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Q&A(QUESTION and ANSWER)

食品照射入門(1)食品照射誌解説


Q&A集タイトル : 食品照射に関するQ&A(食品照射 第17巻 P78〜87)
発行年月日 : 1982年
<答>



海外での研究で、照射したジャガイモの抽出物が染色体異常やマウスの優性致死変異を引きおこすというデータがありますが、心配はいらないのですか。


<答>

 ソ連の研究者であるコピロフ氏ら(1972年)やクチン氏ら(1974年)により照射直後のナマのイモをpH2の強酸性下で抽出したときの抽出物中に、マウスの染色体異常や優性致死変異を引きおこす”ラジオトキシン”すなわちオルトキノン類が見つかったと報告されたことがあります。

 以後、同じソ連の研究者達も含め、世界各国で繰り返し追試が行われましたが、すべて毒物や変異原性物質の生成は認められないという結果でした。また、クチンやコピロフ自身も彼等の実験結果が直ちに照射ジャガイモに現実的な危険性を意味するものではないと断っています。 最近わが国でも、この件についての研究が行われ、その成果が報告されています。この研究は東京都立アイソトープ総合研究所、東京都立大学、理化学研究所、国立衛生試験所、食品薬品安全センターの各専門分野の研究者が実験を担当したものです。クチンらやコピロフらの実験条件で完全な追試を行い、かつ他の新しい方法も用いて変異原性試験が行われました。〔報告は3報からなり、日本アイソトープ協会発行の「ラジオアイソトープス」誌、30巻P655およびP662(1981)、

 結果を要約すると150Gyの線量で照射したジャガイモのアルコール抽出液からは、クチンらのいう”ラジオトキシン”はペーパークロマトグラフ法のみならず高速液体クロマトグラフ法、酵素モデル実験法によっても検出できませんでした。次に抽出液について変異原性の有無を検討するため、サルモネラ菌を用いるヒスチジン要求性およびストレプトマイシン依存性に関する復帰突然変異試験、ならびに大腸菌を用いるプロファージ誘導試験を行ったが結果は陰性であった。さらに哺乳動物細胞の染色体に及ぼす影響を観察するためチャイニーズ・ハムスター培養細胞を用いる染色体異常誘発試験およびマウスを用いる小核試験が行われましたが結果は陰性であり、結局抽出液に変異原性は認められませんでした。

 最後にマウスを用いる優性致死誘発性の有無も検討されました。9週齢の雄マウスを30頭づつ3群に分け、非照射ジャガイモ抽出液または150Gyのガンマ線照射ジャガイモ抽出液を1日2回7日間経口投与した群および水を与えた群としました。そののち、4日間隔で1頭の9週齢の雌マウスと交配し56日間交配を続けました。こうして各群30頭の雌は妊娠13日目に解剖し、黄体数、生存および死亡着床数を数え、各群ごとに集計されました。その結果、全交配期間を通して、非照射群、照射群の間ばかりでなく、水を与えた対照群との間にも生存着床数の減少は認められませんでした。すなわち優性致死誘発性、つまり雄マウスの精子の異常誘発は全くおこらなかったと報告されています。

 以上の研究は、試料調製に十二分の配慮がはらわれ、マウスの優性致死試験における交配の回数や期間がコピロフらの場合よりキメ細かく行っており、現在最も精度の高いものであるといわれています。微生物を用いる変異原性試験を含んでいるほか、変異原性試験や優性致死試験では既知物質をポジティプ・コントロール(積極的対照)として平行試験を行い、試験の客観性は極めて高いものといえます。したがって少なくとも、150Gyまでのガンマ線線量の照射によるジャガイモでの毒物や変異誘発性物質の生成は、全く否定されたといえます。

 さらに、加熱した照射ジャガイモからは、そのような物質は検出されないとクチンらも報告しているため、万一、たとえクチンらの報告に信ぴょう性があったにしても変異原性物質への心配は全く不要といえます。

 FAO/IAEA/WHO合同専門委員会(1976年)では、次のように報告しています。すなわち「照射した生のジャガイモを水とアルコールで抽出したものを、ネズミに投与すると、変異原性が認められた、という報告に対して委員会は、放射線毒性学上、この報告は興味深いしその本質が何であるのかをつきとめるため別の研究が必要になるとしながらも、この報告は照射ジャガイモの安全性と直接、関係はないとしている。なぜならば、その変異原性は照射直後、2〜3時間以内に抽出操作を行った時にのみ得られるからである。照射後40日間保存したジャガイモについて、同様な試験を繰り返したが変異原性は検出されていない。さらに、照射直後のジャガイモでも、ゆでたものからは変異原性が検出されていない。」




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