近年ディスポーザブル医療用具や食品包装材の放射線滅菌が普及しつつあり、わが国でも約20%が放射線で滅菌されている。米国ではエチレンオキサイドガスに対する環境規制がきびしくなったため放射線滅菌法が50%以上を占めるようになったと報告されており1)、わが国でも放射線滅菌が増々普及していくものと思われる。わが国における放射線滅菌に関する研究は過去10年以上前から精力的に行われており、最近ではBioburdenの調査より滅菌線量を評価する研究も行われている2)。しかし、これまでの研究は芽胞形成細菌の分布調査と殺菌効果に関する研究が中心であり、今後は他の微生物類についても検討しておく必要性があるように思われる。
最近、ディスポーザブル医療用具類の生産は衛生管理が行きわたってきたため、製品中の汚染度は少なくなり5〜60%から汚染菌が検出される程度であり、製品1個当りの菌数はほとんどが1〜2個であり最大でも10個以下である。そこで本研究では製品中の汚染微生物の種類と乾燥下での放射線感受性を中心に検討を行った。
滅菌処理してない採血管及びシリンジ、注射針を数社より入手し、チオグリコール酸培地又はPotato dextrose broth 中に無菌的に投入した。この後,30℃で10〜30日間培養し、発生してきた微生物の陽性率より汚染度をしらべ、分離菌株は純粋分離後に常法により同定を行った。また代表的分離菌株はペプトンーグリセリン溶液3)に懸濁し、ろ紙片上で乾燥後、γ線感受性をしらべた。γ線照射には原研高崎研究所の約17万CiのCo-60 線源を用い、線量率はFricke鉄線量計で測定した。なお真菌類の胞子は懸濁液をNo.1又はNo.2グラスフィルターでろ過し遠心機で集め試験に供した。
医療用具の採血管、シリンジは60〜100%の汚染率であり最も多く分布しているのはBacillusであり、Micrococcus やPseudomonoasも比較的多く分離された(Table 1,2)。シリンジ中には嫌気性のPeptcocaceaeも多く分布しているが、製造後数ケ月たつとほとんど検出されなくなった。一方、採血管からはPeptococaceaeは検出されなかったが、これは製造後数ケ月のものを入手したためと思われる。注射針の場合は汚染率は5〜20%であり、その多くはPeptcocaceaeである。真菌類の汚染はどの試料でも少なく、その全てが不完全菌のBlastmyces 、Penicillium 、Euricoa 、Aureobasidium、Haplosporangium などである。
真菌類の場合Fig.1 に示すようにEuricoa及びBlastmycesはPenicillium より放射線抵抗性が強いが、D10値は0.08Mradにすぎなかった。一方、Aureobasidium sp.は黒酵母菌とも呼ばれ放射線抵抗性菌の一種として知られており、果実類等の植物寄生菌としてわが国にも広く分布している。
本菌の放射線感受性は細胞器官により変化する可能性があるためPotato-dextrose ager 平坂上で7日間培養した場合とPotato‐dextrose broth で3日間好気的条件下で通気培養した場合の感受性を0.067M燐酸緩衝液中で比較したところFig.2に示すようになり、通気培養細胞の方が抵抗性が強い傾向を示した。一方、Fig.3に示すように緩衝液懸濁細胞を好気的条件下と窒素ガス飽和条件下で照射しても差は認められなかった。また.ベプトン−グリセリン液に懸濁後にろ紙片上で乾燥した場合には放射線抵抗性が強くなり生存曲線は指数函数型となり細胞器官による感受性の差もなくなった。乾燥ろ紙片を真空包装しても好気的包装した場合との感受性の差は認められず、D10 値は0.28Mradとなった。真菌類で放射線抵抗性が強いのはAureobasidium pullulans以外ではTricosporon oryzae6)などが報告されている程度であり、D10値はTable 5に示すようにAuerobasidiumと大差がない。真菌類のほとんどは1Mrad 以下で殺菌可能であるが、Aureobasidium が人工臓器から分離されることがあるといわれている。人工臓器の多くは水を詰めた状態でγ線滅菌する場合が多いが、その場合には 1.5Mrad 以下の線量でAureobasidium の滅菌が可能であり、乾燥条件下でも2〜2.5Mrad で滅菌が可能である。
放射線抵抗性菌としてはDeinococcus proteolyticus などが下水汚染などから多く分離されることがあるが8,9,10)、医療用具や包装材の製造工程での衛生管理を充分に行って製品当りの汚染菌数を10個以下に抑さえることができれば、現状の2〜2.5Mrad の滅菌線量を変える必要はないように思われる。
文献
1)Council on Radiation Applications,INF0, Feb.1985, p.4.
2)細渕和成,佐藤健二・渡邊 潤、医器学, 53, 449 (1983)
3)伊藤 均・田村直幸, 防菌防, 13, 299.(1985)
4)伊藤 均・飯塚 廣, 食品工誌, 25, 14(1978)。
5)Muhamad L.J., H.lto, H.Watanabe and N.Tamra, Agric. Biol. Chem., 50, 347 (1986)
6)H.lto, H.Iizuka and T Sato, Agric. Biol. Chem., 38, 1597 (1974)。
7)岡沢精茂, 理化学研究所報告, 47, 211 (1971)
8)H.lto and H.lizuka, Agric. Biol. Chem., 44, 1315 (1980)
9)H.lto, H.Watanabe, M.Takehisa and H.lizuka, Agric. Biol. Chem., 47, 1239(1983)
10)H.lto, H.Watanabe, H.lizuka and M.Takehisa, Agric. Biol. Chem., 47, 2707(1983)
1.Aerobic bacteria(13 strains) Bacillus megaterium(4),B.sphaericus(1),B.coagulans(1),Micrococcus(4), Pseudomonas(2),Arthrobacter(1). |
2.Anaerobic bacteria(6 strains) Peptococcaceae(6). |
3.Fungi(3 strains) Blastmyces , Penicillium, Haplosporangium. |
Distribution of Microorganisms Contaminating in Needles. Micrococcus(1) ,Peptococcaceae(6), Euricoa(1). |
1.Aerobic bacteria(26 strains) Bacillus pumilus(2) , B.sphaericus(2),B.firmus(1),B.subtilis(1), B.circulans(2),B.coagulans(7),B.stearothermophilus(1),Pseudomonas(4), Corynebacterium(2),Arthrobacter(3). |
2.Fungi(2 strains) Blastmyces,Aureobasidium. |
Dose(Mrad) |
No. of test samples |
No. of positive samples |
non-irrad. 0.1 0.2 0.4 |
10 10 10 20 |
7 3 0 1 |
Strain |
D10 value(Mrad) |
B.pumilus B11-2 B.sphaericus B8 B.subtilis B10-1 B.firmus B13 B.circulans B15-2 B.stearothermophilus B16-3 B.megaterium S7 B.megaterium S5 |
0.16 0.16 0.14 0.14 0.11 0.11 0.18 0.19 |
Strain |
D10 value,wet |
D10 value,dry |
Euricoa sp.N13 Blastmyces sp.S16 Aureobasidium sp.B12 Aureobasidium pullulans* Tricosporon oryzae R1** |
0.05 Mrad 0.07Mrad 0.07〜0.12Mrad 0.12Mrad 0.12Mrad |
0.08 Mrad 0.08 Mrad 0.28 Mrad - - |
* Y.Okazawa,Reports of the Institute of Physical and Chemical Research, 47, 211 (1917).7) ** Agric.Piol.Chem,38,1597(1974).6) |
|