微生物に対する放射線の殺菌効果を表す指標としてD10値がある。D10値は、生残している微生物を元の1/10に減少させるのに必要な線量である。微生物数の対数と線量との関係をプロットすると一般に直線関係が得られ、この直線の傾きからD10値が求められる。放射線感受性の高い微生物のD10値は小さく、放射線抵抗性の高い微生物のD10値は大きくなる。
放射線に対する感受性は微生物の種類によって異なり、細菌でも放射線に対する感受性の高いものも低いものもある(表12−1)。大腸菌や腸炎ビブリオ菌、ブドウ状球菌、多くの腐敗細菌は放射線抵抗性がそれほど強くなく、1〜5kGyの放射線照射により殺菌することができる。しかし、胞子を形成する細菌類や放射線抵抗性細菌と呼ばれる細菌は10kGy以上の高線量でも生き残ることがある。胞子を形成する菌にはボツリヌス菌等の食中毒菌も含まれるが、10℃以下では一般に増殖しにくいため、低温流通する食品については照射後の残存菌の心配をする必要はあまりない。また、放射線抵抗性細菌には病原性は全くなく、低温で増殖できる菌もあまりいない。
カビについては、乾燥食品等によく発生するアスペルギルスやペニシリウムと呼ばれる仲間は1〜5kGyで殺菌される。酵母については非醗酵性のカンディダ等が多くの食品の腐敗に関係しているが、これらは5kGy以上照射しても完全に殺すことはできない。しかし、増殖が細菌の場合よりもはるかにゆるやかなため、照射食品において酵母による腐敗が問題になることはない。
ウイルスは放射線に対する抵抗性が高く、死滅させるためには20〜50kGyの放射線を照射する必要がある。
微生物に対する放射線の殺菌効果は微生物の種類だけでなく、照射する条件によっても異なる。細胞分裂が活発に行われている若い微生物細胞は放射線の影響を受けやすく、成熟した微生物細胞は放射線に対する抵抗性が高い。また、酸素共存下では殺菌されやすく、嫌気状態、乾燥状態または凍結下で放射線を照射した場合には、殺菌されにくくなる。微生物の放射線感受性は共存物質の影響も受ける。
細 菌 の 種 類 |
照射時の培地 |
D10(kGy) |
緑膿菌 |
栄養培地 |
0.03 |
シュウドモナス・フローレッセンス |
栄養培地 |
0.02 |
シュウドモナス・ジェニクラータ |
栄養培地 |
0.05 |
大腸菌 |
栄養培地 |
0.1−0.2 |
ブドウ球菌 |
栄養培地 |
0.1 |
ブドウ球菌 |
乾燥 |
0.65 |
サルモネラ・センフテンベルグ |
ミート・ボーンミール |
0.5 |
サルモネラ・センフテンベルグ |
液状卵 |
0.17 |
サルモネラ・センフテンベルグ |
乾燥卵 |
0.45−0.6 |
サルモネラ・タイフィムリウム |
ミート・ボーンミール |
0.6 |
マイクロコッカス・ラジオルランス |
牛肉 |
2.5 |
マイクロコッカス・ラジオルランス |
魚 |
3.39 |
枯草菌 2.6(胞子) |
食塩水 |
2.6 |
枯草菌 0.35(胞子) |
ピーピューレ |
0.35 |
ボツリヌス菌A型 12885(胞子) |
リン酸緩衝液 |
2.41 |
ボツリヌス菌A型 12885(胞子) |
鶏肉缶詰 |
3.11 |
ボツリヌス菌A型 12885(胞子) |
ベーコン缶詰 |
1.89 |
ボツリヌス菌A型 33(胞子) |
調理牛肉 |
3.9 |
ボツリヌス菌B型 53(胞子) |
リン酸緩衝液 |
3.29 |
ボツリヌス菌B型 53(胞子) |
鶏肉缶詰 |
3.69 |
ボツリヌス菌B型 53(胞子) |
ベーコン缶詰 |
2.04 |
クロストリジウム・スポロゲネス(PA 3679/52) |
リン酸緩衝液 |
2.09 |
クロストリジウム・パーフリゲンス |
水 |
1.2−2 |
(IAEA;Training Manual on Food Irradiation Technology and Techniques,Second Edition,IAEA,Vienna,1982,p.47) |
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