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照射効果(IRRADIATION EFFECT):食品に放射線を照射した場合の貯蔵、衛生化等の効果

殺虫(その他)


発表場所 : 食品照射 第29巻 p.21 (1994)
著者名 : 土肥野 利幸、田辺 和男
著者所属機関名 : 農林水産省横浜植物防疫所
発行年月日 : 1994年
切花と切花付着害虫に対する電子線照射の影響
諸言
実験方法 文書
実験結果及び考察 文書



切花と切花付着害虫に対する電子線照射の影響


切花と切花付着害虫に対する電子線照射の影響
諸言

 我が国の切花の輸入量は年々増加傾向にあり、平成3年(1991年)の輸入量は4億3千万本をこえる(Fig.1)1)。これらの切花輸入時に植物検疫を受けることになり、検査の結果、不合格になると消毒措置がとられることになる。その多くは害虫付着による不合格で、ハダニ類、アザミウマ類、アブラムシ類など年間で100種類以上の害虫が発見されている。切花の商品価値としての高さは、「鮮度」と「品質」にある。そのため、収穫から小売までの流通過程を迅速化することが必須となり、航空貨物による輸入が急増している。病害虫の侵入を阻止することが目的である植物防疫も、この流通を遅滞させるものであってはならない。また、現在輸入切花にとられる消毒措置は、青酸ガスくん蒸又は臭化メチルくん蒸によっているが、臭化メチルはオゾン層破壊・環境保護の観点から、近い将来、その使用が規制される恐れがある。

 農林水産省では平成3年度から、輸入切花を対象にその鮮度や品質を低下させず、なおかつ、流通の阻害にならないような迅速で安全な消毒方法を開発するため、電子線照射による消毒技術開発を行ってきた。ガンマ線を照射して害虫を駆除しようとする研究報告は多くあるが、植物検疫上重要な害虫であるハダニ類、アザミウマ類、アブラムシ類、カイガラムシ類などについては、ほとんど研究されておらず、特に電子線照射となると皆無に等しい2)3)

 そのため、電子線照射が害虫と切花にどのような影響を与えるのか調査し、検疫処理としての可能性について検討した。

実験方法

1.害虫への照射

 供試虫としては切花の代表的な害虫であるナミハダニTetranychus urticae KOCH選定した。22℃,70%r.h.,光周期16L:8Dの条件下、インゲンマメ葉を用いて累代飼育し、卵(1日齢〜5日齢)、幼虫期(幼虫〜第1若虫を含む)、第2若虫期(第1若虫〜第3静止期を含む)、雌成虫及び雄成虫をそれぞれ照射した。照射には食品総合研究所のヴァン・デ・グラーフ型加速機(2.5MeV)を用いた。。

2.切花への照射

 照射には住友重機械工業電子照射センターのダイナミトロン加速器(5MeV)を用い、カーネーション、チューリップ、グラジオラス、トルコギキョウ、キク、バラ、オンシジウム、デンドロビウム、レザーリーフファーンの9種を供試した。

実験結果及び考察

1.害虫への影響

 体細胞の感受性の変化にともなって、生殖細胞の感受性も変化し、感受性の高い生育ステージで照射された個体は産卵能力を失っていた。また、雌雄による感受性の違いについては、発育過程全般を通して雌よりも雄の方が高かった。このことは雌雄のphenotype(表現型;雌は2n,雄はn)の違いによるものと考えられた。

 0.2kGy照射区では雌雄とも妊性の回復がみられたが、0.4kGy処理区では完全に不妊化された(Fig.3,Table 3)4)5)

2.切花への影響

 切花に対する照射の影響は、植物の種類、品種、あるいは植物体の部位によっても大きく異なっていた。カーネーション、チューリップ、グラジオラス、トルコギキョウ、オンシジウム、デンドロビウム、レザーリーフファーンは消毒が可能な線量域で耐性があったが、キク、バラでは障害が発生した(Table 4)。キクは品種によって障害のタイプが異なっており、開花が線量に依存して阻害される品種と葉が黄化(chlorosis)する品種があった。バラは線量の増加にともない、開花の遅延または開花不全が認められた。トルコギキョウでは開花直前の小花は影響を受けなかったが、蕾は0.4kGy以上で開花不全を示した。

 このように主な障害は花や蕾に認められ、これらが感受性の高い部位であることがわかった。また、照射された切花は、開花と老化を制御するホルモンであるエチレンの生成量が低下した(Fig.4)6)7)8)

3.今後の課題

 ダニ類は照射耐性が高いことが知られているため3)、このダニ類を防除でき、なおかつ、切花に障害が発生しなければ、電子線利用による検疫処理の可能性は十分考えられる。しかしながら、輸入切花の害虫に関しては、さらにアザミウマ類、アブラムシ類、カイガラムシ類についてのデータ集積を図るとともに、切花に関しても、より多くのものについて基礎的な知見を得る必要がある。また、実際輸入される切花の梱包は世界中まちまちであり、電子線の透過力の面から、このような種々雑多な梱包の内部まで線量分布を均一にする検討も必要と思われる。

文献

1)横浜植物防疫所:輸入検疫統計52-58(1985-1991)

2)Hayashi,T.:“Food Irradiation”,p164,Stuart Thorne(ed),Elsevier Science Publishing Co.,Inc. New York(1991)

3)Wit,A.K.H.and van de Vrie,M.:Med.Fac.Landbouww.Rijksuniv.Gent.50(1985)

4)Dohino,T.and Tanabe,K.:Res.Bull.Pl.Prot.Jpn.29,11(1993)

5)Dohino,T.and Tanabe,K.:Res.Bull.Pl.Prot.Jpn.30,27(1994)

6)Tanabe,K.and Kato,T.:Res.Bull.Pl.Prot.Jpn.28,27(1992)

7)Tanabe,K.and Dohino,T.:Res.Bull.Pl.Prot.Jpn.29,1(1993)

8)Tanabe,K.and Dohino,T.:Res.Bull.Pl.Prot.Jpn.30,75(1994)


Table 1. Adult emergence,mortality and fecundity of irradiated larval group(larva〜protonymph).
Dose
(kGy)
Tested 1)
mites
Adult emergence 2)
(%) (♀:♂)
♀Mortality 3)
(%)
Eggsaid 4)

0
0.4
0.6
0.8
225
217
220
222
95.6(60.0:35.6)
36.9(36.9: 0)
7.3( 7.3: 0)
0 ( - )
43.7
8.8
50.0
-
4726
0
0
-

1)The amount of 6 replications
2)Adult emergence = adult/stested mites x100(%)
3)Mortality 2 weeks after irradiation = dead adult females/adult females x100(%)
4)The amount of eggs which were yielded within 2 weeks after irradiation.



Table 2. Adult emergence, mortality and fecundity of irradiated deutonymphal group(protonymph 〜teleiochrysalis).
Dose
(kGy)
Tested 1)
mites
Adult emergence 2)
(%)(♀:♂)
♀Mortality 3)
(%)
egg laid4)

Hatchability5)
of progeny(%)
0
0.4
0.6
0.8
261
259
247
255
96.9(63.6:33.3)
90.3(56.0:34.3)
55.9(47.4: 8.5)
34.5(34.5: 0)
79.5
17.9
22.2
80.7
4870
391
69
0
89.8
0
0
-

1)The amount of 7 replications
2)Adult emergence = adults/tested mites x100(%)
3)Mortality 2 weeks after irradiation = dead adult females/adult females x100(%)
4)The amount of eggs which were yielded withim 2 weeks after irradiation.
5)Hatch was observed for 10 days after oviposition.



Table 3. Fecundity of irradiated adult males.
Dose

(kGy)

Days after

irradiation

Tested

pairs

Ovipositional

rate 1)
(eggs/♀/day)
Progeny 2)
Sterility 3)

(%)

Hatchability
(%)
Adult emergence
(%) (♀:♂)
0



0〜3
3〜7
7〜10
10〜14
29
27
21
16
6.4±2.2
4.0±1.8
5.5±1.6
4.1±1.5
97.3
95.8
94.5
96.5
90.8(58.8:32.0)
85.2(60.6:24.6)
90.5(59.9:30.6)
92.6(61.2:31.4)
3.4
3.7
0
6.3
0.2



0〜3
3〜7
7〜10
10〜14
24
20
14
10
4.7±1.6
6.8±2.1
4.5±1.5
9.1±1.5
52.1
63.1
55.1
56.9
30.1(2.4:27.7)
48.3(15.2:33.1)
23.0(5.4:17.6)
44.5(7.7:36.8)
70.8
20.0
50.0
30.0
0.4



0〜3
3〜7
7〜10
10〜14
27
23
19
16
4.9±1.9
6.4 ±2.4
6.1±2.0
8.1±1.6
41.3
36.2
43.3
40.2
31.3(0:31.3)
31.1(0:31.1)
22.9(0:22.9)
35.0(0.4*:34.6)
100
100
100
87.5

1)Ovipositional rate of non-irradiated females mated with irradiated males.
2)Hatch and adult emergence were observed for 10 days and 2 weeks after oviposition,respectively.
3)Sterility= sterilized males/tested males x100(%)
*; Female progeny obtained was malformed and sterilized.



Table 4.Effects of irradiation on cut flowers.
Plant
0.2〜0.4kGy
0.6〜1.0kGy
Leather-leaf fern
Tolerant
Tolerant
Garnation,Dendrobium,
Gladiolus,Oncidium,
Prairie gentian,Tulip

Tolerant


Sub-sensitive

Chrysanthemum,Rose
Sensitive
Severe damage



Quantity of imported cut flowers.



Effects of irradiation on hatchability in different ages of T.urticae eggs.



Survival and ovipositional rate of irradiated adult females,and hatchability of their progeny



Ethylene production of carnation cv.’Francisco R ’irradiated at different flowering stages.





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