一般に、かんきつ類はミバエが寄生しているため、植物防疫上、何らかの手段で殺虫することが求められている。
グレープフルーツにおいても例外ではなく、現在、日本に輸入されている米国産グレープフルーツは、二臭化エチレン(Ethylen dibromid:EDB)により殺虫処理がなされている。米国では、1986に1kGyまでの放射線処理を、生鮮果実の殺虫のために行うことが許可され、近い将来実現されようとしている。これに対し、日本では、熱処理による殺虫で対処すべく植物防疫において準備がなされている。ここでは、放射線処理あるいは湿熱処理が、グレープフルーツのビタミンC含量に及ぼす影響を調べた。
試料:米国フロリダ州のIndian River Crest種のグレープフルーツを用いた。
放射線処理:コバルト60のガンマ線源(ガンマセル220,9000Ci)を用いて、0.5,1.0及び3.0kGyのガンマ線照射を行った。線量率は、7.41kGy/hrであり、Frickeの方法により測定した。
湿熱処理:43℃、3時間の湿熱処理と、過剰処理としてさらに46℃、2時間の処理を行った。
ビタミンCの測定:各区より3個の果実を無作為に選択し、果汁を手搾汁し、その中から一定量を測定に供した。
試料中のアスコルビン酸を、ジクロロフェノールインドフェノールでデヒドロアスコルビン酸に変換した後、ヒドラゾンとして光吸収を測定し、全アスコルビン酸を定量した〔1〕。
貯蔵試験:ビタミンCの測定は、照射直後、4℃・1ケ月間貯蔵後、及び15℃・1ケ月間貯蔵後に行った。
アルコルビン酸には、還元型と酸化型(デヒドロアスコルビン酸)があるが、ビタミンC効力は同等とされている〔2〕。そこで、本研究では、還元型と酸化型の合計量を測定し、ビタミンC量とした。
Fig.1に放射線照射及び湿熱処理直後に測定したグレープフルーツのビタミンC量を示した。非処理の対照のビタミンC量は、43.5mg/100ml果汁であり、これに対して0.5kGy照射したものは39.3,1kGy照射したものは36.3,3kGy照射したものは39.6mg/100mlと若干低下する傾向が見られた。しかし、線量依存性はみられなかった。いっぽう43℃,3時間の湿熱を行なったものは43.7,さらに46℃,2時間の湿熱を行ったものは41.5mg/100mlと、やはり対照よりも若干の低下を示した。
Fig.2に、4℃・1ケ月間貯蔵後の測定結果を、Fig.3に15℃・1ケ月間貯蔵後の測定結果を示した。Fig.2に見られるように、4℃・1ケ月間貯蔵後では、3kGy照射処理をしたもの、及び46℃処理をしたものは、対照よりもむしろ多いビタミンC量を示した。これに対し、15℃・1ケ月間貯蔵後は、いずれの処理区も対照よりも少ないビタミンC量を示した。
ビタミンCは、グレープフルーツの重要な栄養成分であるので、放射線照射による影響が調ベられている。MOSHONASら〔3〕は、フロリダ産のMarsh種及びRubyRed種のグレープフルーツを、コバルト60の線源を用いて0.9kGyまでの照射を行い、果汁中のビタミンC量に影響はないと報告している。また、彼らは〔4〕、照射線源をコバルト60,セシウム137,X線と変えてグレープフルーツを照射し、いずれの線源によっても0.6kGyまでの照射ではビタミンC量に影響を及ぼさないと報告している。
我々の得た結果は、Fig.1から3に示したように、3kGyまでの放射線照射を行うと、対照に較べ、若干の減少がみられるが、その減少は線量に依存しておらず、とくに放射線の影響とは認められなかった。
湿熱処理についても、同様に処理による大きな影響は認められなかった。
以上の結果から、殺虫のための放射線照射あるいは湿熱処理は、グレープフルーツのビタミンC量に大きな影響を与えないと判断された。
〔1〕日本食品工業学会食品分析法編集委員会編:「食品分析法」,
P466(光琳・東京)(1982)
〔2〕科学技術庁資源調査会:「四訂日本食品標準成分表」P.35
(1982)
〔3〕MOSHONAS,M.G.andSHAW,P.E.:J.
Agric,Food Chem.,32,
1098〜1101 (1984)
〔4〕MOSHONAS,M.G.andSHAW,P.E.:J.
Food Sci.,47,958〜960(1982)
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