食品照射に関する文献検索

Q&A(QUESTION and ANSWER)

専門的解説 効果と安全性


Q&A集タイトル : 食品照射の効果と安全性
発行機関名 : 日本原子力文化振興財団
発行年月日 : 平成3年3月
<答>



25.照射馬鈴薯の安全性


<答>

 わが国の原子力特定総合研究として実施された照射馬鈴薯の安全性に関する試験においては、照射馬鈴薯の安全性を調べるため、マウス総数400匹およびラット総数300匹を用いて、それらの生涯の大部分に相当する期間(マウス21ヶ月、ラット24ヶ月)の長期慢性毒性試験、アカゲザル5頭による6ヶ月の短期毒性試験、マウス約40匹から出発して3世代(総数1,800匹)にわたる世代試験を行った。

 照射馬鈴薯の毒性の有無を判断するために、慢性毒性試験では、ラットにおいては体重、食餌効率、一般症状、死亡率、臓器重量、血液形態学的検査(赤血球数、ヘモグロビン等)、血液生化学的検査(血清総タンパク、コレステロール等)、病理組織学的検査(肉眼的所見、組織学的所見、腫瘍発生率)等を行った。マウスの慢性毒性試験では、催腫瘍性の有無に検査の重点を置いた。サルの短期毒性試験では、ラットの試験とほぼ同様の項目の検査を行った。世代試験では、マウスの各世代における交配率、妊娠率、死亡率、奇形発生の有無等を調べた。

 マウスにおける長期慢性毒性試験と世代試験およびサルにおける短期毒性試験では、催腫瘍性および催奇形性を含め、照射によると考えられる影響は認められなかった。しかし、ラットについては、非照射群及び対照群に比べて0.3kGy及び0.6kGyの照射馬鈴薯添加飼料を与えた雌の105週目の体重増加の割合が統計学的に有意に少なく、0.6kGyの照射馬鈴薯添加飼料を与えた雌の卵巣重量が6ヶ月目のみ有意に低下した。

 体重増加の問題に関しては、1)体重増加の数値と線量との間に用量関係が認められないこと、2)照射馬鈴薯を投与したラットの血液形態学、血清生化学、病理学等の諸検査での結果に異常が認められないこと、3)マウスではこのような現象が観察されなかったこと、4)フランスで実施された同様な試験では異常が認められなかったことを理由に、試験に供した動物に基づく偶発的なものであり、照射馬鈴薯の毒性を示すものではないと考えられている。(第24項参照)

 卵巣重量の低下に関しては、1)0.6kGy照射したラットの6ヶ月目が顕著であり、飼育全期間を通じた卵巣重量の実測値及び体重比には一定の傾向が観察されなかったこと、2)卵巣の病理学的検査において何等の変化も観察されなかったことから、問題になるものではないと考えられている。これ以外の臓器においても臓器重量の増減が観察されることがあるが、線量との用量関係がないこと、飼育期間を通じた傾向がないこと、病理学的検査に異常が認められないことから、偶発的なものであり問題はないと判断されている。

 また、最近になって雄のラットでの死亡率の増加が問題にされているが、1)線量との間に明確な用量関係のないこと、2)雌ラットではこのような傾向がないこと、3)マウスではこのような傾向がないことから、照射馬鈴薯の影響を示すものではないと考えられている。

 ところで、ソ連の科学者が、照射馬鈴薯のアルコール抽出物がマウスに対して変異原性を示すという論文を出した*1)。これは、「馬鈴薯に0.1kGyのガンマ線を照射して24時間後、0〜4℃で2時間冷却し、−5℃で95%エタノール(pH2.0)中で均一化し、−5℃で120分間攪拌しながら抽出し、濾過後アルコールが完全になくなるまでアルゴン気流中(20℃)で濃縮したものに毒性があったが、これは、照射により毒物(当の科学者はこれを「ラジオトキシン」と名付けた)ができるためである」というものである。この試験の追試がいくつか行われ*2−6)、わが国でも追試された*4−6)。しかし、上記と同様な精密な抽出操作を行ってもラジオトキシンを検出することはできなかった。例えば、わが国で行われた復帰突然変異試験*4)、プロファージ誘導試験*4)、染色体異常誘発試験*4)、小核試験*4)、優性致死試験*5)において、照射馬鈴薯のアルコール抽出物には毒性がまったく認められなかった。また、高速液体クロマト法やペーパークロマト法で分析しても、照射馬鈴薯からラジオトキシンを検出することはできなかった。仮にラジオトキシンが生成するにしても、馬鈴薯を加熱や貯蔵すれば完全に消滅することは、ラジオトキシンを提唱したソ連のグループの科学者も報告している*7)。したがって、ソ連の科学者の唱えたラジオトキシンは実際の食生活では全く問題にならない。

 1)V.A.Kopylov et al.;Radiobiologija,12,524(1972)

 2)H.V.Levinsky and M.A.Wilson;Food Cosmet.Toxicol.,13,243(1975)

 3)M.Hossain et al.,;Toxicology,6,243(1976)

 4)M.Ishidate et al.,;Radioisotopes,30,662(1981)

 5)T.Shibuya et al.,;Radioisotopes,31,74(1982)

 6)Y.Shinozaki et al.,;Radioisotopes,30,665(1981)

 7)I.N.Osipova;Veprosy Pitaniya,1,78(1974)




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