照射食品が人間の健康に及ぼす影響については、安全性よりも広い概念の健全性が検討されている。健全性とは、毒性学的安全性、微生物学的安全性、栄養学的適格性の3項目を総合した概念である。また、食品中の誘導放射能に関する検討も必要である。さらに、放射線化学のデータは、食品成分の放射線分解反応による生成物の種類と生成量についての知見が得られるため、毒性試験を補うものとして重視されている。
1)毒性学的安全性
過去30年以上、照射した様々な食品及び食品成分を投与した動物や微生物を用いて毒性試験や安全性試験が実施され、急性毒性、慢性毒性、発ガン性、遺伝毒性、細胞毒性、再奇形性、変異原性(突然変異や染色体異常を誘発する性質)等について検討されている。その結果、照射した食品にはこれらの毒性が認められないという結論が得られている。
2)微生物学的安全性
食品を照射すると、食品の微生物相が変化したり(例えば、腐敗菌が死滅して病原菌だけが生残する)、食品の加工や人間の免疫力では制御できない病原性微生物が突然変異により生じて、人間の健康が害される可能性について検討する必要がある。このような危険性を調べるための研究は数多く実施されており、その結果、このような心配のないことが明らかになっている。
3)栄養学的適格性
一般に食品を加工したり調理すると栄養成分がいくらか損失するが、もしも放射線を照射して栄養成分が大きく減少すれば、食品としての価値がなくなってしまう。放射線照射の場合、栄養価の変化は主として線量と関係があり、食品の成分組成、温度、酸素の有無等の要因も栄養価の損失に影響を及ぼす。1kGy以下の低線量を照射した食品における栄養価の損失は問題になるほどのものではない。1〜10kGyの中線量照射する場合には、ある種の栄養成分の損失が起こる。特に、照射食品における栄養学的に重要なものはビタミンである。ビタミンB2、ニコチン酸、ビタミンDのようなビタミンは放射線に対して比較的安定であるが、ビタミンA、B1、C、E、Kのようなビタミンは、放射線照射により比較的容易に分解される。照射食品の栄養学的評価は地域的な食習慣や国民の栄養状態により異なるが、一般的には食品照射に伴う栄養成分の損失は問題とはならない。
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