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照射効果(IRRADIATION EFFECT):食品に放射線を照射した場合の貯蔵、衛生化等の効果

殺虫(その他)


発表場所 : 食品照射 第31巻 p.19 (1996)
著者名 : 林 徹
著者所属機関名 : 農林水産省食品総合研究所
発行年月日 : 1996年
臭化メチルをめぐる国際情勢と放射線照射
1.はじめに
2.臭化メチルとは
3.モントリオール議定書第7回締約国会合における決定事項
4.臭化メチルの代替技術
5.植物検疫処理としての放射線照射に関する国際プロジェクト
参考



臭化メチルをめぐる国際情勢と放射線照射


臭化メチルをめぐる国際情勢と放射線照射
1.はじめに

 オゾン層は宇宙からの紫外線から地球を守る重要な働きをしていることは衆知のことであり、オゾン層破壊物質として代表的なものにフロンガスがある。オゾン層破壊は人類に重大な影響を及ぼすとして、1987年モントリオールにおいて、80ヶ国以上がオゾン層破壊の原因物質の使用を禁止する協定にサインした。これがモントリオール議定書(Montreal Protocol)と呼ばれているものであり、国連環境計画(United Nations Environmental Program, UNEP)が事務局を努めている。アメリカでは、環境保護庁(EPA)がNASAの研究に基づいて調査を行い、1992年に臭化メチルにはオゾン層破壊能力のあることを明らかにした。EPAはClean Air Actで臭化メチルの使用を2001年1月1日をもって禁止することを決定した。同時に、アメリカは、1992年11月にコペンハーゲンで開催された第4回モントリオール議定書締約国会合において、EPAの調査報告を報告するとともに臭化メチルの使用禁止を提案した。このことにより、オゾン層破壊物質としての臭化メチルが国際的な課題となった。この会議において臭化メチルのオゾン層破壊係数を0.7(フロンを1.0とする)とした。

2.臭化メチルとは

 臭化メチルは反応性に富むために、殺菌、殺虫、殺ウイルス、殺線虫、除草効果があり、これらを目的として燻蒸剤、化学原料として広く使用されており、世界の総消費量は約75000トンである。その内訳は、土壌消毒用が70%、穀物、飼料、木材などの殺虫用が16%、生鮮野菜・果実の殺虫用が8%、構造物の殺虫用が2.7%、化学工業原料用が3.2%である。また、1995年のわが国における臭化メチルの使用量は前年の10911トンより減って8728トンとなっている。その内訳は、土壌消毒用が5744トン、検疫処理用が2449トン、その他が535トンとなっている。ところで、最も臭化メチルを消費しているのはアメリカであり、年間使用量は約28000トンである。そして、2番目の消費国が日本である。全世界の使用量のおよそ18%が発展途上国で使用されている。大気への放出率は、土壌燻蒸用が30〜85%、穀物、試料、木材などの燻蒸用が51〜88%、生鮮野菜・果実の燻蒸用が85〜95%、構造物の燻蒸用が90〜95%である、全消費量の46〜81%が大気に放出されたものと推定されている。

3.モントリオール議定書第7回締約国会合における決定事項

 1995年11月下旬から12月上旬にウィーンでの標記の会合が開催され、以下の事項が決定された。

1)先進国においては、2001年に基準値の25%削減、2005年に50%削減、2010年に100%削減する。ただし、全廃後にも不可欠な農業用途に対しては生産・消費ができる。また植物検疫と出荷前処理は規制の対象外とする。この例外措置は有効な代替技術がないために採られたものである。

2)発展途上国においては、1995年から1998年までの4年間の年平均の生産・消費量を基準値とし、2002年に凍結する。但し植物検疫と出荷前処理を除く。更なる規制は1997年の第9回締約国会合で協議する。

3)オゾン層破壊係数を0.7から0.6に改める。

 なお、付帯事項として、植物検疫あるいは出荷前処理といえども、あらゆる国は可能ならばオゾン層を破壊しない方法を採るように、あるいは、臭化メチルの使用がどうしてもやむを得ない場合は可能な限りその放出を最小限にするために使用方法の改善あるいは回収と再利用を図ることを促している。

4.臭化メチルの代替技術

 臭化メチルの代替技術については、UNEPは臭化メチル代替技術委員会(Methyl Bromide Technical Options Committee(MBTOC))を設けて検討し、1994年11月に最終会合を開き、代替技術の現状について整理している。農産物の殺虫剤としての臭化メチルの代替となる新たな薬剤の検索、既存の薬剤の混合使用、臭化メチルの回収、分解、再利用について検討されている。技術的にはいくつかの方法が可能であるが、いずれの方法も高価なものとなり、いまだに決定的な代替技術がない。代替技術の一つが放射線照射であるが、解決すべき課題がいくつかある。

5.植物検疫処理としての放射線照射に関する国際プロジェクト

 放射線殺虫に関する研究は、ミバエの不妊化と貯穀害虫の殺虫を目的として行われてきた。しかし、植物検疫処理として放射線照射を利用するとなると、対象農産物も果実や穀物だけでなく切り花、木材、野菜、苗、種子など多種類になり、対象害虫も蛾、イモムシ、毛虫、ダニ、アブラムシ、アザミウマ、カイガラムシ、線虫など多岐にわたる。これらの農産物や害虫に対する放射線の影響に関する研究はほとんど行われておらず、植物検疫処理として放射線を使用するとなると、農産物の放射線耐性と害虫の殺虫に必要な線量に関するデータを蓄積する必要がある。このことを目的として、IAEA/FAOは1992〜1996年の5年間の予定で植物検疫処理としての放射線照射に関する国際プロジェクト(FAO/IAEA Coordiated Research Programme on Irradiation as a Quarantine Treatment of Mites, Nematodes and Insects other than Fruit Fly)を実施している。1992年にフロリダのゲインズビル、1994年にバンコクにおいて研究調整会合を行い、1996年7月には北京において第3回研究調整会合を開催した。

 プロジェクトにおけるテーマは以下の3点である。

1)照射の目的は、必ずしも殺虫する必要はなく、害虫の繁殖を阻止することにある。

2)個々の害虫の最も放射線抵抗性の強いステージを明らかにし、それに対する有効な線量を求める。

3)害虫防除に必要な線量(できればその2〜3倍の線量)を照射した時の農産物の品質の変化について明らかにする。

北京での会合では、昆虫、線虫、ダニ、農産物、照射害虫の検知グループに分かれ、それぞれの研究成果と今後の課題について討議した。

 昆虫、ダニ、アザミウマは300〜400Gyで繁殖を防止できるが、線虫の繁殖を押さえるためには2kGy以上の線量を照射する必要がある。しかし、多くの生鮮農産物は500Gy照射すれば品質劣化を起こす。したがって、線虫の放射線殺虫はほとんど実用性がない。昆虫に対する殺虫効果に関しては、実験条件が統一されていなかったり、データ数が少ないなどの問題があるものがあり、さらに検討する必要がある。

 生鮮農産物の放射線感受性は以下のように分類された。

放射線抵抗性(600〜700Gyで障害)

ハーブ:ローズマリー、タイム、オレガノ、パセリ、チャイブ

切り花:チューリップ、トルコギキョウ、カーネーション、カスミソウ、ツリガネソウ、スターチス、トリテア、シダ、セロシア、ゴンフレマ、ナルシサス、レッドジンジャー、フェニックスの葉

中程度の抵抗性(400〜500Gyで障害)

ハーブ:スペアミント、タロの葉

切り花:グラジオラス、オンシジウム、アルストロメリア、ストック、フリージア、グロリオーサ、マリーゴールド、チューブローズ

放射線感受性(150〜200Gyで障害)

ハーブ:ディル、バジル、アルグラ

切り花:菊、バラ、ユリ、カラー、アンセリウム、スイートピー、アイリス

不明(研究者間で結果が不一致あるいは1種類の線量についてのみ検討)

ヘメロカリス、カリステモン、ヘリアンサス、ストレリチャ、ヘリコニア、デンドロビウム、ガーベラ

 以上の成果では、植物検疫処理として放射線照射技術を確立することは不可能であるので、プロジェクトを延長して、未解決な問題を早急に解決することが決定された。特に、殺虫に必要な線量と農産物に障害を起こさない線量が接近しているので、個々の害虫の正確な殺虫線量を求める必要性が強調された。

参考

臭化メチルの使用は先進国は2005年で全廃することが決定されており、途上国も2015年で全廃することが1997年の第9回モントリオール議定書締約国会合で合意されている。また、1998年の第10回会合では、1997年には例外扱いになっていた積み出し前処理、輸入検疫処理についても規制することが合意され、積み出し前処理から規制することになった。

1999年1月1日以降 75%以下

2001年1月1日以降 50%以下

2003年1月1日以降 30%以下

2005年1月1日以降  0%以下




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