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健全性(WHOLESOMENESS):毒性・微生物学的安全性、栄養学的適格性を総合した考え方

健全性に関するレビュー、まとめ


発表場所 : 食品照射、Vol.7(2),62−66.
著者名 : D.De Zeeuw and J.G.Van Kooij
著者所属機関名 : オランダ、ITAL
発行年月日 : 1973年
オランダにおける照射食品の公衆衛生的許容の現況
新しいアプローチ
照射は食品添加物か?
ラットにおける実験
ミニブタにおける実験
ブタにおける実験
古いアプローチ
イチゴ
エビ
キノコ
ヒナ肉
結論



オランダにおける照射食品の公衆衛生的許容の現況


オランダにおける照射食品の公衆衛生的許容の現況

  D. De Zeeuw and J. G. Van Kooij

  (オランダ,ITAL)

新しいアプローチ

 一般消費者に対する照射食品の安全性を確立するための方法は,基本的には食品添加物の場合に利用される方法と同じものとして考えられている。

 1964年のFAO/IAEA/WHO合同専門委員会の報告を引用すると,”意図的食品添加物使用の安全性を確かめるのに勧告された試験法が一般に照射食品の試験にも適応しうる。しかし,一部の試験は照射食品の場合には適さないものもあり,より詳細な考慮が望まれる。例えば,添加物と食品成分との相互作用の性質は屡々予測しうるものであるが,照射食品の場合には,影響される食品成分の量から見れば少量であることが多いわけであるが,その化学的変化が複雑であり,予測し難いものである。”

 しかし,添加物との違いについては,それ程重要であるとは考えられない。合同委員会の報告では,照射食品の健全性試験についても,添加物の場合と同じ方法で行われている。勿論,内容(protocol)にはかなりの改善がみられ,ことに繁殖,催奇形,および突然変異等の点が進歩が見られるが,基本的なアプローチは変っていない。

照射は食品添加物か?

 この疑問に答える前に,この問題に関与するいくつかの基本的な想定について試考すべきである。

 一,添加物の化学的性質やその不純性は,試験を行う前によく解っているから,その薬理学的活性のありうべき姿も判り,作用の及ぶ臓器についての予測ができる。しかし,照射食品の場合には,有害物質の性質やその量的関係が不明である。

 一,特定の添加物の試験では,その消化管からの吸収,代謝および排泄に焦点を合わせることができるが,放射線分解物では,放射線効果が非特異的なので,その分解物の性質は不明であり,焦点を定めることが不能である。

 一,食品添加物に適用する中毒学的スクリーニングテストは,用量−反応関係の概念に立脚している。そして,その目的は,毒性を表現する量と,無作用の最高量を見出すことにある。そして,ヒトの安全を判定するのにこの量にあるファクター(普通100)を利用して,外挿する。

 照射食品の場合には,全ての有害物質の摂取を強張させる試みが行われており,第一にはより高線量による処理,第二には異例な高濃度で食飼に添加して給餌している。安全ファクターは100倍よりかなり小さくなるし,さらにそこには,栄養的不均衡,食品自体(例えば玉ねぎ)の構成成分の毒性が含まれ,非常なむずかしさが含まれている。

 このような諸因子を考慮して,オランダでは,照射が食品添加物であると表明するのは誤りであると結論した。殊に,化学物質添加物の安全性についての結論は,ある濃度を越した場合には障害を生ずるので,ある濃度以下に保てば障害をおこさないと期待されると云う事実に基いているからである。

 照射食品の健全性については次のように考える。即ち,照射食品の構成々分を添加物と同じに考え,この成分が有害でなく,発癌性がなく,一般的に障害性でないことを証明する。しかし,ないと云う事実(negative fact)の証明は,不可能でないにしても極めて困難である。勿論,権威者が,食品の安全性に確信をもつ前に,照射食品について明らかにする必要はないが,このことは,ないことの証拠(negative evidence)の要求を必ずしも意味するものではない。化学物質添加物の場合と違ってnegative fact に逢偶し,中毒レベルも示されえないし,微生物学的障害は欠如し,栄養価の許容しえない程の低下も見られない。

 そこで,照射食品を消費した時の危険を決めるための基盤としては,確信のある現われた事実(positive fact)が明らかに必要である。

 もし,照射は1つの処理過程であると考えるならば,このことは可能である。一般に物理的方法を用いての沢山の食物処理過程がある。この意味では,食品照射は加熱,凍結,乾燥等と正しく同様,明らかに過程である。そこで,より適切な健全性の試験法は,照射食品と,他の物理的方法で処理した同種の食品とを比較することにあると云える。

 最も類似性のある物理的方法は加熱である。食品の加熱は,食品を無変化のまゝにはしておかないし,それらの変化が要求される Positive fact の裏付けのあるかつ正確で頼れる物差しとなるであろう。

 もし,食品の照射が加熱処理以上に食品に影響しないことが証明されるならば大部分の困難さは消失するに違いない。

 私は1968年SofiaのIAEA会議で,われわれの考えを変えることを示唆した。

 そこで,オランダはデンマークと共同して,新しいプログラムで照射食品の試験を開始した。

 その新しい解決の基準の一つは,個々の食品よりも,完全食餌(couplete diets)を試験することであり,その二つは,照射と他の物理的処理過程,即ち加熱との比較を行うことである。

ラットにおける実験

 完全飼料を,5Mrad照射したもの,110℃で10分間オートクレープにかけたものおよび120℃で15分間オートクレープにかけたものに分け,各々の飼料についてビタミンとアミノ酸組成の分析を行ない,さらに有機塩素,炭水化物,アフラトキシン,オクラトキシンおよびいくつかの重要な農薬について分析を行なった。飼育実験は,次ぎのように行なった。

 約100日令のSPFラット雄雌を用い,これを同腹単位に従って三つの群に分け,2週間三つのそれぞれの餌を食べさせた。それから雌20匹と雄20匹を交配した。妊娠した動物だけさらに実験し続けた。全ての同腹仔数を10匹に減らし,その体重および数を,分娩時,5日後および21日後に測定した。離乳後,各30匹のラット(雄15,雌15)の3群を使って短期実験を行なった。

 実施期間中は,一週間の摂餌量,成長率および一般行動を調べ,実験の終りには,病理学者がすべての動物を解剖した。また,異常な例については,血液学的検査,臓器重量測定,病理組織学的検査および機能検査等について調べた。

 結果は,未だ公表されていないが,基本的な評価として,繁殖実験では,対照群と処置群の間に有意の差はなく,また摂餌量および体重の増加についても同様に群間に差をみない。また,臨床的検査と試験終了時の動物の体重に対する各臓器重量のパーセントでも群間に差を認めなかった。最後に病理組織学的検査を行ったが、対照群と処置群の間に著しい差を認めないと云うことがわかった。

ミニブタにおける実験

 1群4頭のミニブタ2群に,馬れいしょ,魚,牛肉,果実,野菜,フスマ,脱脂粉乳,油,砂糖菓子等よりなる飼料を2年間食べさせた。

 照射線量としては,例えば,馬れいしょ10krad,魚150krad,果実250krad,などのように,それぞれの実用線量を用いた。照射群と非照射群の両方の動物は,2年間飼育した後に病理学者によって解剖された。そして,臓器重量を測定し,病理組織学的検査を行った。

 その結果,照射したための影響を少しも認めなかった。

 健全性試験の観点から,この実験の計画や実行は,一般に受け入れられているやり方には一致しなかった。しかしながら,我々の健全性試験の計画で最も注目する価値があるのは種(Species)である。なぜならば,消化管と消化作用が非常に人間に似ているからである。

ブタにおける実験

 1群5匹の雌ブタ3群に,それぞれに,一般飼料,121℃で10分間オートクレープにかけた飼料および5Mrad照射した飼料を妊娠中と授乳期間食べさせた。

 各世代試験は,二回目の産仔を用い,4世代にわたる試験を行った。さらに,初めの産仔を除いて,3群各30匹の動物について100日間の肥育試験を行った。

 3群の全ての動物から取ったハムとベーコンに照射,加熱,塩漬などの処置をした後,SPFラットを用いての長期飼育実験の餌として使用した。この実験は,4年間行われ,それに要した費用は2億ギルダーであった。

古いアプローチ

 我々は,すべての古い健全性試験を行わないと云うわけではない。反対に,我々は,これらの実験の結果は,情報収集のため不可欠であると感ずる。

 過去におこなわれた実験としては,つぎの生産物がある。

イチゴ

 照射イチゴの健全性試験は1968年に,ウイスター,ラットを用いて行った。このとき使用した線量は,500kradと5000kradである。

 投与方法としては,一つは,イチゴを粉末にして飼料に5%の割合に混合し,もう一つは,イチゴジュースとして胃管で投与した。

 その結果,5000kradの照射イチゴの粉末を与えた雄ラットで,明らかな成長遅延が見られた。これに対して雌ラットでは,このような変化をみなかった。そのため,この所見は,異常であるという意味付けをすることは出来ない。なお,長期試験は,アメリカで行なうため実施しなかった。

エビ

 1970年にSPFラットを用いて90日間の実験を行った。このとき用いた照射線量は,150kradと300kradである。また,エビの投与方法としては,乾燥物として,2.8%および28%の割合で飼料に混合して与えた。その結果,エビを28%混合したものでは,肝,腎,卵巣および胸線などの重量に変化が見られたが,照射による影響は見られなかった。

 なお,微生物学的知見としては,150kradで十分目的を達することができた。

キノコ

 1968年から1970年に,ラットを用いて長期実験(90日間)と繁殖試験を行った。

 動物は,一群雄雌10匹ずつとし,6群に分け,飼料は,γ線を175Krad,350krad照射したもの,また電子線を250kradおよび500Krad照射したもので,キノコをそれぞれ25%の割合で飼料に混合したものである。また一群は対照群とし,標準飼料を与えた。なおキノコは,飼料に混合する前に調理した。

 繁殖試験は,一群20匹よりなる4群を用意し,それぞれに,標準飼料,非照射およびγ線あるいは,電子線の高線量をかけたキノコを25%混合したものを与えた。

 結果としては,成長,摂餌量,血液の組成および骨髄,血清トランスアミナーゼ,血液凝固時間,臓器重量および病理組織学的検査を行ったが,照射に帰因する影響はみられなかった。また,繁殖試験においても照射の影響はなかった。

ヒナ肉

 一群60匹のアルピノラットを用いて,γ線を照射したヒナ肉の長期(2年)飼育試験を行った。飼料として,ヒナ肉の非照射,300Kradおよび600krad照射したものを乾燥物として35%の割合で飼料に混合したものを用い,また対照として標準飼料を与えた。

 観察事項としては,一般症状,死亡率,成長,摂餌量,血液学的検査および血液,尿の臨床的組成について行った。また104週まで生存したすべての動物は殺処分し,肉眼的検査,臓器重量の測定ならびに病理組織学的検査を行った。

 結果としては,一般症状,死亡率,成長,摂餌量などには,照射ヒナ肉を摂取したゝめの影響はみられなかった。しかし,食餌効率は,ヒナ肉を混合した飼料群で,標準飼料を与えたものより高かった。なお,血液学的検査,血糖,血液尿素ーN,血清酵素,血清蛋白および尿組成は,群間に差異を認めなかった。

 病理的検査では,各臓器の重量,肉眼的ならびに顕微鏡的検査,かつ新生物の発生などには,照射ヒナ肉を摂取したゝめの影響はみられなかった。

 この研究から,γ線を300kradと600kradヒナ肉に照射しても,それによる有害な結果はないものと推断した。

 また,ヒナ肉を低線量(300kradと600krad)で照射したときの脂肪の酸化とビタミン,アミノ酸および蛋白の組成について検査したところ,脂肪の酸化値,ビタミンの成分,アミノ酸組成および体蛋白の合成などには,照射による影響がなかった。

 また,ラットで行った健全性評価を追試するために,ビーグル犬で1年間試験を行った。

 動物は,各群雄雌4匹よりなる3群で,それぞれ,非照射群,300krad照射群,600krad照射群および対照群とした。ヒナ肉は,乾燥物として35%の割合に餌に混入して与えた。なお,対照群には,研究所の基礎飼料を用いた。

 観察事項としては,一般症状,生存数,成長および摂飼量,血液学的検査,血清酵素,また尿のPH,比重,分解産物,沈殿物,トランスアミナーゼなどについて検査した。

 52週後にすべての犬を殺処分し,各臓器の重量測定および病理組織学的検査を行った。

 上記の検査結果から,すべての項目において,照射ヒナ肉を摂取したゝめの影響は認められなかった。

 この研究から,犬に300kradおよび600kradのγ線を照射したヒナ肉を与えても少しも害は無いものと推断された。

 最後に,繁殖試験では,300kradおよび600krad照射したヒナ肉の乾燥物を37%含有する飼料をラットに食べさせたが,4世代を通じて,少しも有害な結果を引き起こさなかったと推断した。

結論

 有害か或いは,とにかく障害があると云う証拠は,古いアプローチでも新しいアプローチでも明らかにされていない。

 単独,または混合されているものなど種々の形の数多くの食物で試験が行なわれているところから,すでに明らかにされた以上の確実なものをもって,照射食品の安全性を確率するような追加試験は非常にむずかしい。

 だから,我々自身と他へ問いかけた方が適切である。何故我々が,いやしくも試験を続けなければならないのか?何故我々は追加の証拠を要求するのか?照射方法と同じ程度に安全性が証明されている食品保存法がないではないか。反対にいくつかの食品添加物のような方法は,ある条件下で十分に油イタメなどをしたときには有害な作用をみせているではないか。言々かえれば,一般に食品の衛生は,照射という方法によって,むしろ改善されているということが云える。

 当局は何を待っているのか?私は,オランダ公衆衛生当局に,1975年には照射の公認を考慮するように言った。

 私は,心から他の国も同じであるように希望するし,そうすれば,人類のため,食糧の不足しているような国では,すみやかに真の利益を得るであろう。




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