γ線照射によりかまぼこのたん白質、脂質、灰分、水分などが変化するか否かを実験した。なお、かまぼこのビタミン含有量はきわめて少なく、栄養上の意義は薄いので分析は実施しなかった。
実験に用いたかまぼこは、科学技術庁食品照射運営会議指定の品(紀文研究所、埼玉県狭山市)を用いた。かまぼこは調製後直ちに日本原子力研究所高崎研究所において300、400、600kradのγ線を照射した。対照試料にはγ線を照射しないかまぼこを用いた。貯蔵は5℃±1℃の冷蔵庫で行った。
栄養成分の分析は常法通り行った。すなわち、たん白質はケルダール法(たん白換算係数6.25)、脂質は酸分解法、灰分は灰化後重量法、水分は常圧乾燥法、炭水化物を差し引き法によってそれぞれ求めた。
分析結果を表1に示した。これらの結果から明らかなように、γ線照射によるたん白質量、脂質量、灰分量、水分量、炭水化物量の変化は認められなかった。
300kradのγ線をかまぼこに照射しても、たん白質、脂質、灰分、水分、炭水化物量に関しては対照群と差が認められなかった。これらの栄養成分は300、400及び600kradの照射線量に対して安定であると考えられた。
γ線照射かまぼこの健全性評価の一環として、γ線照射かまぼこ摂取ラットの成長・発育および生殖腺の発育を支配するホルモン(テストステロン)量の昼夜の変動を、非照射かまぼこ摂取ラットと比較した。
実験に用いたかまぼこは、東京農業大学において製造した蒸し板かまぼこを用いた。かまぼこは製造後4℃の冷蔵庫に保管し、翌日理化学研究所コバルト60照射装置にて300kradのγ線を照射した。対照試料にはγ線を照射しないかまぼこを用いた。かまぼこの組成は表2の通りである。
フィッシャー系雄ラット(日本チャールスリバー社、3週令)48匹を4日間、ミルクカゼイン20%を含む精製飼料で予備飼育後、24匹ずつの2群にわけ、1群を対照かまぼこ給与群(以下対照群と略)、他を照射かまぼこ給与群(以下照射群と略)とした。これらの群をさらに1群6匹の8群とし、1ヶ月飼育午前8時30分屠殺群、1ヶ月飼育午前0時30分屠殺群、3ヶ月飼育午前0時30分屠殺群に群別した。各動物は国立栄養研究所型のステンレススチール製金網カゴに単飼し、飼料ならびに水道水を自由摂取させた。
γ線照射かまぼこは、γ線照射18日後より動物に給与した。動物の飼育期間中ほぼ2日に1回、体重、摂餌量を測定し、体重増加量を指標として動物の発育程度を測定した。また、剖検時における体重100g当りの臓器重量を測定して成長程度を対照ラットと比較した。
飼育温度は23±1℃、相対湿度55±5%、点灯時刻は午前7時から午後7時までの12時間であった。
γ線照射かまぼこは照射2時間後薄片に切断し、−80℃に一夜凍結、翌日凍結乾燥物とした。この乾燥物をオスターブレンダーにて粉砕し、飼料調製時まで乾燥剤入りポリ袋に入れ、−20℃に保存した。対照かまぼこも同様に処理した。なお、乾燥歩留りは29.2%であった。
飼料組成は表3の通りである。かまぼこの添加量は国民1人1日当りの魚介類練製品摂取量(昭和54年度国民栄養調査、厚生省)の10倍量を添加した計算となる。飼料はほぼ2週間に1回調製し、使用時まで−20℃に保存した。
エーテル麻酔下、心臓穿刺によって採血し、遠心分離、測定時まで−20℃に保存した血清のテストステロン量は、ラジオイムノアッセー用キット(ラジオケミカルセンター社、アムステルダム)により測定した。
実験結果の比較は、数値の等分散性を検討後、t検定により行った。等分散性を示さぬものについてはウェルチのt検定により比較した。有意水準はいずれも5%とした。
γ線照射かまぼこ給与1ヶ月間および3ヶ月間の体重増加量、総摂餌量は対照群と差を認めなかった。臓器重量に関してはγ線照射かまぼこ3ヶ月給与群の腎臓重量が対照群より大きい以外は差を認めなかった(表4)。腎臓の組織学的検査では両群間に特記すべき差を認めなかった。
血清テストステロン量の昼夜の変動は、γ線照射かまぼこ給与群、対照群間に差を認めなかった。
(1)γ線照射かまぼこ給与1ヶ月間および3ヶ月間のラットの体重増加量、総摂餌量及び臓器重量から、γ線照射によるかまぼこの健全性低下は認められなかった。
(2)血清テストステロン量の昼夜の変動に関してもγ線照射かまぼこ給与群、対照群間に差を認めなかった。生理状態の昼夜の差を健全性評価の指標として用いることはその鋭敏性においてすぐれているので、ここで得られた結果は、γ線照射かまぼこに一つの評価を与えたものと考えられる。