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照射効果(IRRADIATION EFFECT):食品に放射線を照射した場合の貯蔵、衛生化等の効果

殺虫(米)


発表場所 : 食品照射研究運営会議(放射線照射による米の殺虫に関する研究成果報告書(資料編))
著者所属機関名 : 農林水産省食品総合研究所
発行年月日 : 昭和58年12月
(2) 米の品質に与える照射の影響 I
1. 玄米のガンマー線処理と貯蔵中の品質変化
(1) 試験方法
a) 試料および照射処理
b) 官能検査
(2) 試験結果
(3) 小  括
2. 照射後の貯蔵条件が食味に与える影響
(1) 試験方法
a) 試料および照射処理
b) 官能検査
(2) 試験結果
a) 貯蔵中の食味変化
(3) 小  括
ま と め



(2)米の品質に与える照射の影響 I


(2) 米の品質に与える照射の影響 I
1. 玄米のガンマー線処理と貯蔵中の品質変化
(1) 試験方法
a) 試料および照射処理

 うまい米として「ささしぐれ」および「こしひかり」、味の中位の米として「こしじわせ」および「きんまぜ」、味の下位の米として「農林18号」および「はつゆき」の昭和41年産米6品種を使用した。

 照射は日本原子力研究所高崎研究所で行い、線量率5×10・E(4)R/hrのコバルト60ガンマー線源を用いた。線量は10、15、20、25、30krad(41年6月照射)である。照射後は常温下に玄米のまま貯蔵し、官能検査の都度88〜87%に搗精して炊飯した。

b) 官能検査

 10名のパネルにより1日2回、1度に4点の試料をテストした。試料は照射後3〜6カ月間常温に貯蔵後、炊飯した試料についてラテン方格によって試食順序を定め、外観、香り、味、粘り、硬さ、総合について採点した。

(2) 試験結果

 表2−1、2に「ささしぐれ」と「はつゆき」の食味変化を示した。うまい米を代表する「ささしぐれ」は、照射直後には香り味などで、若干スコアの低下があったが顕著な差はなかった。3カ月貯蔵後では30krad区の香り以外は有意差が見られなかった。6カ月後では30krad照射区で硬さの劣化が認められた以外は大差なく逆に香り、味では一部照射したものの方が高いスコアを示した。

 うまくない米とされる「はつゆき」もほぼ同じ傾向を示し3カ月貯蔵後で認められた品質劣化が6カ月貯蔵後はほぼ検知されなくなっている。

 「こしひかり」、「こしじわせ」(表2−3)、「きんまぜ」、「農林18号」(表2−4)では、こしじわせで、照射の影響がでやすいがそれ以外では、非照射米にくらべ照射(30krad)3カ月後の品質には有意な差は認められなかった。


表2−1 ”ささしぐれ”の貯蔵中の食味の変化
   
   
   
   
       照    射    直    後       
  3  カ  月  後  貯  蔵   
  6  カ  月  後  貯  蔵   
 0  
krad
 10 
krad
 15 
krad
 20  
 krad
 25 
krad
 30 
krad
 0  
krad
 10  
 krad
 20 
krad
 30  
 krad
 0  
krad
 10  
krad
 20 
krad
 30  
krad
外 観
香 り
 味 
粘 り
硬 さ
総 合
4.90
4.75
5.20
5.00
4.50
4.10
4.70
4.70
4.85
4.70
4.25
4.45
4.85
4.50
4.50
4.40
4.10
4.20
4.70 
4.45 
4.40*
4.60 
4.25 
4.25 
4.90
4.25
4.45
4.85
4.60
4.45
4.85
4.45
4.40
4.45
4.40
4.35
4.30
5.05
4.95
5.15
5.05
5.20
4.45 
4.95 
4.55 
4.60 
4.70 
4.45*
4.90
4.60
4.70
4.75
4.95
5.20
5.50*
4.35*
4.75 
4.90 
4.85 
4.75 
4.30
3.70
3.40
4.20
4.05
3.55
5.00*
4.30*
4.30*
4.25 
4.20 
4.20 
4.95
4.45
4.25
4.05
4.00
4.00
4.55 
4.25*
3.70 
3.75 
3.25*
3.65 

 *印は5%の危険率で未照射米との間に有意差あり



表2−2 ”はつゆき”の貯蔵中の食味変化
   
   
   
   
       照    射    直    後      
  3  カ  月  後  貯  蔵  
  6  カ  月  後  貯  蔵  
 0  
krad
 10 
krad
 15 
krad
 20 
krad
 25 
krad
 30 
krad
 0  
krad
 10 
krad
 20 
krad
 30  
 krad
 0  
krad
 10 
krad
 20 
krad
 30  
krad 
外 観
香 り
 味 
粘 り
硬 さ
総 合
4.85
4.55
3.70
3.65
3.55
3.60
4.55
4.50
3.55
3.75
3.60
3.45
4.55
4.40
3.60
3.55
3.50
3.35
4.45
4.55
3.60
3.70
3.50
3.40
4.30
4.25
3.70
3.75
3.35
3.15
4.25
3.65
3.55
3.50
3.35
3.15
4.00
4.20
3.65
3.30
3.40
3.55
4.55
4.30
3.40
3.00
3.40
3.40
4.40
4.10
3.65
3.05
3.50
3.30
4.10 
3.40*
3.10*
2.50*
3.20 
3.10 
3.20
3.50
3.20
2.80
3.50
2.90
3.55
4.15
3.65
2.65
3.40
3.40
3.75
3.85
3.45
3.25
3.40
3.40
4.00 
4.15*
3.75 
3.30 
3.65 
3.70*

 *印は5%の危険率で未照射米との間に有意差あり



表2−3 ”こしひかり””こしじわせ”の3カ月貯蔵後の食味
   
   
   
   
   こしひかり(3カ月貯蔵)    
     こしじわせ(3カ月貯蔵)     
 0  
krad
 15 
krad
 25 
krad
 30 
krad
 0  
krad
 10  
 krad
 20  
 krad
 30  
 krad
外 観
香 り
 味 
粘 り
硬 さ
総 合
5.45
4.85
4.20
3.80
4.10
3.95
4.80
4.55
4.15
3.95
4.25
4.05
4.70
4.50
4.30
4.00
4.60
4.15
4.65
4.25
4.20
3.75
3.90
3.75
5.15
4.55
4.65
4.85
5.05
4.85
5.05 
4.25 
4.40 
4.55 
4.35*
4.45 
4.90 
4.30 
4.40 
4.40 
4.30*
4.30*
5.20 
4.45 
4.10 
4.20*
4.20*
4.25*

 *印は5%の危険率で未照射米との間に有意差あり



表2−4 ”きんませ””農林18号”の3カ月貯蔵後の食味
   
   
   
   
    金  南  風 (3カ月貯蔵)
  農 林 18 号 (3カ月貯蔵) 
 0  
krad
 10 
krad
 25 
krad
 30 
krad
 0  
krad
 10 
krad
 20 
krad
 30 
krad
外 観
香 り
 味 
粘 り
硬 さ
総 合
4.75
4.55
4.05
4.25
4.50
4.20
4.70
4.70
4.20
4.55
4.75
4.65
4.60
4.65
4.00
4.80
4.80
4.70
4.60
4.15
3.65
4.45
4.65
4.10
4.50
4.00
3.65
3.95
3.95
3.80
4.25
4.30
4.20
3.65
4.05
4.25
4.60
3.90
3.50
3.55
3.60
3.60
4.15
3.70
3.55
3.60
3.90
3.55

 全照射試料区に未照射米との間に有意差なし


(3) 小  括

 41年産米6品種を用いてガンマー線照射した実験結果から、10〜30krad照射後には有意差があったが3カ月貯蔵した米では非照射米との間にほとんど有意差は認められなかった。また「ささしぐれ」と「はつゆき」の2品種を用いて照射後の貯蔵期間中の食味の変化をみると、照射直後には若干の差異がみられたものの3〜6カ月後にはほぼ有意差はなくなった。

2. 照射後の貯蔵条件が食味に与える影響
(1) 試験方法
a) 試料および照射処理

 上位品質米として43年産「こしひかり」を、中下位品質米として43年産「ふじみのり」を用いた。米は玄米のまま10kg詰めダンボール箱に入れ、日本原子力研究所高崎研究所でコバルトー60ガンマー線源により20および50krad(5×10・E(4)R/hr、常温)の照射を行い、10℃または30℃に貯蔵した。官能検査は玄米を88%程度に搗精して行った。

b) 官能検査

 照射直後および1、3、5、7カ月貯蔵後に官能検査を行った。検査は12人のパネルにより1日1品目、1度に10℃および30℃試料合わせて6点を外観、香り、味、粘り、硬さおよび総合について9点法で採点した。

(2) 試験結果
a) 貯蔵中の食味変化

 表2−5に「こしひかり」の10℃および30℃貯蔵中における食味変化を示し、それら貯蔵温度におけるスコアを平均して図2−1を得た。又「ふじみのり」につ

 「こしひかり」では、照射直後に認められた有意な差は、貯蔵温度に関係なく1カ月をすぎるとほとんど認められなくなり照射の限界線量は50kradと思われた。

 「ふじみのり」では、照射直後に認められた有意な差は、20krad照射試料ではその後の貯蔵によりほとんど認められなくなったが、50krad区では貯蔵後も粘りを除いてわずかに劣っており、限界線量は「こしひかり」よりも低いものと思われる。

 貯蔵温度の影響についてみると、照射、非照射に係わりなく10℃貯蔵の方が品質低下防止に有効であった(図2−3、4)。                 いても同様にして表2−6および図2−2を得た。


表2−5 照射米(こしひかり)の官能評価
     
     
     
     
     
                     線         量      (krad)    線  量 (krad)  
  照  射  直  後 
 1  ケ  月  後   
 3  ケ  月  後 
  5  ケ  月  後   
  7  ケ  月  後   
 0 
 20
 50  
 0 
 20 
 50  
 0 
 20
 50 
 0 
 20  
 50  
 0 
 20  
 50  
10℃貯蔵
  外 観
  匂 い
   味 
  ねばり
  硬 さ
  総 合
   
5.2
4.9
4.6
5.2
5.1
5.1
   
5.2
5.2
4.8
5.0
4.7
5.0
     
4.4* 
4.3  
4.2  
4.3* 
4.2  
4.3**
   
5.7
4.9
5.1
4.7
4.5
5.0
    
4.7*
4.7 
4.6 
4.7 
4.7 
4.9 
     
4.9  
4.8  
4.9  
4.8  
4.9  
4.9  
   
5.5
4.8
4.8
5.0
5.0
5.0
   
5.9
5.4
5.3
5.2
5.1
5.2
    
5.5 
5.0 
4.7 
4.6 
4.4*
4.7 
   
4.9
4.2
4.1
4.0
4.4
4.1
     
5.3  
4.9* 
4.6  
4.5  
4.4  
4.7  
     
4.9  
4.7  
4.7  
4.5  
4.4  
4.6  
   
5.7
4.1
4.6
4.5
4.4
4.1
     
5.3  
5.3**
4.6  
4.5  
4.6  
4.8  
     
5.2  
4.6* 
3.9  
4.1  
3.9  
4.0  
30℃貯蔵
  外 観
  匂 い
   味 
  ねばり
  硬 さ
  総 合
             
             
             
             
             
             
             
   
5.3
4.8
4.2
4.7
4.3
4.6
    
4.8 
4.4 
3.9 
4.0 
3.8 
4.2 
     
4.0**
3.8**
3.8  
4.0  
3.9  
3.8* 
   
2.6
2.9
2.6
3.1
3.3
2.5
   
2.7
2.9
2.5
3.0
3.0
2.6
    
2.3 
2.7 
2.4 
2.4 
2.6*
2.3 
   
3.9
4.2
3.8
3.4
3.4
3.3
     
3.6  
3.5* 
2.7**
2.7  
3.1  
2.9  
     
3.6  
3.4* 
2.9**
2.6  
3.1  
2.9  
   
2.8
3.0
2.6
2.4
2.4
2.3
     
3.0  
3.3  
2.4  
2.6  
2.4  
2.4  
     
2.8  
3.1  
2.4  
2.5  
2.1  
2.2  

 * :危険率5%で有意差あり
 **:危険率1%で有意差あり



表2−6 照射米(ふじみのり)の官能評価
     
     
     
     
     
                      線       量       (krad)    線  量 (krad)
 照   射   直   後 
 1  ケ  月  後 
 3  ケ  月  後   
  5  ケ  月  後   
  7  ケ  月  後 
 0 
 20  
 50  
 0 
 20
 50 
 0 
 20 
 50  
 0 
 20  
 50  
 0 
 20
 50  
10℃貯蔵
  外 観
  匂 い
   味 
  ねばり
  硬 さ
  総 合
   
5.6
5.9
5.6
5.7
5.0
5.7
     
4.6**
4.8**
4.7* 
4.9  
4.6  
4.7**
     
5.1  
4.4**
4.5* 
4.8  
4.5  
4.7**
   
5.6
5.1
4.6
4.7
4.9
4.8
   
5.1
5.2
5.4
4.6
4.8
5.2
    
4.6 
4.9 
4.4 
4.1 
4.4 
4.3 
   
4.0
4.5
4.1
3.5
4.0
4.2
    
5.1*
4.5 
3.9 
4.0 
4.1 
4.2 
     
4.9* 
4.5  
4.1  
4.2  
4.4  
4.2  
   
5.7
5.6
5.4
5.0
4.7
5.1
     
5.5  
4.8* 
4.8  
4.6  
4.2  
4.6  
     
4.7**
4.7* 
4.5  
4.5  
4.2  
4.5  
   
5.8
4.7
4.3
4.5
4.5
4.6
   
5.5
4.9
4.7
4.7
4.7
4.8
     
4.7**
4.1  
4.2  
4.3  
4.2  
4.3  
30℃貯蔵
  外 観
  匂 い
   味 
  ねばり
  硬 さ
  総 合
               
               
               
               
               
               
               
   
5.0
4.3
4.6
3.9
4.0
4.1
   
4.0
4.3
4.2
4.2
4.3
4.1
    
3.8*
4.2 
3.9 
3.8 
4.0 
3.8 
   
3.2
3.5
3.1
3.4
3.5
3.1
    
3.6 
4.0 
3.4 
3.8 
4.1 
3.4 
     
4.4**
4.5**
4.0**
3.8  
4.3* 
4.0**
   
4.4
4.2
4.1
4.0
4.0
3.9
     
3.6**
3.9  
3.6  
3.4  
3.5  
3.3  
     
3.4**
3.3  
3.5  
3.7  
3.6  
3.0**
   
3.2
3.7
3.1
3.1
3.1
3.2
   
3.7
4.0
3.0
3.2
3.1
3.2
     
3.2  
3.2* 
2.5  
2.6  
2.4* 
2.6* 

 * :5%危険率で有意差あり
 **:1%危険率で有意差あり



図2−1 照射米(こしひかり)の官能検査



図2−2 照射米(ふじみのり)の官能検査



図2−3 貯蔵温度と照射米(こしひかり)の官能検査



図2−4 貯蔵温度と照射米(ふじみのり)の官能検査


(3) 小  括

a) ガンマー線照射後、長期間貯蔵することによって食味に差の出る限界線量は、「こしひかり」で50krad「ふじみのり」で20〜50kradであった。

b) 照射後10℃に貯蔵するならば非照射、照射に関係なく貯蔵中の食味劣化は阻止されるが30℃貯蔵では貯蔵期間とともに食味は低下した。

ま と め

 今回の試験では、玄米をガンマー線照射後、長期間貯蔵することによって食味に差の出る限界線量は米の種類により20〜50kradの幅があった。低線量照射でも照射直後には官能評価が低下した。




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