Escherichia coli BおよびB/r株のガンマ線および紫外線感受性についての研究は従来から多く行われてきている1,2)。しかし、ガンマ線と紫外線での感受性および突然変異率の比較、または同一エネルギーレベルで両照射の影響を比較検討した報告などは殆どない。そこで、ガンマ線および紫外線を放射線感受性の異なる各菌株に照射し、生存率ならびに突然変異率を求め、照射の影響を比較検討した。
菌株は、E.coli B, B/r株およびB株からMacConkey agarにより再分離したB1, B2株を用いた。菌株をNutrient broth中30℃で所定時間(B:12時間、B/r、B1:16時間、B2:14時間)培養し、集菌後、リン酸緩衝中に懸濁させ、1.5mlをパイレックスガラス製の試験管(12φ×110mm)に入れ、溶存空気平衡下でガンマ線を1.2kGy/hで照射した。紫外線照射は菌懸濁液1.5mlを石英製試験管(12φ×100mm)に入れ、クリーンベンチ内の15W殺菌灯を平衡位置で両面から照射した。適当に希釈した試料を、Tryptone agar(Bacto-Tryptone 10g, Yeast extract 5g, NaCl 5g, agar 15g per liter, pH7.0), Glucose-NH4 agar (Glucose 10g, (NH4)2 HPO4 1g, KCl 0.2g, MgSO4・7H2O 0.2g, FeSO4 10mg, agar 15g per 1 liter, pH7.0), MacConkey agar(pH7.0)にプラッテンした。培養は前2者では30℃、後者は37℃で行った。
ガンマ線および紫外線の吸収線量は、Fricke および鉄−オキサラト光量計3,4)を用いて測定した。
突然変異については、ラクトース分解能のないlac-株とアミノ酸要求性株を取り上げ検討した。lac-株は MacConkey agar 上で白色コロニーを形成することから、濃い赤紫色のコロニーを形成する野生株と識別し、生化学的性質より変異株と同定した。また、アミノ酸要求性株については、照射後適当に希釈した菌懸濁液を合成培地の Glucose-NH4 agar と混ぜ、プレートに流し、コロニーが十分に成育した後にカザミノ酸を含むソフトアガーを積層し、新たに生えてきたコロニーを突然変異株とした。突然変異率は変異株によるコロニー数の全コロニー数に対する割合として求めた。
E. coil BおよびB/r株の生存曲線をFig.1に示す。B/r株は放射線抵抗株に特有な低線量のところに肩のある生存曲線を示した。B株は、従来から報告されているように低線量のところで急激に生存率が低下し、その後はゆるやかに低下した。そこで、B株は放射線感受性の異なる数種類の菌株からなっているのではないかと考え、MacConkey agar平板培地上で小さなコロニーを形成するB1株と大きめのコロニーを形成するB2株を分離した。両分離株にガンマ線を照射したところ、Fig.2に示すように、異なるガンマ線感受性を示した。
ガンマ線および紫外線を照射した菌株のD10値をTable 1に示す。ガンマ線のD10はkGy、紫外線の場合には103J/kgで表されているが1Gy=1J/kgである。吸収エネルギーで比較した場合、いずれの菌株でも紫外線に対する感受性はガンマ線より高く、B1、B2、B/rの順に感受性が下がることが明らかである。また、各株ともD10値はTryptone agarよりGlucose-NH4 agarの方が小さかった。
lac-突然変異率を同じ吸収エネルギーで比較すると、Fig.2に示すようにB1株で高いガンマ線感受性を示したが、これはB1株が高いガンマ線感受性を示すためと考えられる。一方、B2株とB/r株では菌株間および線源の違いによる大きな差異は認められなかった。生存率に対する突然変異率をFig.3に示す。突然変異率を生存率10-4で比較すると、B/r株で最も高く、ついでB1株、B2株の順であった。また、紫外線よりガンマ線での突然変異発生が著しかった。
一方、このようにして得られたlac-白色コロニーをNutrient broth中で培養すると、一部は復帰変異を起こし、野生株と同じ濃い赤紫色のコロニーを形成するが、白色コロニーを再分離して継代培養すると白色コロニーを安定に形成するようになった。なお、定性ではあるが、白色コロニーからの復帰変異の起こりやすさは紫外線照射の方が、ガンマ線照射より高い傾向が認められた。また、中間段階の変異、すなわちコロニーが形成される段階で、半分白く、半分赤いコロニーが形成される割合も紫外線の方が、ガンマ線よりも高い傾向が認められた。したがって、紫外線照射の場合には突然変異部分の修復が起こりやすいのではないかと考えられる。このことは、表現型としてのlac-は同じであっても、突然変異誘発の機構はガンマ線と紫外線では若干異なっていると考えられる。なお、継代培養を行って白いコロニーのみを形成するlac-株にガンマ線、紫外線のいずれを照射しても、赤色のコロニーの形成は認められず、一旦固定されたlac-突然変異体は非常に安定であり、遺伝子にかなり複雑な変化を起こしているものと推定される。
アミノ酸要求性突然変異の場合には、生存率に対して突然変異率をプロットすると、Fig.4に示すようにB/r株で突然変異率が高いが、B1, B2株には大きな差異は認められなかった。また、この場合の突然変異率も紫外線よりもガンマ線の方が大きい傾向が認められた。得られたアミノ酸要求性株をそのままGlucose-NH4 agarに移すと非常に小さいコロニーが形成された。しかし、さらにNutrient broth中で培養すると、ほぼ野生株と同じ大きさのコロニーを形成するようになり、変異を固定することは困難であった。
以上のlac-株およびアミノ酸要求性突然変異の結果を生存率10-4のところで比較し、Table 2, 3に示す。ガンマ線感受性の高いB1株では、突然変異率が高いことが認められる。これは、感受性の低い株では、突然変異修復酵素が働きやすいが、修復ミスも高い頻度で起こることによると考えられる5)。
文献
1)近藤宗平:分子放射線生物学、東京大学出版会(1972)
2)伊藤 均、田村智恵:食品照射、28、11(1993)
3)C.G.Hatchard and C.A.Packer:Proc. R.Roc., London Ser., A235, 518(1956)
4)日本化学会編:新実験化学講座 4, 丸善(1976)
5)岡市協生、大西武雄、奥村寛:防菌防黴、23、227(1995)
(1995年6月1日受理)
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D10 value |
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γ-irradiation(kGy=10E3J/kg) |
UV irradiation(10E3J/kg) |
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Agar |
Tryptone |
Glucose-NH4 |
Tryptone |
Glucose-NH4 |
Strain B1 B2 B/r |
0.09 0.11 0.24 |
0.07 0.08 0.15 |
0.03 0.04 0.08 |
0.04 0.03 0.09 |
Strain |
Mutation Ratio (%) |
||
B1 |
B2 |
B/r |
|
γ-rays UV |
0.22 0.02 |
0.06 0.04 |
0.26 0.14 |
Strain |
Mutation Ratio (%) |
||
B1 |
B2 |
B/r |
|
γ-rays UV |
0.02 0.13 |
0.08 - |
0.63 0.20 |
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