わが国で食品照射の研究が開始されたのは1955年頃からである。個々の国立試験研究機関や大学等において自発的に研究が行われ、それらは照射効果についての研究が中心であった。その後、食品照射に携わる研究者の数が増えて互いに情報交換や研究成果を討議する機会が必要になり、1965年に日本食品照射研究協議会が設立された。同協議会はわが国で唯一の食品照射に関する学術団体であり、食品照射に係わる研究を行っているほとんどの研究者が会員となっており、現在も大学、国公立の研究機関を中心に約200人の会員がいる。
1965年に原子力委員会が食品照射専門部会を設けて食品照射について検討し、その結果を受けて、1967年に「食品照射研究開発基本計画」を策定し、原子力特定総合研究として研究が開始された。このプロジェクトには科学技術庁、厚生省、農林水産省、通商産業省傘下の各研究機関、大学等が参加して照射効果、健全性、照射技術など総合的な研究が行われた。対象品目としては、馬鈴薯(発芽抑制)、タマネギ(発芽抑制)、米(殺虫)、小麦(殺虫)、ウインナーソーセージ(殺菌)、水産練り製品(殺菌)、ミカン(表面殺菌)が取り上げられた。馬鈴薯については1971年に研究を終了し、以降、1981年までにそれぞれの品目に関する研究が終了し、逐次その成果が報告された。いずれの照射食品においても安全性に係わる問題は見い出されなかった(表21−1)。
わが国で食品の製造、加工、使用、調理、保存に関する規制は厚生省が食品衛生法に基づいて行っているが、上記の成果を踏まえて1972年に馬鈴薯の照射が許可された。1973年には北海道士幌町農協においてコバルト60を有する馬鈴薯照射施設が建設されて、1974年1月に馬鈴薯の照射が開始された。その後、毎年1万〜1万5千トンの馬鈴薯が照射されて市場に出荷されている。現在のところ、わが国で照射が許可されている食品は馬鈴薯のみであり、それ以外の食品の照射は禁止されている。
なお、わが国における照射食品の許可は、厚生省に対して特定の食品の照射についての許可申請が行われると、食品衛生調査会で審議した後に厚生省が許可を決定し、法令が改正される仕組みになっている。
品 目 (照射目的) |
放射線 の種類 |
照 射 効 果 |
判別法 |
健 全 性 試 験 |
実施期 間年度 |
備 考 |
||||
効 果 |
問題点等 |
栄養試験 |
慢性毒性試験 |
世代試験 |
変異原性試験 |
|||||
馬 鈴 薯 (発芽防止) |
γ 線 |
0.07〜0.15 kGyで発芽防止が 可 |
特になし |
実用的な方法 は見当たらな かった |
影響なし |
影響なし |
影響なし |
影響なし* |
1967 −1971 |
食品衛生法許 可(1972 )実用化(1 973) |
タマネギ (発芽防止) |
γ 線 |
0.02〜0.15 kGyで発芽防止が 可 |
〃 |
〃 |
〃 |
〃 |
〃 |
〃 |
1967 −1978 |
研究成果報告 済み(198 0) |
米 (殺 虫) |
γ 線 |
0.2 〜0.5 kGyの照射で殺虫 効果は完全。殺菌効 果あり |
品種により照 射後の食味の 低下するもの あり |
〃 |
〃 |
〃 |
〃 |
〃 |
1967 −1979 |
研究成果報告 済み(198 3) |
小 麦 (殺 虫) |
γ 線 |
〃 |
小麦粉の粘度 が低下する |
〃 |
〃 |
〃 |
〃 |
〃 |
1969 −1979 |
〃 |
ウインナー ソーセージ (殺 菌) |
γ 線 |
3〜5kGyの照射 、10℃貯蔵で貯蔵 期間を3〜5倍延長 できる |
酸素透過性の 小さい包装材 料で窒素ガス 封入が条件 |
〃 |
〃 |
〃 |
〃 |
〃 |
1968 −1980 |
研究成果報告 済み(198 5) |
水産練り製品 (殺 菌) |
γ 線 |
3kGyの照射、 10℃貯蔵で貯蔵期 間を2〜3倍延長で きる |
特になし |
励起蛍光スペ クトルの変化 による判別の 可能性あり |
〃 |
〃 |
〃 |
〃 |
1969 −1980 |
〃 |
ミ カ ン (表面殺菌) |
電 子 線 |
0.5MeVのエネ ルギーの電子線によ り1.5kGyの照 射、低温貯蔵で貯蔵 期間を2〜3倍延長 できる |
〃 |
− |
〃 |
〃 |
〃 |
〃 |
1970 −1988 |
研究成果報告 済み(198 8) |
実施機関 |
農水省研究機関、日本原子力研究所、(社) 日本アイソトープ協会 |
厚生省国立予 防衛生研究所 |
厚生省国 立栄養研 究所 |
厚生省国立衛生試験所 |
(財)食品薬 品安全センタ ー |
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− |
*馬鈴薯の変異原性試験の結果は渋谷らの結果(Radioisotope,31,74(1982))等による |
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