昭和43年6月18日
科学技術庁原子力局長
藤 波 恒 雄 殿
食品照射研究運営会議
座長 藤 巻 正 生
食品照射研究運営会議は「食品照射研究開発基本計画」に基づき、昭和42年11月29日以降6回にわたり、、食品照射対象品目の選定および共同利用施設の設置機関、設置場所、施設の規模、内容等について検討を重ねてきたが、このたび以下の結論を得たので報告します。
「食品照射研究基本計画」における、新たに実施する食品照射対象品目を選定するにあたり、生産ならびに消費量が大きく、照射による損失防止を図ることによって著しい経済的効果が得られることと、その成果について技術的に十分な見通しのあることを適格条件として選定をすすめた結果以下の4品目が適当であり、これらの研究開発実施計画は、関係各研究実施機関の実施能力を勘案し、別添第1表の通りとすることが妥当であるとの結論を得た。
なお、鮮魚、生肉に関しては、照射による効果が期待されるが、明確な技術的見通しを得るまでに至らなかったので、当面は、基礎的照射試験を行なうこととして適当な時期に対象品目を選定することとする。
第1表(本データベースでは本報告の図表は省略した。)
ガンマー線による殺虫効果を利用して貯蔵中の虫害発生を防止することを目的とする。
小麦は、主食農産物として米に次ぐ重要なものであり、昭和40年度における消費量は約476万トンに達しているが、このうち、347万トンは輸入にたよっている。その主要な輸出国の一つである米国では、すでに小麦の照射による虫害予防が許可されていることにかんがみ、将来、照射された小麦が輸入されることが十分に予想されるので、この受入れ体制について考慮しておく必要がある。なお、貯蔵穀類の害虫における損耗は、消費量の5%以上で年間約24万トン、金額にして約70億円と推定されている。
電子線による表面殺菌による青カビの発生防止を目的とする。
みかんの昭和40年度東京市場における取扱量は29万1千トン、取引総額は231億円で共に果実中の一位を占めている(別添第2表)。2位のリンゴはすでにC.A貯蔵の技術が導入されているが、みかんの青カビ発生による損耗については有効な具体策が見出されていない。なお、青カビ発生による損耗は、41年度で推定すれば全生産量160万トンの約5%に当る9万トンで、金額にして54億円と見込まれる。
第2表(本データベースでは本報告の図表は省略した
。)
ガンマー線による殺菌効果を利用して腐敗を防止することを目的とする。
水産ネリ製品の生産は年間80万トン、原料魚は240万トンに達し、日本の総漁獲高の約1/3を占めている。
水産ネリ製品の加熱処理は、腐敗細菌の完全殺菌には不十分であるため、防腐剤使用により一部これを補っているが、保存性に限界があり、業界ではなんらかの対策を求めている。そのため、ガンマー線照射によりこれを排除し、蒸煮および油揚げカマボコ等の保存期間延長の実用化をはかる。
なお、腐敗による損耗は、生産量の約7%、金額にして年間約330億円に達すると推定される。
ガンマー線による殺菌効果を利用して腐敗を防止することを目的とする。
ソーセージ等の肉製品の消費は著しく伸びてきており、昭和50年には消費量が約60万トンに達するものと推定されるが、ウインナーソーセージは、その約1/3を占めている。ウインナーソーセージはネト菌が発生するために、保存性が悪く、夏期(5月〜9月)には腐敗による損耗が、製品の約10%に達すると推定される。このため夏期には生産を手控えることによる工場操業率の低下があり、これらによる損失は年間約78億円に達すると推定されている。
研究開発の推進に必要な大量試料照射施設は、関係各機関の研究に供される指定品目ごとの大量試料の照射試験と、この大量試料照射試験を行なう際に必要な照射条件を定めるための中間規模試験を行なうことを主目的とする。また、今後照射対象品目として追加選定を行なうこととしている鮮魚、生肉の基礎研究は、短時間で比較的高線量率の照射を必要とするが、関係各機関の既存線源では実施できないものもあるので、このための施設としても有効に活用できるように設計することとした。
施設としては、コバルト−60によるガンマー線照射施設と、電子線加速器による電子線照射施設および本共同利用施設の研究開発に必要な研究室をもって構成する。
ガンマー線照射施設は、昭和45年度に、電子線照射施設は昭和46年度に、それぞれ稼働にはいることを目途とし、これに必要な予算は、総額約9.6億円と見積られる。
共同利用施設は日本原子力研究所高崎研究所に食品照射研究開発試験場(仮称)として設置する。
同研究所は、放射線化学の分野で、すでに過去数年にわたり大型照射施設の運用を行なっており、線源工学および照射技術等について、豊富な経験と人材を擁している。一方、本共同利用施設は、研究開発の主体が線源工学および照射技術にあるので、同研究所の技術的基盤にたって、これらの技術を有効に利用し、運用されることが最も適当であると考える。
また、本共同利用施設の設置に必要な敷地の確保においても有利な条件を有している。
食品照射研究開発は、適正照射線量を把握するための予備的研究、大量試料の照射試験に必要な照射条件を定めるための中間規模照射試験、これに基づいて行なわれる大量試料照射試験ならびに照射した大量試料を用いた毒性試験、栄養成分の変化に関する研究、衛生化学的研究等食品としての安全性、健全性に関する研究および照射効果の研究から成るが、本共同利用施設においては、このうち、中間規模照射試験と大量試料照射試験を行なうこととする。
また、鮮魚、生肉の基礎研究に必要な低温における高線量率照射試験等を行なう。
関係各試験研究機関において、適正線量を把握するための予備的研究が行なわれるが、この研究段階においては、線源規模が小さいために極く少量のサンプルで実施されるにすぎないので、大量試料照射試験において、均一照射を行なうに必要な照射方法を把握することはできない。
このため、大量試料の照射に使用する施設と同規模施設において、線源の配置、被照射物の形態、コンベアー技術、照射雰囲気、線量測定技術等に関し、中規模の照射試験を行なって、大量試料の均一かつ経済的な連続照射を行なうための工学的条件を求める必要がある。また、この研究を行なうにあたって、被照射物の形態と線量測定個所、測定線量のバラツキの許容限界等特に測定線量と照射効果の相関関係を把握するため、照射サンプルについてそれぞれ蛋白質、ビタミン等の栄養成分の消長、分解生成物、香気、食味等への影響、殺虫、殺菌等の照射効果を迅速に検知して、これを照射方法に反映させる必要があるので、これら照射効果の判定指標として要求される生物試験、微生物試験、官能試験等を行なうこととする。
中間規模照射試験で得られた条件に基づき、大量試料の連続照射試験を行ない照射方法の確証を得る。
鮮魚、生肉等については、鮮度維持のため低温で短時間に照射を完了することが必要である。このためには高線量率の照射が必要であるので基礎研究ではあるが、各省既存の設備では行ない得ない分野の研究について、本共同利用施設の線源を利用して照射を行なうこととする。
また、極低温において鮮魚、生肉に対する放射線による照射効果が著しく改善される傾向が知られている。このため、極低温における照射効果の研究を併せ行なうこととする。
本共同利用施設に設ける主な施設の概要は次のとおりである。
20万キュリーのコバルト−60を線源とし、水産ネリ製品、ウインナーソーセージの大量試料の連続照射試験を行なうのに必要な照射雰囲気調整装置(0℃〜常温)およびコンベアを備えた照射室、米、麦の大量試料の連続照射試験を行なうのに必要な照射雰囲気調整装置(常温)およびサイロを備えた照射室、極低温照射試験に必要な極低温装置(−10℃〜−130℃以下)を備えた照射室、ならびに照射前後の一時貯蔵庫、中間規模照射試験に必要な短期間貯蔵試験用貯蔵庫を設ける。この施設の建設は昭和44年度に着手し、45年度半ばに完成するものとする。
0.4〜1.0MeV、1mA電子線加速器を線源とし、みかんの大量試料の連続照射試験を行なうのに必要な雰囲気調整装置(0〜5℃)およびコンベアーを備えた照射室ならびに照射前後の一時貯蔵庫を設ける。この施設の建設は昭和45年度に着手し、46年度半ばに完成するものとする。
中間規模照射試験に必要な生物試験、微生物試験および官能試験を行なうための研究室(7室)、実験室(4室)、特殊試験室(無菌室、官能試験室等4室)ならびに関連所要施設を設ける。この施設の建設は昭和45年度に着手し、46年度に完成するものとする。
なお、施設の内容、建設年次計画の詳細は別添第3表〜第5表の通りとする。
第3表(本データベースでは本報告の図表は省略した。)
本共同利用施設の機構とその所要人員の内容は、次に示す通りとし、外来研究員12名を含む合計37名とする。また、その人員充足年次計画は別添第6表の通りとする。
(イ)本試験場は、食品照射研究運営会議の定める実施計画に基づき研究開発を推進するものとする。
(ロ)試験管理課は、照射施設の運転管理および照射技術に関する業務を行なう。
(ハ)生物試験室、微生物試験室および理化学試験室は、発芽抑制・殺虫等の生物試験、病原菌、腐敗菌、カビ類等の微生物試験および栄養成分分解生成物、官能成分等の理化学試験のそれぞれに関する業務を行なう。
(ニ)第1プロジェクトは農産物について、第2プロジェクトは水産物について、また第3プロジェクトは畜産物についてそれぞれ各品目ごとの中間規模および大量試料の照射に関する総合的な研究開発を行なうものとする。
なお、プロジェクトの推進に当っては、関係各研究機関等の外来研究員のほか必要に応じて本試験場の専任職員がこの任に当るものとする。
なお、本研究開発に関連した一般管理部門の事務増加に伴う人員の増加については、別途高崎研究所において考慮する必要がある。
第6表(本データベースでは本報告の図表は省略した。)