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Q&A(QUESTION and ANSWER)

食品照射の応用分野(4)日本の健全性試験


文書



36.わが国における照射馬鈴薯の動物試験結果の問題点


36.わが国における照射馬鈴薯の動物試験結果の問題点

概要

 照射馬鈴薯の動物試験で問題にされている体重増の減少、死亡率の増加、卵巣重量の減少などは動物実験に起こりがちなデータのバラつきの範囲内で、線量および飼育期間との相関関係または一定の傾向は認められていない。したがって、各種の動物試験結果からの総合的評価により照射馬鈴薯の安全性は明らかにされている。栄養成分についても、照射直後におこるビタミンCの減少は貯蔵中に非照射との差はなくなっている。

内容

 照射馬鈴薯で過去に議論のあった主な問題点は、ラットの体重増の減少、死亡率の増加、卵巣重量の変化である。以下にこれまでにマスコミや批判的立場の各種討論などで問題提起された事項と、これらへの科学的な見解を紹介した。

1.慢性毒性試験において、馬鈴薯をラットに与えたところ、標準飼料群に比べ照射群、非照射群とも雄では明らかに体重増加が抑制されたが、線量による差は認められなかった。

2.雌ラットでは0.3kGyと0.6kGy照射群の体重増加が若干抑制されているような結果が得られたが、線量との相関関係は認めらない。0.15kGyと非照射群の体重増加は標準飼料群との差がほとんど認められず、その次に0.6kGy群の生育が良く、0.3kGy群は若干体重増が抑制されているように見える。しかし、この体重増の変動は動物実験に起こりがちなデータのバラつきの範囲内にあり、照射の影響とは認められない。

3.この動物実験においてラットの雄で照射群の死亡率が24カ月で高くなったことが問題にされたことがあるが、この場合も、照射線量との相関関係は認められず、雌についてはそのような現象は認められていない。ラットの場合、一般に15カ月以降になると老齢期に入るためデータがバラつきやすくなり、 0.3kGyと0.15kGy群で死亡率が高く、

 0.6kGyと非照射群の死亡率が類似していることから、死亡率と照射線量との間に関係があるとは考えられない。

4.ラット雌の卵巣重量が 0.6kGy照射群で減少したことが問題にされたことがあるが、有意差が認められたのは6カ月目だけであり、飼育期間での一定の傾向は認められず、線量との相関関係も認められていない。また、卵巣の病理学的検査でも卵巣重量が少なかった群での異常は認められていない。

5.卵巣重量の変化を指摘した人達は非照射群との比較のみで議論しているが、標準飼料を与えた群と比較してみれば飼育期間による変動が著しく大きく、照射による影響でないことが理解できる。しかも、ラットのような小動物においては卵巣重量の測定はバラつきを生じやすいことが知られている。

6.その他、ラットの肺、脾臓の重量が 0.6kGy群で増加したのが問題との議論があったが、この場合も、線量との相関関係が認められず、飼育期間を通じて一定の傾向が認められていない。

7.照射馬鈴薯の安全性はこのような体重増加率や死亡率、臓器重量変化ばかりでなく、各種動物での病理組織学的検査、血液検査を含めた総合的評価により明らかにされている。なお、マウスのデータ欠落が指摘されたことがあるが、データに大きな変動がないときには提示を省略するのはめずらしいことではない。

8.栄養成分については、照射直後に馬鈴薯の損傷細胞の回復にビタミンCが必要なため、ビタミンC含量が減少するが、貯蔵中に非照射との差は認められなくなる。




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