不飽和油脂(植物油脂を含む)は酸素存在下で放射線照射を受けると、自動酸化が促進することは良く知られている。それは一つは二重結合のα位から水素原子引抜きによるラジカル生成に、一つは初期生成物ヒドロペルオキシドの分解(新たなラジカル生成あるいは二次産物の生成)に関与するためと考えられている。また酸素不在下では、油脂の非自動酸化的分解を起す。しかし照射野菜や果実では、実用線量が通常1kGy以下の低線量であること。共存のアスコルビン酸、トコフェロール、システインやメチオニン等のSH化合物等がラジカルスカベンジャーとして作用すること。また水を含む系で食品成分がラジカルの攻撃を受ける割合は、それらの反応速度定数と食品成分のモル濃度に比例するが、水の主要な放射線分解生成物の一つであるヒドロキシラジカル(HO.)は、他の分子種と比較的に非選択的に反応することから、主要成分の炭水化物や蛋白と反応し易く、微量成分の油脂は、これらの成分によって保護され、攻撃の対象になり難い。これらの理由により、油脂の変敗は起こり難いと思われる。既にいくつかの果実で、油脂が放射線照射により何ら影響を受けないことが明らかにされている*1)〜3)。
一般に水分の多い食品が放射線照射を受けた場合、食品成分は、放射線の直接作用により、水の放射線分解産物であるHO.や水和電子その他の活性分子種による間接作用(ラジカル化)の影響が大きいと言われている。しかし一方水はラジカルを速やかに消滅させる良い媒体として働くので保護的な作用がある。また固体タンパク質のG値は、希釈水溶液の20倍にもなることがあり、これは希釈溶液ではエネルギーの多くが水によって吸収されるためと考えられている。
油中と油ー水乳濁液中のトコフェロールの放射線分解に差異のないことなども報告されている。食品などの多成分系が照射された場合の水の影響は、必ずしも一義的に判断し難いが、いずれにしろ多くの研究結果にもとづいて、1kGy以下の照射で栄養学的に問題のないことが明らかになった*4)。
文 献
1)Beyers,M.et al.,J.Agric.Food Chem.,27,37(1979).
2)Blakesley,C.N.et al.,J.Agric.Food Chem.,27,42(1979).
3)Thomas,A.C.& M.Beyers,J.Agric.Food Chem.,27,57(1979).
4)WHO Technical Report Series,No.659(1981).
5)P.S.Elias and A.J.Cohen eds.,Radiation Chemistry of Major Food Components,Elsevier/North−Holland Biomedical Press,Amsterdam,
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