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照射効果(IRRADIATION EFFECT):食品に放射線を照射した場合の貯蔵、衛生化等の効果

殺虫(果実)


発表場所 : 食品照射、vol.8(2),51−67.
著者名 : 楯谷 昭夫
著者所属機関名 : 横浜植物防疫所
発行年月日 : 1974年
熱帯生果実の放射線処理
はじめに
生果実に対する放射線処理
(1) 3種ミバエに対する殺虫線量
(2) 各種生果実の放射線照射による障害
(3) 各種生果実の放射線照射による含有成分の変化
(4) ガンマー線照射を受けた生果実の芳香、臭気、色、歯ざわりに対する効果
(5) Shelf−life Extensionについて
(6) 放射線による生果実表皮上の微生物の防除
(7) アメリカでのパパイヤの現行消毒法と放射線照射消毒法の比較
(8) 照射パパイヤの安全性
(9) 照射パパイヤに対する消費者の反応
あとがき
引用文献
放射線殺虫研究会について
1. 一般的な輸入植物検疫についての考え方
2. 輸入が禁止されているもの
3. 熱帯生果実の輸入禁止
4. 穀類、飼料の殺虫・消毒
5. 木材の殺虫・消毒
6. 放射線による害虫の殺虫
○ 文書



熱帯性果実の放射線処理


熱帯生果実の放射線処理
はじめに

 熱帯、亜熱帯地方にはバナナ、マンゴーをはじめとする多種類の果実があるが、これらの地域にはミカンコミバエ、ウリミバエ、チチュウカイミバエなど、わが国だけでなく、それらの未発生国が侵入を警戒しているミバエ類が生息している。このため、これらの地域からミバエ類の寄主である生果実の輸入を禁止している国が多いが、わが国はこれらについての完全殺虫技術が確立されたものについては、厳重な条件を付して特例的に輸入を認めているものがある。ここで使われている技術は、くん蒸、蒸熱ならびに低温処理である。

 近年、放射線利用の一環として、照射による不妊雄を使った撲滅計画とならんで、照射による直接殺虫または羽化阻止あるいは蛹化阻止に関する研究が各国で盛んに行なわれている。そこで、本稿ではその検疫への利用の可能性はなお未知数ではあるがミバエ類の照射殺虫に関してまとめてみた。

生果実に対する放射線処理

 近年、交通や輸送機関の飛躍的な発展によって、国際貿易面においては大量で迅速な輸送を行なうことができるようになった。反面、それらの貨物の増加とあいまって害虫が分布を拡大する恐れも増えている。熱帯産生果実は、大部分が輸入禁止になっているが、例外的な輸入許可の殺虫処理法として各国が採用しているのは臭化エチレンによるくん蒸または浸漬、蒸熱および低温処理などわが国の許可条件と大同小異である。これらの処理は殺虫処理量と生果実に薬害あるいは障害をおこす量との差が小さく、安全範囲が狭いため、厳密な条件設定が必要である。また、これらの処理にはかなり時間を要する。近年多くの成果が著積されつつあるガンマー線照射はこれらのミバエの殺虫に極めて大きな威力を発揮し、生果実の消毒に適した方法であるだけでなく、生果実の熟度の進展を遅延させ、商品としての市場性を高めることができるとされているがさらに生果実表面の有害微生物の不活化ないしは活性を減少させることが期待できる。そこで以下に現在知りえた範囲での現況を紹介したい。

(1) 3種ミバエに対する殺虫線量

 卵、幼虫から成虫への羽化を阻止する線量は、Balockら(1963)〔6〕によると第1表のとおりである。また老熟幼虫が、培地(ニンジン)、培地+水、新鮮な培地にいる場合の成虫への羽化阻止線量は第2表のとおりである。Balockら(1966)〔5〕は、ミカンコミバエ、ウリミバエ、チチュウカイミバエを別々に多種類の生果実に寄主させ、これにガンマー線を照射した時、羽化を阻止する、線量を報告している。これによるとミカンコミバエでは推定74,000頭が寄生している各種生果実に10KR照射した結果、2頭のみが羽化した。この2頭の寄主はいずれもパパイヤであった。ウリミバエでは推定18,000頭が寄生している各種生果実に10KR照射した結果、羽化はみられなかった。また10KR以上照射した場合でも同様に羽化はみとめられなかった。チチュウカイミバエは19,000頭を2.5〜7.5KR照射したが羽化は全然見られなかった。以上のことから羽化前のミバエ類には、10KRを照射することで羽化を阻止することができると報告している。Balockら(1966)〔5〕はさらに生果実に寄生させたミバエ類の蛹化阻止線量と羽化阻止線量のLD99およびLD99.9968を報告してるいる。(第3表) これによると、蛹化阻止線量は大きな巾があるが蛹の時期のちがいによるものであると解釈されている。第3表によれば、ウリミバエのLD99.9968は15.6KR、ミカンコミバエでは21〜28KRである。またチチュウカイミバエは2.5〜40Rの照射で成虫が出現しなかった。COX(1961)〔10〕によれば、ミバエの幼虫の蛹化を阻止するためには100−200KR以上が必要であり、また幼虫、卵には15−20KRの照射で蛹の間に死亡し、成虫の出現を防ぐと述べている。Burdittら(1971)〔9〕によれば、卵、幼虫、終令幼虫および蛹を水や、果実内に入れないで直接照射した時、羽化を阻止するためには15KRの照射線量でよいとしている。また1967年Hawaii Development Irradiatorでは、パパイヤ、ピーマン、ナスに大量にミバエを寄生させ、この寄主体内で卵、幼虫に十分加害された状態にしておき、これをカートン箱(27×37×16cm または27×36×13cm)に包装して、ガンマー線を照射し、適温下で成虫の出現の可否を観察した。その結果は、第4表のとおりである。幼虫が変態して成虫へ羽化するのを阻止する最小線通は次式によってカートン箱の巾に直線的に比例していることが明らかとなった。

 Y=0.189299X+2.749076

  Y:最小線量(自然対数) Krad

  X:厚み  g/cm3

第4表によれば、果実のカートン箱の充てん密度が高いほど、羽化阻止最小線量が増加していることがわかる。よって植物検疫処理のために必要とする最小の線量は約21〜25Kradである。前述の式のXをX=0にして裸の卵や幼虫の羽化阻止線量を上式より求めると Y=15.6Kradとなり、先に報告されている15.0KRとかなり近接している。よってKRに1.04を掛けることによって変換することができる。


第1表 卵・幼虫から成虫への羽化を阻止する線量
   ステージ   
          
( )は産卵後日数 
   
 令 
   
       羽化阻止線量(R)(LD95)       
  ウリミバエ  
 ミカンコミバエ 
チチュウカイミバエ
  卵(1日後)  
   (2日後)  
          
  幼 虫     
          
          
          
          
          
   
   
   
 1 
 2 
 3 
 4 
 5 
 6 
  3,500  
    ──   
         
  4,900  
  4,800  
  5,200  
  4,800  
  4,400  
    ──   
  2,800  
    ──   
         
  2,900  
  2,700  
  3,000  
  3,600  
  3,700  
  3,500  
  1,450  
  2,300  
         
  1,850  
  2,100  
  2,300  
  2,400  
  2,700  
  2,700  



第2表 各種培地組合せにおけるミバエ類の羽化阻止線量
     
     
     
       羽化阻止線量(R) LD95        
  ウリミバエ  
 ミカンコミバエ 
チチュウカイミバエ
培地   
培地+水 
新しい培地
  4,400  
  8,000  
  6,800  
  3,400  
  6,400  
  6,300  
  2,600  
  4,300  
  3,600  



第3表 生果実に寄生させたミバエ類の蛹化阻止線量および羽化阻止線量
         
  種   類  
         
       
 果   実 
       
       
 供試虫数a 
       
蛹化阻止線量
      
 (KR) 
  羽化阻止線量(KR)  
LD99
LD99.9968
ミカンコミバエ  
         
         
ウリミバエ    
チチュウカイミバエ
パパイヤ   
アボカド   
多種類の果実b
多種類の果実c
パパイヤ   
143,000
 27,000
 55,000
 44,000
 40,000
  120 
   45 
   40 
  140 
   30 
 6.7
 7.0
 9.4
 6.9
   d
   20.6  
   21.9  
   28.0  
   15.6  
      d  

a 対照区から卵と幼虫数を推定
b レイシ,サクランボ,セイヨウスモモ,タンジエリン,グアバ
c パパイヤ,トマト,キュウリ
d 2.5〜40.0KRで全て死亡



第4表 ミバエの羽化を阻止するために必要な最小の線量
 生果実  
ミバエ個体数a
厚み g/cm3
Dose(Krad)
 ピーマン 
 ナ  ス 
 パパイヤ 
      
      
      
122,968
139,763
141,902
356,857
205,509
116,409
 0.23   
 0.27   
 0.30   
 0.34   
 0.35   
 0.40   
   20.0   
   21.4   
   21.4   
   24.6b  
   25.2   
   29.1   

a 無処理の同数の果実から羽化した成虫の数より推定
b 7.2℃で1〜3日間貯蔵


(2) 各種生果実の放射線照射による障害

 Balokら(1966)〔5〕が生果実の放射線障害について詳しく述ベているので、この報告を紹介する。

 生果実および野菜に10KRから200KRを照射してから冷蔵庫に移し、そこで50〜55°Fで6日間保存し、それから室温(約78°F)に移して成熟させた。それらが成熟した時点において、果皮および果肉、成熟の早さについて照射効果を調べた。その結果、生果実および野菜は、ガンマー線照射にあまり影響を受けないことが示された。しかしアボカドは極めて感受性が高い。アボカドのハワイでの栽培花種のNutmeg, Fuerte, Coban, Jsutsuwi, Nabal, Beardslee, Tohnson, Kahaln, Lehuaは25KR照射で果皮あるいは果肉の退色、不愉快な香り、美味の消失などの照射障害をあらわす。カリフォルニアの栽培品種をMc.Artur, Heas, Edranolがカリフォルニアからハワイへ空輸して試験したが、25KRの照射で内外の損傷あるいは臭いがわるくなることはないが、FuerteとRincon品種は果肉に青味がかって筋が入り、まずい味となる。バナナはWilliams hybrid品種の緑がかった成熟果に照射処理をしたが、50KRの照射で臭いはつかないが果皮があずき色になることがわかった。マンゴーのPirie種は100KR照射量まで悪影響をうけない。しかし200KRで果皮がやけど状になるが味には影響しない。Haden種はmature−green果に最高15KRまで耐えるが、完全に着色して成熟したマンゴーでは100KR照射に耐える。1/4〜3/4まで着色したマンゴーは25KRから50KRまでおいしさの減少もなく対照と異ならない。果実をポリエチレンの袋に入れ、照射処理しその後貯蔵しておくと悪臭が出てくる。トマトのAnahu, Homestead 24, Rutgers品種は25−100KRまで障害もなく耐えた。ソロ種パパイヤは100KRまで障害はでなかった。レイシはBrewster,Hak Ip, Hung hai, Kwaimi各種を供試して諸験を行なったが、これらは成熟し、完全に色づいたときに50KR照射しても悪影響はなかったが、150KRの照射でおいしさが減じた。成熟した果実でもこれをポリエチレンの袋に入れて照射すると200KRまで照射してもおいしさは失なわれず、無処理区と同じぐらいの期間明るい赤味を保った。25KRの照射で芳香は若干かわることに気づくが、これは照射線量が増加するとともに増大する。キュウリは50KRまで損傷はない。100KRの照射でキュウリ特有のパリパリした感じおよび臭みが少し減じた。pomerantzら(1955)〔25〕はメロンの一種であるカンタローブとサクランボは1000KRまで耐え、グレープフルーツは500KR、カボチャ(Squash)は、150〜200KR、未熟トマトは100KRまで耐えると報告している。Hattonら(1961)〔14〕はフロリダ産マンゴーの2種類に10KRから200KRまでガンマー線照射をおこない放射線障害の有無を調べた。Irwin種に10KR、Sensation種に15KRの照射は、臭いをそこなわないと報告している。

(3) 各種生果実の放射線照射による含有成分の変化

 1パパイヤ Moyら(1971)〔18〕によれば、パパイヤのPeroxidase activityは無処理においては果肉が最も少なく、胎座が比較的多く、果肉が最も多い。収穫後4〜10月間の貯蔵中果肉の活性が有意に増加している。100Krad以下の低線量照射されたパパイヤと無照射のパパイヤのperoxidose activity の有意差はなかった。

 パパイヤの成熟中に化学成分および栄養成分の変化を調べるため、パパイヤをmature−greenからcolour−turningの熟度までのものを収獲し、それらを普通の出荷用と同じように温湯処理しこれを放射線処理区と無照射区に分ける。放射線処理区は線量が25,75,125,250Kradであり、線量分布は最大線量/最小線量=1.15〜1.20である。一方、無照射区は、無処理区、温湯処理+くん蒸処理、蒸熱処理区とした。これらの区のサンプルを11日間保管し、適当な間隔で分析を行なった。

 分析項目は Total soluble solids

                    (全可溶性固型物)

       Dry matter

                    (乾物)

       Invert sugar

                    (転化糖)

       Total reducing sugar

                    (全還元糖)

       Total ascorbic acid

                    (全アスコルビン酸)

       Redaced ascorbic acid

                    (還元アスコルビン酸)

       carotenoids

                    (カロチノイド)

       physical tests

 この分析の結果、全体的に処理による変化は認められなかった。また、ガンマー線25〜250Kradの照射処理されたパパイヤの還元アスコルビン酸は他の処理のそれと有意な差を示さず、全アスコルビン酸も67.3±0.7%で一定していた。

 2マンゴー Pabloら(1971)〔24〕によれば、以下のとおりである。30℃で貯蔵されたmature−greenのマンゴーのShelf−life extensionが最も大きな照射線量は60Kradでこの照射線量ならば30℃で3週間貯蔵後において、無照射および80Kradよりも、腐敗率が最小であった。60Kradの照射を受けたCaravao種のマンゴーは色において無照射のマンゴーと有意差があった。そこでガスクロマトグラフィによってカロチノイドを分別した結果、貯蔵後8日後の照射マンゴーのβ−カロチノイド含量は無照射のそれより有意に多かった。これは薄層クロマトグラフィ−でも実証された。またβ−カロチノイド分析でアスコルビン酸が定量され、照射マンゴーの含有量が無照射に比べて多かった。

(4) ガンマー線照射を受けた生果実の芳香、臭気、色、歯ざわりに対する効果

 ガンマー線照射を受けた数種の生果実の芳香、臭気、色、歯ざわり(texture)について官能検査を行なったMoyら(1971)〔18〕の論文を紹介する。

 調査の対象となった生果実は、パパイヤ、マンゴー、レイシ、バナナ、パインアップルである。

 1パパイヤ この官能検査は、ガンマー線照射区を普通の殺虫処理法であるくん蒸処理、蒸熱処理、さらに無処理の3つの比較するため、実際の輸送をまねた状態にして調査したものである。ガンマー線照射量は25,70,75,100,150Kradである。この検査の結果、蒸熱処理区は、ある一部のロットにおいて芳香について得点が有意に少なく、又25Krad照射区はロットの半数で、芳香および臭気で高い得点を得ている。さらに照射区は、どの検査項目においてもいずれの線量区も、無処理区、くん蒸処理区、蒸熱処理区より低い得点のものはない。一方大規模輸送試験においては、くん蒸処理と蒸熱処理および25Kradと75Kradの照射処理区間で比較したところ、有意差の認められたのは、着色スコアーのみであった。75Kradの処理区は平均得点で他の全ての処理区より優れていた。芳香、臭気、歯ざわりの点では、処理間に有意差はなかった。パパイヤについては放射線処理が官能検査において他の処理より優れていることはあっても劣ることはないことが明らかである。

 2マンゴー ハワイの栽培品種であるHaden種とGolden Glow種の2種類について官能検査を行なった。Golden Glow種はHaden種とCarabao種の雑種である。官能検査項目は、パパイヤと同様、色、芳香、臭気、果肉の歯ざわりである。ガンマー線の照射量は、33Kradから150Kradで33Kradはマンゴーゾウムシ(mango seed weevil)の殺虫線量である。照射後の貯蔵は45°Fで2週間さらに55〜65°Fで3.5週間保存した後調査した。その結果対照区であるくん蒸区と比較していずれも有意差は認められなかった。Pabloら(1971)〔24〕によれば、60Krad照射と無照射のマンゴー(Carabao種)を比較した結果、官能検査官は照射されたマンゴーは最初の2−3週間は、無照射のマンゴーより全体的に好ましくまた幾分甘味が増していると判定している。この甘味が増しているのは照射マンゴーの全固型物(Total−solid content)がより多いことに帰因しているのであろう。照射後対照区と一緒に30℃で15日間保存したのち官能検査したところ、臭、芳香、歯ざわりとも有意差は認められなかったが、果肉の色に有意な差があったと述べている。

 3レイシ Moyら(1968)〔20〕はレイシのハワイの栽培品種6種について25Krad〜100Kradに照射区と未照射区について色、芳香、臭気、歯ざわりについて官能検査をして比較した。25Kradはミエバエの殺虫線量である。照射後45°Fで3週間貯蔵したのち未処理のレイシと比較したが検査項目について有意差は認められなかった。また照射をうけたものは果実の成熟が遅れる効果であった。

 4バナナ Moyら(1967)〔22〕はハワイの栽培品種であるApple種のmature−green,half−color,full−colorの3段階の熟度について25〜100Kradの照射をした場合と無処理の場合について官能検査の比較を行なった。検査項目の色、芳香、臭気、歯ざわりについて有意差はなく、また、ハワイのバナナには照射による熟度の遅延効果はあまりないようであった。

 5パインアップル Moyら(1968)〔21〕はパインアップルのSmooth cayenne種について調査した。照射区は25−200Kradであるが、未くん蒸区の対照区と比較して官能試験の各項目に有意差を認めることはできなかった。また貯蔵後45°F,75〜85%RHで5〜12日間貯蔵したが、冷凍による障害は認められなかった。

(5) Shelf−life Extensionについて

 1パパイヤ Moyら(1971)〔18〕の報告によれば、パパイヤの生理学的な要因と病理学的な要因に影響される。生理学的要因は、熟度の進む速度と老朽化であり、病理学的要因は、貯蔵中の病気に関係している。基礎代謝過程を防げて、熟成および老朽化を遅せらせ、貯蔵中の腐敗を抑制することによって、生果実の市場価値は大きくなる。

 Akamineら〔4〕によれば、4分の1ほど熟した照射パパイヤは、熟して食用されるまで室温で貯蔵すると、無照射のパパイヤより硬かった。最も硬かったのは、75−100Krad照射を受けたときである。無照射パパイヤは熟して食用に供されるようになってから、全面が熟するまで3日間であるが、75Krad照射されたものでは、全面からうれはじめるのに6日間を要した。

 Buddenhagen.I.Wら〔8〕によればパパイヤの温湯処理(120°F 20分)は病菌の感染による腐敗をコントロールするために効果的である。一般的にstem−end rotは冬期のパパイヤによく見られ、Anthyacnose(炭疽病)は夏期のパパイヤによく見られる。温湯処理は、Rhizopusの胞子を除去し、初期感染を遅らせることで腐敗をいくぶん遅らせるが、腐敗をおこらなくさせることはできないし、果実内の菌を除去することもできない。温湯処理した果実を乾燥させることは、腐敗を遅延させるために効果的である。

 Akamineら(1969)〔4〕は温湯処理、照射処理、温湯処理のあと照射処理の組合せ、の3つの方法を用い、パパイヤのShelf life extensionについてどの方法が最も効果的かを調べた。結果は、第5表のとありである。75Kradの照射を行ない、温湯処理した区のShelf−lifeは、9.6日、温湯処理だけ行なった区のそれは、6.5日で、その差は3.1日でShlf−lifeが一番よく伸長している。よって75Kradの照射線量は、Shelf−lifeの伸長に対しては最適線量であるといえる。

 パパイヤを各種の殺虫処理を行ない、模擬輸送試験および大規模船積試験をHawaii Research IrradiatorとHawaii Development Irradiatorとで行なった。その結果、照射パパイヤのShelf lifeは対照区、くん蒸処理区、蒸熱処理区と同じかあるいはより良かった。Dollorら(1969)〔13〕,Moyら(1969)〔19〕

 2マンゴー Dharkarら(1966)〔11〕の論文を紹介する。マンゴーに25Krad照射し、適温下で貯蔵すれば、6〜8日間Shelf−lifeが伸びる。また適量線量より多く照射すると、生理的な損傷をきたし、逆に熟成のスピードが早くなる。一方窒素ガスの中で照射すれば200Kradまで明らかな照射損傷がなく耐える。空気中でこのような高線量照射すれば、完全に黒くなってしまうので、オゾンが果皮の変色に関係しているように思われる。照射前にアセチールモノグリセライトの6%乳剤でスキンコーティング(Skin−Coating)してから照射すれば、さらに6日間Shelf−lifeが伸びる。さらにこれらの果実の官能検査の結果は、スキンコーティングした無照射果実と比較しても良好であったと報告している。マンゴーの輸送は、国内ならば冷蔵の必要はないが、遠距離輸送では、冷蔵しなければならない。よって室温より若干低い温度で照射マンゴーの貯蔵可能期間について調査した報告がある。マンゴーは成熟果、未熟果、均一のオリーブグリーン色の果実の3者を、処理の前日に採果し、室温で25Kradで照射し、つづいて5,10,15,20℃に貯蔵した。貯蔵可能期間は、新鮮で光沢のある外観をそなえ、自然の果実臭をそなえた状態を保っている期間とする。この試験の結果、マンゴーの成熟は貯蔵温度が高いほど早く、また、あらゆる貯蔵温度において照射によってマンゴーの成熟が遅れること

が明らかとなった。照射による成熟のおくれは、貯蔵温度にも影響される。貯蔵温度が5℃の場合、照射された果実は、未照射の果に比べて40日の成熟のおくれがあり、20℃の場合でも10日の成熟のおくれがあった。この成熟のおくれは、換言すれば市場性が高くなることを意味する。照射マンゴーの輸送試験についてSreenivasanら(1971)〔29〕に報告がある。それによるとマンゴーをSkin−coating処理、照射処理および両者の処理をしてイネワラのバスケットに入れておよそ1,100kmの距離を鉄道輸送する。鉄道輸送に36時間かかり、当地で8日間25〜30℃の下で貯蔵し、さらに鉄道輸送で36時間かけて帰ってくる。この輸送中の最高温度は42℃にまで達している。実験室に試験材料のマンゴーが到着してからさらに5日間観察され、果実の外観、果皮のつや、臭気について官能検査を行ない成熟度と市場性について評点した。その結果、Skin−coatingと照射に両処理をあわせて行なったマンゴーは実験終了時、100%の市場性を有していた。


第5表 パパイヤに温湯,照射,温湯+照射の3処理を行なったのちの商品価値を有する日数
最小線量
    
Krad
 Control 
         
   対照区   
         
温湯処理のみ(1)
         
         
 照射処理のみ  
         
 温湯+照射(2)
         
 処   理   
       
(1)−(2)
       
  25
  50
  75
 100
 4.7±0.4日
 5.8±0.3 
 5.8±0.3 
 5.8±0.3 
 6.4±0.4日
 6.5±0.1 
 6.5±0.1 
 6.5±0.1 
 5.6±0.4日
 7.1±0.5 
 6.9±0.1 
 7.5±0.1 
 6.4±0.1日
 8.9±0.3 
 9.6±0.2 
 9.3±0.2 
  Nil日 
  2.4  
  3.1  
  2.8  

1)供試パパイヤは1/8から1/4黄色くなったもの
2)処理後73〜80°F 60〜78%RHで貯蔵
3)各処理につき15個のパパイヤを供試


(6) 放射線による生果実表皮上の微生物の防除

 Neisonら(1959)〔23〕によれば、イチゴのBotrytis cinerea(the grey mould)はイチゴに損傷を与えない線量では殺菌されないが、5℃、で200Krad照射すれば、菌の活動を抑制することができる。Sommorら(1960)〔27〕によれば、核果(桃、西洋スモモ、サクランボ、アンズ、ツバイモモなど)につくmonillinia fructicola, ,Rhizopus stoloniferは照射によって抑制されつづける。またKlotz L.J.(1961)〔25〕によれば、カンキツ類につくPenicillium italicumおよび P.digitatumが、またBeraha(1957)〔7〕によればリンゴの P.expansumがそれぞれ照射によって菌の活動が抑制されると報告している。

(7) アメリカでのパパイヤの現行消毒法と放射線照射消毒法の比較

 第6表に示した4種のフローチャートはHawaii Food Irradiation Program(1971)〔16〕によったものである。USDA(米国農務省)の蒸熱処理法には、前述処理法には、前述のQuick−run−up(短時間蒸熱処理法)とLong−term法(長時間蒸熱処理法)がある。前者は、生果実の中心温度が47.7℃になるまで飽和蒸気で熱する方法であり、後者は、およそ11時間で果実の温度を44.4℃まで上昇させ、以後同温度で8 3/4時間処理を施し、さらに6ないし15時間で44.4℃から21.6℃に冷却する方法である。ミバエ類の殺虫を確実に行なうためには最小吸収線量が21〜75Kradの線量でよい。もしこの方法が認められるなら、パパイヤの市場性をかえることになるであろう。消費者はパパイヤのかなり熟度の進んだもので、その香りが最高に近いものを手に入れることができるであろう。この照射処理を行なっても、成分や品質に検知できる変化を見い出すことはできない。また、パパイヤが収穫されてから、小売市場に出廻るまでの流通時間を短縮することができるのでパパイヤの損傷を減少することができる。現行のくん蒸処理および蒸熱処理は照射処理に比べて余分に18〜24時間を要する。この時間的おくれがそれだけ品質面での損失の原因になるのである。

 照射処理は、パパイヤが梱包施設に到着してから船積されるまで流れ作業で行なうことができる。すなわち温湯処理は60℃の温水の中を20秒間浸漬し、そのあと50℃の温風を10秒間あてて、梱包、処理、処理後の貯蔵まで流れ作業で行なうことができるわけである。温湯処理は果実表面のカビによる腐敗の機会を減らすために必要で、照射処理がこれにかわることはできない。

 くん蒸処理は、21℃以上の室温で行なわなければならない。このため温湯処理後普通一晩放置しなければならないが照射処理はこの時間が不要である。蒸熱処理は、成熟のスピードを早くし、また箱詰するまでに一晩放冷しなければならない。また重量が減少し、更に官能検査の結果も悪くなっている。

 パパイヤの照射は、船積みのコンテナーに入れこまれる直前に行なわれるので、再汚染(照射殺虫した後に、ミバエによって産卵されること)を防止し、取扱いの面からも経済的である。また処理5日前までに冷蔵した十分な量を集荷しておけば、照射処理は極めて効率的に行なうことができる。

 現在検疫上承認されている殺虫処理方法は、臭化メチルあるいは臭化エチレンによるくん蒸、蒸熱、冷蔵これらの方法の組合せである。照射処理は、これらの諸方法にかわることのできる方法で、たいていの生果実に殺虫に必要な線量を照射してもなんら損失は認められていない。現在の全ての殺虫処理は、一晩放置しておかなければならないとか、処理自身に時間がかかる等第6表に示して過程を含んだものである。たとえば、臭化エチレン8g/m3でくん蒸した場合、2時間のくん蒸とくん蒸庫のガスの排気に30分を要する。そしてこの殺虫処理は箱詰めする前になさなければならない。

 蒸熱処理法においても、時間がかかることは勿論、重量が8%も損失する。またこれらの処理がなされたのち、最終の箱詰め検査と不良品の廃棄がなされるので処理コストが高くつくことになる。しかし照射処理は、箱詰めされるパパイヤの検査、選別がなされてから行なわれるので、処理コストが安くなるといえる。


第6表 アメリカでのパパイヤの現行消毒法と放射線消毒法の比較
表出力エラー


(8) 照射パパイヤの安全性

 International Project in the Field of Food Irradionの一環として照射パパイヤの安全性について試験した報告があるので紹介する。

 75〜200Kradを照射したパパイヤを15%含む飼料と無照射のパパイヤを同率で2年間Beagle dogに経口投与して変化を調査した。調査項目は、体重、摂取物の消化、行動、死亡、血液、尿、繁殖、出産数、生育数、大きさ、離乳時の体重と血液、病理的所見、その行動等である。2年間の長期にわたる調査の結果、対象区との間に有為の差は認められなかった。また、RatについてBeagle dogと同様の試験報告がある。この場合の線量は、75〜210Kradであった。しかし、照射パパイヤによるなんらの毒性を認めることはできなかった。更に、Albinoratを用いて2年間の慢性毒性試験と3世代にわたって諸調査を行なったが、パパイヤの無照射区との間に有意差を認めることはできなかった。

(9) 照射パパイヤに対する消費者の反応

 Spielmann(1967)〔28〕は、カリフォルニア州のRedlands市とSacramento市で電話帳から無作為抽出によってインタビューした。質問の内容および応答は第7表のとおりである。

 Redlands市では1005名に電話し、807名から回答を得た。Sacramento市では1,552名中997名の回答である。第7表によれば、75%が照射された食品に対し、これを食すると回答している。しかし、そのためには、食品医薬品局の承認が絶対に必要であることはいうまでもない。


第7表 米国食品医薬品局と米国農務省が承認したならばx線処理した食物を買って消費するかどうか
   
Redlands C.
Sacramento C
 平  均 
Yes
No 
無関心
   72.6%   
   22.4    
    5.0    
   76.9%    
   20.4     
    2.7     
 75.0 
 21.3 
  3.7 


あとがき

 生果実の放射線殺虫の利点は、前述したように消毒が完全であり、残留毒性がなく、更に処理時間が短かく、生果実の熟度の遅延効果等も期待できる点である。

 しかし、放射線殺虫を具体的に推進するためには、十分検討されねばならない点が相当ある。完全対策は当然であるが更に、ガンマー線照射施設の建設費は、臭化エチレンのくん蒸庫、低温処理庫、蒸熱処理施設等の建設費と比較してかなり高額である。よって照射施設の経済性を高めるためには、殺虫処理を要する生果実の供給量の周年変動が少なく、かつ多量に処理しなければならない。そのためには、栽培体系を整備し、大規模なプランテーションによって計画栽培がなされる必要がある。更に、生育した生果実の集荷体制、照射施設までの輸送、一時貯蔵設備、照射後の保管及び発送等の一貫した諸施設の完備が必要であろう。

 アメリカ、ソ連邦では、小麦の放射線殺虫がすでに法的に許可されている。ハワイにあっては、パパイヤの殺虫およびShelf−lifeの伸長試験、フイリッピンにおけるマンゴーの殺虫試験が推進されている。わが国でもジャガイモの発芽防止を目的としてガンマー線照射が認められた。生果実中のミバエの殺虫手段として、放射線利用は将来の有望な手段となることであろう。

引用文献

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放射線殺虫研究会について

                 (事務局)

 現在熱帯生果実の日本への輸入は、一部の国を除いて禁止されている。しかし、最近フィリピン、アメリカなどにおいて放射線殺虫の研究が進展し、その有効性も実証されており、東南アジア諸国ではこれらの結果を基にして、日本への熱帯生果実の輸入解禁を強く要請されている。

 また熱帯生果実以外にも、輸入穀類、飼料原料、木材などの防疫に関して放射線の利用について数多くの報告が出ている。しかし、日本の現状を基にこれらの分野への放射線処理技術の導入の可否について、総合的に検討されたことはない。

 そこで協議会の関係者が集り、防疫法、安全性、経済性、技術面から検討した結果、今後情報交換の場として、放射線殺虫研究会を発足させるべきであるとの結論に達した。

 その後幹事会の了承も得たので、農林省横浜植物防疫所、食品総合研究所、畜産試験場、熱帯農業研究所、原研・高崎研究所、理化学研究所などの有志を中心に研究会を開催し、研究、行政面への情報およびバックデーターの収集と整理を行なっていく予定である。

 以下にこれまで検討された事項の要旨をまとめておいた。

1. 一般的な輸入植物検疫についての考え方

 日本は、穀類、飼料、木材などの多量に輸入しなければならない。これに伴って病害虫の侵入を防ぐため、植物防疫法で次のようなことが定められている。

 1侵入を特に警戒する病害虫が発生している地域の寄生植物、土および土の附着する植物、病菌、害虫は輸入を禁止する。

 2植物を輸入する場合は、輸出国の検疫証明書の添付を必要とする。

 3植物の輸入は、指定されている港で行なわなければならない。

 4植物を郵便物で輸入する場合は、小包郵便物など3種類のものに限定される。

 5植物を輸入した場合は、すみやかに届け出て、植物防疫官の検査をうけなければならない。

 6特定の種苗については、港での検査のほか、一定期間隔離して検査をうけることが必要である。

 7検査の結果、病害虫が発見された場合は、植物防疫官の指示に従って消毒等の措置を行なわなければならない。

 8試験研究のため、輸入禁止品に指定されているものの輸入を希望するときは、事前に農林大臣の許可を受けなければならない。

 おおよそ以上のようなことが定められている。

2. 輸入が禁止されているもの

次のものは「輸入禁止品」として輸入することが禁止されている。

(イ)チチュウカイミバエ、ミカンコミバエ、ウリミバエ、コトリンガ、アリモドキゾウムシ、サツマイモノメイカガ、イモゾウムシ、コロラドハムシ、ヘシアンバエ、ジャガイモシストセンチュウ、ミカンネモグリャンチュウ、じゃがいもがんしゅ病、たばこべと病の発生地からくる、または発生地を経由してくるこれらの病害虫の寄生植物

(ロ)以下法令に定めたもの(略)

3. 熱帯生果実の輸入禁止

 チチュウカイミバエ、ミカンコミバエ、ウリミバエの発生地は、熱帯・亜熱帯の大部分の地域で、この地域から生果実の輸入は禁止されている。このうち「ハワイ諸島産ソロ種パパイヤ」、「南アフリカ共和国産バレンシア種、ワシントンネーブル種、トコンゴ種およびプロテア種のスィートオレンジ、レモン並びにグレープフルーツ」、「イスラエル産シャムテ種、バレンシア種およびワシントンネーブル種のスィートオレンジ、レモン、グレープフルーツ」等は本来禁止品であるが、相手国の招待により現地の派遣されたわが国の植物防疫官が、定められた消毒を確認し、その旨の証明した場合は、禁止品から除外され、特定の港への輸入が認められる。今後、殺虫、殺菌の技術が進むと、一定の条件をつけて禁止品から解除されるものが次第にふえると考えられる。

 東南アジア諸国は、日本を大きな市場とみなし生果実の輸入禁止の解禁を強く要請している。各国の殺虫手段は、二臭化エチレンによるくん蒸、低温、蒸発処理などの方法であるが、放射線照射による殺虫についても研究を進めている。ハワイでは、パパイヤ、フィリピンではマンゴーの放射線照射による殺虫、品質への影響について研究が推進されている。

 日本でもこれらの情報を集め、放射線殺虫の有効性、安全性を検討しておく必要がある。

4. 穀類、飼料の殺虫・消毒

 穀類、まめ類等の輸入量は、年々増加し、昭和48年度では、穀類1976万トン、まめ類441万トンになっている。

 輸入時の植物検査において、害虫を発見すれば、植物防疫官が指定する倉庫、サイロに搬入して、殺虫、消毒のためくん蒸がおこなわれる。くん蒸剤は臭化メチルあるいは燐化水素が用いられ、前者は24時間あるいは48時間処理し、後者は5〜7日間処理しなければならない。さらにくん蒸ガスの排気に時間を要する。

5. 木材の殺虫・消毒

 木材は、米材、南洋材、北洋材が輸入される。輸入植実検査では、カミキリム科、キクイムシ科の木材害虫が発見されることが多い。これら殺虫・消毒は、臭化メチルによるくん蒸消毒が水没によって行なわれる。

6. 放射線による害虫の殺虫

 放射線、特にガンマー線は、透過性があって害虫の組織を通過し、組織細胞の成分分子をイオン化して、害虫を死にいたらしめることができる。くん蒸ガスは、害虫が気門から呼吸することから生ずる呼吸毒で死にいたらしめるのであるが、放射線は、体のあらゆる部分で死にいたらしめる反応がおこる。放射線を照射して即死させるためには、およそ300〜600Keadの極めて高い線量をかけなければならないが、数週間ほどして死にいたらしめるためには、10〜20Krad程度である。

 また、10Krad程度の低線量では不妊化がおこり、たとえ生存していてもその繁殖機能は阻害されるので、その虫一代で終ってしまう。また、生活機能たとえばマソディブルの穀類などをかみくだく力がおとろえるため、その被害をいくらか軽減することは考えられる。しかしながら現行の植物検疫では、殺虫直後の死亡が建前である。

 ハワイのパパイヤでは、ミバエ類の放射線殺虫のLD99.9968の線量は21Kradであるといわれている。

 ハワイではパパイヤに、フィリピンではマンゴーに放射線照射による殺虫の試験研究が推進されている。

 放射線は、その生果実に寄生する害虫を殺虫するばかりでなく、その生果実のShelflifeを伸長させるため、市場性を高める作用のあることが明らかになっている。パパイヤは、現在二臭化エチレンによるくん蒸消毒か、あるいは蒸熱消毒のどちらかによって日本へ輸入されているが、前者の処理では、くん蒸時間とガスの排気時間におよそ25時間を要し、後者では、果実の中心温が118°Fになるまで熱するのであるから、同様に時間を要し、そらに若干重量が軽くなるなどの欠点がある。

 ハワイのパパイヤの照射試験は、相当大がかりに実施され、殺虫、品質の面で十分なデーターが出されており、現在、安全性に関し、米国食品医薬品局(FDA)で判定作業が進められている。




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