食品の処理に利用される電離放射線は、国際的に、コバルト60及びセシウム137のガンマ線、加速電圧が1000万ボルト(10MeV)以下の電子線、加速電圧が500万ボルト(5MeV)以下のエックス線に限られている。これは、誘導放射能の生成を防ぐためである(第17項参照)。
ガンマ線は透過力が大きいので、食品照射のあらゆる目的に利用することができる。コバルト60は天然に存在するコバルト59に原子炉の中で中性子を照射することにより製造されており、大量に容易に入手することのできる放射性核種である。世界のコバルト60の80%以上はカナダのノルディオン・インターナショナル社(元カナダ原子力公社(AECL)・Radio−chemical社。)が供給している。なお、コバルト60の半減期は5.272年であり、商業規模の照射施設が当初の照射能力を維持するためには年間約10%のコバルト60の補充が必要である。
セシウム137は、原子力発電からの使用済み燃料から、新たに燃料として利用できるプルトニウム239や残存のウラン235等とセシウム137とを分離する工程(使用済み燃料再処理)で得ることができる。セシウム137は半減期が30.17年とコバルト60の約6倍であるとの長所を有しているにもかかわらず、食品照射や医療用具の滅菌に使用されるガンマ線源のほとんどはコバルト60が使用されており、今後ともセシウム137が使用される見込みはあまりない。その理由としては以下の事があげられる。
1)セシウム137から発生するガンマ線のエネルギーがコバルト60の約半分(コバルト60は1.17MeV及び1.33MeV、セシウム137は0.662MeV)であり、大量照射施設とするには線源の形態や照射施設を大型化しなければならない。しかも、線源が大型化すると線源自体がガンマ線を自己吸収してガンマ線の利用効率が低下する。2)セシウム137の化学形態が塩化物で潮解性があり、線源の格納に特別の配慮を要する。(コバルト60は金属で、線源は水中に格納)
電子線は電子加速装置により発生される。加速電子線は比較的安価に食品を照射することができる。食品の照射に認められている最大のエネルギーの10MeVの加速電子でも食品(比重を1として)中を最高4cm(両面照射すると8cm)しか透過できず、電子線は食品照射の全ての目的を必ずしも満足させるわけではない。しかし、加速電子線は一度に大量の食品を照射することができ、香辛料や穀物、動物飼料のように薄い層として照射することのできる食品の照射に特に適している(表6−1)。
エックス線発生装置は、加速電子を重金属のターゲットに衝突させて生じるエックス線を利用するものである。エックス線はガンマ線と同じ電磁波であり、物質中の透過力が大きい。今のところエックス線を用いた食品照射は実施されていないが、今後ガンマ線と同じように利用される可能性がある。
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電子線 |
ガンマ線 |
線 量 率 |
高い |
低い |
処理能力 |
大きい(年間100万トン まで可能) |
小さい(年間3万トンが限 度) |
照射コスト |
安い |
高い |
線 源 |
加速装置(機械) |
Co−60 |
線源補充 |
不必要 |
毎年必要 |
メンテナンス |
大いに必要 |
あまり必要でない |
高度な技術 |
必要 |
不必要 |
線源の供給 |
日本で対応できる |
外国(カナダ等)に依存 |
透 過 力 |
小さい(試料の厚さは5〜 8cmが限度) |
大きい(試料の厚さの制約 はない) |
備 考: 電子線の方が線量率がはるかに高いために処理能力が非常に大きくなる。 ガンマ線では食品の処理量に比例してCo−60が必要となるが、電子線 加速装置は能力を上げても価格は殆ど同じ。Co−60では毎年線源補充 する経費もかかる。 電子線照射は装置の設計、メンテナンスなどに高度な技術を必要とするが、 我国の様に技術水準が高くCo−60を持たない国では電子線照射が有利 である。 |
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