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健全性(WHOLESOMENESS):毒性・微生物学的安全性、栄養学的適格性を総合した考え方

栄養学的評価


発表場所 : 食品照射研究運営会議
著者所属機関名 : 厚生省国立栄養研究所
発行年月日 : 昭和60年12月
1. 照射ウインナーソーセージの栄養学的研究
1. 照射ウインナーソーセージの栄養成分の変化
1 研究目的
2 研究方法
(1) 試料
(2) 栄養成分分析法
(3) 研究結果
(4) 考察および結論
2. 照射ウインナーソーセージの栄養生理学的研究
1 研究目的
2 研究方法
(1) 試料
(2) 実験動物および実験動物の成長・発育測定
(3) 飼料の調製方法
(a) γ線照射ウインナーソーセージ粉末の調製方法
(b) 飼料組成
(4) 血清テストステロンの測定法
(5) 統計処理
3 研究結果
(1) 体重増加量、総摂餌量
(2) 生殖腺などの臓器重量
(3) 血清テストステロン量の変動
4 考察および結論



放射線照射によるウインナーソーセージの殺菌に関する研究成果報告書[資料編]−1.栄養学的研究


1. 照射ウインナーソーセージの栄養学的研究
1. 照射ウインナーソーセージの栄養成分の変化
1 研究目的

 γ線照射によりウインナーソーセージのたん白質、脂質、灰分、水分などが変化するか否かを実験した。なお、ウインナーソーセージのビタミン含有量は少なく、栄養上の意義は薄いので分析は実施しなかった。

2 研究方法
(1) 試料

 実験に用いたウインナーソーセージは、科学技術庁食品照射研究運営会議の品(高崎ハム製造株式会社、群馬県高崎市)を用いた。ウインナーソーセージは調製後直ちに日本原子力研究所高崎研究所において300,500kradのγ線を照射した。対照試料にはγ線を照射しないウインナーソーセージを用いた。保存は5℃の冷蔵庫で行った。

(2) 栄養成分分析法

 栄養成分の分析は常法通り行った。すなわち、たん白質はケルダール法(たん白換算係数6.25)、脂質はソックスレー法、水分は常圧乾燥法、灰分は灰化後重量法、炭水化物は差し引き法によってそれぞれ求めた。

(3) 研究結果

 分析結果を表1に示した。これらの結果から明らかなように、γ線照射によるたん白質量、脂質量、灰分量、水分量、炭水化物量の変化は認められなかった。

(4) 考察および結論

 500kradのγ線照射ウインナーソーセージ中のたん白質、脂質、灰分、糖質量に関しては、対照群と差が認められなかった。これらの成分は300及び500kradのγ線照射線量に対して安定であると考えられた。

2. 照射ウインナーソーセージの栄養生理学的研究
1 研究目的

 γ線照射ウインナーソーセージの健全性評価の一環として、γ線照射ウインナーソーセージ摂取ラットの成長・発育および生殖腺の発育を支配するホルモン(テストステロン)量の昼夜の変動を、対照ウインナーソーセージ摂取ラットと比較した。

2 研究方法
(1) 試料

 実験に用いたウインナーソーセージは、東京農業大学において製造した品を用いた。ウインナーソーセージ製造後4℃の冷蔵庫に保管し翌日、理化学研究所コバルト60照射装置にて600kradのγ線照射を行った。対照試料にはγ線を照射しないウインナーソーセージを用いた。ウインナーソーセージの組成は表2の通りである。

(2) 実験動物および実験動物の成長・発育測定

 フィッシャー系雄ラット(日本チャールスリバー社、3週令)48匹を4日間ミルクカゼイン20%を含む精製飼料で予備飼育後、24匹ずつ2群にわけ、1群を対照ウインナーソーセージ給与群(以下対照群と略)、他を照射ウインナーソーセージ給与群(以下照射群と略)とした。これらの群をさらに、1群6匹の8群とし、1カ月飼育午前8時30分屠殺群、1カ月飼育午前0時30分屠殺群、3カ月飼育午前8時30分屠殺群、3カ月飼育午前0時30分屠殺群に群別した。各動物は国立栄養研究所型のステンレススチール性金網カゴに単飼し、飼料ならびに水道水を自由摂取させた。

 γ線照射ウインナーソーセージはγ線照射11日後より動物に給与した。動物の飼育期間中ほぼ2日に一回、体重、摂餌量を測定し、体重増加量を指標として動物の発育程度を測定した。また、剖検時における体重100g当たりの臓器重量を測定して成長程度を対照ラットと比較した。

 飼育温度は23±1℃、相対湿度55±5%、点灯時刻は午前7時から午後7時までの12時間であった。

(3) 飼料の調製方法
(a) γ線照射ウインナーソーセージ粉末の調製方法

 γ線照射ウインナーソーセージは照射2時間後、薄片に切断し、−80℃に一夜凍結、翌日凍結乾燥物とした。この乾燥物は乾燥剤入りポリ袋に入れ、使用時まで−80℃に保存した。対照ウインナーソーセージも同様に処理した。飼料調製時にこの一定量を秤量し、乳鉢中で粉末とした。なお、乾燥歩留りは36.5%であった。

(b) 飼料組成

 飼料組成は表3の通りである。ウインナーソーセージ粉末は重量で2.7%添加した。この添加量は国民一人一日当たりのハムソーセージ、魚肉ソーセージ摂取量(昭和55年度国民栄養調査)のおよそ10倍量を添加した計算となる。飼料はほぼ2週間に1度調製し、使用時まで−80℃に保存した。

(4) 血清テストステロンの測定法

 エーテル麻酔下、心臓穿刺によって採血し、遠心分離、測定時まで−20℃に保存した血清のテストステロンは、ラジオイムノアッセー用キット(ラジオケミカルセンター社、アムステルダム)により測定した。

(5) 統計処理

 実験結果の比較は、キャノンコンピューターBX−1により、等分散性の検定後、t検定により行った。等分散性を示さぬものについてはウェルチのt検定により比較した。有意水準はいずれも5%とした。

3 研究結果
(1) 体重増加量、総摂餌量

 飼育1カ月後および3カ月後の体重増加量、総摂餌量には、対照群、照射群間に差を認めなかった。(表4)。

(2) 生殖腺などの臓器重量

 体重100g当たりの生殖腺重量および、脾臓、腎臓、肝臓重量には対照群、照射群に差を認めなかった(表4)。

(3) 血清テストステロン量の変動

 対照群と照射群間に差を認めなかった(表5)。

4 考察および結論

 (1)γ線照射ウインナーソーセージ給与1カ月間および3カ月間のラットの体重増加量、総摂餌量および臓器重量から、γ線照射によるウインナーソーセージの健全性低下は認められなかった。

 (2)血清テストステロン量の昼夜の変動に関しても、γ線照射ウインナーソーセージ給与群、対照群間に差を認めなかった。生理状態の昼夜の差を健全性の指標として用いることはその鋭敏性において優れているので、ここで得られた結果は、γ線照射ウインナーソーセージに一つの評価を与えたものと考えられる。




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