食品照射に関する文献検索

Q&A(QUESTION and ANSWER)

専門的解説 効果と安全性


Q&A集タイトル : 食品照射の効果と安全性
発行機関名 : 日本原子力文化振興財団
発行年月日 : 平成3年3月
<答>



19.照射食品の健全性試験の歴史と国際機関の見解


<答>

 食品照射は近年開発された技術であり、それほど人類は人工的に放射線を照射した食品を食べた経験がなく、経験的に照射食品の安全性について判断できなかった。このため照射食品の安全性を調べるための数多くの試験が実施された。そして、照射食品ほど安全性が徹底的に検討された食品は他に例がない。過去30年以上、照射食品や照射食品の成分を動物に投与した非常に多くの動物試験が実施され、ほとんどの場合において、照射食品の安全性に関する問題はないという結果が得られた。しかしごくまれに、照射食品が安全でないという試験結果が得られたことがある。このような場合には、試験結果が徹底的に再検討され、多くの場合再試験が行われた。その結果、このような照射食品の安全性に疑問を投げかけるような試験結果は動物試験の誤差範囲内で起こったものであり、照射食品に問題があるという結果には再現性のないことが明らかになっている。このようにして照射食品に安全性については問題のないことが確かめられている。

 1950年以来、照射食品中に存在するかもしれない毒性物質を検出するための化学分析や数多くの動物試験が行われており、そのうちのほとんどは米国及び英国におけるものであった。1960年代の中頃になって、両国の厚生当局は、適切に照射された食品は健全であることを宣言した。しかしながら、ほとんど同じ時期に、米国食品医薬品局(FDA)は、照射食品の安全性を証明するには、もっと厳密な証拠が必要であると主張し、既に許可していた照射ベーコンについて、1968年に許可を取り下げた。すなわち、1963年に許可された時には安全性が証明されていると思われた動物試験から得られた証拠が、後になって、FDAにより不十分であると判断されたためである。その後、最初に照射ベーコンの許可を申請したアメリカ陸軍は、放射線殺菌した肉の安全性を試験するための膨大な研究を行い、照射肉の安全性が確かめられた。他の国においても、照射食品の安全性を検討する試験をさらに行う必要性が叫ばれ、照射食品の安全性に関する試験研究が急速に広がっていった。

 国連食糧農業機関(FAO)と国際原子力機関(IAEA)は、世界保健機関(WHO)の助言に従い、1970年に国際食品照射プロジェクト(IFIP)を開始した。IFIPは、各国における動物試験の経費の節減に役立たせるために、10kGy以下の線量を照射した食品を対象とした世界中で行われている種々の動物試験に対して、統一性を持たせるとともに、動物試験に関する情報交換の場を設けた。また、IFIPは、照射食品の安全性に関する独自の委託試験も行った。IFIPには24ケ国が参加し、これらの国とIAEAが合計400万ドルの資金を拠出した。IFIPの支援のもとに行われた研究においては、照射食品が発ガン物質や毒性物質を含むという事実は何も観察されなかった。このプロジェクトは、10kGy以下の線量を照射した食品の健全性を明らかにして、1981年に終了した。 IFIPと並行して、わが国等では、独自に、照射食品の健全性を検討するためのプロジェクトが実施され、多くの試験研究が行われた。

 これらの情報に基づいて、1980年にジュネーブで開催されたFAO/IAEA/WHO合同の照射食品の健全性に関する専門家委員会(JECFI)は、「平均線量が10kGy以下の放射線を照射したいかなる食品も毒性を示すことはなく、したがって、10kGy以下照射した食品の毒性試験はこれ以上行う必要がない。さらに、10kGy以下の平均線量を照射した食品は、特別の栄養学的な問題や微生物学的な問題もない。」という結論を出した。この勧告を受けて、1983年にFAO/WHO食品規格委員会(FAOとWHOが合同で運営する組織で、食品の加工・処理法、表示等に関する国際規範を作成)は、食品に10kGy以下の線量の放射線を適切に照射して国際間で流通させるための基本的な規格として、「照射食品に関する国際一般規格(案)」と「食品照射実施に関する国際規範(案)」を作成してWHO及びFAOの加盟各国に送付した。

 国際微生物学連合の国際食品微生物学・衛生学委員会は、食品照射の微生物学的安全性を再検討するために、1982年にコペンハーゲンで会議を開催し、食品照射の微生物学的安全性に関して心配する理由は何もないことを明らかにし、1980年のJECFIで出された結論を是認した。

 EC委員会はEC食品科学委員会に対して適切に照射した食品の健全性についての助言を求めた。1986年にEC食品科学委員会は、JECFIの見解と結論を是認し、照射食品の安全性を確認するための動物試験はこれ以上行う必要がないとの見解を確認した。




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