放射線照射によって、食品中に生成する照射生成物の中には、有害物質が存在する可能性はないかと危険視する向きがある。しかし、多数の食品および食品成分の放射線化学的な研究から次のことが明らかになっている*1)、2)。
主要食品成分の照射生成物は、同一成分からは同一の生成物を生じ、その多くは既に許容されている加熱処理などの物理的加工食品あるいは非照射食品中にも存在すること。照射生成物の生成量は照射線量に依存し、温度、空気の存否、水分量などにも影響され、食品の成分と照射条件が明らかであれば、照射生成物の種類や生成量等についておよその推定が可能であること。また60kGy照射しても照射生成物は通常僅か数ppbに留まり、しかも毒性学的に特に問題のない二酸化炭素、メタン、水素がその大半を占めていることなどである。最も良く検討されている肉類を例にとると、照射牛肉、豚肉、ハム、鶏肉から得られる揮発性炭化水素は、肉の種類に関係なく、脂質量によりどのようなものが生成するかが決まることが明らかになった*3)。また牛肉では−40℃、56kGyの照射で1〜700ppbの100以上の揮発成分(総量で9ppm)が同定された*3)。しかしその多くは非照射牛肉中にも存在するものであり、高線量の放射線照射によっても特異的な生成物は全く見出されなかった。FAO/IAEA/WHOの合同専門家委員会では、これらの研究結果を総括し、かつ多くの毒性試験の結果を考慮に入れて、食品が10kGy以下の放射線照射を受けた場合の照射生成物は、質的にも量的にもその食品の健全性を何ら損なうことはないと結論づけた*2)。
文 献
1) WHO Technical Report Series,No.406(1977)
2) WHO Technical Report Series,No.659(1981)
3) Merritt,C.Gr.,Food Irradiation Information,No.10,P20(1980)
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