食品照射とは、ある種のエネルギーによって食品を処理することです。 その処理とは、期待する目的を達成するために、包装された状態かあるいは包装してない状態の食品に、一定の時間、注意深く管理された量の電離放射線を照射することです。 このような処理を実施しても、食品に放射線をあてた時間や食品が吸収したエネルギー、すなわち線量に関係なく、食品中の放射能が自然のレベルを超えることはありえません。 食品照射は、バクテリアや高等生物の細胞を構成している分子の構造に影響を与えることによってこれらの細胞分裂を抑制することができます。 さらに、放射線を照射すると、植物組織の生理過程において生化学的な反応を引き起こすことにより、ある種の果実や野菜の成熟を遅らせることもできます。




1.誰が食品照射に関心を持っているのですか?


食品を加工したり保存したりする伝統的な方法と並んで、食品照射技術は世界中でますます注目されてきています。 世界37ヵ国において、厚生当局は香辛料、穀物、骨を除いた食鳥肉、果実、野菜など約40種類にも及ぶさまざまな食品の照射を許可しています。 これらの国のうち24ヵ国(訳注1)で、食品照射が実用化されています。

これら24ヵ国をはじめとする各国における食品照射の実用化に関する決定には、照射食品に関わる国際規格が1983年に採択されたことが影響しています。 その規格は、130ヵ国以上で構成する国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同の組織である国際食品規格委員会によって採択されたものです。 それはFAOとWHOと国際原子力機関(IAEA)のによって招集された照射食品の健全性に関する合同専門家委員会(JECFI)の検討結果に基づいています。 JECFIは1976年、1980年にその都度入手できるデータについて検討しました。1980年に、JECFIは、平均10キログレイ(kGy)の線量までならどのような食品を照射しても毒性学上の障害を示すことはなく、これ以上の毒性試験の必要はないという結論に達しました。 さらに、JECFIは、10kGy以下の照射ならば食品に対して栄養学上あるいは微生物学上の問題をもたらすこともないという結論を出しました。




2.なぜ食品照射は各国で関心が持たれるのですか?


食品照射に対して各国の政府が関心を示すのは多くの理由によります。 その理由の主なものは、害虫汚染、微生物汚染、腐敗により常に高い割合で食品が損耗していること、食品に由来する疾病に対して大きな不安を抱いていること、食品の貿易は拡大しているがこれらは品質と検疫に関わる厳しい輸入基準に適合しなければならないこと、などであります。 これらの問題の解決には、食品を安全に処理し流通させるための既存のシステムと組み合わせて利用したと時に食品照射が有効であることが証明されます。

FAOの試算によれば、世界的にみて全食糧生産の約25%が収穫後に害虫、バクテリア、ねずみによって損耗しています。 保存技術として食品照射のみを用いても、食料の収穫後の損耗に関するすべての問題の解決にはならないでしょう。 しかし、食品照射は食料損耗の低減や、農薬使用の減少に大いに役立つことができます。 多くの国において、害虫やかびによる汚染、早すぎる発芽のために大量の穀物を失っています。 根茎菜類(じゃがいもやたまねぎなど)では、発芽が損耗の主な原因です。 ベルギー、フランス、ハンガリー、日本、オランダ、ソ連(現ウクライナ)などの国においては、穀物、じゃがいも、たまねぎなどいくつかの農産物が商業規模で照射されています。(訳注2) アルゼンチン、バングラディッシュ、チリ、中国、イスラエル、フィリピン、タイではじゃがいも、たまねぎ、にんにくの試験的規模での照射が実施されています。

食品に由来する疾病は人間の健康に対する大きな脅威となると同時に、経済的にも大きな影響を及ぼします。 アメリカ疾病管理センターの調査によれば、先進国であるアメリカにおいてさえ、サルモネラ菌やキャンピロバクターなどの病原性微生物や旋毛中などの寄生虫によって引き起こされる疾病が原因となって、推定で毎年7000人の生命が奪われ、2400万〜8100万件の下痢性疾患が起こっています。 食品に由来する疾病に関係した経済的損失は大きく、アメリカ食品医薬品局(USFDA)によれば、その損失は50億〜170億米ドルと見積もられています。

食品中のある種のバクテリアを殺滅するのに必要とされる比較的低い線量の放射線は、食品に由来する疾病を抑制するのに有益です。 ベルギーやオランダでは、乾燥食品素材以外にも、かなりの量の冷凍水産物が食品に由来する疾病防止の目的のために照射されています。 機械により骨を除去して冷凍した食鳥肉のブロックの電子線照射がフランスで商業的に実施されています。 香辛料はアルゼンチン、ブラジル、デンマーク、フィンランド、フランス、ハンガリー、イスラエル、ノルウェー、アメリカ、ユーゴスラビア(現クロアチア)で照射されています。

食料の貿易は地域内あるいは国際的な交易において重要なものであり、市場は拡大しています。

しかし、各国において互いの検疫や公衆衛生に関する規制がクリアできないことが貿易の主な障害となっています。 たとえば、すべての国が化学処理された果実の輸入を許可しているわけではありません。 そのうえ、アメリカや日本を含むいくつかの国は、健康上有害であると認められたある種の燻蒸剤の使用を禁止しています。

この問題は、経済が依然として食料や農業に大きく依存している途上国にとって最も深刻です。 放射線照射はこれらの国々において燻蒸などの処理の代替技術となりうるものです。




3.どのくらいの食品が商業的に照射されているのですか?


世界では毎年約50万トンの食品が照射されています。(訳注2) この量は加工食品の全体量に比べると少なく、これらの照射食品の多くは国際的には流通していません。 食品照射の進展にマイナスの影響を及ぼしている要因は、食品照射に対する一般の人々の理解と受け入れです。 これまでのところ、原子力関連技術や放射線の利用を取り巻く誤解や恐怖から、食品照射に対する理解と受け入れを得ることは困難でした。

食品照射についての心配を除いたり誤解を解く手助けをするために、この冊子が国際食品照射諮問グループ(ICGFI)によって作成されました。 1991年初めの時点で、37カ国がICGFIの活動に参加しています。

ICGFIは、FAO、IAEA、WHOの後援のもとに発足しました。 その目的は、これらの国際機関と、その加盟国に対して、食料問題を解決するための食品照射の利用に関して貿易、公衆衛生、経済、規制、広報についての助言を与えることです。 ICGFIと食品照射についての情報は下記の住所のICGFI事務局に請求して下さい。

ICGFI事務局
FAO/IAEA原子力利用食品農業共同事業部
Joint FAO/IAEA Division of NuclearTechniques in Food and Agriculture Wagramerstrasse 5,P.O.Box 100 A-1400 Vienna,Austria



(訳注1)
1993年末現在で食品照射技術を実用化している国は27カ国です。

(訳注2)
日本においては1993年末現在、食品衛生法でじゃがいもの照射だけが許可されています。
年間の処理量は約1万5000トン