食品照射に関する文献検索

Q&A(QUESTION and ANSWER)

食品照射入門(3)消費者への回答


Q&A集タイトル : 消費者団体が提出している問題点への回答
発行機関名 : 原子力研究所
<答>



問11.アメリカで、1968年、ハム、ベーコンの照射許可が取り消された後の経緯。


<答>

 (1)アメリカでは1963年にベーコンへの45〜56kGyでのガンマ線滅菌処理を許可した。*1)

 (2)一方、FDAでは1958年ころより食品添加物の安全性に対する考え方が、「従来のマイナスの結果を見い出せない」から、「ある添加物の使用において何も障害を生じない量とする、つまり危険性のないことを積極的に証明する」に変わってきた。*5、6) そして、放射線処理法も食品添加物として扱うことが1963年以後に決定され、この観点から1963年に許可された時には安全性が証明されていると思われた動物試験から得られた証拠が、後になってFDAにより不十分であると判断されたのである。*2、3)

 (3)このきっかけとなったのは、1966年に陸軍はハムの許可を申請したが、安全性のデータとして先に申請したベーコンとポークから得られた結果を使用していた。陸軍の主張によれば、これは1955年にFDAとハムはベーコンとポークの中間的なものであり、ハム独自のデータは必要ないと合意されていたもので、ハムの申請が却下されたのは約束がちがうと述べている。*3)

 (4)FDAがベーコンのデータを再度検討しなおした結果、ラットの長期毒性試験において、繁殖率、死亡率、発育度、白血球数、白内障、腫瘍発生率が非照射に比べ有意に高く悪影響がある可能性があり、安全性を確認する必要があったため、ベーコンの許可も取り消した。*3)

 (5)陸軍側では照射ベーコンの動物試験において、ラットの飼料に必要栄養源を添加しないことや各試験群が一定の条件で試験されなかったことなどの研究上の不備は認めたが、この研究はあくまで1958年以前のFDA基準で行ったもので、安全性に問題はないと評価したと述べている。*3)

 (6)米国議会の原子力合同委員会は1968年にFDA、原子力委員会、陸軍の3者を召喚し、公聴会を開いてそれぞれの主張を聞き、食品照射研究計画の継続と照射食品の安全性の基準の設定の2点について、関係当局に勧告を行った。*3)

 (7)陸軍はFDAと協力して1971年より照射した牛肉、鶏肉、豚肉、ハムについて膨大な規模での動物を使った長期毒性試験を開始し、1980年ころまでに研究は終了し、各品目とも安全性を証明する結果が得られている。ことに1983年に得られた58kGy照射した鶏肉の安全性を示すデータはFDAの政策にも反映されている。*3、4)

 (8)FDAは1979年に照射食品委員会を設立し、照射食品の安全性の基準について検討し、1981年にその試案を発表した。1984年には照射食品を許可するのに必要な安全性評価の基準を示す食品照射規制案が正式に提案され、1986年には1kGy以下の生鮮果実、野菜類の照射、豚肉の寄生虫殺滅、30kGyまでの香辛料の照射が許可された。*5)

 (9)一方、ハムやベーコンの放射線滅菌の実用化を陸軍は期待しているがFDAは興味を示していない。FDAは寄生虫や病原菌の放射線による殺滅には興味を持っており、実用化を推進しようとしている。しかし、滅菌の場合にはコストが高くつくというのがFDAの見解であり、安全性に問題があるわけではない。事実、宇宙ロケットのアポロ計画などでは照射済ハムやベーコンが使用されている。*7、8)

文 献

 1)N,Raica,Jr.,and D.L.Howie,Revew of the United States army wholesomeness of irradiated food program,IAEA−SM−73/5,p.119−135(19 2)N.Raica,Jr,and R.W.Baker,The wholesomeness testing of radappertized,enzyme−inactivated beef,IAEA−SM−166/45,p.703〜713.

 3)(U.S.)General Accounting Office,The Department of the Army’s Food Irradiation Program Is it Worth Continuing,PSAD−78−146(197 4)Ari Brynjolfsson,Wholesomeness of irradiated foods,J.Food Safety,7(2),107−126(1985).

 5)FDA,Federal register,51(75),13375−13399(1986).

 6)WHO,Food Irradiation,ISBN−92−4−154240−3,1988.

 7)CRA−INFO,April,1985.

 8)CRA−INFO,October,1986.




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