1.産業用の照射施設で大きな事故がありましたか?


はい、ありました。

過去25年の間に、産業用の照射施設で、致死線量の放射線を偶発的に浴びたために作業者が傷ついたり死に至る大きな事故が2〜3件起こりました。 これらの事故のすべては、安全装置が故意に外されていたり、適切な管理手順が取られなかったために起こったものです。 これらの事故のいずれも、一般の人々の健康や環境の安全が脅かされることはありませんでした。

「事故」として報告されているほとんでは、実際には操作上のトラブルであることがわかっています。 このようなトラブルが原因で、照射施設が停止されたことがありますが、誰かがけがをしたり、環境が危険にさらされるようなことはありませんでした。

すべての産業においての安全性に対して責任のある当局は、事故と単純なトラブルとを区別しています。 食品照射以外にも缶詰、燻蒸など多くの食品技術においても同様であり、作業者にとっては危険性を秘めています。 照射施設におけるのと同様に、事故を防ぐためには、しっかりした管理と適正な作業手順書を作成しておくことが必要です。

放射線照射産業は安全面でのトラブルの少ないことで知られています。 今日、世界では約160の産業用ガンマ線照射施設が稼動しており、そのほとんどは使い捨ての医療用具などの滅菌、および食品以外の製品の処理に使われいます。

(訳注)
日本では放射線利用が始まって以来、今日までに放射線照射施設で4件の事故がありました。 いずれも施設周辺の住民および周辺環境に影響を及ぼしたことはありません。




2.照射施設で働いている人々が長期あるいは偶発的に放射線を浴びる危険性はありませんか?


どんな産業活動も人間や環境に対してなんらかの危険性をはらんでいます。 照射施設における危険性の一つは、偶発的に電離放射線を浴びるかもしれないということです。 通常の稼動条件のもとでは、放射線源が遮蔽されているために、作業者が放射線を浴びることは完全に防がれています。 設備の故障を発見するため、および職員が偶発的に放射線を浴びるのを防ぐために、照射施設は幾重もの防護レベルのもとに設計されています。 放射線源が照射室に出ている時には、危険な区域はモニターで監視されており、インタロックシステムの働きで、照射室に無許可で立ち入ることを防いでいます。 それ以外にも、作業者の安全性は厳重な操作手順や適切な訓練によって確保する努力が必要です。 すべての放射線施設は許可を受けなければなりません。 ほとんどの国において、規則により、稼動の許可条件の遵守を確認するために、照射施設の定期的な検査を受けることを義務づけています。 イギリスにおいては、保健安全執行部は議会委員会に対して、イギリスの10の照射施設で働いている職員は特段の危険に直面したことがないと報告しています。 「精巧な安全管理システムによって危険性は効果的に抑制されている。 照射施設は非常に強固な放射線遮蔽物を用いて建設されており、したがって放射線処理が一般の人々に対して危害を及ぼすことはない。 食品の照射を許可しても、われわれの考えが及ぶ範囲内において新たな健康や安全に関わる問題をもたらすことはないと予測している。」

(訳注)
日本では放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律で照射施設における安全性確保のための規制が行われるとともに、労働安全衛生法などにより、照射施設で働く作業者の健康診断などの健康管理が実施されています。

photo ■コンベヤシステム
包装済みあるいは包装していないままの食品は固定されたコンベヤシステムにより照射室に搬出入されます。 食品は、処理に必要な正しい線量を照射するために正確に速度を制御して放射線場を通過します。 放射線のエネルギーレベルは低いために、食品中に誘導放射能が生じることはありません。 食品は照射後直ちにコンベアから降ろされて搬送されます。

■照射室
食品は、厚いコンクリートの壁と放射線の漏洩を防ぐために特別に設計されたドアを備えた中央の部屋の中で照射されます。 インタロックと警報装置はすべてのドアが確実に閉じるまで放射線源が上昇するのを防いでいます。

■制御装置
訓練されたオペレータが照射室の外の制御装置により放射線源と食品の照射をコンピュータにより制御し監視します。

■線源貯蔵プール
放射線源は、使用しない時、プールの水深の深い所に貯蔵されます。 水は放射線の最もよい遮蔽材の一つとして知られており、放射線のエネルギーを吸収して、作業者が照射室に入っても被ばくするのを防ぎます。




3.食品の照射施設がさらに建設されるならば、より多くの放射性物質の輸送が必要になると思います。輸送中の事故から、放射能漏れの危険を最小限にくいとめるためにどのような処置が取られてきましたか?


照射施設に必要とされている放射性物質は、鉛で遮蔽された鋼鉄製の容器に入れて輸送されます。 これらの容器はIAEAの「放射性物質安全輸送規則」に基づいた国内及び国際的な基準に合わせて設計されています。 注射器、医療用手袋、縫合糸病院のガウンのような医療用具をはじめとする種々の製品を処理している約160の照射施設に届けるために、大量の放射性物質が世界中で安全に船で運ばれています。 たとえば、1955年から1988年初頭にかけて、カナダは、環境を放射能で汚染したり、放射性物質を放出することなく、870回、総量約1億9千万キュリー(7×1018Bq)のコバルト60を船で輸送しました。 同じ時期に、産業用、医療用、研究用のラジオアイソトープが北アメリカで放射線事故もなく約100万回輸送されました。 このすばらしい安全に関わる記録は、有毒な化学薬品、原油、ガソリンのような危険物質を船で運ぶ他の産業の安全性をはるかに超えたものです。 放射性物質を既存の照射施設に問題なく安全に輸送するために使われているのと同じ方法は食品照射のために建設された新たな照射施設に放射性物質を輸送するためにももちろん使われるものと思います。

日本では各種の照射施設用のコバルト60は、1991年の1年間に13件、合計約1.1×1017Bqが周辺に影響を与えることなく安全に輸送されました。




4.ガンマ線照射施設での事故は照射施設のメルトダウンを引き起こしたり、放射能を放出して、環境を汚染し、付近の住民を危険におとしいれる可能性はありませんか?


いいえ、ありません。

ガンマ線照射施設の中でメルトダウンが起こったり、放射線源が爆発することはありえません。 照射施設で使われている放射線源は、物質を放射性に変換することのできる中性子を出しませんから、原子核の連鎖反応が照射施設で起こることはありえません。 照射室の壁、照射室に設置された機械、および照射される食品が放射能を帯びることもありえません。 また、放射性物質が環境に放出されることもありません。




5.ガンマ線照射施設には放射性廃棄物処理の問題はありませんか?


いいえ、ありません。

照射施設においては、放射能を生じることはないので放射性廃棄物が蓄積することはありません。 照射施設によっては電子線やエックス線が使用され、この放射線は加速器と呼ばれる産業用の機械によって発生します。 ガンマ線照射施設では、放射線源として放射性核種が用いられます。 この場合、一般にはコバルト60、まれにセシウム137が用いられており、これらの元素は時間が経つと崩壊して、それぞれ非放射性のニッケルや非放射性のバリウムになります。 放射能が低くなり、通常当初の6%から12%になると(コバルト60で「16〜21年かかる)、放射線源は照射施設から撤去されます。 このような放射性元素は船舶輸送用コンテナに入れて供給会社に送り返され、そこで元素は原子炉の中で再放射化されたり保管されます。 カナダの計算によれば、カナダが1988年に供給した全コバルト60(3.7×1018Bq,約1億キュリー)を保管するのに必要なスペースは、小さな机によって占められるスペースにほぼ等しい約1.25m3です。

照射施設が閉鎖される時も基本的には同じ手続きが取られます。 放射線源は他の利用者に譲られるか、供給会社に返却されます。

機械は分解され、建物は他の目的のために使えます。 この場合も、建物の新たな利用者や一般の人々にとって放射線に関わる危険性はなにもありません。(訳注)

(訳注)
日本では放射性同位元素の使用、販売および運搬は放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の規制により、安全かつ適正な実施が図られています。 また、照射施設の廃止や不要になった線源の処分は誰にでもできるわけでなく、同法の規制を受けています。 具体的には同法で許可を受けた業者により照射施設の廃止の実施や線源の保管などが実施されます。さらに、不要となった線源を他に譲渡する場合も同法で規定されています。



(科学技術文献)
「食品の照射に関するヨーロッパ共同体の対応についてのイギリス上院特別委員会メモ」
Memorandum to the United Kingdom House of Lords Select Committee on the European Communities Irradiation of Foodstuffs by the united Kingdom Health and Safety Executive HMSO London(1989)

「ガンマ線及び電子線照射施設の安全性と放射線防護」
Safety and radiation protection aspects of gamma and electron lrradiation facilities,final draft,International Atomic Energy Agency,Vienna(1990)M

「ガンマ線照射施設の設計およびコバルト60線源の取り扱いにおける安全性への配慮」
Safety considerations in the design of gamma Irradiation facilities and the handling of cobalt-60k sources by R.G.Mckinnon Radiation Physics and Chemistry 31(1988)