食品照射実用化の上で問題となるのは照射施設が大型で1基当り約5億円かかることである。現状では運搬可能な小型施設が開発されていないため、照射物を広範な地域から集荷する必要がある。北海道の士幌農協での馬鈴薯照射施設が成功した原因は、士幌が北海道産馬鈴薯の集荷地点であることも大きな要因である。また食品照射の場合、大量に処理しないとコスト的に引き合わないことが多い。商業的な照射施設ではコバルト−60線源で10〜100万キュリー必要であり、電子加速器では1〜10MeV、10〜40KWの出力が主に使用されると思われる。照射コストは馬鈴薯や玉ねぎの発芽防止を目的とする場合で1kg当り1〜2円、穀類の殺虫はガンマ線で0.25〜1円、電子線で0.1円以下となる。果実の殺虫処理も1kg当たり2〜3円程度と思われ、米国では燻蒸処理より安いコストで処理できると報告している。一方、殺菌処理を目的とする場合は必要線量が大きいため1kg当りのコストは20〜100円となる。香辛料では60〜80円かかると思われるが、最近はドル安でコバルト−60線源も相対的に安くなったため、もっと低コストで処理できるかもしれない(1キュリーは約1USドルである)。電子加速器は1〜5MeVの中エネルギー型では、ガンマ線の約10分の1のコストで処理できるとされており、厚さが数cm以下の品目では適用可能と思われる。なお、照射施設は今後も技術的に進歩する可能性があり、処理コストはさらに低下すると思われる。
文 献
1) 武久 正昭、河端 俊治、食品照射技術と食品照射の国際的動向、日本原子力学会誌、25、264(1983)。
2) 田村 直幸、四本 圭一、電子加速器の最近の動向、放射線と産業No.29、9(1984)。
3) 伊藤 均、食品照射と放射線殺菌に対する国際的並びにわが国の現状、防菌防黴誌、14、223(1986)。
4) P.F.Lewis,Irradiation of foods,Chenges,in U.S.regulations and near−term prospects,BIE−SP33−4,Nov.1983
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