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Q&A(QUESTION and ANSWER)

専門的解説 効果と安全性


Q&A集タイトル : 食品照射の効果と安全性
発行機関名 : 日本原子力文化振興財団
発行年月日 : 平成3年3月
<答>



14.放射線による害虫の防除


<答>

 殺虫剤をスプレイした時のように放射線で害虫を即死させるためには5kGy以上の高線量の放射線を照射する必要がある。しかし、食品の貯蔵や植物防疫のために放射線殺虫を行う場合、害虫汚染の初期の段階で処理を行い、その後の成長や増殖を防げばその目的を達成することができる。害虫の生殖器や造血器官のように細胞分裂が活発な組織は放射線の影響を受けやすいため、0.3kGy程度の放射線を照射するだけで、害虫は徐々に死滅したり生殖能力を失い不妊化される。害虫の放射線に対する感受性は成長段階により異なり、卵や幼虫から成虫への成長は比較的低線量の放射線で阻止することができるが、サナギから成虫への成長段階は放射線に対する抵抗性が高くなる(表14−1)。また、成虫は放射線照射しても殺虫しにくいが、比較的簡単に不妊化することができる(表14−2)。さらに、虫の種類によっても放射線感受性は異なり、コクゾウのような甲虫類より蛾の仲間の方が放射線に対する抵抗性が高い。

 穀物の殺虫は臭化メチル(MB)や燐化アルミニウムを用いて行われているが、処理作業者の安全性や穀物への残留等の問題が懸念される。殺虫を目的とした穀物の放射線処理のためには、ガンマ線だけでなく電子線も利用できる。電子線照射は穀物を短時間に大量処理でき、経費も1トン当り約100円とかなり安価であるという試算もある。ソ連では年間約40万トンの輸入小麦が電子線で殺虫処理されている。

 輸出入する果実は植物防疫処理を目的として従来は二臭化エチレン(EDB)で燻蒸することにより殺虫されていたが、EDBは発ガン性があるためにアメリカや日本をはじめ各国で使用禁止になった。この代替法として、熱帯果実では果実の中心温度を約50℃にする蒸熱法、柑橘類では0〜3℃に冷却する低温処理法が採用されているが、大量の果実の温度管理が困難で処理後の腐敗の進行が速い等の問題点が指摘されている。果実への照射は成熟遅延と殺虫の両方の効果が期待でき、パパイアやマンゴー等の熱帯果実の放射線照射に対する関心が高まっている。

 放射線照射は寄生虫の駆除技術としても有効であり、豚肉に寄生している旋毛虫は0.15kGy照射することにより駆除できる。豚肉や牛肉に寄生しているサナダムシ、トキソプラズマ、魚に寄生しているジストマ等も低線量照射により人間への感染性が失われる。


表14−1 昆虫の生育を阻害するガンマ線量
       昆 虫 の 種 類         
                         
                         
照射する
ステージ
    
効果を観察する
ステージ   
       
       線量(Gy)       
132
175
250
400
1000
鱗翅目
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
Plodia interpunctella
(ノイメマダラメイガ)          
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
 卵  
  幼虫   
   
   
   
 X←
 →X 
 卵  
  成虫   
 X←
→X 
   
   
    
 幼虫 
  蛹    
   
   
   
   
 >X 
 幼虫 
  成虫   
 X 
   
   
   
    
 蛹  
    
  成虫   
       
   
   
   
   
   
   
   
   
 >X 
    
Sitotroga cerealella 
(バクガ)                
                     
                     
                     
                     
                     
                     
 卵  
  幼虫   
   
   
   
   
 >X 
 卵  
  成虫   
 X←
→X 
   
   
    
 幼虫 
  成虫   
 X←
→X 
   
   
    
 蛹  
    
  成虫   
       
   
   
   
   
   
   
   
   
 >X 
    
鞘翅目
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
Tribolium confusum   
(ヒラタコクヌストモドキ)        
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
 卵  
  幼虫   
   
   
   
   
 >X 
 幼虫 
  幼虫   
 X 
   
   
   
    
 幼虫 
  蛹    
   
   
   
   
 >X 
 幼虫 
  成虫   
 X 
   
   
   
    
 蛹  
    
  成虫   
       
   
   
   
   
   
   
   
   
 >X 
    
Lasioderma serricorne
(タバコシバンムシ)           
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
 卵  
  幼虫   
   
   
   
   
 >X 
 幼虫 
  幼虫   
   
   
   
 X←
 →X 
 幼虫 
  蛹    
   
   
   
   
 >X 
 幼虫 
  成虫   
 X 
   
   
   
    
 蛹  
    
  成虫   
       
   
   
   
   
   
   
   
   
 >X 
    
Rhyzopertha dominica 
(コナナガシンクイ)           
                     
                     
                     
                     
 幼虫 
  蛹    
   
   
   
   
 >X 
 幼虫 
  成虫   
   
 X←
→X 
   
    
 蛹  
    
  成虫   
       
   
   
   
   
   
   
   
   
 >X 
    
Attagenus piceus     
(カツオブシムシの一種)         
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
 卵  
  幼虫   
   
   
   
   
 >X 
 幼虫 
  幼虫   
   
   
 X←
→X 
    
 幼虫 
  蛹    
 X 
   
   
   
    
 幼虫 
  成虫   
 X 
   
   
   
    
 蛹  
    
  成虫   
       
   
   
   
   
   
   
 X←
   
 →X 
    
Trogoderma glabrum   
(カツオブシムシの一種)         
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
 卵  
  幼虫   
   
   
   
 X←
 →X 
 幼虫 
  幼虫   
   
 X←
→X 
   
    
 幼虫 
  蛹    
 X 
   
   
   
    
 幼虫 
  成虫   
 X 
   
   
   
    
 蛹  
    
  成虫   
       
   
   
   
   
   
   
 X←
   
 →X 
    
ダニ 
   
   
Acarus siro          
(アシブトコナダニ)           
                     
 卵  
  幼虫   
   
   
   
   
 >X 
 幼虫 
  成虫   
   
 X←
→X 
   
    

(IAEA;Training Manual on Food Irradiation Technology
 and Techniques,IAEA,Vienna,1982,p.54)



表14−2 昆虫の不妊化に必要な線量
       昆 虫 の 種 類         
                         
                         
照射する
昆虫の性
    
       線量(Gy)       
132
175
250
400
1000
鱗翅目
   
   
   
   
   
   
   
   
Plodia interpunctella
(ノイメマダラメイガ)          
                     
                     
 雄  
   
   
   
   
 >X 
 雌  
    
   
   
   
   
   
   
   
   
 >X 
    
Sitotroga cerealella 
(バクガ)                
                     
                     
 雄  
   
   
   
   
 >X 
 雌  
    
   
   
   
   
   
   
 X←
   
 →X 
    
鞘翅目
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
Tribolium confusum   
(ヒラタコクヌストモドモ)        
雄と雌 
    
 X←
   
→X 
   
   
   
   
   
    
    
Lasioderma serricorne
(タバコシバンムシ)           
雄と雌 
    
   
   
 X←
   
→X 
   
   
   
    
    
Attagenus piceus     
(カツオブシムシの一種)         
                     
                     
 雄  
 X←
→X 
   
   
    
 雌  
    
 X←
   
→X 
   
   
   
   
   
    
    
Trogoderma glabrum   
(カツオブシムシの一種)         
                     
                     
 雄  
   
 X←
→X 
   
    
 雌  
    
 X 
   
   
   
   
   
   
   
    
    
ダニ 
   
   
Acarus siro          
(アシブトコナダニ)           
                     
雄と雌 
    
    
   
   
   
   
   
   
 X←
   
   
→X 
   
   
    
    
    

(IAEA;Training Manual on Food Irradiation Technology
 and Techniques,IAEA,Vienna,1982,p.55)





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