殺虫の目的をもって米に20〜40kradのガンマ線照射を行ったとき、米の品質にどのような影響を与えるかを明らかにするため、米および米粉の物理性(粘弾性など)、炊飯時の香気成分、米の主蛋白質グルテリンのアミノ酸組成、米粒中の全アミノ酸および遊離アミノ酸、脂質、有機酸について各種測定・分析を行うとともに、付着微生物に対する照射の影響を検討した。
水稲うるち「こしひかり」玄米に20kradおよび40kradのコバルト60線源によるガンマ線照射を行い非照射対照とともに、各試験項目の試験方法に記した方法に従い試料を調製した。
イ.供試米の精白および製粉
試料玄米を佐竹式モーターワンパスおよび、ファストパーラーにて91%および90、80、70、60、50、40、30%の精白米を調製し、91%精白米については、2%を石臼式製粉機にて、常法により製粉を行ない米粉を得て供試した。
ロ.澱粉の分離精製
米粒からスタートするアルカリ法により、各試料から澱粉を分離精製した。
ハ.米粉および澱粉のアミログラフ
米粉は、乾物濃度9.0%、澱粉は7.0%にて、30℃からスタートする常法により実施した。
ニ.団子の粘弾性の測定
200gの米粉をファリノグラフに取り、これに加水しながら捏ね、適当な硬さ、即ち、190BVまで加水し、加水量を測定するとともに、この生地を直径15mmのクラハロンケーシングに詰めて両端をシール後、沸騰水中で20分間加熱処理した後、直ちに、水道水にて10分間冷却、更に室温に10分放置してから、ゼリーチェスターにて硬度を測定した。
更に、25℃恒温器中にて貯蔵して、1、2、3、4日後の硬度を測定した。
ホ.米粒各部の吸水分布の測定
100、90、80、70、60、50、40、および30%の精白米について、15℃にて20時間水浸漬を行ない水切り後、秤量して、それぞれの乾物吸水率を測定する。次に次式にて各部の吸水分布を算出した。
{(A×B−C×D)/(A−C)}×100=区間吸水率
A:精白度
B:Aの乾物吸水率 × 1/100
C:精白度
D:Cの乾物吸水率 × 1/100
イ.米粉の団子としての粘弾性
団子の粘弾性を測定した結果は、表5−1の如くである。
団子の物性およびその経時変化に密接な関係をもつ吸水率も照射により殆ど変化はなかった。また、団子の硬度も、直後において、多少照射区が低い値を示す他は、殆ど差異なく、団子としての粘弾性は、照射により変化がないことが知られる。
ロ.米粉および精製澱粉のアミログラフ
団子としての粘弾性に照射が影響を与えないことが知られたが、これに直接関係する米粉および精製した澱粉のアミログラフを実施した。その結果は、表5−2、5−3の如くである。
この結果からも、照射による変化は全く認められない。
ハ.米粒各部の吸水分布
米粉および米の粘弾性を考えた場合、澱粉の性質とともに、糊化時の水分環境を支配する米粒中の吸水の分布が大きな問題となり、これにより米粉の粒度、蒸米の均一性が支配される。特に、澱粉の糊化膨張性に差がない場合には、この米粒各部の吸水性が主因子となるので、照射の影響を更に明確にするために、吸水分布を測定した。その結果は、図5−1の如くである。
20krad、40kradともに非照射区と全く差が認められなかった。
以上の実験から、20〜40kradの照射では、米の粘弾性は影響を受けず、米粉、蒸米として実用上の変化は、全くないものと考えられる。
試験区 |
項 目 |
|||||
水 分 |
吸水率 |
団 子 の 硬 度 g/cm2 |
||||
0 |
1日 |
2日 |
4日 |
|||
非 照 射 20krad 40krad |
11.01% 11.18 11.08 |
76.7% 75.7 76.0 |
2018 1896 1896 |
3320 3240 3093 |
5203 5122 5339 |
8667 8376 8659 |
(乾物濃度 9.0%) |
試験区 |
項 目 |
||||||
糊化開始温度 (℃) |
最高粘度点 温度℃ 粘度BV |
97.5℃ 粘 度 B V |
加熱粘度* 低下率 (%) |
冷却粘** 度増減率 (%) |
30℃ 冷却後 粘度BV |
米 粉 の 平 均 粘 度 |
|
非 照 射 20krad 40krad |
68.4 81.2 68.8 80.7 69.0 79.8 |
95.1 993 95.6 990 95.1 1000 |
443 452 449 |
58.4 57.4 58.10 |
89.4 88.4 87.0 |
888 885 870 |
107メッシュ 107 107 |
* :加熱粘度低下率={(加熱最高粘度−97.5℃10分恒温加熱後粘度)/(加熱最高粘度)} × 100 ** :冷却粘度増減率=(冷却最高粘度/加熱最高粘度) × 100 ***:糊化開始温度は2段であるのでそのまま測定した。 |
(乾物濃度 7.0%) |
試験区 |
項 目 |
||||||
糊化開始温度 (℃) |
最高粘度点 温度℃ 粘度BV |
97.5℃ 粘 度 B V |
97.5℃ 10分恒温 後粘度 |
加熱粘度 低下率 (%) |
冷却粘度 増減率 (%) |
30℃ 冷却後粘度 B V |
|
非 照 射 20krad 40krad |
68.3 68.3 68.3 |
93.8 570 93.8 530 92.3 540 |
450 370 350 |
270 255 255 |
56.1 53.8 53.7 |
125.0 115.0 113.0 |
710 610 610 |
缶詰状態で炊いた米飯のヘッドスペース・ガスの変化をFIDを備えたガスクロマトグラフィーにより以下のように分析した。
イ.精米、炊飯
歩留り約89%で精白した米60gを6号缶(直径7.5cm、高さ5.3cm)に入れ水65mlを加えて95℃、10分間レトルト中で脱気。巻締めして約105℃1時間レトルト中で炊いた。同時に缶中に水65mlのみを入れたものを加えプランクとした。
ロ.Headspace gas(HG)のサンプリング
缶内のガスを取り出すために製缶の際、缶の中央にシリンジで突き通す口を設けた。この口はシリコンゴムできっちりとふさがれ何回も缶のHGを取り出すことが可能となっている。また、そのために内部のガスが漏れることなく、同時に飯のフレーバーの化学的性質を変えずにガスを取り出すことができる。HGは缶の上部より1.5〜2cmでこの空間にガスタイトのシリンジ(ハミルトン社製)を突き刺し、取り出したガス1.0mlをガスクロマトグラフィーにかけた。なおサンプリングに際しては沸騰水中で15分間缶を加熱した。
ハ.充填剤の選定
望ましい分離を得るために充填剤を検討した結果
5% Polypropyleneglycol
4025(5%PPG)........水素結合性
20% LAC−3R−728(20%LAC)..強 極 性
20% Dioctyl phthalate
(20%DOP)..微 極 性
をえらびプロマグラムを取った。
ニ.ガスクロマトグラフィー
機種および実施条件は以下の通り
INSTRUMENT 日立KGL−2B
COLUMN 5%PPG on Shimalite
W 60〜80mesh 2m
20%LAC on Diasolid
60〜80mesh 2m
20%DOP(日立製)
60〜80mesh 2m
COLUMN TEMP 60℃
SAMPLE TEMP 95℃
DETECTOR FID
CARRIER GAS N2
FLOW RATE 60ml・min
AIR PRESS 1.2kg/cm2
H2 PRESS 1.0kg/cm2
ATTENUATION RANGE 1×1
これらの実験条件をきめ、照射米のガスクロマトグラフィーを行なった。なおサンプルは以下の4種である。
I : 0−0−0 非照射 収穫直後のもの
0−0−20 収穫直後のもの20krad照射
II: 0−0−0−3R 非照射3ヶ月室温貯蔵
0−0−20−3R 収穫直後20krad照射
3ヶ月室温貯蔵
ガスクロマトグラフィーの充填剤に5%PPG,20%LAC、20%DOPの3種を用いて行なったが各々のパターンの違いはあるが、照射による傾向はほぼ同様であったので5%PPGを中心に以下にまとめた。
サンプル 線量 ピーク数 増減 照射によるピー
ピーク面積の
変化
I :0−0−0 0 11 なし 照射により各ピ
ークの面積は、
わずかであるが
大きくなってい
0−0−20 20 11 なし ることが認めら
れる。しかし全
体的に系統立っ
た変化はみられ
ない。
II:0−0−0−3R 0 11 +3 照射により20
−3Rの後半の
増加が大きい。
0−0−20−3R 20 14 +3 (20%DOP
では特にはっき
りしている)
以上の結果から(1)においては、照射により新しいピークがあらわれていないが、ピーク面積が僅かであるが増しているから、香気が強くなっていることが考えられるが、そう著しいものではない。
(II)では(I)や0−0−0−3Rにくらべ3個の新しいピークがみられ、特に目立って増加しているピークが認められる。これにより香気が強くなっていることが考えられる。恐らくこれは照射後室温貯蔵の二義的な反応が関与して生じたものと考えられる。
試料玄米の0、20、40kradのガンマ線処理を行ったもの、およびこれらの区分を2ヶ月貯蔵したものを供試した。
上記の6区分の試料玄米をそれぞれ精白し(精白時の重量減20%)、粉砕したのち、1M食塩水で5回、水で5回抽出してアルブミン、グロブリンを除き、ついで0.05N水酸化ナトリウム液でpH12.3としたアルカリ溶液で抽出し、塩酸で中和沈澱させて粗グルテリンを調製した。これを沢井・森田法にしたがって食塩存在下でアルカリ性溶液から分別沈澱することによりグルテリンを精製し、66%アルコールで抽出してプロラミンを除き、アルコール、エーテルで順次洗って乾燥したものを分析に併用した。
これら6種のグルテリン標品を、105℃で加熱乾燥して含水量を測定し、またセミミクロケルダール法により含窒素量を測定した。アミノ酸分析は6N塩酸により無酸素状態のもとで105℃で22時間および70時間加水分解したのち、減圧乾燥したものについて、アミノ酸自動分析機を用いて行った。
通常のアミノ酸については、22時間および70時間加水分解物についての定量値を平均し、スレオニン、セリン、アンモニアについては、加水分解0時間に外挿した値を求めて分解量を補正した。バリン、イソロイシンの値は、22時間の加水分解では不十分なので、70時間加水分解の値のみを採用した。なおメチオニン、シスチンの定量には、グルテリンをあらかじめ過蟻酸酸化したのち加水分解を行ない、アミノ酸自動分析機でそれぞれミチオニンスルフォン、およびシステイン酸として定量した。またトリプトファンおよびチロシンは、グルテリンの0.1N水酸化ナトリウム溶液について分光学的に定量した。
6区分のグルテリンについてアミノ酸分析を行なった結果は表5−4〜9に示した。これらにはアミノ酸定量値合計、アミノ酸残基合計、および窒素百分率をともに示したが、いずれもきわめて満足すべき回収率を示している。照射線量、および貯蔵有無の違いによる差異を比較するため、とくに表5−4〜9中の第4列のアミノ酸残基量の値をまとめて表5−10に示した。
これらの表に示した値から明らかなように、6区分のグルテリンは、調製、加水分解などをそれぞれ個別的に行なったにもかかわらず、これらのアミノ酸組成には有意の差を認めることはできない。すなわち、玄米において20あるいは40kradのガンマ線照射によっても、またそれぞれを2ヶ月間貯蔵した後でも、グルテリンを構成するアミノ酸残基には変化がないと結論できる。これは米グルテリンが胚乳内においてプロテインボディ中に不溶形態存在し、きわめて少ない含水状態において貯蔵されていることに原因して、放射線の影響がほとんどなく、また2ヶ月の貯蔵中にも代謝をうけないと考えられる。
グルテリンは米内胚乳蛋白質の80%以上を占めているので、ガンマ線照射は実用上差し支えないといえる。
無照射、無貯蔵区分グルテリンのアミノ酸定量値 |
|
グルテリン100g当りのアミノ酸定量値(g) |
グルテリン 100gあたりの アミノ酸残基量 (g) |
窒素百分率 (%) |
||
22 時間 加水分解物 |
70 時間 加水分解物 |
平 均 または外挿値 |
|||
リジン ヒスチジン アンモニア アルギニン アスパラギン酸 スレオニン セリン グルタミン酸 プロリン グリシン アラニン バリン イソロイシン ロイシン フェニルアラニン メチオニン シスチン チロシン トリプトファン 合 計 |
3.97 2.80 1.95 10.58 |
4.18 2.99 2.07 10.66 |
4.08 2.90 1.90*+ 10.62 |
3.58 2.56 1.56* 9.52 9.84 3.44 5.24 18.66 4.04 3.57 4.63 6.17 4.59 7.74 6.04 1.59 1.85 5.93 1.42 100.41 |
4.46 4.52 8.93 19.58 6.87 2.75 4.81 11.56 3.32 5.04 5.21 4.98 3.26 5.50 3.32 0.80 0.97 2.92 1.20 100.00 |
11.29 4.00 6.10 21.00 4.89 4.61 5.93 (6.28) (4.53) 8.89 6.66 |
11.47 3.91 5.58 21.51 4.68 4.78 5.66 7.29 5.32 9.05 6.89 |
11.38 4.05* 6.32* 21.26 4.79 4.70 5.80 7.29 5.32 8.97 6.78 |
|||
1.74 2.04 |
1.79 2.10 |
1.77 2.07** |
|||
|
|
2.76** 1.56 |
|||
|
|
116.42 |
カッコ内の値は平均に用いない。 +は総計に入れない。 * は加水分解0時間への外挿値 **は分光学的定量値 |
20krad照射、照射直後区分グルテリンのアミノ酸定量値 |
|
グルテリン100g当りのアミノ酸定量値(g) |
グルテリン 100gあたりの アミノ酸残基量 (g) |
窒素百分率 (%) |
||
22 時間 加水分解物 |
70 時間 加水分解物 |
平 均 または外挿値 |
|||
リジン ヒスチジン アンモニア アルギニン アスパラギン酸 スレオニン セリン グルタミン酸 プロリン グリシン アラニン バリン イソロイシン ロイシン フェニルアラニン メチオニン シスチン チロシン トリプトファン 合 計 |
4.29 3.06 1.89 10.83 |
4.13 2.83 1.97 10.44 |
4.21 2.95 1.85*+ 10.64 |
3.69 2.61 1.52+ 9.54 9.91 3.44 5.01 18.44 4.31 3.58 4.84 6.19 4.61 7.61 5.80 1.55 1.64 5.91 1.52 100.20 |
4.63 4.58 8.71 19.60 6.93 2.75 4.64 11.46 3.55 5.04 5.44 4.99 3.27 5.39 3.15 0.74 0.86 2.92 1.32 99.98 |
11.40 4.02 5.90 20.93 4.99 4.75 5.93 (6.42) (4.67) 8.79 6.60 |
11.52 3.95 5.56 21.09 5.22 4.67 6.20 7.31 5.34 8.85 6.41 |
11.46 4.05* 6.05* 21.01 5.11 4.71 6.07 7.31 5.34 8.82 6.51 |
|||
1.55 1.72 |
1.88 1.94 |
1.72 1.83 |
|||
|
|
6.74** 1.67** |
|||
|
|
116.20 |
記号は表5−4参照 |
40krad照射、照射直後区分グルテリンのアミノ酸定量値 |
|
グルテリン100g当りのアミノ酸定量値(g) |
グルテリン 100gあたりの アミノ酸残基量 (g) |
窒素百分率 (%) |
||
22 時間 加水分解物 |
70 時間 加水分解物 |
平 均 または外挿値 |
|||
リジン ヒスチジン アンモニア アルギニン アスパラギン酸 スレオニン セリン グルタミン酸 プロリン グリシン アラニン バリン イソロイシン ロイシン フェニルアラニン メチオニン シスチン チロシン トリプトファン 合 計 |
3.93 2.86 1.73 10.76 |
3.84 2.80 1.85 10.40 |
3.89 2.83 1.70*+ 10.58 |
3.41 2.50 1.40+ 9.49 9.83 3.38 5.05 19.06 4.11 3.59 4.67 6.18 4.66 7.50 5.82 1.76 1.69 6.01 1.36 100.07 |
4.36 4.47 8.13 19.74 6.97 2.73 4.70 12.02 3.43 5.11 5.34 5.05 3.37 5.40 3.19 0.87 0.93 3.02 1.16 99.99 |
11.23 3.96 6.01 21.55 5.11 4.69 5.89 (6.51) (4.58) 8.71 6.71 |
11.70 3.94 5.81 21.88 4.63 4.75 5.80 7.30 5.40 8.67 6.35 |
11.37 3.98* 6.10* 21.72 4.87 4.72 5.85 7.30 5.40 8.69 6.53 |
|||
1.95 1.89 |
1.95 1.89 |
1.95 1.89 |
|||
|
|
6.86** 1.49** |
|||
|
|
116.02 |
記号は表5−4参照 |
無照射、60日貯蔵区分グルテリンのアミノ酸定量値 |
|
グルテリン100g当りのアミノ酸定量値(g) |
グルテリン 100gあたりの アミノ酸残基量 (g) |
窒素百分率 (%) |
||
22 時間 加水分解物 |
70 時間 加水分解物 |
平 均 または外挿値 |
|||
リジン ヒスチジン アンモニア アルギニン アスパラギン酸 スレオニン セリン グルタミン酸 プロリン グリシン アラニン バリン イソロイシン ロイシン フェニルアラニン メチオニン シスチン チロシン トリプトファン 合 計 |
4.11 2.96 1.77 10.54 |
4.02 2.73 1.98 9.96 |
4.07 2.85 1.68*+ 10.25 |
3.57 2.52 1.38+ 9.19 9.85 3.38 4.97 18.63 4.23 3.59 4.79 6.31 4.72 7.67 5.91 1.56 2.07 5.60 1.51 100.91 |
4.52 4.47 8.00 19.08 6.96 2.73 4.64 11.72 3.54 5.10 5.51 5.16 3.36 5.51 3.25 0.75 1.10 3.19 1.33 99.92 |
11.35 3.96 5.80 20.95 4.89 4.75 5.90 (6.99) (5.09) 8.74 6.70 |
11.42 3.94 5.43 21.40 5.15 4.70 6.12 7.46 5.47 9.04 6.55 |
11.39 3.98* 6.00* 21.23 5.02 4.73 6.01 7.46 5.47 8.89 6.63 |
|||
1.47 2.42 |
1.99 2.21 |
1.73 2.32 |
|||
|
|
6.22** 1.66** |
|||
|
|
116.84 |
記号は表5−4参照 |
20krad照射、60日貯蔵区分グルテリンのアミノ酸定量値 |
|
グルテリン100g当りのアミノ酸定量値(g) |
グルテリン 100gあたりの アミノ酸残基量 (g) |
窒素百分率 (%) |
||
22 時間 加水分解物 |
70 時間 加水分解物 |
平 均 または外挿値 |
|||
リジン ヒスチジン アンモニア アルギニン アスパラギン酸 スレオニン セリン グルタミン酸 プロリン グリシン アラニン バリン イソロイシン ロイシン フェニルアラニン メチオニン シスチン チロシン トリプトファン 合 計 |
4.04 2.74 1.87 10.47 |
4.06 2.86 1.95 10.26 |
4.05 2.80 1.72*+ 10.37 |
3.55 2.47 1.41* 9.30 9.99 3.41 5.18 18.86 4.28 3.64 4.62 6.46 4.78 7.71 6.01 1.66 1.88 5.66 1.32 101.05 |
4.50 4.39 8.14 19.28 7.04 2.71 4.79 11.84 3.58 5.14 5.25 5.25 3.41 5.48 3.29 0.81 0.98 2.94 1.15 99.97 |
11.45 3.99 6.05 21.33 5.03 4.75 5.40 (6.14) (4.46) 8.90 6.80 |
11.64 3.94 5.52 21.65 5.13 4.83 6.17 7.63 5.54 8.98 6.69 |
11.55 4.02* 6.25* 21.49 5.08 4.79 5.79 7.63 5.54 8.94 6.75 |
|||
1.75 2.05 |
1.93 2.15 |
1.84 2.10 |
|||
|
|
6.28** 1.45** |
|||
|
|
117.03 |
記号は表5−4参照 |
40krad照射、60日貯蔵区分グルテリンのアミノ酸定量値 |
|
グルテリン100g当りのアミノ酸定量値(g) |
グルテリン 100gあたりの アミノ酸残基量 (g) |
窒素百分率 (%) |
||
22 時間 加水分解物 |
70 時間 加水分解物 |
平 均 または外挿値 |
|||
リジン ヒスチジン アンモニア アルギニン アスパラギン酸 スレオニン セリン グルタミン酸 プロリン グリシン アラニン バリン イソロイシン ロイシン フェニルアラニン メチオニン シスチン チロシン トリプトファン 合 計 |
4.01 2.93 1.97 10.66 |
3.93 2.75 2.06 9.91 |
3.97 2.84 1.93*+ 10.29 |
3.48 2.51 1.59* 9.23 9.74 3.44 5.16 18.49 4.01 3.53 4.71 6.16 4.50 7.44 5.65 1.72 1.92 5.57 1.41 99.34 |
4.40 4.46 9.20 19.15 6.83 2.78 4.80 11.63 3.36 5.03 5.38 5.03 3.24 5.32 3.12 0.87 1.04 3.12 1.21 99.97 |
11.50 3.99 5.93 21.40 4.67 4.74 6.02 (7.21) (5.13) 8.82 6.45 |
11.02 3.86 24 20.74 4.83 4.54 5.80 7.28 5.22 8.42 6.23 |
11.26 4.05* 6.23* 21.07 4.75 4.64 5.91 7.28 5.22 8.62 6.34 |
|||
2.04 2.09 |
1.77 2.21 |
1.91 2.15 |
|||
|
|
6.18** 1.55** |
|||
|
|
115.01 |
記号は表5−4参照 |
ガンマ線照射米中のグルテリンのアミノ酸組成 [100gグルテリン中のアミノ酸残基(g)] |
照射(krad) 貯蔵 (日) |
0 0 |
20 0 |
40 0 |
0 60 |
20 60 |
40 60 |
リジン ヒスチジン アンモニア アルギニン アスパラギン酸 スレオニン セリン グルタミン酸 プロリン グリシン アラニン バリン イソロイシン ロイシン フェニルアラニン メチオニン シスチン チロシン トリプトファン 合 計 |
3.58 2.56 (1.56) 9.52 9.84 3.44 5.24 18.66 4.04 3.57 4.63 6.17 4.59 7.74 6.04 1.59 1.85 5.93 1.42 100.41 |
3.69 2.61 (1.52) 9.54 9.91 3.44 5.01 18.44 4.31 3.58 4.84 6.19 4.61 7.61 5.80 1.55 1.64 5.91 1.52 100.20 |
3.41 2.50 (1.40) 9.49 9.83 3.38 5.05 19.06 4.11 3.59 4.67 6.18 4.66 7.50 5.82 1.76 1.69 6.01 1.36 100.07 |
3.57 2.52 (1.38) 9.19 9.85 3.38 4.97 18.63 4.23 3.59 4.79 6.31 4.72 7.67 5.91 1.56 2.07 5.60 1.51 100.91 |
3.57 2.47 (1.41) 9.30 9.99 3.41 5.18 18.86 4.28 3.64 4.62 6.46 4.78 7.71 6.01 1.66 1.88 5.66 1.31 101.05 |
3.48 2.51 (1.59) 9.23 9.74 3.44 5.16 18.49 4.01 3.53 4.71 6.16 4.50 7.44 5.65 1.72 1.92 5.57 1.41 99.34 |
栄養的見地から全アミノ酸の組成を、食味の見地から遊離アミノ酸を定量分析したが、試料は20および40krad照射したのち20日後は玄米のみ、2.5ヶ月後は玄米および精白米について分析した。
イ.全アミノ酸の分析法
試料を粉砕機で細粉とし、その0.1gに80倍量の6規定塩酸を加え脱気し、パイレックス封管中で110℃、22時間加水分解した。加水分解後、塩酸を減圧下で除去し、pH2.2のクエン酸緩衝液で定容し、その適当量を用いて日立アミノ酸自動分析計で各アミノ酸を比色定量した。なおシスチンはこの加水分解中破壊されてしまうので定量はできない。
ロ.遊離アミノ酸の分析法
粉砕機で細粉とした試料25gに100mlの75%エタノールを加え乳鉢で良く磨砕した後、80℃で15分間加熱し、遊離アミノ酸を抽出した。抽出液をろ別後、残渣を再抽出し抽出液を合わせ減圧下でアルコールを除去し、クエン酸緩衝液で定容した。この適当量を用いて全アミノ酸と同じくアミノ酸自動分析計で遊離アミノ酸を比色定量した。
ハ.水分および窒素含量
水分は試料を105℃で風乾し重量の減少から求めた。窒素含量の測定はセミミクロケルダール法によった。
イ.全アミノ酸組成
照射してから20日後に分析した玄米の全アミノ酸組成を表5−11に示す。各アミノ酸の含量は新鮮重量1g当りのマイクロモル数で表わしてある。若干、値が変動しているものもあるが、測定誤差と考えられ、40kradまでの照射では玄米の全アミノ酸組成に変化は見られないと考えられる。また、照射後2.5ヶ月貯蔵した米については、玄米の全アミノ酸組成を表5−12に、白米については表5−13に示した。この場合も照射による変化は見られない。以上のことは、試料の水分含量が表5−14に示される様に、照射によって変化しないことから乾物重量当りについてもいえることである。
また、表5−15に示される窒素含量と、表5−11〜13の各アミノ酸の定量値の合計がほぼ等しいことから、全アミノ酸はほぼ完全に定量されているといえる。また、米にはアミノ酸以外の含窒素化合物は少ないといえる。
ロ.遊離アミノ酸組成
照射20日後に分析した玄米の遊離アミノ酸組成を表5−16に、照射後2.5ヶ月貯蔵した玄米および白米の遊離アミノ酸組成を表5−17、5−18に示す。いずれの場合も照射による影響は見られなかった。
以上により、米に40kradまでのガンマ線照射を行なっても、米の全アミノ酸および遊離アミノ酸に影響を及ぼすことはないと判定した。
照射20日後の玄米粒のアミノ酸組成 (μmoles/G) |
|
非照射 照 射 |
||
線 量 (krad) 20 40 |
|||
リジン ヒスチジン アンモニア アルギニン アスパラギン酸 スレオニン セリン グルタミン酸 プロリン グリシン アラニン バリン メチオニン イソロイシン ロイシン チロシン フェニルアラニン |
19.5 78.8 33.3 42.0 19.5 33.0 69.5 39.3 47.0 39.5 32.0 8.0 20.0 34.0 12.5 21.5 |
17.5 14.3 78.7 44.5 42.2 22.1 30.4 63.7 29.7 47.0 40.1 33.5 10.5 20.5 41.2 15.1 20.7 |
21.3 20.2 77.5 40.2 45.1 24.6 31.0 76.2 30.1 47.4 41.6 36.2 10.0 22.3 41.8 15.8 21.8 |
照射後2ヶ月半貯蔵した玄米粒のアミノ酸組成 (μmoles/G) |
|
非照射 照 射 |
||
線 量 (krad) 20 40 |
|||
リジン ヒスチジン アンモニア アルギニン アスパラギン酸 スレオニン セリン グルタミン酸 プロリン グリシン アラニン バリン メチオニン イソロイシン ロイシン チロシン フェニルアラニン |
16.7 6.8 64.6 36.2 47.1 23.0 25.9 84.2 27.3 49.2 48.4 34.8 10.2 25.3 45.9 13.6 21.5 |
18.8 73.5 36.0 43.5 18.8 25.4 72.7 25.3 42.2 42.6 34.8 9.8 22.3 40.1 13.4 17.0 |
18.5 81.3 37.2 47.9 18.7 26.2 75.1 25.0 44.1 43.6 36.6 10.1 22.8 41.8 14.4 17.8 |
照射後2ヶ月半貯蔵した白米粒のアミノ酸組成 (μmoles/G) |
|
非照射 照 射 |
||
線 量 (krad) 20 40 |
|||
リジン ヒスチジン アンモニア アルギニン アスパラギン酸 スレオニン セリン グルタミン酸 プロリン グリシン アラニン バリン メチオニン イソロイシン ロイシン チロシン フェニルアラニン |
14.0 68.1 31.4 43.2 17.1 24.4 68.0 23.5 39.2 37.8 33.8 8.5 22.1 39.8 12.0 16.7 |
15.3 10.4 74.6 35.8 42.7 19.0 26.5 71.0 24.2 41.8 39.9 34.8 9.4 22.6 40.8 11.0 17.9 |
15.0 76.0 35.4 41.5 17.0 25.0 72.2 24.0 39.2 39.4 34.6 10.9 21.8 40.4 15.2 17.0 |
玄米粒の水分含量(%) |
非照射 |
|
|
線 量(krad) |
||
20 |
40 |
|
15.0 |
14.8 |
15.2 |
窒 素 含 量 |
玄 米 |
0.846%(604μmoles/G) |
白 米 |
0.715%(511μmoles/G) |
照射後20日後の玄米粒の遊離アミノ酸組成 (μmoles/G) |
|
非照射 照 射 |
||
線 量(krad) 20 40 |
|||
リジン ヒスチジン アンモニア アルギニン アスパラギン酸 アスパラギン グルタミン グルタミン酸 プロリン グリシン アラニン シスチン バリン メチオニン イソロイシン ロイシン チロシン フェニルアラニン |
0.006 0.010 0.541 0.097 0.131 0.500 0.213 0.070 0.430 0.000 0.054 0.011 0.019 0.023 0.037 0.014 |
0.007 0.008 0.354 0.123 0.140 0.508 0.266 0.063 0.121 0.420 0.000 0.061 0.012 0.020 0.021 0.038 0.015 |
0.008 0.010 0.321 0.107 0.146 0.500 0.276 0.080 0.121 0.407 0.000 0.053 0.013 0.020 0.025 0.038 0.015 |
照射後2ヶ月半貯蔵した玄米の遊離アミノ酸組成 (μmoles/G) |
|
非照射 照 射 |
||
線 量(krad) 20 40 |
|||
リジン ヒスチジン アンモニア アルギニン アスパラギン酸 アスパラギン グルタミン グルタミン酸 プロリン グリシン アラニン シスチン バリン メチオニン イソロイシン ロイシン チロシン フェニルアラニン |
0.008 0.010 0.444 0.122 0.150 0.577 0.238 0.095 0.148 0.471 0.000 0.057 0.012 0.018 0.018 0.034 0.011 |
0.012 0.011 0.486 0.117 0.144 0.536 0.204 0.094 0.119 0.482 0.000 0.047 0.009 0.017 0.017 0.034 0.010 |
0.006 0.009 0.521 0.120 0.139 0.535 0.222 0.095 0.138 0.528 0.000 0.056 0.009 0.016 0.019 0.037 0.011 |
照射後2ヶ月半貯蔵した白米粒の遊離アミノ酸組成 (μmoles/G) |
|
非照射 照 射 |
||
線 量(krad) 20 40 |
|||
リジン ヒスチジン アンモニア アルギニン アスパラギン酸 アスパラギン グルタミン グルタミン酸 プロリン グリシン アラニン シスチン バリン メチオニン イソロイシン ロイシン チロシン フェニルアラニン |
0.000 0.002 0.396 0.034 0.040 0.289 0.065 0.035 0. 0.253 0.000 0.026 0.005 0.008 0.009 0.012 0.008 |
0.001 0.002 0.419 0.028 0.051 0.286 0.082 0.040 0.092 0.234 0.000 0.024 0.006 0.008 0.009 0.013 0.009 |
0.002 0.005 0.562 0.032 0.046 0.284 0.069 0.024 0.108 0.272 0.000 0.017 0.006 0.006 0.007 0.008 0.006 |
試料は20、40krad照射後ただちに、また18℃、120日間貯蔵後、非照射試料とともに分析に供した。供試玄米は粉砕してソックスレー抽出器でエーテル抽出を行い、得られた脂質について酸価、ヨウ素価、ケン化価および過酸化物価を測定し、また試料の水分と脂質含有量も各実験ごとに求めた。
分析の結果は表5−19に示される。
上の結果から次のようなことが考えられる。
イ 米の脂質の含有量は照射量や貯蔵によって全く影響を受けない。
ロ 脂質のうけるガンマ線照射の影響は照射直後のものにヨウ素価と過
酸化物価の数値のわずかな変化として表われるが、このわずかな差も
120日間の貯蔵後には認められなくなる。
ハ 40kradまでのガンマ線照射および照射後120日間の貯蔵は
米の脂質には大きな変化を与えず、悪い効果を与えないことが明ら
かになった。
米の脂質に対するガンマ線照射の影響 |
|
水 分 % |
脂 質 % |
酸 価 |
ケン化価 |
ヨウ素価 |
過酸化物価 |
|||||||
貯 蔵 日 数 |
0 |
120 |
0 |
120 |
0 |
120 |
0 |
120 |
0 |
120 |
0 |
120 |
|
線 量 |
非 照 射 20krad 40krad |
12.3 12.6 12.6 |
11.8 12.1 12.0 |
2.8 2.8 2.7 |
2.9 2.8 2.8 |
− − − |
183 183 186 |
191 190 191 |
189 188 191 |
98 102 103 |
97 98 97 |
38 48 53 |
41 39 38 |
試料は20、40krad照射ただちに分析に供した。
イ.供試米の精白および製粉
玄米については、そのまま石臼製粉機にて、80メッシュに粉砕して供試した。精白米は、佐竹式モーターワンパスにて精白度91%の米を調製しこれを玄米同様に粉砕して試料米粉とした。
ロ.有機酸の抽出分離
米粉よりの有機酸の抽出については、上田等の方法により、次の如く実施した。即ち、米粉200gを採取し、480mlの水を加えて温合分散後直ちに硫酸にてpH2.2に調整し、これに720mlのエチールアルコールを添加して20℃にて3時間振盪抽出を行なった。抽出液をNo.2濾紙にて濾別残渣について、60%エチールアルコールにて3回洗滌して、その洗液を前の濾液に合わせて抽出液とした。次にこれを、水酸化ナトリウムにてpH8.0に補正し、減圧濃縮を行ない全量400mlまでとする。これについで、イオン交換樹脂、IRー120及びIR−45にて、有機酸区分を分離し、濃縮後、25mlに一定として有機酸分析用試料とした。
ハ.有機酸のカラムクロマトグラフィー
豊島・上田の方法に準じて、次の如く行なった。シリカゲル(マリンクロット製)を活性化した後、常法により、1.7cm×50cmカラムに充填し、クロロホルム:ブタノールの混合展開剤にて展開し、各区分についてフェノールレッドを指示薬として、N/100NaOHにて有機酸を滴定した。
ニ.有機酸の確認
有機酸の確認は、主として既知酸とのクロマトグラムの比較により行ない、更にペーパークロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィも併用した。
イ.玄米の有機酸のカラムクロマトグラフィー
玄米より抽出した有機酸区分について常法によりカラムクロマトグラフィーを行なった。その結果は、図5−2、表5−20の如くである。Aについては、酢酸又はプロピオン酸が考えられるが、確認出来なかった。
この結果からみると、対照に比して、照射により、Aが増加するとともにフマール酸、コハク酸、リンゴ酸及びクエン酸が増加していることが知られた。
ロ.精白米の有機酸のカラムクロマトグラフィー
玄米に比して、全般に有機酸は少ないことが表5−21から知られる。酢酸又は、プロピオン酸と思われるピークが減少していることが知られた。
照射区については、対照に比して多少各酸とも増加しているが、香りに関係すると思われる酢酸又は、プロピオン酸と考えられるピークは、殆ど変化がないことが知られる。
この点玄米での増加と比較して、興味深いものがある。
ハ.照射程度と有機酸の変化
表5−20、5−21を併考すると、照射による有機酸の変化には、照射量により、多少異なる様で、20krad区が40kradより変化が大きいことが知られる。
脂肪酸からと思われる酢酸又はプロピオン酸及び、T.C.A.サイクルからくるフマール酸、コハク酸、リンゴ酸及びクエン酸がともに増加している。これに対して、40kradでは、酢酸又は、プロピオン酸が、あまり変化なく、T.C.A.サイクルの酸が増加していることは興味深いことである。
しかし、精白米で香りに関係する酢酸又はプロピオン酸が、各照射とも対照と比較して差がないことは、照射の実用上意義あることで、この点、加工、食味等実用性には照射の影響はないものと考えられる。
玄米の有機酸の照射による変化 |
測 定 試 料 |
A |
B |
C |
D |
E |
全アルカリ量 N/100NaOH(ml) |
|
対 照 |
滴定値 |
1.15 |
− |
1.40 |
13.15 |
5.05 |
20.75 |
% |
5.54 |
|
6.75 |
63.37 |
24.34 |
||
20krad |
滴定値 |
4.05 |
2.15 |
3.25 |
18.35 |
7.20 |
35.00 |
% |
11.57 |
6.14 |
9.29 |
52.43 |
20.57 |
||
40krad |
滴定値 |
1.85 |
1.80 |
1.40 |
12.75 |
10.65 |
28.45 |
% |
6.50 |
6.33 |
4.92 |
44.82 |
37.43 |
註) A):酢酸又はプロピオン酸 B):フマール酸 C):コハク酸 D):リンゴ酸 E):クエン酸 |
精白米の有機酸の測定 |
測 定 試 料 |
A |
B |
C |
D |
E |
全アルカリ量 N/100NaOH(ml) |
|
対 照 |
滴定値 |
0.90 |
|
|
12.00 |
5.70 |
18.60 |
% |
4.84 |
|
|
64.52 |
30.65 |
||
20krad |
滴定値 |
0.80 |
1.25 |
0.60 |
11.25 |
11.95 |
25.85 |
% |
3.09 |
4.84 |
2.32 |
43.52 |
46.23 |
||
40krad |
滴定値 |
0.80 |
− |
0.80 |
11.70 |
12.25 |
25.55 |
% |
3.13 |
|
3.13 |
45.79 |
47.95 |
註) A):酢酸又はプロピオン酸 B):フマール酸 C):コハク酸 D):リンゴ酸 E):クエン酸 |
米のアミラーゼ活性については測定法が確立されていないので、先ず酵素の抽出方法について検討を行ない、実験条件を決めたのち、20kradの照射直後ならびに低温で3ヶ月室温貯蔵した試料について測定した。
イ.酵素液の調製法
供試玄米を粉砕機を用いて粉砕し、更にこれを乳鉢ですりつぶして微細粉とする。この細粉試料2gを共栓三角フラスコに入れ、これに抽出溶媒40mlと2〜3滴のTolueneを加えて30℃に振盪して抽出を行ない、この抽出液を10分間遠心分離(10,000r.p.m)して、この上澄液を適宜希釈して酵素液とした。
なお、米の中のβ−Amylaseの分布は、胚乳部と胚芽部とでは著しく異なり、胚芽部におよそ全体の3/4が存在するといわれており、そのための差異がないよう玄米試料は充分に混和して秤取し、上記の如く微細粉としたものを全量抽出試料とした。酵素の抽出溶媒としては、次の4種をそれぞれ40mlずつ用いた。
(1)イオン交換水
(2)5%K2SO4
(3)0.1%パパイン
(4)0.3M2−メルカプトエタノール、0.1%パパイン等量混合液
ロ.β−Amylase活性の測定法
β−Amylase活性の測定は、別記基質溶液を合せて30℃10分間反応させた時に生成されるmaltose量をもって求めた。
即ち、共栓試験管に1%澱粉溶液4mlを入れ、30℃に約10分間保ち、これに別に30℃に加温しておいた酵素液1mlを加えて5mlとし、正確に30℃10分間加温し、酵素反応を行なう。この時、酵素液の代りに純水1mlを加えたものをBlankとして用いる。
次にSomogyi銅試薬5mlを管壁に沿って一度に加え、十分に振り、酵素作用を停止させ、次に95℃にて30分間加熱してCu++→Cu+とする。この際比色用のBlankとして純水5mlにSomogyi銅試薬5ml加えたものを同時に加熱する。加熱後、流水中に約5分間冷却し、これにモリプデン試薬2.5mlを加え、十分に振り生成したCu2を完全に溶かし、約5分間室温に放置した後、これを10倍希釈して530mμにて比色用Blankを対照とし、酵素反応Blank及び各抽出液について比色する。
β−Amylase活性測定の際は、抽出液中のmaltose定量値から酵素反応Blankの値を差し引いたものに稀釈倍率をかけ、米1gについて生成したmaltose量を求める。
基質にはAmylase測定用の可溶性澱粉1gに蒸留水少量を加え、これを100mlとする。この際M/37.5酢酸緩衝液を含むようにする。(pH4.90)
又、上記方法により調製した1%澱粉溶液を使用するとBlankが相当濃くなるので、0.1%又は0.5%澱粉溶液として行なったところ、Somogyi−Nelson法により、混濁を生じたため、やはり基質には1%澱粉溶液を用い発色させた後10倍稀釈して定量を行なった。
Maltose検量線も同様の操作にもとづいたものである。
イ.米よりβ−Amylaseの抽出について
照射直後における試料米のβ−Amylaseの抽出を、前記4種の抽出剤を用い30℃で5時間抽出したところ、米のβ−Amylase活性は抽出溶媒により、著しく差異があることが認められた。又抽出時間の影響に関しては、麦中のβ−Amylaseの抽出では(溶媒5%K2SO4)振盪時間24時間まで抽出量は徐々に増加することが認められた。
ロ.米のβ−Amylase活性に及ぼすガンマ線照射の影響
米にガンマ線を照射した際のβ−Amylase活性への影響を、非照射米、20krad照射米について、照射直後および照射後3ヶ月室温で貯蔵したもののβ−Amylase活性を測定した。照射直後においては、20krad照射の米のβ−Amylase活性は非照射米も漸次β−Amylase活性が減少し、照射米との間に殆ど有意の差が認められなくなった。
ハ.上記の如く、今回の試験は先づ米よりのAmylaseの抽出方法について検討を行なったが米は麦にくらべてアミラーゼ活性は弱く、また、抽出方法によっても相当差異があることが認められた。
試験方法については、一応条件を選定してこれにより照射の影響をしらべることが出来たが、なお検討の余地がある。
照射の影響は、照射直後で活性の低下がみられたが、3ヶ月室温貯蔵の場合は、照射による差異は認められなかった。これらの結果β−Amylaseについては、少なくとも貯蔵後は、20krad程度の照射の影響はないと考えられる。
試料玄米に20、40krad照射した直後および3ヶ月室温貯蔵後、生残菌を検出し、照射効果を判定した。即ち最近については、試料米5gを50mlの殺菌水に加え15分間振盪し、この洗涎を10・E(−4)まで稀釈して、それを0.1mlづつを、ブイヨン寒天上に均一にひろげ、30℃、3日間培養後菌数を測定した。糸状菌についてはツアペック寒天上または7.5%食塩含有麦芽汁寒天上に100粒の米粒を置き、25℃または30℃で培養したのち、糸状菌の発生した米粒のパーセントを算出した。
細菌総数は20krad照射直後9.10×10・E(5)/g、非照射米は1.73×10・E(6)/gであり、3ヶ月貯蔵した照射米は9.20×10・E(5)/g、非照射米は2.00×10・E(6)/gであった。すなわち20krad照射により細菌総数は10・E(6)/gから10・E(5)/gに減少し、この減少した菌数は3ヶ月貯蔵後まで持続される。一方糸状菌は、供試米100粒中、非照射対照で30%、20krad照射米で12%、40krad照射米で6%の発生率を示し、20krad照射で40%、40krad照射で80%の殺菌効果を示した。
バクテリアルフローラとしては、非照射米から分離される細菌のうち、15〜16%を占める赤色プソイドモナス(Red Pseudomonas)が放射線抵抗性が大きく、20kradおよび40kradの照射では殺菌効果が認められなかった。糸状菌はAspergillus属が主体で、その他Penicillium属がわずかに存在した。表5−22に米から分離された微生物のガンマ線に対する生存率曲線より求めたD10値を示す。
米より分離された微生物のD10値 |
分 離 番 号 |
微 生 物 |
LD10 (krad) |
P − 431 |
Penicillium citrinum |
1.7 × 10・E(4) |
P − 432 |
pen・islandicum |
1.7 × 10・E(4) |
A − 431 |
Aspergillus oryzae |
2.0 × 10・E(4) |
A − 432 |
Asp・niger |
2.5 × 10・E(4) |
Ps− 431 |
Pseudomonas fluorescens |
0.4 × 10・E(4) |
B − 431 |
Bacillus subtilis(spore) |
1.08× 10・E(5) |
O − 431 |
Red Pseudomonas |
2.5 × 10・E(5) |
RP− 430 |
〃 |
5.5 × 10・E(4) |
水稲うるち「こしひかり」玄米に、20kradおよび40kradのガンマ線照射を行い、照射直後および2〜4ヶ月貯蔵後の試料について各種分析・測定を実施し、以下の結果を得た。
アミログラフ測定では米粉、米澱粉とも糊化開始温度、最高粘度点、95℃粘度、加熱粘度低下率、冷却温度低下率、30℃冷却後粘度の各性質について照射の影響は認められない。照射直後に作製した団子の硬度はやや低下するが、照射後2日以上経過すると対照と同一になる。米粒各部の吸水性には変化が見られない。
精白米に水を加えて缶詰として炊飯したときのヘッドスペース・ガスは、クロマトグラフィーで11ケのピークを示すが、照射試料ではわずかに増大する。貯蔵後はピーク数が増加し、官能的に香気の強まる現象と一致する。
米の主要蛋白質であるグルテリンについて18種のアミノ酸の定量を行い、アミノ酸残基を比較したが、照射直後および貯蔵後のいずれも対照との間に有意差は認められない。
玄米および精白米の全アミノ酸および遊離アミノ酸組成にはいずれも照射の影響は認められない。
米の脂質含有量は照射により影響を受けない。照射直後、脂質のヨウ素価と過酸化物価はわずかに増加するが、貯蔵後には差が認められなくなる。
玄米および精白米から抽出した有機酸のカラムクロマトグラフィーによれば、照射試料ではTCAサイクルに由来すると思われるフマース酸、コハク酸などがやや増加し、照射による代謝の一時適促進がうかがわれる。精白米の香りに関係する酢酸、プロピオン酸には照射の影響が見られない。
β−アミラーゼ活性は照射直後やや低下する。しかし非照射試料のアミラーゼ活性は貯蔵中に低下するため、3ヶ月貯蔵後には照射の影響は認められなくなる。
糸状菌数は20krad照射で生存率60%に、40krad照射で20%に減少する。糸状菌は、Aspergillus属、Penicillum属が主で、これらのD10線量は1.7〜2.5×10・E(4)radである。細菌では放射線抵抗性の大きい(D10線量2.5×10・E(5)rad)Red Pseudomonasの出現率が高いが、総菌数は10・E(6)/gから10・E(5)/gに減少する。
以上の結果を総合すると、玄米に40kradまでの線量の照射処理を行った場合、炊飯時の香りで示されるような官能的な性質に幾分かの変化が生じた可能性はある。しかし、精白米ならびに米粉についての各種分析・測定では、米の物性、成分に殆ど照射ならびにその後の貯蔵の影響は認められない。従って、照射により米の品質は殆ど変化しないものと結論できる。