現在、わが国の食品照射は、発芽抑制を目的とした馬鈴薯の照射のみが食品衛生法により許可されており、北海道士幌町農業共同組合で実用照射されている(第45項参照)。この場合、放射線源として食品衛生法で許可されているのはコバルト60からのガンマ線だけである。士幌町農協の馬鈴薯照射施設は、最大100万Ciまでのコバルト60が装備できる設計になっているが、現在では約20万Ciのコバルト60が装備されている。食品照射用線源に関して、電子加速装置等の加速器利用は始まったばかりであること、またセシウム137の利用は技術的課題が多いことから、当面は先進国、開発途上国ともコバルト60の利用が中心となるものと思われる。
一方、使い捨ての医療用具や実験動物用飼料等の放射線滅菌は国内でも活発に行われており、現在9つの商業規模の照射施設が稼働している。これらの照射施設には、自社製品のみを照射しているものと依頼された製品を照射しているものとがある。医療用具や動物飼料は従来、加熱処理やエチレンオキサイド(EOG)による燻蒸処理により殺菌されていたが、加熱殺菌は品質変化が大きく、ガス燻蒸は残留等により健康上の問題が生じるおそれがあることから、放射線殺菌された医療用具や飼料が増えている。医療用具の照射においても、現在薬事法で許可されているのはコバルト60からのガンマ線だけである。近年、これらの放射線照射を実施している会社の電子線照射に対する関心は高く、電子線殺菌に関するデータが集められている。また、わが国は、電子加速装置の開発も活発であり、現在世界最高の技術水準にある。したがって、近い将来電子線を利用した医療用具や実験動物用飼料の殺菌も開始されるものと予想される。
1985年の時点で世界で133の商業規模の放射線照射施設が稼働しており、現在ではその数は150を越すものと思われる。世界のコバルト60の需要の80%以上を供給しているカナダのノルディオン・インターナショナル社によると、1985年時点の世界のコバルト60の使用量は、医療用具滅菌用が90%(6,300万Ci)、食品照射用が5%(350万Ci)、その他(薬品、化粧品の殺菌等)が5%(350万Ci)の合計7,000万Ciであり、これが年間10%程度成長すると予測している。
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