放射線でジャガイモの発芽がなぜ止まるのかという問いに対しては次のように解明されています。
動物、植物、微生物を問わず、生細胞に対する放射線作用の著しい特徴は細胞分裂の阻害であり、この現象は細胞分裂の盛んな細胞ほど低い線量で認められます。微生物や動物培養細胞を用いると、細胞分裂の盛んな時ほど放射線に敏感で、細胞分裂の止まった状態では分裂阻害のおこりにくい事が、定量的によくわかっています。いつも白血球をつくり続けている骨ずい細胞や、盛んに細胞分裂をくり返している植物の芽や根の先端にある成長点が、照射によって一番敏感に影響を受けるのはそのためです。細胞分裂に先立って細胞核の分裂がおこりますが、これはいいかえればDNAの複製です。DNAは2重ら線の構造を持っており、放射線を照射するとら線を形づくるDNAの鎖に切断がおこります。このためDNAの正確な複製ができなくなり、細胞は核分裂に失敗して死ぬことになります。実際には一個の切断が、すぐに細胞の死とはなりません。細胞は色々な方法でDNAの損傷をなおす能力(修復機構)があるため、細胞ごとに放射線感受性が異なっているからです。しかし、DNAの複製化が進行している時(増殖中)は、損傷がストレートに出やすいため、一般的に細胞分裂の盛んな細胞ほど感受性が高いことになります。
ジャガイモでは、分裂活動の最も旺盛な芽の細胞の分裂が照射によって阻害されるため芽の成長が止まります。しかし芽が成長しなくなっても全体が死んだわけではないので、呼吸をしたり、酵素が働いたりはしています。発芽抑制をしないジャガイモでは休眠期をすぎると、10℃位以下の温度でも急に呼吸が増大し、デン粉が糖に変わり全体の組織が変化しますが、これらは芽の成長に伴う変化です。照射によって発芽抑制されたジャガイモでは発芽しませんが低温下で糖は増加します。
発芽抑制はCIPC(クロロプロファム)とかMH(マレイクヒドラジド)のような薬品によってもできますが、効果にむらがあったり、加工後も残留したりする欠点がありわが国ではその使用自体が禁止されています。
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