高水分含量玄米および低水分含量米について放射線照射後の貯蔵米の糸状菌発生抑制効果および玄米の発芽率の変化について検討を行なった。
供試米は42年度新米で、玄米は群馬県産コシヒカリ、白米は千秋楽を用いた。また殺虫線量照射した低水分含量玄米の貯蔵試験には各産地より入手したハツユキ、ササシグレ、コシヒカリ、コシジワセ、キンマゼ、農林18号を用いた。
日本原子力研究所高崎研究所の10万キュリーの板状コバルトー60ガンマー線照射装置により、線量率2×10・E(5)rad/hrの位置で20、30、100、200、400kradの定置照射を行なった。
一般玄米の水分含量は13〜14%である。そこで高水分含量米は滅菌水を加え14.2%、16.0%、17.0%に水分調整したものを試料とした。これらの試料は0.08mm厚のポリエチレン袋に各1kg以上密封した。各線量照射後、30℃、湿度75%の恒温恒湿槽中で2〜4ヶ月間貯蔵して、7.5%NaCl含有麦芽寒天平板培地にて糸状菌検査を行なった。また、クラフト紙袋のモデルとして綿栓した200ml三角フラスコ中に、水分含量15.0%に調整した玄米を各100g入れ、照射後30℃で湿度75%および85%で貯蔵試験を行なった。
また殺虫線量照射した低水分含量米の貯蔵はクラフト紙袋中に10〜40kg入れ、6月中旬から9月の3ヶ月間室温下に放置してCzapeck agar 平板上に玄米100粒を並べ、30℃・5日培養後の糸状菌発生率および玄米の発芽率を調べた。
水分含量17%に調整した非照射の玄米は30℃・0.5ヶ月貯蔵で脱気状態を示し糸状菌の発生が認められた。生存糸状菌数の変化は図3−1に示すごとく1ヶ月で約1×10・E(6)個と最大値に達した。照射米は線量100kradまでは貯蔵効果に差は認められず、200kradでわずかながら糸状菌発生の抑制効果が認められるようになった。また400krad照射米でもせいぜい1.5〜2.0ヶ月が貯蔵限界である。17%水分含量米に発生してくる糸状菌は主にAspergillus glaucus群とPenicillium citrinum群で、その他A.niveus,A.versicolor,A.gracilis等も検出された。
水分含量16%米の場合には非照射米は1ヶ月でポリエチレン袋での脱気が認められ図3−2に示すごとく1.5ヶ月で菌数は最大となった。この場合は、200kradで著しい糸状菌発生抑制効果が認められ1.5ヶ月程度の貯蔵が可能であった。発生してくる糸状菌はA.glaucus群とA.gracilisが多くを占めていた。
水分含量14.2%米は一般流通米より若干高い水分であるが、非照射玄米の糸状菌発生は2〜3ヶ月貯蔵後に著しくなった。この場合も100kradでは糸状菌発生抑制効果は僅かしか認められなかったが、200krad照射すると図3−3に示すごとく3ヶ月以上にわたり糸状菌発生を抑制することができた。貯蔵中に発生してくる糸状菌はA.gracilisのみで占められていた。また図3−4に示すごとく貯蔵中の玄米の発芽率は照射米の方が高く保たれる傾向を示していた。
クラフト紙袋のモデルとして綿栓した三角フラスコ中の水分含量15%の玄米について、30℃・湿度75%および85%下において貯蔵試験をして糸状菌の増殖度をしらべたところ、図3−5に示すように、湿度により著しい差が認められた。湿度85%では200krad照射米は1.5ヶ月以上にわたり糸状菌発生が抑制され、非照射米に比べ3倍近く貯蔵期間が延長された。湿度75%貯蔵の場合には200krad照射米は3ヶ月以上の貯蔵が可能である。発生してくる糸状菌は湿度85%ではA.glaucus群とA.glacilisが中心であるのに対し、湿度75%ではA.glacilisのみであった。
日本各地の代表的多産品種玄米6種を入手し、20および30krad照射してクラフト紙袋中での貯蔵効果を調べた。貯蔵前の各玄米の水分含量は13.0〜13.5%であった。その結果は表3−1に示すように照射直後に各種玄米粒から検出された糸状菌は収穫時に付着したと思われる植物寄生のHelminthosporiumやAlternariaが多く、5〜20%の玄米粒から検出された。しかし貯蔵米の変敗菌であるAspergillusなどの好浸透圧性糸状菌は検出されなかった。ところが、3ヶ月貯蔵後の各種玄米では植物寄生糸状菌は減少したが、米の変敗糸状菌であるAspergillusが各種非照射玄米に共通して増加してきた。たとえば、ハツユキの場合にはすべての玄米からAspergillus sulphureusが検出され、他の5種の非照射米からはA.versicolorが多く検出された。しかし、20kradおよび30kradの各種照射玄米からはほんのわずかしかAspergillusは検出されなかった。
一方、照射直後の玄米の発芽率は55〜100%あったのが、3ヶ月後には非照射玄米で17〜41%程度に減少した。ところが、照射玄米では発芽率は照射直後とほとんど差が認められなかった。
試料玄米 |
Dose (krad) |
貯 蔵 前 |
3 ヶ 月 貯 蔵 後 |
||||
植物寄生 糸状菌 |
Aspergi− llus |
発芽率 |
植物寄生 糸状菌 |
Aspergi− llus |
発芽率 |
||
ハツユキ |
0 20 30 |
16% 19% 8% |
0% 0% 0% |
55% − − |
0% 13% 4% |
100% 20% 4% |
21% 55% 70% |
ササシグレ |
0 20 30 |
12% 13% 11% |
0% 0% 0% |
80% − − |
9% 15% 7% |
60% 10% 0% |
41% 85% 90% |
コシヒカリ |
0 20 30 |
10% 7% 9% |
5% 2% 2% |
78% 86% 76% |
8% 6% 5% |
23% 7% 4% |
24% 82% 85% |
コシジワセ |
0 20 30 |
6% 6% 6% |
0% 0% 0% |
85% − − |
2% 4% 7% |
40% 5% 0% |
43% 93% 90% |
キンマゼ |
0 20 30 |
20% 21% 20% |
0% 0% 0% |
96% 99% 99% |
15% 20% 19% |
85% 0% 0% |
17% 99% 95% |
農林18号 |
0 20 30 |
5% 5% 6% |
0% 0% 0% |
97% 99% 100% |
8% 10% 7% |
8% 0% 0% |
47% 98% 99% |
放射線照射により米の貯蔵期間を延長するにはAspergillusなどの変敗糸状菌の発生を防止すればよい。これらの変敗糸状菌の殺菌線量は500〜600kradである。ところが、米の水分含量14〜15%では200kradの照射で夏期の貯蔵期間を3倍以上に延長できる。しかし、水分含量17%では300〜400krad照射しなければ米の貯蔵期間延長効果は期待できない。一方、一般流通米の水分含量は13〜14%であり、殺虫線量の20〜30kradでも糸状菌発生が抑制されるという現象は興味ある結果である。また、照射米の方が貯蔵中の玄米の発芽率が高く保たれるという現象は玄米が長期にわたり生きていることを示すもので、食味の上からも望ましい効果である。
照射米の食味は200krad照射では褐変化、off flavorの発生が認められ食用には問題があると思われる。しかし、殺虫線量では食味変化も認められず、低水分含量玄米のクラフト紙袋による長期貯蔵は殺虫ばかりでなく糸状菌発生抑制の上からも有望であろう。