ビタミンCの給源として重要な役割をはたしているみかんのビタミンCが電子線照射により変化するか否かを実験した。なお、ビタミンC以外の栄養成分は栄養上の意義が薄いので分析は実施しなかった。
実験に用いたみかんは、広島県豊田郡産の温州みかん(L玉)を用いた。みかんは購入後直ちに日本原子力研究所高崎研究所において150krad(0.5MeV)の電子線を照射した。対照試料には電子線を照射しないみかんを用いた。貯蔵は5℃±1℃の冷蔵庫で行った。
総ビタミンC量の測定はインドフェノールを用いるヒドラジン比色法によって行った。
総ビタミンC測定結果を表1に示した。これらの結果から明らかなように、電子線照射による総ビタミンC量の変化は認められなかった。また、5℃貯蔵期間中の総ビタミンC量の変化も対照みかん、電子線照射みかんの間で差を認めなかった。
保存日数* |
総ビタミンC量**(mg/100g可食部) |
|
対 照 群 |
照 射 群 |
|
照射直後 |
34.8、37.0 |
35.8、41.3 |
30日後 |
36.0、39.3 |
34.6、38.0 |
110日後 |
32.7、34.1 |
29.4、31.8 |
*:5℃冷蔵庫に保存した。 **:みかん各5個より試料を採取し、2回測定した。 |
150kradの電子線を温州みかんに照射しても総ビタミンC量に関しては、対照みかんと差が認められなかった。温州みかんの総ビタミンC量は150kradの電子線照射量に対して安定であると考えられた。ビタミンCが変化しないような条件のもとではその他の栄養成分の変化もほとんどおこらないので、150kradの電子線照射によっては、その他の栄養成分の変化もほとんどおこらないであろうと推察される。
電子線照射みかんの健全性評価の一環として、電子線照射みかん摂取ラットの成長・発育および生殖腺の発育を支配するホルモン(テストステロン)の昼夜の変化を非照射みかん摂取ラットと比較した。
実験に用いたみかんは、広島県豊田郡産の温州みかん(L玉)を用いた。みかんは購入後直ちに日本原子力研究所高崎研究所において150krad(0.5MeV)の電子線を照射した。対照試料には電子線を照射しないみかんを用いた。
フィッシャー系雄ラット(日本チャールスリバー社、3週齢)48匹を4日間、ミルクカゼイン20%を含む精製飼料で予備飼育後、24匹ずつの4群にわけ、1群を対照みかん給与群(以下対照群と略)、他を電子線照射みかん給与群(以下照射群と略)とした。これらの群をさらに1群6匹の8群とし、1ヶ月飼育午前0時30分屠殺群、1ヶ月飼育午前8時30分屠殺群、3ヶ月飼育午前0時30分屠殺群、3ヶ月飼育午前8時30分屠殺群に群別した。各動物は国立栄養研究所型のステンレススチール製金網カゴに単飼し、飼料ならびに水道水を自由摂取させた。
電子線照射みかんは、電子線照射22日後より動物に給与した。動物の飼育期間中ほぼ2日に1回、体重、飼料摂取量を測定し、体重増加量を指標として動物の発育程度を測定した。また、剖検時における体重100g当りの臓器重量を測定して成長程度を対照ラットと比較した。 飼育温度は23±1℃、相対湿度55±5%、点灯時刻は午前7時から午後7時までの12時間であった。
1)電子線照射みかんジュース粉末の調整方法
電子線照射みかんは電子線照射およそ24時間後に剥皮、オスターブレンダーにてジュースとした後、局方ガーゼ(タイプ1)を2枚に重ねた袋にてこし、ポリ袋に入れ−80℃に保存した。これを凍結乾燥して粉末とした。この乾燥粉末は、乾燥剤入りポリ袋に入れ、使用時まで−80℃に保存した。対照みかんも同様に処理した。なお乾燥歩留りは、皮つきみかんに対して9.4%であった。
2)飼料組成
飼料組成は表2の通りである。みかん粉末は飼料100g当り4.75g添加した。この添加量は、国民1人1日当りの柑橘類摂取量(昭和57年度国民栄養調査)のおよそ9倍量を添加した計算となる。飼料はほぼ2週間に1回調整し、使用時まで−80℃に保存した。
成 分 |
% |
ミルクカゼイン |
20 |
L−メチオニン |
0.3 |
セルロースファイバー |
5 |
トウモロコシでんぷん |
60.25 |
局方大豆油 |
5 |
ビタミン混合* |
1.0 |
塩類混合* |
3.5 |
コリン酒石酸塩 |
0.2 |
みかん粉末 |
4.75 |
計 |
100 |
* AIN−ビタミン混合、塩類混合:J.Nutr. vol.107 1340(1977) |
エーテル麻酔下、心臓穿刺によって採血し、遠心分離、測定時まで−20℃に保存した血清のテストステロン量は、ラジオイムノアッセー用キット(アマシャムジャパン社)により測定した。
実験結果の比較は、数値の等分散性を検討後、t検定により行った。等分散性を示さぬものについてはウエルチのt検定により比較した。危険率はいずれも5%とした。
電子線照射みかん給与1ヶ月間および3ヶ月間の体重増加量、総摂餌量は対照群と差を認めなかった。体重100g当りの臓器重量に関しても照射群、対照群間の差異を認めなかった。
群 別 |
対 照 群 |
照 射 群 |
||
1 カ 月 |
3 カ 月 |
1 カ 月 |
3 カ 月 |
|
ラット数 |
12 |
12 |
12 |
12 |
初体重g |
53.2± 2.0 |
53.3± 2.1 |
53.6± 2.2 |
54.1± 1.7 |
増加体重g |
140.0± 7.3 |
259.3±13.9 |
142.0± 9.6 |
263.3±12.4 |
総摂餌量g |
375.4±13.6 |
1216.7±70.3 |
382.7±19.8 |
1239.9±56.2 |
前立腺mg |
62.3±11.0 |
95.9±12.7 |
65.8± 9.9 |
97.3±11.1 |
精のうmg |
74.0±11.2 |
93.3± 4.5 |
77.0±11.6 |
94.4± 5.5 |
副睾丸mg |
168.3±25.1 |
266.0± 9.5 |
152.3±21.1 |
264.2±10.3 |
睾 丸mg |
1195±48 |
915±36 |
1154±51 |
905±33 |
脾 臓mg |
246±12 |
199± 8 |
251± 8 |
198± 8 |
腎 臓mg |
852±39 |
682±26 |
858±40 |
669±32 |
肝 臓g |
4.34± 2.6 |
3.35± 2.5 |
4.17± 2.2 |
3.36± 3.0 |
*:平均値±標準偏差 |
血清テストステロン量は午前0時30分および午前8時30分いずれの時刻においても照射群、対照群間に差を認めなかった。
群 別 |
対 照 群 |
照 射 群 |
||||||
1 カ 月 |
3 カ 月 |
1 カ 月 |
3 カ 月 |
|||||
採血時刻 |
0 |
8 |
0 |
8 |
0 |
8 |
0 |
8 |
ng/ml |
2.25 ±0.98 |
1.04 ±0.15 |
2.35 ±1.35 |
1.08 ±0.49 |
1.32 ±0.62 |
1.31 ±0.53 |
2.07 ±1.46 |
1.13 ±0.51 |
平均値±標準偏差 |
(1)電子線照射みかん給与1ヶ月および3ヶ月間のラットの体重増加量、総摂餌量および臓器重量から、電子線照射によるみかんの健全性低下は認められなかった。
(2)血清テストステロン量に関しても、電子線照射みかん給与群、対照群間に差を認めなかった。