放射線の強さや量はその目的によりいろいろな単位で表される(表5−1)。放射線のエネルギーを表す単位として電子ボルト(eV)がよく用いられる。1電子ボルトは電子(e)が1ボルト(V)の電圧で加速されて得られる運動のエネルギーを表しており、エネルギーの基本の単位であるジュール(J)との関係は、1eV=1.60×10・E(−19)Jとなる。放射性同位元素であるコバルト60は1.17及び1.33MeVの2本のガンマ線を放出する。また、セシウム137は0.662MeVのガンマ線を放出する。電子加速器でも必要なエネルギーの放射線(X線、電子線等)を機械的に発生させることができ、その能力は発生する放射線のエネルギー(単位:eV)とビーム出力(単位:W(ワット)またはA(アンペア))で表される。
放射性同位元素が放射線を出す能力、放射能を示す単位として従来はキュリー(Ci)が用いられていたが、合理的で実用的な単一統一系として国際単位系(SI)が普及してきたのに伴い、ベクレル(Bq)が用いられるようになった。1Bqは1秒間に原子核が1個崩壊する量の放射能を表す。なお、1Ciは3.7×10・E(10)Bqに相当する。
これらに対して、放射線の物質や人体・生物に対する影響を評価するために、照射線量、吸収線量及び線量当量並びにこれらの単位が定義され用いられている。
ガンマ線あるいはエックス線の強さを空気の電離の程度で表したものを照射線量と呼ぶ。そのSI単位はクーロン毎キログラム(C/kg)である。なお、クーロン(C)とは、電気量のSI単位で1アンペア(A)の電流が1秒間に運ぶ電気量を表す。照射線量はガンマ線あるいはエックス線が空気に照射される場合にだけ用いられる。照射線量の単位として従来用いられてきたのはレントゲン(R)であり、1R=2.58×10・E(−4)C/kgである。照射線量率は単位時間当りの照射線量を表す単位であり、クーロン毎キログラム毎秒(C/kg・s)で表す。
吸収線量は、放射線と物質の相互作用に伴い、その物質の単位質量当りに吸収されてエネルギーを示す単位で、グレイ(Gy)と記す。1Gyは物質1kg中に1Jのエネルギーが吸収された時の放射線量である。なお、従来使用されてきたラド(rad)との関係は1rad=100erg/g=1/100J/kg=1/100Gyである。人間が1年間に受ける大地からの放射線や宇宙線による吸収線量は約0.001Gyである。植物の突然変異による品種改良のためには約10Gy、タマネギや馬鈴薯の発芽防止には20〜150Gy、害虫の不妊化には約70Gy、食中毒菌(腸炎ビブリオ、サルモネラ菌等の胞子を形成しない菌)の殺菌には3〜10kGy、食品、飼料、医療用具の滅菌には20〜50kGy、プラスチックの改質には100kGy以上の線量が必要である。このように、放射線利用では、人体に悪影響を及ぼす量よりもはるかに大量の放射線が食品や生活用品に対して照射されるが、人体に放射線が直接照射されるわけではなく、第17項で述べるように適正に照射すれば照射した食品や生活用品を通じて人体に放射線の影響が間接的に及ぶこともない。
たとえ吸収線量が等しくても、放射線の種類やエネルギーが異なると生体に及ぼす影響も異なってくる。放射線防護の目的に使用するために吸収線量に生物学的な効果を加えた単位を線量当量と呼び、シーベルト(Sv)で表される。
項 目 |
単位名 |
記 号 |
定 義 |
備 考 |
照射線量 |
クーロン毎 キログラム |
C/kg |
空気1kg中に1Cのイオンを作るγ( X)線の量 |
SI単位 |
レントゲン |
R |
空気1kg中に2.58×10・E(− 4)Cのイオンを作るγ(X)線の量 |
1C/kg=3,876R |
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吸収線量 |
グ レ イ |
Gy |
1kgあたり1Jのエネルギーの吸収が ある時の線量 |
SI単位 |
ラ ド |
rad |
1kgあたり1/100Jのエネルギー の吸収がある時の線量 |
1Gy=100rad |
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線量当量 |
シーベルト |
Sv |
吸収線量(Gy)×線質係数×修正係数 |
SI単位 |
レ ム |
rem |
吸収線量(rad)×線質係数×修正係 数 |
1Sv=100rem |
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放射能 |
ベクレル |
Bq |
1秒間に1個の壊変 |
SI単位 |
キュリー |
Ci |
1秒間に3.70×10・E(10)個 の壊変。1Ciはラジウム1gの放射能 にほぼ等しい |
1Bq=2.7 ×10・E(−11)Ci |
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放射線の エネルギー |
電子ボルト |
eV |
電子が1Vの電圧で加速されて得る運動 のエネルギー |
1eV=1.60 ×10・E(−19)J |
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