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健全性(WHOLESOMENESS):毒性・微生物学的安全性、栄養学的適格性を総合した考え方

栄養学的評価


発表場所 : 食品照射研究運営会議
著者名 : 石綿 肇、高村一知、谷村顕雄、高居百合子、岩尾裕子
著者所属機関名 : 国立衛生試験所
発行年月日 : 昭和46年 6月30日
2. γ線照射による馬鈴薯の栄養成分の変化に関する研究
1. ビタミンB1,ビタミンB2およびビタミンC含量におよぼす影響
1 緒言
2 実験
(1) 試料
(2) 定量法
3 結果および考察
4 結語
2. 照射馬鈴薯の栄養成分の変化と組織の変化について
1 緒言
2 実験方法
3 結果
4 要約
3. 幼ラットを用いた照射馬鈴薯の栄養実験
1 緒言
2 実験方法
3 結果と考察
4 結語
文献



放射線照射による馬鈴薯の発芽防止に関する研究成果報告書[付録]−2.栄養成分の変化に関する研究


2. γ線照射による馬鈴薯の栄養成分の変化に関する研究
1. ビタミンB1,ビタミンB2およびビタミンC含量におよぼす影響
1 緒言

 馬鈴薯に対する照射は、7−15kradの線量で発芽防止に対しては十分な効果があることは明らかである。しかし、照射による微量栄養成分の破壊や有害性物質の生成については多くの研究がなされていない。

 馬鈴薯の微量栄養成分のうち、最も主要なものはビタミンCであるので、照射によりどの程度破壊されるか、あるいは照射検体が長期間保存された場合にビタミンC量は如何なる経時変化を示すかについて重点的に検討を加えた。また主要栄養成分とはいえないが、栄養成分として無視できないビタミンB1およびビタミンB2についても、同様に照射による損失および照射検体中におけるこれらの経時変化についても検討を行なった。

2 実験
(1) 試料

 試料:北海道産男しゃくいも、線量:0、15、30および60krad

(2) 定量法

 (a)ビタミンB1:検体の中から数個とり、一辺約1.5〜2cmの大きさに切ったものを約10gを正確に秤り、ホモジナイザーに入れ、蒸留水を加えて磨砕する。磨砕液を一定量にしたのち、pHを4.5〜4.7に調整後、ジアスターゼ処理して、結合型B1を遊離型とする。全量を一定量にしたのち、その一部をとり、パームチットカラムを通し、ビタミンB1を単離する。ビタミンB1のみを含有する液をブロムシアンによるチオクロム法で測定し、もとの検体中のビタミンB1量を算出する。

 (b)ビタミンB2:ビタミンB1の場合と同様に磨砕して、磨砕液を作る。一定量にしたのちその一部について、アルカリ性で光分解して、存在するビタミンB2をルミフラビンとしたのち、クロロホルムで抽出して、クロロホルムの蛍光の強度を測定する。クロロホルム層に含まれるルミフラビンの量より、もとの検体に含まれるビタミンB2の量を算出する。

 (c)ビタミンC:(イ)総還元性物質定量 ビタミンB1の場合と同様に磨砕し、磨砕液を作る。ただし、その一定量について、2、6−ジクロロフェノールインドフェノール溶液で滴定する。

 本法では還元型アスコルビン酸以外にも還元性物質を同時に測定していることになる。

 (ロ)総ビタミンCおよび還元型、酸化型ビタミンCの分別定量.同様にして得られた磨砕液の一部について、2、6−ジクロロフェノールインドフェノール液を加えて、液がかすかにピンク色を呈するようにする。この液および磨砕液の一部について、2、4−ジニトロフェニルヒドラジンを加えて発する色を540mμにて測定して、それぞれ総ビタミンC量および酸化型ビタミンC量を算出する。この両者の差より還元型ビタミンCの量を計算する。

3 結果および考察

 ビタミンB1は0、30、60krad照射検体について定量した。照射のB1含量におよぼす影響は比較的少なく、30日目の測定では、30kradが非照射の約90%、60kradが約85%に低下した程度である。

 またB1量の経時変化も著しいものではなくほとんど非照射検体と併行してゆるやかに減少している。

 ビタミンB2も0、30、60krad照射検体について定量したが、B1と同様照射の影響は比較的少なく、非照射検体に比べて30kradが93%、60kradが83%に低下した程度である。また120日後には、これら三者の定量値はほとんど近似しており有意の差を認めない。2、4−ジニトロフェニルヒドラジン法により測定した総ビタミンC量は照射の影響を大きく受けている。照射後30日目に相当する日の測定では、非照射に比較して、15kradが62%、30kradが59%、60kradが53%にそれぞれ低下している。しかし、線量による差は著しいものではない。非照射検体中に含まれる総ビタミンCの経時変化はきわめて大きく、30日目と比較して、60日目で73%、90日目45%、120日目33%、150日目にはいずれの照射検体よりも低下して29%となった。還元型ビタミンCも総ビタミンCとほぼ同様の傾向を示している。

4 結語

 馬鈴薯の発芽防止に有効な線量が、ビタミンB1、B2およびC含有量に如何なる影響をおよぼすか、また保存中の照射検体が如何なるビタミン含量の経時変化を示すかについて検討した。

 その結果、ビタミンB1およびB2においては、馬鈴薯の照射による損失は僅かであり、また照射検体での経時変化も非照射検体と大差なく、それらの保存中の減少はきわめてゆるやかであることが判明した。これに対しビタミンCは、照射時に相当量破壊される。しかし、非照射検体では、馬鈴薯の保存中に急激に減少するが、照射検体ではむしろその減少の割合は少なく、照射後90日に相当する日には非照射、照射検体中のビタミンC含有量はほとんど同程度となることが認められた。(石綿 肇、高村一知、谷村顕雄)


第1図 ビタミンB1含有量の変化



第2図 ビタミンB2含有量の変化



第3図 還元型ビタミンC含有量の変化


2. 照射馬鈴薯の栄養成分の変化と組織の変化について
1 緒言

 諸外国では発芽抑制の目的で馬鈴薯およびタマネギにCo−60γ線を照射して貯蔵期間を延長させることが行われている。近くこれ等の食品が輸入されることも考えられ、また我が国においても安全性ならびに栄養学的観点から異常が認められない場合は一つの貯蔵方法として使用する考え方もある。そこで栄養学的見地から照射馬鈴薯の主たる栄養成分がCo−60γ線によってどのように変化するか、その変化がそれぞれの栄養素の吸収、利用にどう影響するかを明らかにすること、また Co−60γ線照射により発芽が抑制されることは周知のことであるが、この場合の組織の変化を明らかにし、これと栄養成分の変化との関連を知ること、以上のことから栄養的観点における馬鈴薯貯蔵のための適当なCo−60γ線照射線量を見出すことを目的に実験を行った。

2 実験方法

 試料:北海道産男爵

 照射線量:7、15、30 krad

 非照射区を対照として上記線量を照射した馬鈴薯を室温に9ヶ月間保存して、その間における、減量、還元糖量、澱粉量、ビタミンC量、α化度、人工消化率、蒸煮時間と硬度を測定し、かつ組織の変化も合せて比較検討した。

 還元糖量、澱粉量およびビタミンCの測定は常法に従い、α化度、人工消化率、硬度に用いた試料は、いずれも1個約100gのものを5個えらび10倍量の水で一定時間蒸煮したものを試料とした。

3 結果

 室温9ヶ月間における経時的減量を第1図に示す。図の如く非照射区と30krad区の減量が大きく、7、15krad区は6ヶ月間の保存では10%の減量にとどまっている。

 還元糖量を第1表に示した。

 表の如く照射により、どの線量区とも増加の傾向がみとめられたが、いずれも0.4%以下であり二次製品加工の妨げとはならない。また保存中に非照射、照射いずれの区においてもやや減少している。

 澱粉含量を第2表に示した。

 表にみられる如く非照射区が経時的にやや増加する傾向があるのに比べ照射区はむしろ減少の傾向にある。このことは照射区において、いわゆる追熟がおこなわれないためと考えられる。

 ビタミンC含量の経時変化を第2図に示す。

 還元型ビタミンC(ASAと略す)は照射により減少する。しかし経時的減少量は各照射線量区とも非照区より少いので、保存4ヶ月目では全区とも同様の値を示している。酸化型ビタミンC(DASAと略す)も同様な経時変化を示した。したがって照射によりASAがDASAに酸化されるとはいいがたい。

 1時間蒸煮した場合のα化度を第3表に示した。

 第3表の如くいずれの区も保存期間が長くなると、同一条件におけるα化度は低くなっているが、30krad区のみは、全保存期間を通じ約10%低い値を示している。

 次いで1時間蒸煮したバレイショの人工消化率を、試料0.5%、酵素液(ジアスターゼ)0.2%、pH4.8、37℃で1時間酵素分解して遊離してくるグルコース量を全グルコース量に対する割合、即ち同一条件下のジアスターゼによる分解率を、人工消化率として比較した。第4表に示す。α化度と同様30krad区のみ経時的にやや低い値を示している。この理由を知るため硬度を測定した。第5表に示す。

 α化度測定の場合と同様に蒸煮したが蒸煮時間を30分と1時間とした。冷却後1cm立方に切り、圧力をかけ、つぶれた時の圧力を単位面積当りのkgであらわした。

 表の如く、外部はいずれの照射線量も非照射区に比べ硬度が高く、蒸煮時間が長くても同様であった。中心部の硬度は30分加熱で対照と7krad区が等しく15、30kradは高い値を示した。しかし1時間の蒸煮では7、15、30krad区とも等しくなるが、いずれも対照の非照射区より硬い。従って、照射区の方が中心部までの熱の伝導がおそく煮え方がおそいものとおもわれ、30krad区のα化度が低い理由もこの点にあると考えられる。

 発芽部における組織の顕微鏡写真を写真1に示す。(写真はつごうにより省略する。)

 この写真は照射後2ヶ月を経たもので、非照射区では肉眼的に芽をみとめるが、照射区ではいずれも発芽部位の根茎のくぼみに点としてみえる程度である。後に照射区において芽として肉眼的に認められるものは写真1の4番目に揚げた30krad区の写真にみえる両側の突起であり、葉になる部分である。

 組織的にみると対照の非照射区に比べ、7.5krad照射区のものはtunica層の細胞が扁平になっていることが明らかである。15krad照射区のものはtunica層とcorpus層の細胞がおかされ幼葉の細胞は増大している。30krad照射では中心に向うprocanbium層までおかされていることが明らかでその周辺の細胞は縦に長く増大し、いわゆる芽の伸長は細胞の分裂によらず増大のみであることが判る。従って照射時点における既存細胞の増大はあっても増加がみとめられない。いずれの照射区においても真の芽の生長点はおかされ細胞の分裂はおきないとおもわれる。また照射線量によってその影響のされ方は明らかに異なるので照射線量の判定に利用し得るものと考えられるが、他の発芽防止方法例えば薬剤による影響と比較検討する必要があろう。

 以上これら組織への影響と馬鈴薯個体のα化度、硬度、人工消化率への影響はその傾向が一致していたので組織の変化が煮え方に何らかの関係があるものと推定される。


第1表 還元糖量(%)
 保存期間  
    0     
          
          
   1ヶ月    
          
          
   2ヶ月    
          
          
   3ヶ月    
          
          
   6ヶ月    
          
          
9ヶ月    
       
       
 照射線量  
 0(非照射)
0.15±0.02 
0.15±0.003
0.15±0.01 
0.12±0.01 
0.13±0.01 
フハイ    
 7krad 
0.20±0.01 
0.20±0.01 
0.11±0.01 
0.12±0.02 
0.11±0.01 
0.13±0.01 
15krad 
0.18±0.01 
0.18±0.01 
0.13±0.01 
0.17±0.02 
0.15±0.02 
0.16±0.01 
30krad 
0.20±0.02 
0.19±0.01 
0.14±0.01 
0.16±0.01 
0.17±0.01 
0.16±0.01 



第2表 澱粉含量
 保存期間  
    0    
         
         
   1ヶ月   
         
         
   2ヶ月   
         
         
   3ヶ月   
         
         
   6ヶ月   
         
         
   9ヶ月  
 
 
 照射線量  
 0(非照射)
16.2±0.10
16.6±0.07
18.0±0.12
18.8±0.14
16.8±0.05
   フハイ  
 7krad 
16.9±0.16
15.1±0.16
14.1±0.50
15.4±0.13
15.2±0.14
11.4±0.17
15krad 
16.6±0.07
14.3±0.05
15.4±0.11
14.9±0.12
14.9±0.10
11.8±0.14
30krad 
18.3±0.13
15.2±0.08
16.2±0.14
16.5±0.14
15.8±0.06
11.8±0.08



第3表 α化度
 保存期間  
   0    
        
        
  1ヶ月   
        
        
  2ヶ月   
        
        
  3ヶ月   
        
        
  6ヶ月   
        
        
  9ヶ月   
        
        
 照射線量  
 0(非照射)
98.8±1.2
94.8±0.9
89.5±1.8
86.5±2.3
87.2±0.9
  フハイ   
 7krad 
95.8±1.7
95.4±1.3
90.3±1.3
87.0±1.9
85.6±1.5
83.0±1.1
15krad 
93.8±1.1
91.8±1.6
92.5±2.1
88.0±1.6
85.9±2.1
82.5±1.3
30krad 
83.6±1.6
81.4±2.3
80.5±1.7
81.2±1.5
80.1±1.9
81.5±1.1



第4表 人工消化率
 保存期間  
   0    
        
        
  1ヶ月   
        
        
  2ヶ月   
        
        
  3ヶ月   
        
        
  6ヶ月   
        
        
  9ヶ月   
        
        
 照射線量  
 0(非照射)
12.5±1.1
11.8±0.8
12.0±1.3
10.8±0.8
 9.2±0.7
  フハイ   
 7krad 
10.2±0.9
 8.8±1.1
 9.8±1.2
11.7±1.1
 9.1±1.0
 9.5±0.9
15krad 
10.8±0.9
 8.4±1.2
 9.0±1.0
 8.6±0.5
 8.6±1.2
 8.9±0.7
30krad 
10.4±1.0
 7.2±0.9
 7.4±0.9
 7.6±0.6
 8.4±0.9
 7.5±0.8



第5表 蒸煮時間と部位別の硬度(kg/cm2)
蒸煮時間
    
    
 照射線量 
      
      
      硬     度      
  1(外部)  
  2(中心部) 
35分 
    
    
    
    
    
    
 0krad
1.13±0.21
2.11±0.31
 7krad
1.40±0.11
2.03±0.25
15krad
1.47±0.09
3.28±0.11
30krad
1.48±0.05
3.09±0.13
55分 
    
    
    
    
    
    
 0krad
0.27±0.01
0.50±0.02
 7krad
0.41±0.02
1.07±0.05
15krad
0.37±0.02
1.01±0.08
30krad
0.37±0.02
1.00±0.05



第1図 馬鈴薯重量の経時的減量



第2図 ビタミンC含有の経時変化


4 要約

 (1)30krad区ではα化度およびデンプンの人工消化率はやや低く、かつ他のものと比較し煮えがたい状態であった。

 (2)7kradおよび15krad区では栄養成分において非照射区とほぼ同一の傾向を示し照射の影響があまりみとめられなかった。

 (3)組織の変化は線量によって異なり線量が高くなる程段階的に影響される層は拡大されていた。この組織の変化が照射による蒸煮馬鈴薯の硬度増加と何かの関係があるものと推定される。

 組織の観察については東京薬科大学女子部下村裕子助教授の協力を得た。(高居百合子、岩尾裕子)

3. 幼ラットを用いた照射馬鈴薯の栄養実験
1 緒言

 Co−60γ線照射馬鈴薯を各線量別に幼白鼠の飼料に混合して投与し、その成長、体成分におよぼす影響、蛋白質、糖質のみかけの消化率に対する影響を非照射区と比較した。その結果から日本人の通常食において照射馬鈴薯が生体に対しどのような影響をもたらすか、同時に照射馬鈴薯の総合的栄養価値を知る目的で実験を行った。

2 実験方法

 試験および照射線量は2.と同様である。

 実験動物 生後3週間のウィスター系雄白鼠50匹

 対照飼料で1週間飼育し、その間の増加体重と初体重が各群とも等しくなるよう5群に分けて実験に供した。

 動物飼育条件:22℃±2℃に調整してある動物飼育室で飼育し、飼料および水は自由に摂取させた。飼料は毎日、体重は週2回記録して4週間飼育しその間の生長飼料の効率を算出した。断頭して殺し、体成分の測定にあてた。最後の1週間は糞を採取し、みかけの消化率を測定した。

 飼料組成:第1表に各群の飼料材料割合を示した。飼料中の馬鈴薯量は昭和42年度国民栄養調査の結果から1人1日当り馬鈴薯の摂取量が最も多い北海道地区を参考にして1人1日平均摂取カロリー量に対する馬鈴薯からのカロリーの割合をその5倍量になるように合せた。従って日本人の1人1日当りの馬鈴薯の平均摂取量はカロリー比に換算してこの量の1/5より少い値である。

 各線量区の馬鈴薯はオートクレーブで120℃ 30分蒸煮し皮と芽を除いてすりつぶし凍結乾燥し粉末として用いた。

 各群の飼料の栄養成分は蛋白質12.5%、脂肪5.3%、糖質70%であり、ビタミンおよび無機質は充分添加してある。

 なお、別に参考として馬鈴薯非添加群を設け、その飼料組成は馬鈴薯粉末10gからの蛋白量0.6gをカゼインで補い澱粉量はα−スターチでおぎなって第1表の右覧に示した。


第1表 飼料組成(100g中)
  材   料  
馬鈴薯添加群 
馬鈴薯非添加群
カゼイン(g)  
   14.1
   14.8
大豆油(g)   
    5.0
    5.0
αスターチ(g) 
   65.9
   75.2
馬鈴薯粉末(g) 
   10.0
     − 
塩類混合(g)  
    4.0
    4.0
ビタミン混合(g)
    1.0
    1.0
ビタミンA(IU)
    600
    600
ビタミンD(IU)
     60
     60
ビタミンE(mg)
    100
    100


3 結果と考察

 上記飼料で1群10匹の幼ラットを4週間飼育した。その間の成長経過を第1図に平均して揚げた。

 各群とも順調な成長を示し、各照射線量区と非照射区の間に相違はみとめられない。

 第2表に4週間における体重の増加と飼料の効率を示した。

 増加率、すなわち4週間の体重増加量が実験開始時の体重の何倍であったかをみるといずれも約2倍で非照射区と照射区の間に差はみとめられず、かつ体重1gを増すに要する飼料量すなわち飼料効率も有意の差はみとめられない。

 第3表に飼料中の蛋白質と糖質のみかけの消化吸収率を示した。

 蛋白質の消化吸収率はいずれも91%で各群間に相違はなく、また糖質の消化吸収率も99%で各群の間に差はなかった。

 第4表は各臓器重量をそのまま揚げた。

 ここで盲腸というのは内容物を一緒にした値である。盲腸内容物を合せて測定したのはTの化学実験において30krad区で一定蒸煮時間におけるα化度、人工消化率が他に比べてやや低い傾向にあるにもかかわらず、本実験の動物による消化吸収率に相違がみとめられなかった理由を明らかにするためである。表に示すごとく照射区において盲腸重量が非照射区に比べ重い以外は他の臓器重量の相違はみとめられない。ことに30krad照射区の盲腸内容物は多い状態にあった。このことは不消化性、および難消化性の糖質をカロリー源とした飼料をラットに投与すると盲腸重量(内容物を含めた)が重くなるという報告1)ならびに馬鈴薯のαおよびβ澱粉を糖質源とした場合、β澱粉投与区の盲腸重量はα澱粉区の7〜8倍である2)ということから考えると、30krad照射区においては皮のまま100℃・30分の蒸煮では消化のおそいことを意味している。この結果はまた化学実験のα化度、人工消化率、硬度の結果と一致している。

 次に吸収された糖質の体脂肪蓄積におよぼす影響が照射線量により異なるか否かを知るために、蓄積脂肪を代表し得る後腹壁脂肪の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーによって測定した。その結果を第5表に示す。

 第5表に示した如く必須脂肪酸であるリノール酸の割合を比較すると照射区の方がやや高い傾向にある。この事は、体脂肪の脂肪酸組成は摂取脂肪の脂肪酸組成に類似する3)という報告から考えると、馬鈴薯の糖質から脂肪への体内合成が照射により影響され、照射区においては脂肪合成がやや少いものと推定される。この点については他の面からも検討する必要がある。

 糖質の代謝に変化がある場合、脂肪肝をおこす可能性があるので肝臓の水分、脂肪、蛋白について測定した結果第6表に示した如く、照射区はいずれも非照射区と同様の値を示し脂肪肝はみとめられなかった。


第2表 体重増加と飼料の効率
 照 射 区  
 初 体 重(g)
 終 体 重(g)
 増 加 率(g)
 飼料摂取量(g)
 飼料効率(g) 
 蛋白質効率(g)
対 照     
  76±9.0 
 240±12.9
2.20±0.16
 468±22.9
 2.9±0.28
 2.8±0.21
 7krad  
  76±9.1 
 227±15.6
2.02±0.19
 471±20.9
 3.1±0.24
 2.6±0.17
15krad  
  76±9.5 
 235±17.5
2.10±0.22
 478±23.3
 3.0±0.27
 2.7±0.22
30krad  
  76±9.4 
 239±20.6
2.19±0.23
 491±26.9
 3.0±0.30
 2.7±0.25
バレイショ無添加
  77±9.1 
 226±15.6
1.93±0.21
 440±25.0
 3.0±0.21
 2.7±0.19



第3表 消化吸収率
 照 射 区  
 蛋白質(%) 
 糖 質(%) 
対 照     
91.3±0.5
99.7±0.2
 7krad  
91.4±0.3
99.7±0.3
15krad  
91.3±0.3
99.7±0.2
30krad  
91.5±0.2
99.7±0.2
バレイショ無添加
93.0±0.2
99.7±0.2



第4表 臓器重量
 照 射 区  
  胸 腺(g) 
  心 臓(g) 
  脾 臓(g) 
  腎 臓(g) 
 後腹壁脂肪(g)
  盲 腸(g) 
  睾 丸(g) 
対 照     
0.73±0.05
0.92±0.13
0.56±0.02
1.98±0.12
3.40±0.23
2.95±0.12
2.79±0.06
 7krad  
0.75±0.12
0.89±0.10
0.55±0.07
1.91±0.11
2.88±0.33
3.51±0.22
2.26±0.15
15krad  
0.92±0.18
0.88±0.14
0.55±0.03
2.20±0.15
2.73±0.25
3.42±0.26
2.70±0.12
30krad  
0.77±0.08
0.92±0.20
0.55±0.10
1.99±0.13
2.77±0.33
4.21±0.15
2.54±0.24
バレイショ無添加
0.74±0.06
0.82±0.10
0.54±0.05
1.77±0.07
3.28±0.34
2.83±0.20
2.75±0.17



第5表 後腹壁脂肪の脂肪酸組成
 脂 肪 酸  
  C14(%)  
          
          
  C16(%)  
          
          
 C16:1(%) 
          
          
  C18(%)  
          
          
 C18:1(%) 
          
          
 C18:2(%) 
        
        
 C18:3(%) 
          
          
 照 射 区  
対 照     
 1.70±0.05
31.64±0.21
 9.00±0.11
 3.96±0.09
38.43±0.95
13.41±0.22
 1.85±0.07
 7krad  
 1.67±0.05
30.98±0.22
 8.83±0.12
 3.93±0.12
37.23±0.62
15.36±0.55
 2.00±0.02
15krad  
 1.48±0.05
30.21±0.31
 8.65±0.06
 3.93±0.15
38.77±0.71
15.08±0.97
 1.88±0.02
30krad  
 1.48±0.05
29.12±0.25
 8.52±0.09
 4.52±0.21
37.15±0.23
15.47±0.29
 1.75±0.11
バレイショ無添加
 1.76±0.06
30.95±0.33
 8.80±0.15
 4.26±0.11
37.30±0.25
14.98±0.26
 1.96±0.09



第6表 肝臓重量および成分
 照 射 区  
  重  量(g) 
  水  分(%) 
  脂  肪(%) 
 蛋 白 質(%) 
対 照     
 9.76±0.57
69.2±0.5  
6.7±0.05  
17.4±0.15 
 7krad  
 9.08±0.26
69.3±0.3  
6.6±0.07  
17.7±0.09 
15krad  
 9.66±0.33
69.7±0.4  
6.9±0.02  
17.3±0.12 
30krad  
10.06±0.36
69.4±0.2  
6.5±0.03  
17.7±0.13 
バレイショ無添加
 9.14±0.51
69.0±0.4  
7.0±0.06  
16.8±0.11 



第1図 体重曲線


4 結語

 照射馬鈴薯の摂取による生体への影響を栄養面から調べるため幼ラット40匹に7、15および30krad照射馬鈴薯添加飼料を与え、ラットの成長への影響および体内代謝への影響について検討した。その結果、照射馬鈴薯添加飼料を与えたものと非照射馬鈴薯添加飼料を与えたものの間には差がなく、照射の影響は認められなかった。

 栄養成分の変化と組織変化および幼ラットを用いた栄養実験の結果より、照射馬鈴薯は栄養学的に何ら問題視すべきものがないと考える。

文献

 1)高居、唐沢、岩尾、和田 ; 国立栄養研究所 研究報告

                 昭和42,3年度(1968)

 2)高居、岡田、岩尾    ; 国立栄養研究所 研究報告

                 昭和45年度(1970)

 3)R.Reiser, M.C.Williams, M.F.

   Sorrels; Arch. Biochem.

   Biophys. 86.42 (1966)




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