食品照射に関する文献検索

健全性(WHOLESOMENESS):毒性・微生物学的安全性、栄養学的適格性を総合した考え方

原子力委員会報告


発行機関名 : 食品照射研究運営会議
発行年月日 : 昭和60年12月
放射線照射による水産ねり製品の殺菌に関する研究成果報告書
は し が き
1. 放射線照射による水産ねり製品の殺菌研究計画
(1) 背景及び目的
(2) 研究計画の概要
1 照射効果に関する研究
2 健全性に関する研究
2. 放射線照射による水産ねり製品の殺菌研究成果
(1) 照射効果
1 適正放射線量
2 照射による影響
3 実用化技術
4 照射の有無の判別法
(2) 健全性
1 栄養試験
2 毒性試験
ア) 慢性毒性試験(発ガン性試験を含む)
イ) 世代試験(催奇形性試験を含む)
ウ) 変異原性試験
3. 結   語
(参考) 食品照射研究運営会議名簿
研究成果報告書(原案)作成ワーキンググループ



放射線照射による水産ねり製品の殺菌に関する研究成果報告書


放射線照射による水産ねり製品の殺菌に関する研究成果報告書
は し が き

 原子力利用の普及・拡大に伴って、放射線についても工業、農業、医療等の分野において広く利用され、国民の生活及び福祉の向上に貢献している。このうち、放射線照射による食品保存技術、即ち、食品照射技術は、今や海外においてますます注目を集め、食品照射研究開発は、欧米、東欧諸国をはじめ東南アジア諸国において活発に進められている。これらの国では、その成果に基づいて照射食品の法的許可を進めており、その数は、IAEAによれば、1984年4月現在、我が国を含め26カ国40品目(延べ107品目)に達している。

 一方、FAO、IAEA、WHO等の国際機関においては、各国での研究開発の成果を収集、とりまとめて食品照射技術の総合的評価を進めている。特に、照射食品の健全性については、1980年に「照射食品の健全性に関するFAO/IAEA/WHO専門家委員会」が「1Mrad以下の実質平均線量で食品を照射する場合の食品の健全性については、問題とすべき点はない。」旨の結論を出しており、また、FAO/WHO食品規格委員会は、照射食品を国際的に流通させる場合に必要な製造等の規格基準として、1983年にこの結論を承認し、加盟各国に対し、国内法への取込みを勧告中である。更に、米国の食品医薬品局(FDA)は、1984年2月、100krad以下で果実・野菜に放射線(ガンマー線)を照射することを包括的に承認すべく提案しているところである。このように、海外においては、食品照射は、一部の食品では実用化が進められ、また、他の食品では、実用化を目指して引き続き研究が進められている。

 我が国においては、原子力委員会が、昭和42年9月、食品照射の研究開発は、食品の損失防止、流通の安定化等国民の食生活の合理化に寄与するところが大きいとして、これを原子力特定総合研究に指定するとともに、食品照射研究開発基本計画を策定した。同計画においては、対象品目として、馬鈴薯、玉ねぎ及び米が選定されるとともに(その後、昭和43年に小麦、ウィンナーソーセージ、水産ねり製品及びみかんの4品目が追加された。)、食品照射研究を円滑に実施するために食品照射研究運営会議を設置することが決められている。

 本運営会議は、上記計画に基づき研究の総合的推進を図ってきており、既に、馬鈴薯については昭和46年に、玉ねぎについては昭和55年に、また、米、小麦については昭和58年に、それぞれ研究成果をとりまとめ報告しているが、水産ねり製品についても、当初の目標を達成したので、ここに、その成果をとりまとめ報告する。

1. 放射線照射による水産ねり製品の殺菌研究計画
(1) 背景及び目的

 水産ねり製品は、ちくわ、かまぼこ類、揚げかまぼこ、魚肉ハム・ソーセージ等の総称であり、原料の魚肉を摺り潰してから成形し、蒸煮するなどの方法で加熱処理した水産加工食品である。

 原料となる魚の種類は極めて多く、また、その数量は、例年総漁獲量の1/5以上(約200万トン以上)を占めている。製品の生産は周年的に行われ、全国的に流通、販売、消費されており、その生産量は水産加工食品中最大であり、概ね80〜100万トンを維持している。

 水産ねり製品の製造後の貯蔵限界は、製品の種類によって異なるが、一般に冷蔵下で10日前後といわれており、品質保持期間が比較的短い。このため、流通や消費の段階で損失しやすいことが問題となっている。

 水産ねり製品の品質劣化は主として細菌類の繁殖によるので、これを防止するためには、これらの微生物を殺菌することが重要である。このため、現在は加熱殺菌処理が行われており、更に防腐剤の添加やプラスチックフイルム包装、あるいは製品の低温貯蔵などで微生物対策を行っている。食品の腐敗を完全に防止する手段としては、高温加熱殺菌が一般的であるが、かまぼこのように特有の弾力(足)を品質の特性とする製品にあっては、現行の加熱殺菌方法が限度であって、これ以上の加熱処理はかえって品質を低下させるので好ましくない。

 放射線照射は、水産ねり製品の品質を低下させることなく腐敗の原因となる細菌類を殺菌するための有効な方法と考えられるので、本研究開発が推進されることとなった。

(2) 研究計画の概要

 本研究は、昭和44年度から開始され、途中、研究の進捗状況に応じ、計画の見直しを行いつつ、昭和55年度に終了した。研究は、次の2つの項目について実施された。

1 照射効果に関する研究

 水産ねり製品に対するγ線の適正放射線量、微生物及び成分に対する照射効果、照射方法、貯蔵条件、その他実用化に当たって必要な技術的検討を、農林水産省東海区水産研究所、日本原子力研究所高崎研究所及び社団法人日本アイソトープ協会において実施した。また、照射の有無の履歴を判断する方法の検討を、厚生省国立予防衛生研究所において実施した。

2 健全性に関する研究

 照射した水産ねり製品の健全性について、栄養価の変化及び毒性という観点から検討した。栄養価の変化については、主要栄養成分についての化学実験及びラットを用いた動物実験を厚生省国立栄養研究所において実施した。毒性については、慢性毒性試験(発がん性試験を含む)及び世代試験(催奇形性試験を含む)を厚生省国立衛生試験所で実施し、変異原性試験を財団法人食品薬品安全センターにおいて実施した。

2. 放射線照射による水産ねり製品の殺菌研究成果
(1) 照射効果
1 適正放射線量

 水産ねり製品に対する放射線照射の適正線量、殺菌効果及び照射水産ねり製品の貯蔵性等について検討した。用いた線源は、コバルト60(γ線)であり、試料としては、各種水産ねり製品の中から「蒸し板かまぼこ」、「ケーシング詰かまぼこ」、「揚げかまぼこ」及び「リテーナ成形かまぼこ」の4種類を選んだ。また、水産ねり製品の主原料魚の「冷凍すり身」についても検討を行った。

 ア)水産ねり製品に対する適正線量については、まず、市販蒸し板かまぼこ数種について、200krad〜1Mradの範囲で各段階の照射を行い、色調、弾力及び臭気について官能検査を行ったところ、500krad以上の線量では色調の変化(褐変)を認め、400krad以上の照射試料には異臭(照射臭)の発生を認めた。更に、実験室で調製した蒸し板かまぼこについて、15人のパネルが参加し、一対比較法により官能検査を行った結果、色調や弾力に問題がなく照射臭の発生が認められない線量は300kradと判定された。これらの結果から、かまぼこ類にγ線を照射する時の適正線量は、300kradが妥当であるとの結論が得られた。

 イ)放射線照射による水産ねり製品の殺菌効果については、保存料、殺菌剤無添加の蒸し板かまぼこを用いて、100、300及び500krad照射したもの及び非照射のものについて、それぞれの微生物相(microflora)を調べた。その結果、分離された細菌の種類は、非照射試料の場合は8種類が検出され、100krad照射試料でも同様であったが、300krad照射試料では2種類(Corynebacterium,Bacillus)に減少し、500krad照射試料では1種類(Bacillus)のみとなった。この傾向は、ケーシング詰かまぼこ、揚げかまぼこでも同様であった。

 なお、非照射かまぼこ類から一般腐敗細菌のほか Staphlococcus,Aeromonas などの細菌類が検出される場合もあるが、これらは、300kradの線量を照射することによって死滅した。また、蒸し板かまぼこでは、貯蔵中に板の部分に Penicillium や Cladosporium などの糸状菌が発生する場合があるが、300krad照射によりこれらの発生は著しく抑制された。

 ウ)照射水産ねり製品の貯蔵性については、300kradの線量を照射した試料と非照射試料を用いて所定の温度中に貯蔵し、腐敗開始時期を官能検査及び細菌学的検査により判定した。この結果、10〜12℃の貯蔵温度においては、簡易包装蒸し板かまぼこについては、非照射試料では10日間程度の貯蔵期間が、照射試料では20日間となり、約2倍程度延長されることがわかった。ケーシング詰かまぼこについては、非照射試料では35日以内であったものが、照射試料では約3倍の100日間に延長された。揚げかまぼこについては、真空包装の場合には、非照射試料で14日間の貯蔵期間であったものが、照射試料では42日間に、含気包装の場合には、非照射試料で10日間の貯蔵期間であったものが、照射試料では25日間にそれぞれ延長された。

 また、リテーナ成形かまぼこについても、照射試料は非照射試料の2倍、即ち20〜30日の品質保持期間が得られた。

 一方、20〜25℃で貯蔵した場合には、いずれの製品も非照射試料は2〜3日間の貯蔵期間に対し、照射試料ではその期間が約2倍に延長されるが、実用的には顕著な効果とは認められなかった。

 以上の結果から、300kradの放射線照射は、かまぼこ類の腐敗細菌に対して殺菌効果を示し、このため貯蔵期間が延長されることが明らかとなった。ただし、Bacillus は生存し、これが腐敗の原因菌となるが、10℃以下の貯蔵温度では増殖が著しく抑制された。即ち、300kradの線量を照射した後、10℃程度で貯蔵することにより、非照射かまぼこ類と比べ、貯蔵期間が2〜3倍程度延長されることが明らかになった。

2 照射による影響

 γ線照射が水産ねり製品の品質に及ぼす影響を評価するために、照射かまぼこの色調及び弾性の物理的測定を行った。また、照射によるかまぼこ類の成分変化について化学分析を行った。その結果、蒸し板かまぼこの場合、300krad照射試料は、非照射試料に比べ、風味や臭気が変化することなく、白色度(ハンター白色度)及び弾性(ゼリー強度)が大きくなり、照射により品質が向上することがわかった。また、300krad照射かまぼこ類のたん白質の性状、揮発性成分、遊離アミノ酸、糖類、ポリリン酸塩及びグルタミン酸ナトリウムの変化については、照射直後では揮発性成分に幾分かの変化がみられたが、貯蔵中に徐々に減少して非照射試料との差は小さくなった。遊離アミノ酸及びたん白質の性状は、照射に伴う変化は認められなかった。しょ糖及びソルビット、ポリリン酸塩、グルタミン酸ナトリウムは、照射直後及び貯蔵中にみるべき変化を認めなかった。

 これらの結果から、300krad照射では、かまぼこ類の成分は変化せず、また、白色度等については照射試料の方が評価値が向上した。

3 実用化技術

 水産ねり製品の実用規模照射の可能性を評価するために、市販のリテーナ成形かまぼこを詰めたパッケージ(ダンボール箱)を静置照射した場合の線量均一度(最大吸収線量と最小吸収線量の比)及びコンベアー方式により連続照射した場合の照射コストについて検討した。

 かまぼこパッケージの静置照射にはコバルト60、板状ガンマー線源(100キロキュリー)を用い、照射用のパッケージは、市場流通に用いられている14cm×27cm×38cmダンボール箱を用い、パッケージの厚さを10cmから30cmまで変えて照射した。

 この結果、線量率300krad/hrの照射位置で反転照射した場合には、パッケージ厚さ10cmにおけるパッケージ全体の線量均一度は1.30となり、パッケージ厚さ20cmでは1.40となった。

 また、線量率100krad/hrの位置で照射した場合には、線量均一度1.40以内で照射可能なパッケージの厚さは、25cm程度となった。かまぼこの適正線量は300kradであるが、線量均一度は1.0に近い方が望ましい。一方実用的には線量均一度が大きい方が技術的に容易である。

 このため、線量範囲を250〜350kradとすると、線量均一度は1.40となり、技術的には可能な条件となる。そこで、静置照射結果を基にして、コンベア方式による連続照射処理においては線量均一度が1.40、平均線量が300kradとなるようにパッケージの厚さを18cmとし、また、パッケージと線源(100キロキュリー)間の距離を13cmとした場合の1時間当たりの処理量及び照射コストを算出した。この結果、1時間当たりの処理量は262kgとなり、1kg当たりの照射コストは約35円となった。

 なお、水産ねり製品の各生産工場での1日当たりの生産量は5〜50トンといわれているが、50トン処理できる照射施設では約1,000キロキュリーの線源が必要となり、この場合、kg当たりの照射コストは、照射処理量の増加とともに低下するので、20円以下とすることも可能である。

4 照射の有無の判別法

 かまぼこがγ線照射を受けたか否かを判別する方法を検索するために、非照射及び300、450、600krad照射かまぼこを試料とし、その構成成分、特に化学的に不安定な多価不飽和脂肪酸に主眼点をおいて検討した。

 その結果、照射かまぼこの励起螢光スペクトルの測定から、多価不飽和脂肪酸由来の共役テトラエン構造をもつ脂質の含量が増加することを明らかにした。しかしながら、本物質は、照射によって特異的に構成されるものではなく、市販のサラダ油や各種脂肪酸の標品などにも、照射かまぼこ中での含量をはるかに上回って共存していること、更に、加熱、光、その他によって、多価不飽和脂肪酸から容易に生成しかつ極めて分解し易い事実を認めた。なお、かまぼこ中の油脂は、多価不飽和脂肪酸含量が高いので、照射によって本物質を生成し易く、また、かまぼこの内部の低酸素、遮光といった条件や共存成分がその分解を抑制しているものと思われ、照射2カ月後も検知可能であった。以上の結果、励起螢光スペクトルによる測定は高感度(紫外線吸収スペクトルでは検出できない。)、再現性良好で、操作も簡便であり、照射判別法として応用可能と思われる。

 一方、照射により、フラビン化合物、多価不飽和脂肪酸の減少あるいは過酸化脂質とタンパク質の複合体と推定されるリポフスチン様螢光物質の増加などが認められたが、これらは、いずれも非照射かまぼことの量的な比較を要し、照射の指標にはならなかった。

(2) 健全性
1 栄養試験

 かまぼこの主な栄養成分に対するγ線照射の影響を評価するため、非照射及び300、400、600krad照射のかまぼこについて、たん白質、脂質、灰分、水分、炭水化物などの一般成分を常法により分析したところ、有意な変化は認められなかった。

 次に、かまぼこの総合的栄養価に対するγ線照射の影響を評価するため、ラットに非照射叉は300krad照射かまぼこを含む飼料を1カ月及び3カ月間給与し、体重増加量、総摂餌量、主要臓器重量などから成長・発育を比較したところ、γ線照射によると考えられる有意な影響は認められなかった。また、生殖腺の発育を支配するホルモンであるテストステロンの昼夜の変動に関しても、γ線照射かまぼこ給与群、非照射かまぼこ給与群間に有意差は認められなかった。

2 毒性試験
ア) 慢性毒性試験(発ガン性試験を含む)

 照射かまぼこを摂取することによって生体が慢性障害を受けるか否かを評価するために、マウス、ラットを用いた慢性毒性試験を行った。

 マウスを用いた慢性毒性試験では、非照射及び450krad照射かまぼこを添加した飼料により24カ月間の飼育試験を行い、飼育期間中の一般症状、体重、摂餌量、死亡率、病理学的検査及び腫瘍発現状況の変化について検討した。この結果、一般症状、摂餌量、死亡率、病理学的検査及び腫瘍発現状況については、非照射群と照射群に差異は認められなかった。一方、体重では、雄の照射群が非照射群に比べて増加の傾向を示し、飼育期間が9カ月以上になると有意の差が認められたが、雌では、照射群が飼育期間18カ月以上になると体重減少の傾向を示し、非照射と照射の違いによる一定の傾向は認められなかった。

 次に、ラットを用いた慢性毒性試験では、マウスと同様に非照射及び450krad照射かまぼこを添加した飼料により24カ月間の飼育試験を行い、飼育期間中の一般症状、体重、摂餌量、死亡率、病理学的検査(肉眼的、組織学的)の各項目について検討した。この結果、一般症状、体重、摂餌量、死亡率では、雄雌共に非照射群と照射群の間に有意の差は認められなかった。また、6カ月毎に行った血液形態学的検査、血清生化学的検査、臓器重量では、各時期に有意差を示す項目が散発的に認められるが、24カ月を通して見ると、群間に一定の傾向は認められなかった。試験期間中の死亡動物を含む病理組織学的検査においても、非照射群と照射群の間に有意の差は認められなかった。

 これらの結果から、照射の影響と思われる変化はないものと判断される。

イ) 世代試験(催奇形性試験を含む)

 照射かまぼこを摂取することによって摂取動物が次世代に及ぼす影響を評価するために、マウスに非照射及び450krad照射かまぼこを2w/w%の割合で添加した飼料により3世代にわたって飼育し、各世代について一般症状、体重、繁殖生理値(交配率、妊娠率及び胎仔の性別、体重、外形異常等)、乳仔の離乳時の検査(生存率、剖検所見及び臓器重量)並びに骨格等を検査した。

 この結果、乳仔の臓器重量及び骨格検査において、照射群と非照射群、対照群と照射及び非照射群に、有意の差を示す項目が散発的に認められたが、世代間に一定の傾向が認められず、しかも、生理値の範囲内であった。以上の結果を総合的に判断すると、照射による影響はないものと考えられる。

ウ) 変異原性試験

 照射かまぼこの遺伝的安全性を評価するために、非照射及び600krad照射のかまぼこについて、細菌に対する突然変異誘発試験、マウスによる宿主経由試験、哺乳動物培養細胞(ハムスターの胎仔細胞、ヒトリンパ球)を用いた染色体異常試験、マウスの生体を用いた染色体異常試験及びマウスを用いた優性致死試験を実施した。この結果、いずれの試験項目についても、非照射と照射の間に差は認められず、照射による影響は認められなかった。

3. 結   語

 放射線照射による水産ねり製品の殺菌に関する研究は、原子力委員会が定めた食品照射研究開発基本計画に基づいて実施され、概ね所期の目的を達成した。この研究は、水産ねり製品(かまぼこ類など)に放射線を照射することにより、腐敗細菌による腐敗を防止し、貯蔵期間の延長を図るとともに、照射かまぼこ類の健全性を評価することに主眼が置かれ進められた。この結果、かまぼこ類に300krad程度の放射線を照射することにより、品質を損なうことなく、腐敗細菌を大幅に減菌できることが明らかになった。また、放射線を照射したかまぼこ類を用いた栄養試験、毒性試験等の各種試験の結果、放射線照射によって、かまぼこ類の食品としての健全性が損なわれるような事象を見出すことはできなかった。しかしながら、300krad照射では、腐敗細菌の1種である Bacillus はかまぼこ中に生存するので、20〜25℃以上で貯蔵した場合にはこの細菌の繁殖によって短時日の間に腐敗が始まるが、10℃程度の温度下で貯蔵すれば、各種かまぼこの中で日持ち(Shelflife)が悪いとされている蒸し板かまぼこでも、非照射試料の場合に貯蔵期間が10日間程度であるものが、照射試料の場合には20日間程度に延長されることが明らかになった。また、日持ちが良いといわれているケーシング詰かまぼこの場合には、非照射試料で貯蔵期間が35日以内であるものが、照射試料では100日程度に延長されることが明らかになった。

 以上の結果から、水産ねり製品(かまぼこ類など)を放射線殺菌し、貯蔵期間の延長を図るには、300krad程度を照射した後に10℃程度の温度下で貯蔵することが適当であり、これにより貯蔵期間は、2〜3倍程度延長できることが明らかになった。

 一方、海外においては、「はしがき」に述べたように、食品照射は、研究開発段階から実用化段階へと移行しつつある状況にあり、放射線照射のされた果実、野菜、香辛料等が国際的に流通する日も、遠い将来ではない情勢にあると考えられる。このような観点から、我が国においても、食品照射研究開発基本計画に基づき詳細な研究を実施した結果、その健全性において危惧すべき事象を見出すことはできなかった。

 放射線照射による食品の保存技術の実用化に当たっては、法的な規制、経済性等の検討、そして何よりも国民的合意が必要なことは論をまたないところであるが、原子力委員会が定めた計画に基づいて実施された食品照射研究開発ほど各分野の英智を集め、長期間にわたって安全性等について研究を進めた保存技術研究開発は他に例を見ない。また、経済性についても、近年需要が高まっている医療用器具の滅菌及び実験動物用飼料の滅菌等と食品照射技術は、技術的には共通の部分が多く、設備の共用等によりコストの低減化を図ることも十分可能性のあるところである。

 当運営会議としては、本研究成果を基に、放射線照射による水産ねり製品の殺菌技術が関係者の協力の下に実用化に移されることを期待する。

(参考) 食品照射研究運営会議名簿

    栗飯原 景 昭   厚生省国立予防衛生研究所食品衛生部長

    飯 塚   広   東京理科大学理工学部教授

    石 館   基   厚生省国立衛生試験所安全性生物試験研究

              センター変異原性部長

    岩 原 繁 雄   (財)食品薬品安全センター秦野研究所

              食品環境部長

    田 島   真   農林水産省食品総合研究所食品流通部

              放射線利用研究室長

    池 田 正 道   東京都立アイソトープ総合研究所長

    岡 沢 精 茂   前理化学研究所副主任研究員

    田 村 直 幸   日本原子力研究所高崎研究所開発部長

    篠 山 茂 行   農林水産省東海区水産研究所保蔵部長

    鈴 江 緑衣郎   厚生省国立栄養研究所長

    戸 部 満寿夫   厚生省国立衛生試験所安全性生物試験研究

              センター毒性部長

    矢 野 信 礼   農林水産省畜産試験場加工部長

 主査 藤 巻 正 生   お茶の水女子大学長

    室 橋 正 男   日清製粉(株)顧問

    古 市 圭 治   厚生省大臣官房審議官

    菅 原 敏 夫   農林水産省農林水産技術会議事務局研究

              総務官

    松 井   隆   科学技術庁長官官房審議官

研究成果報告書(原案)作成ワーキンググループ

    伊 藤   均   日本原子力研究所高崎研究所開発部照射利用

              開発室副主任研究員

 主査 岩 原 繁 雄   (財)食品薬品安全センター秦野研究所

              食品環境部長

    江 指 隆 年   厚生省国立栄養研究所成人栄養部成人栄養

              研究室長

    岡 沢 精 茂   前理化学研究所副主任研究員

    篠 山 茂 行   農林水産省東海区水産研究所保蔵部長

    土 田 雅 子   厚生省国立予防衛生研究所食品衛生部主任

              研究官

    中 井 博 康   農林水産省畜産試験場加工部加工第2研究室長

    降 矢   強   厚生省国立衛生試験所安全性生物試験研究

              センター毒性部毒性第2室長




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