物質を処理するのに使用される放射線は、高エネルギーのガンマ線、エックス線、加速電子線に限られています。 これらの放射線は電離放射線とも呼ばれています。 それは、これらの放射線は原子や分子から電子を除去して、それらをイオンと呼ばれる電荷を帯びた粒子に変えるのに十分なエネルギーを持っているからです。

ガンマ線やエックス線は、ラジオ波、マイクロ波、紫外線、可視光線と同様、電磁波の一種であり、電磁波の中では短波長領域、すなわち高エネルギー領域にあります。ガンマ線とエックス線は、その発生源が主な違いですが、物質に対する特性や効果は同じです。エックス線は機械を用いて発生させるもので、そのエネルギーは連続可変です。一方、ガンマ線は固有のエネルギーを持っており、放射性核種の自然崩壊により生じます。

自然に存在する、あるいは人工的に作られる放射性核種は放射性同位元素あるいはラジオアイソトープと呼ばれており、不安定で、自然に崩壊して安定な状態になる時に放射線を放出します。 放射性核種が元の放射線の半分のレベルにまで崩壊するのにかかる時間は半減期といわれており、これはここの放射性核種に固有のものです。 ベクレル(Bq)は放射能の単位で、1Bqは1秒間に放射性核種が1個崩壊する放射能に値します。

ある種の放射線源だけが食品照射に使用することができます。 それはコバルト60あるいはセシウム137の放射性核種、5百万電子ボルト(5MeV)以下のエネルギーを持つエックス線発生装置、10MeV以下のエネルギーを持つ電子線発生装置です。

これらの放射線源から発生する放射線のエネルギーは、食品を含むどのような物質においても放射能を誘導するほど高くはありません。

ガンマ線による食品照射には放射性核種としてもっぱらコバルト60が使われています。 コバルト60は原子炉の中で金属のコバルト59に中性子を当てることにより製造されています。 コバルト60は照射施設の中で使用している間に漏出することがないように、二重にペンシル状のカプセルの中に封入されています。 コバルト60の半減期は5.3年です。 コバルト60以外に、産業的に物質を処理するのにふさわしいガンマ線放出核種はセシウム137しかありません。 セシウム137は使用済みの原子燃料を再処理することによって得ることができ、30年の半減期を持っています。しかしながら、世界的にみて再処理施設の数はわずかであり、セシウム137を商業的に利用するのに十分な量の供給ができるかどうか不確かであるため、照射施設においてセシウム137を利用使用という考えはほとんどありません。 アメリカ健康・科学に関する委員会(American Councilon Science and Health)は、照合食品に関する報告書のなかで、「エネルギー省を含むすべての関連機関は1988年11月の時点でセシウム137はガンマ線照射において将来性がないということに意見が一致している。」と述べています。

放射線発生装置の中にはある特定の物質を照射するのに適しているものもあります。高エネルギーの電子線は電子を加速することができる機械から発生させることができます。電子線は、ガンマ線やエックス線に比べて、食品の中であまり深く透過することはできません。 種々のエネルギーを持つエックス線は、加速された電子線を金属のターゲットに衝突させるときに発生します。 エックス線は食品に対して大きな透過力を持っていますが、電子線からエックス線への変換効率は一般に10%にも達しません。

photo:日本の食品照射施設の内部 放射線量とは、食品が照射される時に吸収する放射線のエネルギーの量であり、現在ではグレイ(Gy)と呼ばれる単位で表されます。以前は単位としてラド(rad)(1Gy=100rad)が使用されていました。 WHOなどは10,000Gy(10kGy)以下の線量ならすべての食品に対する照射が安全であることを認めました。(訳注1)。 エネルギーについていえば、1Gyは1kgの食品が照射された時に1ジュールのエネルギー(訳注2)が吸収されたことに等しいエネルギーの量です。



(訳注1)
WHOのレポートによると食品に60kGyの放射線をあてたとしてもそれによって生ずる放射線分解生成物は1kgあたり数十mg程度としています。

(訳注2)
FDAは、豊富な放射線化学のデータに基づいて、食品に1kGyの放射線をあてた場合の放射線分解生成物は約30ppm未満、そのうち、非照射食品中には見いだせない特異的なもの(URP)は10分の1の3ppm未満であり、さらに個々のURPは1ppm未満と推定しています。