食品照射の利用分野は多岐にわたっているが、表8−1に示すように照射する線量によって大きく分類することができる。低線量照射は0.03〜1kGyの線量の放射線を食品に照射するものであり、馬鈴薯やタマネギ、ニンニク等の発芽抑制、果実や穀類の殺虫、魚介類や肉類中の寄生虫の防除、果実の成熟遅延等を目的としている。中線量照射は1〜10kGyの線量を照射するものであり、貯蔵期間延長や食中毒防止のための殺菌を目的としている。高線量照射は滅菌を目的としており、20〜50kGyの線量が必要である。
食品照射は次のような利点を有している。
(a)放射線はほぼ均一に食品の中を透過するので、他の処理法に比べ食品を均一に処理することが可能であり、その効果の信頼性が高い。
(b)耐熱性の細菌胞子を99.99%以上殺菌できる10kGyという高線量の放射線を照射しても、食品の温度はわずか2.4℃しか上昇しない。すなわち、放射線照射による温度上昇はわずかであり、放射線処理は生鮮物、冷蔵品、冷凍品の処理にも利用できる。
(c)食品照射は物理的処理であり、殺菌や殺虫に薬剤を使う化学的処理に比べ、薬剤による汚染や残留の問題がない。
(d)放射線は透過力が強いため、食品を包装した状態でも食品の内部まで照射できる。すなわち、包装してから食品を照射することにより、照射した食品の微生物や害虫による再汚染を防ぐことができる。
食品照射は、このように他の食品の保存技術にはない優れた特徴を有している。
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照射目的 |
照射線量(kGy) |
対象となる食品 |
照射による効果 |
備 考 |
低 線 量 照 射 |
発芽・発根抑制 |
0.03〜0.15 |
馬鈴薯、タマネギ、甘藷、シ ャロット、ニンジン、栗、シ ョウガ等 |
貯蔵期間の延長 供給の安定化 |
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害虫・寄生虫防 除 |
0.15〜1.0 |
穀類、豆類、生鮮果実・野菜 、乾燥果実、乾燥魚、乾燥肉 、生豚肉、カカオ豆、ナツメ ヤシ、豚肉(寄生虫防除)等 |
貯蔵期間の延長 衛生化 流通の拡大 |
飼料原料 |
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熟度遅延 |
0.5〜1.0 |
バナナ、パパイヤ、マンゴー 、アスパラガス等生鮮果実・ 野菜、きのこ(開傘抑制)等 |
流通の拡大 貯蔵期間の延長 |
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中 線 量 照 射 |
腐敗菌・病原菌 殺菌*1 |
1.0〜10 |
生鮮魚、イチゴ、水産加工品 、畜肉加工品、生鮮魚等、冷 凍エビ、冷凍カエルの脚、家 禽肉等 |
衛生化 貯蔵期間の延長 |
飼料原料 |
食品特性の改善 |
1.0〜10 |
乾燥野菜(調理時間短縮)、 ウイスキー(熟成促進)、ブ ドウジュース(収率向上)、 コーヒー豆(抽出率向上)等 |
衛生化 貯蔵期間の延長 |
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高 線 量 照 射 |
食品素材・添加 物殺菌*2 |
3.0〜50 |
香辛料、乾燥野菜、酵素製剤 、天然ガム等 |
衛生化 貯蔵期間の延長 |
包装容器 ワイン用コルク |
滅菌*3 (穏やかな加熱 の併用も行う) |
10〜50 |
畜肉、家禽肉、水産加工品、 病人食、宇宙食等 |
衛生化 貯蔵期間の延長 |
実験動物飼料 医療用具 |
(IAEA資料より) *1 Radurization(腐敗菌殺菌)、Radicidation(病原菌殺菌) *2 Decontamination(衛生化) *3 Radappertization(滅菌) |
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