に関する研究成果報告書[資料編]
みかんの電子線照射技術
1. 目  的
2. 表面線量分布と線量均一性
(1) 試験方法
(a) 照射条件の設定
(b) 吸収線量の測定
(c) 表面線量分布の測定
(2) 実験結果
3. コンベア連続照射
(1) 試験方法
(2) 測定結果
(3) 照射コスト



みかんの電子線照射技術


みかんの電子線照射技術
1. 目  的

 温州ミカン表皮の青カビや緑カビによる腐敗を防止し、貯蔵期間を延長する目的で電子線によるミカン表面の殺菌が研究されている。そこで、本研究では電子線照射した場合のミカン表面の線量分布を測定し、さらに、ミカン表面を均一に照射するための条件及び、実用化を目的とするコンベアの反転照射方式による連続照射条件について検討した。

2. 表面線量分布と線量均一性
(1) 試験方法
(a) 照射条件の設定

 電子加速器は高崎研究所のGE製共振変圧器型加速器を使用した。本加速器の加速電圧は2.0MVpで一定であるため、電子線エネルギーを変える目的で図1に示すごとくスキャンナーとコンベアの間に厚さの異なるアルミニウム板を設置し、0.2、0.5、0.9、1.5MeVの電子線を得た。なお、電子線のエネルギーはKatzらの式より計算した。また、比較のため高崎研究所大阪研究所(現在大阪支所)の高線量率加速器(日新ハイボルテージ社製変圧器型電子線加速器、最大加速器電圧800kVp,最大電流25mA、スキャンナー窓長さ45cm)で0.5MeVにおける線量分布測定も行った。


図1 加速器コンベア上のミカンの照射位置


(b) 吸収線量の測定

 線量計としては、セルローストリアセテート(以下CTAと略す)フィルムを使用した。CTAの厚さは、125mμであり、密度は1.32g/cm3である。吸収線量は照射による280nmの吸光度変化から求めた。なお本線量計の信頼性はフリッケ鉄線量計との比較で確認されている。照射は、1〜3mAの電流で行い、吸収線量はコンベアでの照射回数を調節することにより、CTAの適正測定範囲である1〜10Mradになるよう調整した。

(c) 表面線量分布の測定

 図2(a)に示したように、CTAをミカンに巻きつけて、図1のコンベア中心線上と、中心から左右に15cm離れた位置に置いて移動照射した。コンベア進行方向と平行に巻いたCTAをTape A とし、直角方向に巻いたものをTape Bとした。ミカンに巻いて照射したCTAは図2(b)に示した各測定点で吸光度を測定した。測定点2と6はミカンの赤道部を示し、4と8はそれぞれ果梗部と果頂部を示している。各測定点間の距離はミカンの大きさによって幾分異なるが、1.8〜2.2cmであった。測定結果は、一個所3連の測定の平均値で示した。なお、実験に用いた試料はMサイズのミカンまたは直径7cmのポリエチレン製円柱である。


図2 CTAフィルムをミカン表面に巻きつけた位置



図1 加速器コンベア上のミカンの照射位置


(2) 実験結果

 種々の暑さのアルミニウム板を用いたときのコンベア中心線上での深部線量分布は図3に示すごとくなった。縦軸は表面線量を1としたときの相対線量を示しており、横軸はCTAの厚さを面積密度で表わしてある。この曲線から外挿飛程を求め、電子線エネルギーを計算した。

 次にコンベア移動方向と平行の場合のミカン表面Tape Aの線量分布を測定した。コンベア中心線上に置いたミカンが片面照射された場合の線量分布は図4のようになった。この場合、エネルギーを変えても測定点4を中心として、ほぼ左右対称の線量分布が得られた。次に試料を反転することによって、両面から同線量照射した場合の線量分布を図5に示した。1.5MeVの場合にはミカンの赤道部の線量が大きくなり、果梗部と果頂部では小さくなった。この傾向は、0.9MeVでも幾分みられるが、0.5MeV以下では認められなかった。また、コンベア上の位置の違いによる分布の変化も認められなかった。

 次にコンベア移動方向と直角な位置に巻いたTape Bの両面照射した場合の線量分布を測定したところ、図6に示されるような結果が得られた。コンベア中心線上では比較的均一に照射されており、1.5MeVではTape Aでみられた分布と同様に赤道部の線量が高くなる傾向を示した。また、エネルギーが低くなると赤道部の線量が小さくなった。一方、コンベア中心から左右に15cm離れた位置では中心線上で照射した場合と比べ、線量均一性は著しく低下した。このように、コンベア上の照射位置によって線量分布が変化するということは、大量のミカンを照射する場合の試料全体の線量均一性に影響する。

 そこで次に、大阪研究所の高線量率加速器を用い0.5MeVのエネルギー条件でスキャンナー窓面からの距離を変えて、コンベア上の空間線量分布を測定した。その結果、スキャンナー窓面に近いものほど両端部の線量分布が不均一になり、スキャンナー窓面から25〜30cmの位置では空間の線量分布の均一性が著しく改善された。一方、この条件におけるミカンモデル表面の線量分布も全体に改善されたが、スキャンナー両端部の位置では均一度は悪かった。そこで、両端部をスキャンナー窓面に2〜5cm傾け照射したところ、両端部の線量均一度は折り曲げない場合の3.65に対し、2.74と改善することができた。また、ミカンモデルの試料間隔を離すに従って線量均一度は良くなり、2cm以上離し、反転照射したところ全体の線量均一度は2.30となった。


図3 種々の厚さのアルミニウム板を透過した電子線によるCTAフィルム内の深部線量分布



図4 コンベア中心線上に置いたミカンを片面からだけ照射した場合のTape Aにおける線量分布



図5 試料を反転して両面から同線量照射した場合のTape Aにおける線量分布



図6 ミカン表面Tape Bにおける反転照射した場合の線量分布


3. コンベア連続照射

 表面線量分布測定の結果、電子線入射角度の影響を少なくし、試料間隔を2cm以上にする必要があることが明らかとなった。一方、ミカンの糸状菌発生防止と表皮の褐変防止のための最適照射条件は0.5MeV、150kradとされている。そこで、電子線入射角度の影響を少なくするように三分割された試料パレット(両端部をスキャンナー窓面に傾けて照射できる)を有するコンベア装置を高崎研究所大阪研究所高線量率加速器に設置して、大量連続照射を想定した実験を行なった。

(1) 試験方法

 加速器スキャンナーと照射試料の幾何学的な配置及び線量測定の表示方法を図7に示す。加速器は、日新ハイボルテージ社製変圧器型(スキャンナー窓長さ45cm)を用い、加速器は0.5MeV、電流3mAとした。加速器の位置は、スキャンナーの中心と照射用コンベアの中心軸を合わせ、照射用コンベア上の試料パレット上面からスキャンナー窓面までの距離を30〜70cmとなるように設置した。コンベア速度は、上記条件において線量計の最適測定範囲になるよう1m/minに設定した。線量計はCTAフィルムを用いた。ミカンモデルとしては直径79mmφのポリエチレン製球を用意した。試料パレットは三分割されており、両サイドパレットは中央パレットに対し0〜30度傾けられる構造となっている。この試料パレット上には、コンベア進行方向に4列、スキャン方向7列、合計28個の試料が2cm間隔で載せられ、コンベア終点部で反転できる構造となっている。


図7 加速器スキャンナーと照射パレットの配置


(2) 測定結果

 電子線窓面から30cmの距離にパレットを置いて、サイドパレットの傾きを0〜20度に変化させた場合の表面線量均一度は図8に示すようになった。中央パレット上のモデルNo.1はサイドの傾きに無関係に約1.4前後の線量均一度を示したが、モデルNo.2ではサイドパレットの傾きが15度を越えると均一度が悪くなった。サイドパレット上のモデルNo.3では傾きが10〜18度で均一度が良く、モデルNo.4ではサイドパレットの傾きが20度に近づくほど均一度が向上した。一方、コンベア進行方向の各試料の線量均一度はサイドパレットの傾きに無関係に良好で、各試料とも線量均一度は1.6以内におさまった。したがって、各試料全体の表面線量均一度はサイドパレットの傾き18度とした場合に最良となり、その値は2.4であった。図9はサイドパレットの傾きを18度とした場合の各試料のスキャン方向の表面線量分布を示したものである。図にみられるようにモデルNo.4の−90度の赤道部における線量がNo.1〜No.3に比べ低い値となり全体の線量均一度を悪くしていた。

 次に、電子線窓面から70cmの距離にパレットを置いて、同様の条件で表面線量均一度の分布をしらべた。この場合、パレット両端部を11度に傾けると全体の線量均一度は1.8に改善された。また同一の条件で実際のミカンにCTAフィルムを巻き付けて測定した場合にも全体の線量均一度は2.0以内におさまった。


図8 X方向の表面線量均一度



図9 X方向における反転照射後の表面線量分布


(3) 照射コスト

 500kVp変圧器型電子加速器を用いた照射施設を設置するには1)〜3)合計3.92億円の初期投資が必要である。

 1)建屋等(遮蔽施設を含む)一式     1億0,000万円

 2)コンベアシステム一式         1億6,200万円

 3)電子加速器(付帯設備を含む)一式   1億3,000万円

        計             3億9,200万円

 ●年間必要経費は:

 年間償却費

  a)建物(遮蔽施設を含む)一式(25年償却)  400万円

  b)コンベアシステム一式            900万円

  c)電子加速器(付帯設備を含む)一式(10年償却)

                        1,300万円

       償却計              2,600万円

 維持費

  a)コンベアシステム一式(価格の5%)     810万円

  b)電子加速器(付帯設備を含む)一式    1,300万円

       維持費 計            2,110万円

 電気・ガス・水・税              1,200万円

 人件費 (2人)               1,000万円

 一年間に要する費用は、6,910万円(金利を含まず)である。

 温州ミカンの照射期間は、11月から12月の約2カ月である。また、ミカンの必要照射処理量は一つのジュース工場の年間処理量が1万から10万トン程度のため、稼働日数50日、1日の稼働時間7.5時間として、26.6トンから266トン/時の照射が必要となる。

 一台の加速器において、コンベアシステムの規模にもよるが、時間当りの照射処理能力は、本研究において採用した照射条件においても2トンから100トンの照射処理が可能である。従って、年間10カ月は他の目的に加速器を使用することとした場合のミカン1kg当りの照射コストは一日の処理量200トンで1.2円となり、2,000トンでは0.12円と計算される。




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