木材害虫キクイムシ類および貯穀害虫ゾウムシ類に対する放射線の不活性化作用を利用してこれらの有害昆虫を防除する目的で、マツ類の害虫であるキイロユキクイムシCryphalus Fulvus Niijimaと小豆の害虫であるアズキゾウムシCallosobruchus Chinensis L.について致死線量、羽化阻止線量、不姙化線量を測定し、それぞれの放射線感受性を比較検討した結果を報告する。
キイロユキクイムシの一世代は約30日で、その生活史、飼育方法を予備実験で検討した結果、次の方法により容易にかつ大量の累代飼育が可能となった。アカマツを長さ約7cmに切ったものを試験木して使用し、理研インセクトトロンで25℃で飼育、各発育令期についてCo−60 γ線照射を行った。羽化後24時間以内の成虫を、アカマツ試験木に雌雄各一対を入れるか、もしくわ雌雄別々に試験管内に入れて、成虫に対する致死線量を求めた。また羽化阻止線量および姙化線量の測定のために、卵、幼虫、蛹の時期に試験木に入ったまゝ照射し、成虫の場合は照射した雌雄各一対を試験木に食入させ、何れも25℃において照射後の観察を行った。照射効果の判定は形成層の部分をはぎ取り、幼虫孔の数とそれに対する成虫、蛹、幼虫の生存数を計数して検討を実施した。
アズキゾウムシは羽化するとすぐに交尾するので直ちに雌雄を分け、羽化後24時間以内の成虫を照射した。アズキゾウムシ成虫の致死線量の測定のため、羽化後24,48,72,96時間以内の4段階の成虫を雌雄各25頭を各区として照射したが、別の実験では羽化後0〜6,6〜12,12〜24時間以内の3段階の成虫を用いた。
γ線照射の線量率は、成虫照射では1500Krad/min、卵・幼虫・蛹の入った試験木の照射では320rad/minであった。
キイロユキクイムシ成虫の羽化阻止線量キイロユキクイムシ成虫を3〜12Krad照射した後、照射雄×照射雌、非照射雄×照射雌、照射雄×非照射雌および非照射雄×非照射雌の4種の交配組合せを行ない、試験木に食入させた。食入後約30日目に成虫の羽化脱出がみられたが、試験木の形成層を剥皮し、成虫、蛹の数と幼虫時に作られた幼虫孔の数をしらベ、それらの一致をたしかめてその数を生存虫数とした。各線量におけるキイロユキクイムシ成虫照射後の生存虫数および生存率をTable 1に示す。これは3回の繰返し実験の平均値を示す。
平均生存率は線量の増加とともに低下するが、また交配の仕方によっても変化し照射雄×照射雌、非照射雄×照射雌、照射雄×照射雌の順に生存率は低くなる。照射雄×照射雌の交配の場合には6Krad以上で次世代への羽化は全く認められなかったが、照射雄×非照射雌の場合にはわずかながら3.6%の羽化が認められた。しかしこの照射雄×非照射雌の場合にはわずかながら3.6%の羽化が認められた。これらの生存率対線量の曲線はシグモイド型であり、その曲線の外挿により最も抵抗性の強い照射雄×非照射雌の場合でも、羽化阻止線量は成虫照射の場合約12Kradとみなして差支えない。なおこの点実験的にも検討を継続中である。
Survivors after gamma irradiation of adults of C.fulvus |
Dose (krads) |
Survivors |
Surviving fraction(%control) |
I×I U×I I×U |
I×I U×I I×U |
|
3 6 9 12 |
12.6+3.0 24.6+9.7 25.6+2.5 0 7.3+7.1 12.4+4.6 0 4.1+2.0 10.9+2.7 0 0 1.2+0.1 |
38.0 74.3 77.3 0 22.0 37.4 0 12.3 32.9 0 0 3.6 |
Control |
U×U 33.1+11.3 |
U×U 100 |
U:unirradiated; I:irradiated |
前項の場合と同様にして照射、食入交配させ、食入後15日目に形成層を剥皮すると、孵化幼虫と未孵化卵が試験木の中にあるので、これを別々に計数し、産卵数に対する孵化幼虫数の比を求めて、成虫不姙化の程度をあらわした。その結果をTable 2に示す。
これも3回の繰返し実験の平均値であるが、雌が照射された場合は線量の増加にともない明らかな産卵数の減少がみられたが、12Kradでもある程度の産卵数があった。しかし照射雄×非照射雌では産卵数は12Kradでもそれほど減少しなかった。これに対して孵化率を計算すると非照射雄×照射雌では線量にともなう減少がわずかである。照射雄×照射雌および照射雄×非照射雌ではかなり顕著な孵化率の低下が12Kradで認められたが、充分とはいえない。これらの結果からみるとキイロユキクイムシ成虫の照射において、不姙化線量は羽化阻止の線量12Kradよりもかなり高いことがわかる。
Effects of irradiation of adults of C.fulvus on the number of eggs laid and hatched |
Dose (krads) |
No.of eggs laid (No.of eggs hatched) |
Hatching ratio (% control) |
I×I U×I I×U |
I×I U×I I×U |
|
3 6 9 12 |
28.5 29.5 34.0 (19.0) (25.0) (24.0) 12.8 29.3 35.0 ( 3.2) (14.0) (11.5) 7.5 6.2 35.3 ( 1.5) ( 3.6) (10.0) 5.2 3.8 26.6 ( 0.3) ( 2.4) ( 2.6) |
66.6 84.7 70.5 25.0 47.7 32.8 20.0 58.0 28.3 5.7 63.1 9.0 |
Control |
U×U 35.6 (33.6) |
U×U 94.3 |
U:unirradiated; I:irradiated |
0.5〜12Kradのγ線照射をした5日目卵、3令幼虫、蛹の成虫への羽化率をしらべ、各線量のうち羽化成虫になったものについては再び雌雄1対を交尾、産卵させ、次世代の平均産卵数と孵化数をかぞえ孵化率を計算した。その結果をTable 3に示す。
卵は5Kradで羽化成虫は皆無となり、3令幼虫では7Krad以上で羽化率0であった。7Kradでは幼虫は蛹室を作るが蛹になれない個体が多数認められ、8Kradでは蛹室を作らずに死亡している個体が多かった。蛹の照射では6〜12Kradでもかなりの羽化率が認められた。しかしその羽化成虫の交尾後の産卵数はかなり減少し、それに対する孵化率も低下、9Kradでは0となった。幼虫では6Kradで孵化率0となる。
Inhibition of emergence after irradiation of C.fulvus at different stages of the development and sterilizing effects on its adults emerged from irradiated eggs,larvae and pupae |
Dose (krads) |
Emergence after irradiation |
No.of eggs laid(A) and hatched(B) by adults emerged from irradiated: |
||||
Devel.stage at the time of irradiation |
eggs A B B/A |
larvae A B B/A |
pupae A B B/A |
|||
5−days old eggs |
3rd in instar larvae |
pupae |
||||
0.5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 |
+++ +++ +++ ++ + − − − |
+++ +++ +++ + + − − − − − − |
+++ +++ +++ +++ +++ +++ +++ |
35.7 8.8 24.6 35.0 9.7 27.7 16.8 4.7 28.8 16.3 7.6 46.6 25.7 8.8 34.2 |
31.2 10.6 33.9 29.5 10.5 35.5 18.6 11.7 62.9 16.3 3.7 22.6 18.4 0 0 |
5.0 2.2 44.0 1.0 0.2 20.0 4.4 0.06 1.3 2.0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 |
+++ 60−100% ++ 30−60% − less than 30% |
アズキゾウムシ成虫の照射においては、キイロユキクイムシの場合と異なり、対照区の産卵数に対して、各組合せ区において著しく産卵数が減少することはなかった。
しかし産卵数に対する孵化率については、9Krad照射で殆んど0となる。交配組合せの仕方と線量の増加にともなう孵化率低下の傾向は必ずしもキイロユキクイムシの場合とは同じでない。雌の照射は孵化率の低下に明らかに有効であった。
Effects of irradiation of adults of C.chinensis on the number of eggs laid and hatched |
Dose (krads) |
No.of eggs laid (No.of eggs hatched) |
Hatching ratio (% control) |
I×I U×I I×U |
I×I U×I I×U |
|
3 6 9 |
580.0 586.3 684.0 ( 66.0)(160.6)(288.6) 574.3 589.0 677.3 ( 2.6)( 24.0)( 50.3) 543.3 534.0 657.6 ( 0 )( 3.6)( 2.6) |
11.4 27.4 42.2 0.4 4.0 7.4 0 0.6 0.5 |
Control |
U×U 687.3 (644.6) |
U×U 93.7 |
U:unirradiated; I:irradiated |
羽化後の時間の異なるアズキゾウムシ成虫を最高450Kradで照射し、照射後の時間と生存率の関係をしらべた。300Kradを照射した成虫は、羽化後24時間以内のものを除き、すべて1時間以内に死滅した。しかし羽化24時間以内の成虫も、雄は照射後24時間目で雌は8時間目ですべて死滅した。200Kradで照射した成虫は、羽化後の時間をとわず照射後72時間で死滅した。但し羽化後24時間以内の雌成虫はこの線量で72時間後に約4%の生存率を示した。
これらの成虫の生殖細胞の発育段階からみて、成虫への照射効果に優性致死突然変異が大きく寄与しているものと思われる。
1. キイロユキクイムシ成虫の羽化阻止線量は、雌雄両方を照射した場合には6Krad以下、雄だけ照射の場合は約12Krad、不姙化線量は12Krad以上であった。
2. キイロユキクイムシ卵、幼虫、蛹の羽化阻止線量はそれぞれ5Krad,7Krad,12Krad以上であった。しかし9Krad照射の蛹から羽化してくる成虫は完全に不姙化されていた。また幼虫の不姙化線量は6Kradであった。
3. 以上の結果からキイロユキクイムシの羽化阻止もしくは不姙化による除法は約12Kradで可能であると結論される。
4. アズキゾウムシ成虫の不姙化線量は約9Krad、殺虫線量は照射後1時間以内の死滅に対しては250〜400Krad、72時間以内の死滅に対しては200Kradであった。
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