食品の損耗や食中毒等を防ぐために多くの品質保持技術が開発されている。その目的は、害虫の防除、微生物汚染の防除、化学的品質劣化の防止、鮮度の保持等である。その方法も物理的な方法、化学的な方法など多様であり、それぞれ特徴がある(表3−1)。
化学的方法による品質保持技術についてみると、殺虫のためには臭化メチル(MB)、二臭化エチレン(EDB)等の燻蒸剤が使用されるが、燻蒸処理現場の作業者の健康や食品への残留等が問題になることがある。殺菌のためにも多くの殺菌剤が使用されているが燻蒸剤と同様のことが問題となることもある。なお、香辛料等の殺菌のために欧米ではエチレンオキサイドガス(EOG)が使用されているが、EOG自身に毒性があり、食品中に残留すると発ガン性のエチルクロロヒドリンを生成することが問題となって、わが国では使用禁止になっている。さらに、化学変化に伴う品質劣化を防止するために酸化防止剤が使用されているが、毒性のあるものもあり、安全で効力の強い酸化防止剤の開発が急がれている。
物理的方法による品質保持技術についてみると、低温・凍結条件下での食品の流通は、ほとんどの微生物の生育を抑制するだけでなく、害虫の生育も防ぎ、生理的な品質劣化もある程度抑制するので、品質保持技術として優れている。しかし、前述のように低温でも生育する微生物もあり、低温流通や凍結処理が完全な微生物汚染の防除技術というわけでもない。加熱処理は、殺菌、殺虫技術としては優れており、酵素を失活させて生理反応に伴う変質も防止するが、食品の化学的品質劣化を起こすことが多いという問題がある。特に固体状態の食品は、熱伝導効率が悪いために、加熱殺菌が適していないことが多い。また、100℃では細菌の胞子は死滅しにくい。
紫外線殺菌は食品工業で使用されているが、食品の表面しか殺菌することができず、その利用は限られている。マイクロ波(電子レンジ)等の電磁波を利用した殺菌・殺虫技術も開発されているが、均一な効果が得られにくい等の欠点があるためにその用途は限られている。数千気圧の超高圧で食品を処理して殺菌・殺虫を行う方法も提案されているが、装置の強度の関係で大量処理することは現在のところ不可能である。
包装技術の進歩は食品の品質保持に大きく貢献しており、真空包装、酸素吸収剤を利用した嫌気包装、ガス置換包装、無菌充填包装、レトルト食品等が開発されている。このうち、真空包装等の酸素を除去した包装は、多くの微生物の生育を抑制するが、ボツリヌス菌のような嫌気性の微生物が生育する可能性があり、完全とはいえない。
このように数多くの品質保持技術が開発されているが、それぞれ長所と欠点を有しており、個々の食品に適した技術を利用しなければならない。また、今までにない安全で有効な技術の開発を進めることも重要である。このような新しい技術の一つが、食品の保存や衛生化のために放射線を照射する食品照射である。
技術 |
効果 |
問題点 |
薬品添加 |
殺菌、酸化防止、発芽防止 |
残留毒性 |
燻 蒸 |
殺菌、殺虫 |
燻蒸剤の安全性、残留毒性 |
加 熱 |
殺菌、殺虫、生理的変質の防止 |
食品の品質変化 |
低温貯蔵 |
静菌、殺虫、生理的・化学的変質の防止 |
低温耐性菌の繁殖 |
冷 凍 |
静菌、殺虫、生理的・化学的変質の防止 |
微生物の生残 |
嫌気包装 |
静菌、害虫の侵入の防止、化学的変質の防止 |
嫌気性菌の繁殖 |
無菌包装 |
微生物汚染の防止 |
対象となる食品が限定 |
無菌濾過 |
除菌 |
対象となる食品が限定 |
紫外線 |
殺菌 |
食品表面しか殺菌できない |
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