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照射効果(IRRADIATION EFFECT):食品に放射線を照射した場合の貯蔵、衛生化等の効果

殺虫(果実)


発表場所 : 食品照射、vol.7(2),23−26.
著者名 : J.H.MOY
著者所属機関名 : ハワイ大学熱帯農学部
発行年月日 : 1973年
放射線照射による熱帯産果実・野菜の殺虫とシェルライフに関する問題点および将来性

1. 緒言
2. イオン化放射線利用による殺虫の問題点
2・1 生産方法と取り扱い
2・2 高額研究費
2・3 放射能誘起の可能性
2・4 公衆衛生に関する許可の必要性
3. 発展途上国での食品照射利用の将来性
3・1 研究と大規模試験
3・2 安全性試験の条令制定
3・3 果実・野菜生産業者に興味をいだかせる。
4. 照射製品の市場価値
4・1 殺虫−パパイヤ、マンゴー、ゴーア、レイチ、パインナップル
4・2 シェルフライフ延長−パパイヤ、ショウガ、サツマイモ
5. 結語



放射線処理による熱帯性果実・野菜の殺虫とシェルライフに関する問題点および将来性


放射線照射による熱帯産果実・野菜の殺虫とシェルライフに関する問題点および将来性

 熱帯産果実および野菜に寄生する虫類の殺虫に、ガンマー線照射が極めて有効であることが知られている。例えばパパイヤには、各種のフルーツフライが寄生しており、放射線殺虫の方が燻蒸や蒸気加熱処理よりも効果的である。

 開発途上国では、自国産果実・野菜の市場性保持のためには、輸送前にあらかじめ殺虫しなければならないことを知っているが、放射線の導入に関しては下記のような問題がある。

(1)従来の生産方法と収穫後の取り扱い方法を改善する必要がある。

(2)照射食品中に放射能誘起があると思われているので、消費者教育が必要である。

(3)研究と大型実験装置に大量の経費がかかる。しかし、これは各国間の研究協力で(特に安全性試験)解決することができる。

(4)照射食品の実用化のために、政府機関、研究者さらに果実・野菜の栽培業者が協力することが必要である。

 そこでパパイヤ、マンゴー、レイチ、パインナップルの殺虫およびパパイヤ、ショウガ、サツマイモのシェルフライフ延長に対するガンマー線照射利用の将来性について検討した。

1. 緒言

 放射線処理は、食品貯蔵法の研究開発に多大の成果を逐げ、そしてこれほど多額の予算を費やしたことは人類史上にかつてなかったことである。そしてイオン化放射線を食品貯蔵に利用する可能性と効果については、約25年間の研究の後、各種の目的に利用できることが立証された。1971年11月の国際会議で、各国の許可項目が全部で27あることが明らかにされ、内訳をみると8カ国で15品目が許可されている。

 この内12項目は発芽抑制によるシェルフライフ延長(ジャガイモ、タマネギ)、6項目は害虫防除(小麦、乾燥野菜、食品濃縮物の乾燥品、カカオビーン)、2項目は熟度遅延とシェルフライフ延長(マッシュルーム、アスパラガス)、残りの7項目は微生物による腐敗防除(イチゴ、エビ、香辛料、生鮮果実、野菜、包装半調理食品、包装冷蔵鶏肉、包装調理食品)を目的としたものである。イオン化放射線は、他の処理方法によりも殺虫およびシェルフライフ延長のために広範囲の利用できることが判り、熱帯産果実・野菜の損失を減少させ、世界各地の市場への出荷許可を得るのに、最適処理方法であるといえる。

 1957年にDr.R,G.H.Siu(米国陸軍主計総監部研究技術部長)らは、食品照射の将来について”食品の放射線殺菌は、5年以前に可能となるだろう””10年以内に食品の放射線殺菌が実用化されるだろう”また”4年以前に主婦は、冷蔵庫を必要としない缶詰肉を買うことが可能となるだろう”と予言している。

 その後数年間研究と開発がおこなわれ、下記の問題に関する回答が集められた。

 (1)イオン化放射線の実用化規模線源を確保できるか。

 (2)イオン化放射線は、微生物を殺菌し、他の必要な生物学的作用は保持するという保証ができるか。

 (3)照射食品は安全か。

 (4)照射食品の受容性については

 (5)照射の実用化に当っての経済性はどうか。

 初めの4つの質問に関しては、現在までに多くに報告があり、十分解明されているといえる。企業化した場合の経済性については、当時明解に答えていなかったので、企業に対し不安をいだかせた。

 果実・野菜の殺虫とシェルフライフ延長にイオン化放射線を用いる場合、(1)副作用の利用と(2)直接作用の2つの側面がある。

 発芽抑制は(1)の例で、同様の効果は化学薬品を用いることでも得られる。マンゴーの種子に寄生するゾウ虫とフルーツフライとを同時に殺虫するというのは(2)の例である。

 今後、多くの開発途上国で、害虫の寄生による食品の損失を最小限に抑えるために、イオン化放射線の利用が最適であると認められるであろう。その時には、多くの熱帯産果実・野菜の輸出市場が拡大される。

2. イオン化放射線利用による殺虫の問題点
2・1 生産方法と取り扱い

 果実・野菜の生産業者と取り扱い業者は、市場に健全果を供給することが必要である。このためには選別、等級分け、熱水処理次いで燻蒸または蒸気加熱処理がおこなわれている。

 台湾とベネゼーラ産パパイヤは、自国内の市場だけにしか出荷していない。この理由は、栽培方法、害虫防除方法、収穫および収穫後の欠損が極めて高いためである。

 古い習慣のままで、つまり近代的農業技術を導入しないで、放射線処理効果を上げようというのは無理であろう。

2・2 高額研究費

 各国の食品照射研究をおこなっている研究所や研究室には、ガンマー線照射装置(ほとんどがコバルト60)が設置されている。台湾とベネゼーラには、1967年と1968年にそれぞれの国立研究所に10,000キューリーのコバルト60が設置された。

 食品の放射線による貯蔵効果が立証されても、安全性を保証することが必要であるが、開発途上国では、安全性試験に高額な予算が必要となるので、発展国での試験結果を見守っている。

 他に開係分野として研究が必要なのは、包装材の問題である。つまり一般に食品は包装されているので、包装食品を照射する場合、包装材は(1)食品に接触しても安全であると保証する。(2)物理的保護材であることを考えておく。(3)害虫の再汚染防止のために用いる。

2・3 放射能誘起の可能性

 放射性の線源を用いて処理した食品には、放射能があり、食べるのは危険であるという不安を、多くの人々は持っている。このために照射食品は安全であるということを知らせる必要がある。

 例えば照射した果実・野菜を国内市場に出し、消費者の嫌悪感をゆっくりとなくするようにすることである。

 1966年から1967年に米国西海岸の2つの都市で、消費者指導をおこなった結果、75%の人が放射線処理を政府が許可するならマーケットで照射食品を買うだろうと述べていた。

2・4 公衆衛生に関する許可の必要性

 開発途上国の政府機関には、まだ照射許可に関する公的条令を持たずに、安全性試験だけを必要条件として、実用化の承認許可を専門家がおこなっている国がある。

 ハワイ大学では、照射プロジェクトが3年目に入った時(今から6年前)に熱帯農学部8学科の研究者が集まり、ガンマー線照射によるパパイヤの殺虫許可をFDA(食品および添加物局)から得るのに必要な試験に取り組んだ。一方、FDAでは、有効性に関する条令制度に2年間、安全性試験の条令制定にさらに1年間を用した。この条令で、開発を進めるのに必要な期間、考え方および研究のポイントが明確化され、ハワイ産パパイヤの処理許可に関する条令が作成された。

 この数年間をみると、多くの国々で食品製造には添加物よりもイオン化放射線処理の方が必要だという考え方になっているので、放射線処理の実用化は、極めて早く実現されるであろう。

3. 発展途上国での食品照射利用の将来性

 開発途上国では放射線処理を応用するに当って、下記の点を解決しなければならない。

3・1 研究と大規模試験

 各種の食品を用いて、各分野の研究者が照射による影響を調べ報告を出している。これらの結果を応用するなら、大規模試験の必要期間は短縮できる。一方研究費の大型化は考慮しなくてはならないと思うが、安全性試験は、各国間で協力しておこなうなら、予算の軽減化と実用化の促進につながる。

 同じ物でも、品種が異なると照射効果が違ってくると思われる。しかしパパイヤの場合品種間(ハワイ産、台湾産およびベネゼーラ産の3品種)に照射効果(抵抗性、品質、シェルフライフ)の差は認められなかった。今後さらに、他の食品を用いてこれらの点を明らかにしていく必要がある。

3・2 安全性試験の条令制定

 現在、多くの開発途上国には安全性試験に関する安全な方法はないと思われる。米国の安全性試験の条令の例を上げると、照射イチゴの安全性試験の場合、飼料中に乾物果実35%添加となっているが、動物飼料として高すぎることが判った。またパパイヤの場合ウェト重量として15%添加というふうに変えたが、1日の食事量を基準にした場合、まだ高いと思われるのでさらに考慮されている。

3・3 果実・野菜生産業者に興味をいだかせる。

 ハワイで熱帯果実照射研究が初められた頃、地元業者に興味が持たれていたが、進展が遅いということで興味は失なわれた。しかし、この研究には、一定熟度の果実と新鮮な状態の野菜とが大量に必要なので、生産業者に興味を持たせ、一緒におこなっていくことが極めて重要である。

4. 照射製品の市場価値
4・1 殺虫−パパイヤ、マンゴー、ゴーア、レイチ、パインナップル

 ハワイのフルーツフライ研究所の報告によると、ハワイ産パパイヤと他の熱帯果実に21Krad照射したところ、卵と幼虫からは成虫の羽化が認められず、またマンゴーの種子に寄生するコクゾウ虫の殺虫には33Kradが必要であると述べている。レイチ、パインナップルに50Krad、パパイヤ、マンゴー、ゴーアに100Kradのガンマー線照射をしても品質は十分に保持されていた。

 照射殺虫の主要な長所は、処理時間が短く、残留農薬の問題がなく、照射処理以外の殺虫方法(燻蒸他)を用いた場合、果実の熟度は促進される。

4・2 シェルフライフ延長−パパイヤ、ショウガ、サツマイモ

 パパイヤのシェルフライフは、温水処理(49℃、20分)と75Krad処理の組合せで3日から3.5日延長できる。照射パパイヤに対し、燻蒸あるいは蒸気加熱処理をおこなうと、さらに延長する。

 ショウガは香辛料や調味料として多く用いられており、1Krad照射で発芽抑制できる。この目的は、価格を安定させ周年供給することにあり、損失を防ぎ品質向上が可能なので受容性が高いといえる。

 サツマイモの発芽は、10Krad以下の照射で阻止できる。ジャガイモも同様の効果が、ガンマー線照射によって得られる。

5. 結語

 以上の問題点は、全部ではないが開発途上国が当面している事柄であり、食品保存に放射線処理を取り入れ利用されるのは先のことであろう。しかし各国が、研究と安全性試験とを協力しておこなうなら、照射技術の利用は早くなるだろう。さらに果実・野菜生産業者の協力が実用化のために必要である。




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