太古の時代、人類は自分のまわりの動植物を採集、狩猟して食料としていた。そして経験的に日なたや風通しのよい所に置いて乾燥させたり火で焼くと、食品を保存できることを覚えた。また、乾燥、塩蔵、砂糖漬、発酵、燻製等の技術を習得して利用するようになった。例えば、メソポタミア人やエジプト人は天日乾燥、塩蔵、加熱、燻煙等の処理を行っており、エスキモー人は氷や雪を利用して食品を冷蔵、冷凍していた。一方、わが国では、古くより干飯、梅干等が普及して保存用、戦陣用として利用されていたし、根菜を塩蔵したものを茎(くき)と称して保存食としていた。本格的な食品の保存技術が開発されたのは比較的最近で、ナポレオンの時代である。ナポレオンの遠征のための保存食として、フランス人のニコラ・アッペールがビン詰を発明し、やがて缶詰へと発展していった。冷蔵や冷凍の技術も工業の発展に伴い進歩した。さらに、包装技術、環境調節技術や食品の加工技術も発達した。また、化学が進歩するのに伴い、殺菌剤、保存剤、燻蒸剤などの化学薬剤が食品の品質保持や保存に使われるようになった。
このような食品の保存技術や品質保持技術の発達により、先進国において食品の損耗は非常に少なくなった。一方、近代工業の発展とともに農業人口は急速に減少し、大多数の人々は自分で直接生産した食品を口にする機会が少なくなっており、食品の衛生管理及び安定流通は以前にも増して切実な問題となってきている。また、一部の薬剤に発ガン性等の毒性があることが明らかになり、薬剤や抗生物質の残留が新たな問題となっている。一方、開発途上国においては相変わらず食料の損耗が激しく、収穫された農産物の10〜20%は損耗されるといわれている。開発途上国で収穫された農産物は自国で消費されるだけでなく、輸出されて貴重な外貨獲得源ともなっており、農産物の収穫後の損耗(ポストハーベスト・ロス)は大きな問題である。
このように、先進国、開発途上国を問わず、地域の経済・生活レベルに合った食料の保存技術の開発・導入がますます重要になっている。特に、大量の食料を輸入している食料自給率の低いわが国(表1−1)にとって、食料の安定確保及び国民の健康の維持・向上のためには、わが国のみならず世界各国において、安全かつ確実な食料の保存技術が利用されることが肝要である。
年 度 |
40 |
45 |
50 |
55 |
60 |
63 |
米 |
95 |
106 |
110 |
100 |
107 |
100 |
小 麦 |
28 |
9 |
4 |
10 |
14 |
17 |
豆 類 |
25 |
13 |
9 |
7 |
8 |
8 |
野 菜 |
100 |
99 |
99 |
97 |
95 |
91 |
果 実 |
90 |
84 |
84 |
81 |
77 |
67 |
肉 類 |
93 |
89 |
76 |
80 |
81 |
73 |
牛乳・ 乳製品 |
86 |
89 |
81 |
82 |
85 |
76 |
魚介類 |
109 |
108 |
102 |
104 |
96 |
97 |
海藻類 |
88 |
91 |
86 |
74 |
74 |
76 |
砂糖類 |
31 |
22 |
15 |
27 |
33 |
34 |
油脂類 |
31 |
22 |
23 |
29 |
32 |
33 |
(主要食品のみ、昭和年度、%) (昭和63年度食料需給表より) |
年 度 |
40 |
45 |
50 |
55 |
60 |
63 |
供給熱量 自給率 |
73 |
60 |
54 |
53 |
52 |
49 |
主食用穀 物自給率 |
80 |
74 |
69 |
69 |
69 |
68 |
穀 物 自給率 |
62 |
46 |
40 |
33 |
31 |
30 |
食用農産 物総合自 給率 |
86 |
81 |
77 |
75 |
74 |
70 |
食用水産 物総合自 給率 |
112 |
104 |
92 |
90 |
79 |
78 |
食料総合 自給率 |
94 |
88 |
82 |
80 |
76 |
72 |
(主要食品のみ、昭和年度、%) (昭和63年度食料需給表より) |
|