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健全性(WHOLESOMENESS):毒性・微生物学的安全性、栄養学的適格性を総合した考え方

微生物学的安全性


発表場所 : 食品照射 第24巻 第1,2号 p.12 (1989)
著者名 : 伊藤 均、Chun・Ki-Jung*、石垣 功
著者所属機関名 : 日本原子力研究所高崎研究所、*韓国エネルギー研究所
発行年月日 : 1989年
繰り返し照射によるSalmonella typhimuriumの放射線抵抗性の誘導

実験方法
実験結果および考察



繰り返し照射によるSalmonella typhimuriumの放射線抵抗性の誘導


繰り返し照射によるSalmonella typhimuriumの放射線抵抗性の誘導

食品照射や医療用具の滅菌等の放射線処理が実用化されるに従って微生物が繰り返し照射される可能性も増大してきている。一方、微生物に対する放射線の作用は基本的に紫外線と類似していることが明らかにされており、繰り返し照射による微生物学的安全性をそれほど問題にする必要はないように思われる。これまで照射食品等に残存している微生物のミクロフローラ変化などの研究の一環として分類学的性質もしらべられてきているが、照射による突然変異の影響は認められていない1)。例えば高線量照射牛肉から発見されたMicrococcus radiodurans2)は長いこと照射による突然変異株とする意見があったが、今日ではDeinococcus属として分類されておりMicrococcus属とは全く異なる菌であることが明らかとなっており3)、ItoらはDeinococcusがどこにでも分布していることを報告している4)。また、放射線抵抗性菌のPseudomonas radioraは最初は照射米から大量に分離されたが、非照射の古米にも多く生残していることが明らかとなっており5)、照射による新菌種生成は否定されている。しかし、Salmonella typhimuriumやEscherichia coliを繰り返し照射することにより放射線抵抗性が著しく増加するというDaviesら6)やldziakら7)の報告もあるため、実用的観点から繰り返し照射の影響を検討しておく必要があると思われる。

実験方法

S.typhimurium DO 1株を Nutrient broth 中、30℃で16時間振とう培養した後、0.067M燐醸緩衝液中で2回洗浄し、バイレックス照射容器中に約108〜109個/mlの菌懸濁液を各1.5ml入れ、容存空気平衡下で0〜1.4kGy 照射し、Nutrient agar、GIucose-NH4 agar(GIucose 2g、 NH4H2PO4 1g、 MgSO4 7H2O 0.2g、NaC1 5g、 agar 15g per liter)、又はMacConkey agar上の生残菌数から生存率を求めた。繰り返し照射は燐酸緩衝液の菌懸濁液を0.8又は1.4kGy照射し、Nutrient broth又はGIucose-NH4 brothで増菌し、さらにBrilliant green-lactose broth又はSelen-cystine brothで選択増菌した後、Nulrent brothで培養し燐酸緩衝液に懸濁して再度照射した。

実験結果および考察

繰り返し照射前のS.typhimurium DO 1株の生存曲線はシグモイド型となり、D10値はNutrent agar上で0.17kGy、McConkey agar上で0.15kGy、 GIucose-NH4 agar上で0.13kGyである。5回まで繰り返し照射とNutrient brothでの増菌を行なった場合には、Fig.1に示すようにNutrent agarによる生残率測定では若干抵抗性が増大したが、GIucose-NH4 agarでは抵抗性の増大は全く認められなかった。一方、GIucose-NH4 brothで照射後増菌した場合には5回照射でGIucose-NH4 agar上でのD10値が0.13kGyから0.15kGyに増加した(Fig.2)。

繰り返し照射6回目と8回目ではNutrient brothとBrilliant green-lactose brothで増菌した後 さらにSelenite-cystine brothで選択増菌するとFig.3に示すように0.8kGy以上で生存曲線が折れ曲がり、その部分でのD10値は0.28〜0.32kGyに増大した。この傾向はGIucose-NH4 brothから増菌処理を開始した場合でも同じ傾向を示した。.一方、7回目の照射ではGlucose-NH4 broth で増菌後、直接 Selenite-cystine brothで選択増菌すると生存曲紙は1回目の照射の感受性に戻り、D10値も0.17kGyとなった。

さらに、1.4kGy照射して生残したNutrient agar平板上のコロニーを8回目以降、直接Nutrient brothで培養した場合には生存曲紙はシグモナイド型となり、D10値は0.20〜0.23kGyになった。一方、抵抗性が増大した菌株を数回植え継ぐと抵抗性が元にもどる傾向が認められた。また、1.4kGy照射と比べ0.8kGy照射後の増菌処理の方が抵抗性が増加する傾向が認められた。

放射線抵抗性が増加した菌株を分離して分類学的性質を調べたところ、Table 1に示すように6回照射後に分離した栄養要求性変異株M6-2を除くと、生化学的性質は全く変化していなかった。また、血液学的性質にも変化は認められなかった。しかし.繰り返し照射すると菌糸状の細胞が増加してきて生存曲線の折れ曲がり現象との相関性が認められた。

Davies らはS.typhimurium LT 2株を84回繰り返し照射することによってD10が約12倍に増加し、紫外線抵抗性も増加することを報告している6)。この場合にはNutrient broth+0.5%yeast extractからの培養液を直接繰り返し照射する方式を用いているが、抵抗性が増大するに従って細胞が巨大化し、DNA含量も1.8〜2.1倍に増加すると報告している。一方、E.coliでは菌糸状細胞が増加するという報告もある8)。本研究でも菌糸状細胞の増加が認められており、抵抗性の増大の原因は細胞の多核化によるものであろう。また、植え継ぎを繰り返すと抵抗性が減少するのは正常細胞の割合が増加するためであろう。本研究は自然環境下の厳しい条件を考慮して選択増菌などの実験条件を設定したが、照射による抵抗性の著しい増大や突然変異は認められず、微生物学的安全性には問題がないものと思われる。

文献

1)H.lto and T.Sato: Agric. Biol. Chem., 37, 233 (1973).

2)A.W Anderson, H.C.Nordan, R.F.Cain, G.Parrish and D.Dugan: Food Technol., 10, 575 (1956).

3)B.W.Brooks and R.G.E Murray: Int. J. Syst. Bacteriol., 31, 353 (1981).

4)H. Ito, H. Watanabe, M. Takehisa and H. Iizuka: Agric. Biol. Chem.,47, 1239 (1983).

5)H. Ito and H.Iizuka: Agric. Biol. Chem., 35, 1566 (1971).

6)R. Davies and A.J. Sinskey : J. Bacteriol., 113, 133 (1973).

7)E.S. Idzick and F.S. Thatcher: Can. J. Microbiol., 11, 27 (1964)

8)R.D. Ponterfract and F.S. Thatcher: Can. J. Microbiol., 11, 271 (1964)


Table 1 Biochemical characteristics of parent and repeat irradiated culturs of S.typhimurium.



Elongated
cells

TSI
fermen-
tation
TSI
SH2

TSI
gas

Reaction
with
serum B
Parent
G5
N5
N6
G7
N7
N8
M6-2
(auxotroph)
a litlle
Ca.1-2%
Ca.1-2%
Ca.5%
Ca.1-2%
Ca.5%
Ca.5%
Ca.10%

+
+
+
+
+
+
+
±

+
+
+
+
+
+
+
±

+
+
+
+
+
+
+
-

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+
+
+
+
+
+
+



Fig.1 Radiation sensitivities of Salmonella typhimurium D01 on nutrient agar according to the repeat irradiation after pre-culuture of nutrient broth.



Fig.2 Radiation sensitivities of Salmonella typhimurium DO1 on glucose-NH4 agar according to the repeat irradiation anter pre-culture of glucose-NH4 broth.



Fig.3 Radiation sensitivities of S.typhimurium D01 on nutrient agar(─) or glucose-NH4 agar(---) according to sublethal repeat irradia-tions after pre-enrichment by brilliant green-lactose broth and sellenite-cystine broth.





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